─7 探し物
そういえばマンチキンの家を訪ねるのは初めてだ。彼等の身長に合わせて、当然家もこじんまりとしている。そう思っていたが、目の前に来て見ると、意外と俺の家より一回り小さい程度だった。
もし家の中に招かれても、頭上に注意するくらいで大丈夫だろう。──ただしドアはとても小さい。そこだけはきっちりとマンチキン用だった。
──オズが手を伸ばす。ノックもせず、小さなドアハンドルに指を引っ掛けたオズを、俺は「待て」と静止した。
「何ぃ?」
「迷惑そうな顔をするな。……ちょっといいか?」
俺は小声でオズに伝える。
「オズがあの王様の魔法使いだってのは、必要な時以外は言って回らない方がいいと思うんだ。一々大騒ぎになっても大変だろ?」
「えー? むしろさっさと必要な物を持ってきてくれそうだけどね。でも確かに、あんまり騒がれるのは面倒だなぁ」
「だろ? それに、俺は……あんま印象に残らねーだろうけど、カカシはさ。ちょっとインパクトあり過ぎる。あの人当たりの良さそうな人達を無駄に怖がらせるのもどうかと思うし……」
「おい! ここに来て何コソコソしてんだよ!」
カカシの声に、二人して振り返る。
「い、いや。マンチキン達は俺達を見てびっくりしないかなって思ってさ……」
「もうしてんだろ。ほれ!」
カカシは家の窓に向かって指を差した。
窓越しにはバタバタと家中を走り回っているマンチキンの家族が見えた。
垣間見える表情は言わずもがな驚きと恐怖に満ちている。奇怪な行動の理由も、この一つの出入り口以外に逃げ道が無いからである。
……遅かった。
「まどろっこしい! さっさとドア開けちまえよ! こっちは出すもん出しゃぁ何もしねーっつーの!」
出さねば何かするつもりか。
「そりゃ強盗だカカシ!」
「全く。無駄に時間食ったじゃないか!」
オズは改めてドアを──。開ける前に、とても弱々しい金具の音と共に、小さな老人が隙間から覗いた。
「ど、どど、どちらさまで……?」
全身がかくかくと震えているのはトシのせいだけでは無いだろう。非常に面目無く思うが、早速俺から切り出した。
「え〜っと……、驚かせてすみません。僕達、ただの旅の者なのですが」
「何言ってんの? 僕王ぉぶッ」
俺はオズの口を掌でぎっちりと絞めた。
(今しがたお前の素性は明かさないっつー話をしただろーが!)
(し、しょうだった……! わかっひゃから手はなひて!)
俺達の最小限の声が聞こえていたか定かでは無いが、老人は納得いったように「おぉ!」と声を上げる。
「旅のお方ですか、それはそれは……。さぞ遠方から来られたのでしょう。ここらでは見ない程、大きな背丈をした方々ですから……」
意外と丁寧な言葉で対応をしてくれている。これなら安心して本題に入る事ができるだろう。
「じ、実は僕達、ここらで珍しい道具があると聞いてやってきたんです。何でも、魔法で出来ているとか? ……ご存知ありませんか?」
「魔法の道具、ですか……? はて、そんな物がこの地に……」
すると、話を家の奥の方で聞いていたであろう、男らしく若そうなマンチキンがやや興奮気味にドタドタとこちらに向かって走って来た。
「知ってる知ってる! ほら爺さん! あれだよ、ボック夫婦の家で昔見たじゃねえか!」
男に激しく肩を揺すられながら、老人は暫く髭をさすって考える。そして、ぱっと顔を上げた。
「……おぉ! そうじゃ。ボックじゃったわ。大層大事にしておった。旅のお方。その珍しい道具とはきっと『魔法の絵の具』の事ですのぉ」
──『魔法の絵の具』
カカシの顔のパーツは、どの部位も色とりどりだ。その絵の具が何色かのセットになっているなら、探し物はそれと見て間違い無いだろう。
「ねえ! そのボックって子は何処に居るの?」
オズは興味津々に前のめりになって尋ねる。その勢いに押され気味でたじろぐ老人は、軽く頷いた後にゆっくりと外に歩み出た。
「あの三軒先の、大きな家ですじゃ。とても穏やかな夫婦がおりますゆえ、あなた方の探し物も快く見せてくれるはずじゃよ」
家の灯りが漏れた箇所を目でたどると、確かにここが普通サイズとすると二回りも大きく立派な建物が見えた。
「よし。そしたら早速、行って確かめてみるか。すみません、助かりまし……」
視界の端で、オズが全速力で駆けていくのが見えた。また勝手に!
「ほ、ほれ。行ってしもうたぞ若いの」
「元気な兄ちゃんだねぇ〜」
「ほんっとに、ろくに礼も言わずにすみません!」
と言った矢先に、オズが遠くの方からこちらに振り向いて叫んだ。
「ありがと————! ハンス! トリント!」
「──えぇ⁉︎」
名前、なのだろう。彼等の……。二人のマンチキンは、駆けて行くオズを凝視していた。
「な、なんで名前知ってんだ? 今日初めて会ったよな?」
「ま、まさか……。あれは……あの方が……」
薄々気付きかけている二人。しかしそろそろ追いかけないとまずい状況だ。説明をしている場合じゃない。
「──全部聞いてたぜ。ありがとよ」
「──⁉︎」
背後から、ぬっと顔を出したカカシはそう言った。そして彼は直ぐに、走るのに慣れていないぼてぼてとした足取りでオズの後を追った。
「か、カカシ! 俺も……!」
足を数歩出したところで、背後から甲高い叫び声が響いた。
唯のカカシが動いた。更に喋った。か弱そうなマンチキンには、それだけで畏怖の対象に他ならないのだろう。しかし……。
カカシに追いついた俺は小走りを続けながら言った。
「き、気にすんなよカカシ。あの人達は慣れてないだけで……」
「別に何とも思いやしねぇよ。……ずっとこうだったからな。慣れたもんだぜ」
そう言うカカシは、──やはりどことなく悲しそうに見えた。
次回更新は 3/22(土)12:00 予定となります。
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