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オズの世界の歩き方  作者: 藍沢
【第二章】 トロルのカカシ
26/51

─5 喧しいカカシ①

 人の声?

 不意打ちを喰らったように、心臓がばくんと胸を打つ。上を見上げると、丸太の上には確かに人影があった。

 

 ──カカシだ。


 この夕焼け空で、濃く影がかかって表情こそ分かりにくいが……。そのカカシはこの太い一本の丸太の頂上で、固く引き絞られた縄によって何重にも胴体を巻かれ、完全に固定されていた。

 ん? というか、何でカカシが喋った? 

 それとも空耳か、と納得しかけたその時、やはりそのカカシから声が発せれた。


「何ぼんやりしてやがんだ人間共。オレの声聞こえてんだろが? 無視すんなボケ」


 ……とても乱暴な物言いのカカシだ。続けてカカシを注視していると、布袋の顔に筆で書かれたような口が、言葉に合わせてモゾモゾと動いているのが分かった。確実に喋っている。


「ま、待てよ……? おいオズ! カカシが喋ってるぞ!」

「何だよ急に。カカシが喋る訳無いだろ」

「聞こえてねぇのか〜⁉︎ ほらあれだ! 上!」

 指を差してオズの視線誘導を促す。

 俺達にじっと見つめられたカカシは、バツが悪そうに顔を背け、口元から小さく音を鳴らした。


「ホントだ。今舌打ちした。しかも首が動いてるよ。……何で?」

「お前が分かんなきゃ誰が分かるんだ! こんなん魔法以外の何でも無いだろ⁉︎」

「えぇ〜……? 覚えてないなぁ」

 まじか。

 この謎めいた存在のカカシは、オズが自ら魔法で作ったものでは無いらしい。なら一体どういった原理で動いているのか。……いや、この世界について俺が無知過ぎるだけで、もしかしたらごく自然に無機物が動き出す現象があるのかもしれない。


「ねぇ〜? 何で君は動いて喋ってるの?」

 一切の躊躇無しにオズはカカシに切り出した。

 するとカカシは案外素直に返事をした。


「そりゃあオレを作った奴が、変な道具でオレの顔を描いたからだ。顔が完成したらオレの体はそいつと同じ動きができるようになったって訳だ。理屈は全く分からねえがなぁ」

「ど、道具? ……それってどんな?」俺も思わず聞き返した。


「ベットベトした液体だぁ! 奴は木の枝の先っちょにそいつを付けて、俺のこの顔に塗りたくったんだ! ──オレが完成したその日の事……。忘れもしねぇ……。今から丸二百年と少し前の事だった」

「に、二百年……?」

 そんなに前の話だったとは。という事はその頃から、このカカシはこの木の上に立たされてたって事か?

 まあ、役割としては適切なんだろうが、何だってこんな、人みたく考えて喋れるようにしたのだろう?

 それじゃあ余りにも……。


「ああ〜〜‼︎ 思い出した!」

 ……感慨深くなる気持ちを、オズは突然叫んで吹き飛ばした。


「そう、確かに二百年前だ! あったあった! そういうのが欲しいって願ったマンチキンが居てさぁ! 喜んで持って帰ったのを覚えてるよ!」


 しみじみと懐かしそうに話すオズ。


 ──というかやっぱりお前が噛んでるじゃねーか‼︎

「何でこんなとんでもねー事忘れてんだよ!」

「仕方無いだろ! そんな前の事、いちいち細かく覚えてる訳無いじゃないか!」

「にしても魔法の産物なんだろ⁉︎ んなもんちゃんと管理してないと、後々まずい事が起こるってくらい分かるだろーが!」

「あーあー‼︎ うるさいうるさい‼︎ ゲイエレットみたいな事言う! 知らないよそんなの! 実際何も問題は起きてないでしょ!」

「いや起きてるだろ! まずこいつが可哀想過ぎるだろ!」

「え、ええ〜? そ、それは、そうかもだけど、僕は──」


「──おい」


 カカシが俺達の口論に割って入った。


「お前等がさっきから何をゴチャゴチャのたまってんのか、さっぱり分かんねぇけどよぉ。可哀想だと思うならこの縄解いてくれや。……オレにゃやる事があんだよぉ」


 ……確かに、こんな仕打ちは間違っている、とは思う。しかし、カカシの表情が尋常では無く恐ろしい形相をしているのを見て、俺は手を貸すのを躊躇した。 眉間を中心に顔のパーツが引き絞られている、といった具合に顔の布全体がクシャリと歪み、何とも言い難い不気味さを醸し出している。

 ──もしこのカカシが、ここ周辺に居るマンチキン達へ、長年縛られた続けた事への復讐を考えていたとしたら……。


「な、何をするつもりだ?」

 俺は気圧されずに尋ねた。


「……オレの立ってる真後ろに、家があるだろ。オレはその家の人間に作られた。そいつ自身に用がある訳じゃねぇ。あの道具だ。オレは今すぐにでもそれを手にしてぇんだよ」

「何の為に?」

 オズも続ける。

「……何だよ。理由がなきゃ、オレにゃそれをもう一度拝む資格も無ぇってか? オレがお前ら人間様より馬鹿だから、どうせ碌な事に使わねぇとでも思ってんのか? ……使わねぇよ。なんせ、大事な思い出の品だ」

「……別にそんなこと言ってない。見たいなら好きなだけ見ればいい」

「ふん。そーかよ。許可が貰えてありがてえこった」


 ……険悪なムードが漂う。──しかし、カカシの抱えた事情はどうあれ、行動の理由に悪意がある訳ではないという事は、信じてもいい気がする。

 これだけ年月が経った今、自分が生まれたきっかけの物をもう一度見てみたい、というのは至って普通の思考じゃないか。


「……よし。じゃあカカシ、降りて来ていいぜ。思ったんだが、多分お前の体は頑丈だから、草むらに落ちてもきっと何て事無ぇよ。だから大丈夫だ」

 俺は手招きをして呼んだ。


 カカシは長年の気苦労が一気に晴れるような、大きな溜め息の音だけを漏らして、言った。


「……はぁ。やっとこの時が来た。ずっとこの棒に縛り付けられて二百年余り。全く役に立たねえカカシを延々やらされて……それなのにオレはここから動けなかった。こんな頑丈な縄、オレは解く術を知らねえ馬鹿だからよぉ」


 ……? 何を言ってんだこいつ。独り言を続けるカカシを訝しんで見た。


「なあおい。今、降りて来いっつったよな人間。オレは! 自力で降りれねぇんだ! だから縄を解いてくれって頼んでんじゃねぇかよぉ!」


 ……へ? こ、これは全くもって気付いていないって事なのか?

 オズもさっきからずっと、呆けた顔でカカシを眺めている。


「い、いや。すまん。本気で言ってると思ってなかったから……。だとしたらその。カカシ、めちゃくちゃ言いにくいんだけどな?」

「あ? 何だよ。はっきり話しやがれ」


 俺は一呼吸置いて、はっきり指差しながら告げた。


「お前のその縄、蝶々結びになってるから。……つまり、先の方引っ張りゃ自分で簡単に降りられるぞ?」


 ──間。

 ギャグか何かのようなタイミングで、冷たいそよ風が体に吹き付けた。


 その瞬間。

 

「あぁぁぁ────────⁉︎」


 カカシの虚しい絶叫が、けたたましいサイレンのように、この広い畑のどこまでも遠くに響き渡った。そしてカラスが数羽、その爆音を受けて一目散に逃げるように飛び立って行った。


 ……その叫び声が昔から出せたのであれば、それはそれは優秀で立派なカカシとして重宝されていたであろう。

次回更新は 3/15(土)12:00 予定となります。

面白いと感じて頂けましたら、ブックマーク、高評価をよろしくお願い致します。とても励みになります!


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X(旧Twitter) @ppp_123OZ

日常ツイ・進捗、更新報告等行っております。

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