─4 夕日に光る麦畑
ぼちぼち休憩も終えて、俺達はまた道なりに進み始めた。
しばらく歩いていくと、気付かなければ足を引っ掛けてしまいそうな、とても背の低い柵が見えてきた。それを跨いだ先は広大な畑になっていて、あまりの果ての見えなさに、俺は思わず「うわあ」口を開く。
きっちりと分け隔てをしていない、くねくねとした畑の境目の道を目で辿ってみると、青色の塀の小さな民家があちこちに点在している事が分かる。
城下町と同じ造りなところを見ると、あれらにもマンチキン達が住んでいるのだろう。
まだほんのり青い色をした麦が、さらりと風に揺れる。日が暮れてきた事を知らせるように、薄いオレンジ色の光が畑をゆったりと煌めかせていた。
「早いな。もう夕方か……。会社で過ごす時間も、これくらい一気に時が過ぎれば気が楽なのになぁ……」
──う、いかんいかん。そういうお日さん西西の考えを持っちゃあ……。
まあ、元の世界であくせく働いていた時のマインドを、この伸びやかで居心地の良い世界にいちいち持ち出すのもどうかとは思うが。どうしてもそういう余計な事が脳裏に過ぎってしまうもんで。
「カイシャって、前も言ってたねぇ? 何なのそれは?」
「ん〜。仕事をする場所?」
「家じゃないの?」
「ええと、そういう手段もあるが……。俺の会社のルール、というか俺の立場じゃ、家から出て、その会社って場所に行かなきゃいけないんだよ」
「絶対に?」
「そう。絶対」
「ふーん……?」
あまりピンときていない様子のオズだが、それは仕方無い。この世界と俺の元のいた世界とでは、根本的に何もかも違うのだから。理解が及ばなくて当然だ。
「オズはこの国を護る事が、まあ言ってしまえば仕事だろ?」
「そーだねー」
何で棒読みだ。そこは心して言い切れよ。
「……マンチキン達も多分、家族を守るとか、日常を円滑に過ごす為に仕事をしてるよな? 家事をこなしながら、この立派な畑だとか、果物の木を大事に管理してたりとかさ。後は想像だけど、山羊を育てたり、狩りをしたり……」
オズは数回頷いたかと思えば、無言で地面の煉瓦との睨み合いを始めた。うーん。難しく無いような説明ができているつもりだったんだが……。
突然パッと顔を上げて、俺に振り向きつつ言った。
「つまり、そのカイシャに行って仕事をしなきゃいけないっていう理由は、そこに君に課せられた使命があるからって事だよね?」
「おー。仰々しく言うとそうなる」
「そんでもって、君がそこできちんと使命を果たさないと、シローの世界はオシマイ! って事だ!」
「そこまででは無い!」
素早くツッコミを入れた。どうしてそこまで思考がぶっ飛ぶ。
い、いや。オズはそういう次元の立場にある訳で、出来ない=終了なんだ。そりゃそういう考えにもなるか。
じゃあ俺は随分と恵まれた世界に居たという事? ……本当に?
「えー? どういう事? じゃあ別にさぁ、君はもっと気楽に、遊んで暮らしてれば良くない? ていうか、それが君がさっき言ってた元の世界で頑張らなきゃいけない一番の理由なの?」
「え〜〜とだな……。うぅ、何かもう頭回んなくなってきた……」
俺は頭を抱えた。それはオズとの会話が絶妙に噛み合っていないままエンドレスに続きそうなのを、脳みそが助けてくれ! と悲鳴を上げたからでは無い。……いや、多少はそれが原因だ。
ここ数日の間、俺の体は非常に疲れやすくなっている。それは何故か。食べる量が極端に減ったから? 慣れない生活で不安を抱えたまま歩きっぱなしだから? 色々と理由は想像が付くが、……とにかくちょっとした事で酷いだるさに襲われるのだ。
俺は直ぐにでも体を休めたくて、煉瓦の道沿いにあった太い丸太に寄りかかった。それに気づいたオズは、少し先を行っていた所から小走りで引き返して来る。
「ご、ごめんシロー! つい夢中になっちゃった。ね、今日はもう歩くのやめにしよっか」
「はぁ……そうしてくれると助かる。んじゃあいつもの、家出してくれるか?」
「はいはい〜」
俺は寄りかかった棒から体を離そうとした。その時──。
「──おい!」
──頭上から、ドスのきいた声がした。
次回更新は 3/12(水)12:00 予定となります。
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