─6 喧しいカカシ②
よく動く口もそうだが、カカシは既に腕も自由に動かせるのであった。
実際、会話の最中は身振り手振りを絶えず行っていた。胴に巻かれた縄など、これまでに何度も手を掠めて来ただろう。それなのに、あぁ……本当に気の毒な奴だ。
カカシは震える手で、蝶結びの飛び出た部分を引っ張った。すると、面白い程縄は一瞬でばらけてしまう。
大きな藁の足がサクッと音を立てて、彼は二百年ぶりに地に降り立ったのだ。
「こんな事にも気付かねぇで……オレは……。オレは! くそっ‼︎ クソがぁ‼︎」
両手で顔を覆い、悲嘆に暮れているカカシ。
しかしそんな彼の心情をよそに、俺は改めてカカシの全貌をじっくりと見た。
当然だが、全身は藁で出来ていた。きちんと腕、膝が曲がるように、関節にはしっかりと細い藁が編み込まれている。とても発達した筋肉のような見栄えになっていて、さながらボディービルダーのような体つきだ。
簡易的なマンチキンの青い衣装を着せられているが、こちらは長い年月の中、擦り切れたり、破れたりしたのだろう。見てくれは非常に見窄らしいものだった。
カカシの頭に目をやる。乾燥した色とりどりのトウモロコシの粒。それらを数珠のように糸で結ばれたものが、髪の毛の代わりにオールバックのドレッドヘアを形作っていた。(こういうの、コーンロウって言うんだっけ?)
そして極め付けはやはり顔だ。ずた袋を上から被って、首元を縄で縛っているのは少し不気味だ。布に書かれた顔のパーツ。目・口。それらは俺の視線に気付いてから、ずっと何か言いたそうに形を変えている。ぎゅっとシワが寄った部分に合わせて、木で出来た尖った鼻がぷらぷらと揺れていた。
──ここまで長々と見た上で、俺がただ言えるのは一つだけ。
これを作った人間は相当なアーティストだったに違い無い。それもかなりの思い入れがあって作られている。という事だ。
「はぁ……。テメーは何なんだ。ヒトの事をジロジロ見やがって。何か知らねーが無性にイラつくぜ」
「ごめんねぇカカシ。シローの数少ない趣味なんだ。僕の事もこうやって見るのが好きなんだよ。許してやってよ」
「何だ。変態って奴か」
「おい! 色々語弊があんぞ! 分かったよ、無遠慮で悪かったって!」
仕方無いだろ。ちょっと造形がイイから見惚れてたんだよ。という本音は、なんか気恥ずかしいので心の中に閉まって置く。
「ま、良かったじゃない! 僕達が通り掛からなきゃ、きっと更に長いことそのままの状態だっただろうからね」
「……そうだけどよぉ。……くそ。あのボケガラスが……。こういう話はてんでしやがらねぇ……」
「ボケガラス?」
ブツクサと独り言を言っているカカシ。きっとこの見てくれから察するに、カラスによって散々酷いいたずらに遭ってきたんだろう。
カカシは俺達に向き直った。
「まあいい! 礼は言う! ありがとよ! とりあえずオレはこれから家に乗り込むつもりだからな!」
にかりと口角を上げたカカシは、たくましい腕でガッツポーズをしてみせた。
「お、おいおい、急だな! 第一、アテはあるのか?」
突然の申し出に驚いた俺は尋ねたが、カカシはそれを聞かれて不思議そうに答える。
「あん? 真後ろにあんだろが。ちゃんと覚えてるぜ。オレを作った人間は、毎日そこから出てきて……」
カカシは話の途中で後ろを振り向いてから、──よく喋る口を閉じた。
──そう。そこには何も無い。雑草混じりの痩せた土地が、その辺一帯に広がっているだけだからだ。
寂しい風が背の低い草を撫でては、何処かに去っていった。
「……ここに家が、あったはずだ。二百年前に、オレがここに立てられる時、ちゃんと見た」
ここから見渡す分には、遠くの方にぽつぽつと家があるのは見える。しかしこの場所には……。
このカカシを作った主人の家は、もはや建っていたという証拠も跡形も無く風化していたのだった。
「そりゃ二百年も経てば建物も朽ちるだろうしさぁ。当然その人間なんて、死んで居ないに決まってるでしょ」
「おいオズ! いくら何でも直球過ぎるだろ!」
オズを嗜めたが、当然の事を言ったまでだと言いたげに、ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向かれた。
しかしカカシは「ま、そりゃそうか」と一言。とても軽く流していた。
てっきり感情的に怒ると思っていたのだが。……逆にこれが彼の寂しさの表れなのかもしれない。
俺はカカシの静かな背中を、軽くぽんぽんと叩いた。
「でもさ!」オズが結構なデカい声で俺達を呼ぶ。
「魔法でできた物なんだぞ! きっと代わりに誰かが大事にしてくれてると思うよ! ……多分」
これは、あれだな。オズなりの励ましだ。
俺はカカシの目を見て言った。
「オズの言う通りだ! お前を作ったっていう人の子孫が、別のとこで暮らしてるかもしれねぇだろ? まずはこの近くからでも尋ねて周って、探してみても良いんじゃないか?」
カカシは少し考え込んで、言った。
「……オレがぐるぐる歩き回ってたら、騒ぎになりゃしねぇか?」
「何だ今更! こんなファンタジー世界で、カカシが歩くくらい不思議でも何でもねぇだろ! 何なら一緒に付いてってやるから!」
「ふぁん……? てか、お前ら別に関係……」
「シローはお人好しなんだよ! まぁ僕もその道具、今どうなってるか見たいからさぁ。付いて行ってあげない事も無い!」
「はぁ。……って訳で、どうだ? ……えっと、名前は……」
カカシは頭を抑えて何か考え事をした後、決心が付いたのか俺達の顔に目を向けた。
「オレにゃ名前は無ぇよ。カカシでいい。……お前らがそれでいいなら、まぁ。暫くは頼むぜ……」
カカシはそう言って、笑いかける事も無いが、居心地が悪そうにもしていなかった。
俺は半ば無理やりカカシの手を取って、しっかりと握った。当然、何してんだこいつ、という視線を受けたが気にしない。
オズはもう既に、煉瓦の道から外れて先を歩いていた。行先は、俺達から一番近いマンチキンの家。
全く、目を話した隙に……。
俺はカカシに指で合図して、共にオズの後を小走り気味に追った。
途中カカシはつまずく事がしばしばあったが、何とかオズに辿り着いた。
オズは前方から目を離さずに、言った。
「もしかしてさ。無くしたりとかしてないかな?」
「どうだろうな。かなりの年数は経ってるが……。ま、なんせ『大魔法使いの王様』直々のシロモノだぞ? 無くすどころか、家宝的なもんとして祀られてるかもな。何にせよ、大事にされてるよ、きっと」
「そうかな……。だったら、いいな!」
後ろ姿からも、オズは随分と機嫌が良さそうなのが分かる。カカシは……何故か作り物でも違いが分かるくらい、どんよりとした表情をして俯いていた。
一言。「大魔法使い」と呟いて、それ以上は何も言わなかった。
──夕日は完全に地上から姿を消して、すっかり夜になっていた。辺りは月明かりで辛うじて見える程だ。
俺達はまず一軒目の前までやって来た。
次回更新は 3/19(水)12:00 予定となります。
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