表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オズの世界の歩き方  作者: 藍沢
【第二章】 トロルのカカシ
22/51

─1 身支度①

 とりあえず俺達は家に入ってから、各々好きなように過ごす事にした。


 俺はまず、()()()()()()()()を済ませる。

 その後、近くに見つけた小川に向かった。


 家から持ってきたペットボトルで飲み水の確保。衣服や皿などの溜まった洗い物を一気に洗浄する。

 ついでに明日の為の食料も、探す手間も無く見つけられた。まあ、しかし……。


「またリンゴと桃か……」

 来る日も来る日も果物のみ、というのは流石に堪える。しかしほぼサバイバル状態なんだ。文句は言ってられない。


 そうだ。風呂の代わりに川で水浴びでもしようか? ……と思ったが。

「いや、もし今猛獣がやってこられて丸裸じゃ格好の餌食だ。シャレにならん……」

 冷静になり、服を脱ぐのはやめにして家に戻った。


 家の中はしんとしている。

 オズはあれから部屋から出てきていないようだ。物音もしない。寝てるのか?

 チョコを大量に降らせるなどというトンチキな魔法を使ったせいで、自力で立てない程消耗した様子だった。

「はぁ、一応声かけとくか」

 俺はオズの部屋をノックした。

「オズ〜。具合悪く無いか? 今日はもうこのままここで一泊する予定だけど、それでいいよな……?」


 返事は無い。ドアにそっと耳を当ててみる。


 カサカサ。もちゃもちゃ。パリパリ──。

 

「いやチョコ食ってるだけかい! 絶対聞こえてるだろお前ぇ!」

 俺は無遠慮にドアを開ける。

「へ?」

──あまりの光景に目を丸くした。


「なんっ……じゃこりゃあああ────⁉︎」


 絶叫が、部屋の吹き抜け天井に反響する。

 ……もちろん、俺のアパートに吹き抜け構造の部屋は一つも無い。この家は平屋の一戸建てアパートだ。……そのはずだったが。


「も〜何? 勝手に入って来ないでよ」

「お前が返事しねぇからだ! それよりお前っ‼︎ これどういう事だ⁉︎」

「ああ。何か言ってたんだ? それよりどう? 狭苦しかったから目一杯広げてみたんだ〜!」

「広げてみた……って」


 吹き抜けの高さは二階を超えそうな程。天井近くの壁は四方に窓があり、暖かな陽の光が差し込んでいる。

 部屋の柱一つ一つには燭台がかけられていて、ベッドは前に見た時より装飾が華美になっていた。


「……ん? なんで全面に窓があるんだ? ていうかそもそも二階って……。まさか⁉︎」


 俺は走った。玄関の外から見た建物が、どのような変貌を遂げているのか。不動産会社に何て説明すればいいのか。様々な思考を脳に駆け巡らせながら。


 靴も履かずに外へ飛び出して、寝室の外側を仰ぎ見る。──しかし。


 外は何の変化も遂げていない。いつもの見た目のままだった。


「つまり、『中だけが別空間』って、そういう魔法か……」

 盛大にため息をつく。

 そうだ! オズがやった事は、最終的に全て元に戻してもらうようにすればいい。だから今だけは多少の事は気にしないでおこう。

 自分に言い聞かせるように、頷いて納得……するフリをした。


「はぁ。さっさと洗濯干して、掃除して、俺も終日ごろごろしよう……」

 俺は軽く背伸びをした。


 その後あれこれと用事を済ませて、小一時間程時間が経った。

 やっとひと段落。俺はゆっくりとカーペットに腰を下ろした。


 ただ頭はぼんやりとしていて、時間だけが過ぎていく。

 

 ──ふと、ポーチに入ったトトを取り出してみた。

 ぬいぐるみになったトト。少し摘むと中に詰まった綿が指を押し返してくる。当然、それ以上何の反応も無い。


 ──今この状態で、トトは何を考えているんだろう。今摘んだのも、実はめちゃくちゃ痛かったかな。……あまり弄らないようにしよう。


 腹が空いてるんじゃないか。息ができないでいるんじゃないか。

 ──死んじゃってるんじゃないか。


 全身に悪寒が走る。それだけは、絶対に嫌だ。

 俺はトトを胸に抱き抱えた。そのまま、三つ折りにして置いた布団にもたれ掛かる。


 俺があの時、咄嗟にオズに噛み付かなければ。

 もっと早く動けていたら。

 トトが家から出ないように、ちゃんと鍵を閉めていたら。

 目を瞑って、たらればを無限に想像する。

 

 ──いつの間にか、俺はすうっと脳が溶けるように、眠りについていた。




***


 夢だ。


 数人が、一つの場所に集まっている。

 何の話をしているのか、全く分からない。


 聞き耳を立てる。──聞こえない。

 もっと近くで。もっと、もっと……もっと。


「ぎゃああぁ────────‼︎」


***




「──ッんな、な、何だあああ⁉︎」

 耳をつんざくような叫び声に、俺は叩き起こされた。よたよたと体を起こし、直ぐに物音のする方へ駆けつけた。

 風呂場?

「──⁉︎」


 そこには、全身ずぶ濡れのオズが居た。

「冷たいよ──‼︎ シローこれ何とかしてぇ──‼︎」


 シャワーヘッドからざあざあと吹き出す水を、オズはパニックになりながらも両手でせき止めている。しかし隙間から容赦無く漏れ出す水が、今も尚彼に降りかかっていた。

「な、何やってんだお前……。あ、そうか。使い方知らねぇんだ。はいはい、待ってろ」


 ぴいぴいと喧しいオズを横目に、彼の足元にある蛇口のコックを捻った。放水はぴたりと止まる。

 オズは一瞬目をパチクリさせた後、安堵の溜め息を吐いた。


「なんだぁ、止めるのそこなの? びっくりしたぁ……」

「そう。ここを捻ると水が出る。これが俺ん家の風呂だ」

「そ、それは何となく分かってたさ! こっちの下の蛇口から水が出るんだと思ってたんだよ! そしたら上から……!」

「分かった分かった」

 あちこち指差しをしながら、怒り心頭の様子のオズ。俺は冷静に宥めた。


「というか、水出せるようにしてくれたんだよな? ……これって一体どういう原理なんだ?」

「げんり? どうやってるかってこと? そんなのどうでもいいじゃないか。水が出ればいいんでしょ?」

「ははぁ、『コックを捻れば水が出る』それだけの魔法……ってか。ほんと出鱈目だなぁ……。ま、でも、ありがとなオズ」


 どうあれ、これで風呂場に水が溜められるようになった訳だ。深く考えず良しとしよう。

 という事は、風呂以外にも台所やトイレ、洗面台も同じように何とかなるだろう。まあ、一気に設備を整えられるかというと、それはオズ次第だ。無理をさせてもいけないから、ぼちぼちでいい。


 ……せめて魔法の力は、どのくらい使えば限界に達するのかが分かればいいもんだがな……。オズの体感でもいいし、ゲームのパロメーター? とかが目に見えるなら尚良し。

 しかしそういった自身の限界値というものは、本来目に見えなくて当然だとも思う訳で。

 段々と頭がファンタジー感に馴染んできたが、この世界はこれでいて現実なのだ。


「はぁ〜。もうびしょびしょ」

 突然、オズは自身の着ているシャツの裾を捲り上げた。


 ──俺はまだまだこの奇想天外さには慣れていないようだ。

 俺は颯の如く腕を伸ばし、オズの手を掴んで下ろした。


「はぁ⁉︎ 何⁉︎」

「き、急に脱ぐな‼︎」

「何で⁉︎ いい加減濡れてるままなの気持ち悪いんだよ‼︎」

「ええと、い、今着替えが無いだろ! お前に合うような!」

「はぁ? 着替え? ……ああ、もういい。こんなの一瞬で乾かせるんだから」


 オズの言葉が終わると同時に、彼の周りに竜巻が起こった。驚いて目を閉じた一瞬の間に、髪の毛や衣服は綺麗な艶だけを残し、さっぱりと乾いてしまった。ふわりとハーブのような香りまで漂ってくる。


 ──まだ、心臓がバクバクしている。そして若干顔が熱いのが分かる。この胸の内のモヤモヤを払拭する為、俺はオズに尋ねた。


「……あのさ、ずっと聞きたかった事があんだけど、オズは男……なんだよな?」

「は?」


 ──沈黙。

 な、何だ? はっきりと聞いたのがまずかった? こ、これってセクハラ? そうか、それなら俺、とんでも無い事を……。

 途端に全身から嫌な汗が吹き出してきた。


「男に決まってるだろ。どこをどう見たら疑問になるの?」

「そ、そう……だよな」


 結論。オズは男である。これ以上の詮索は不要だ。

 この上無くスピーディな回答に、俺は非常に安堵した。


「ところでオズ、お前、風呂に入りたかったのか?」

「は⁉︎ 違う! もしかして君気付いて無いの⁉︎」

「何がだ?」

「風呂に用事があるのは君だろ! ハッキリ言っとくけど、君だいぶ臭うからな‼︎ ケモノ臭がする‼︎」


 ──け、ケモノ臭⁉︎

 俺は多大なショックを受けた。……そう言われて体に鼻をやってみる。……た、確かに、そう言われても仕方が無いと腑に落ちた。


「し、仕方ないだろ! ことごとく体流すタイミング逃してきたんだよ!」

「もーいいからさっさと全身丸洗いしてきて‼︎」


 グイグイと浴室内へ押し込めて、オズは早々に脱衣場から出て行った。


 慌ただしいやり取りもこれで終わりだ。「やれやれ」と溜め息を吐いてから、俺は数日ぶりの風呂を堪能する事にした。


 温度調整ができない為、今日はただの水浴び。

 しかし、外敵に襲われる心配も無く、何の気兼ねも無い個室で、自分を癒す為に体を丹念に洗う事ができる。改めて思うが、やはり風呂は気持ちがいいものだ。


 オズはおそらく魔法の力で、体の汚れをくまなく落とせるのだろう。

 ──食事に引き続き、彼にとって必要の無い事『風呂』


 かと言って、お節介ながらやはり思うのは……生活の一環から除外しても良いものなのか、という事だ。

 あのチョコレートみたいに、風呂も何か楽しめる理由があれば、前向きに入ってみようと思うものなのでは。

「とすれば、まずは熱い湯に浸かる事が一番だよな。オズにまた頼んでみよう」


 湯に浸かる心地良さを知ったら、病みつきになってくれそうな気はするが。果たして。


 風呂から上がって、洗濯機の上の棚に置いてあったスウェットを着る。

 そしてリビングに向かうと──部屋の真ん中に、元・俺の寝室に置いてあった衣類・私物が無造作に積まれていた。ついでに本棚も、中はそのままに突っ立っている。

 オズの奴。部屋にあって邪魔だから出してきたのだろう。……いやあ、配置換え作業が捗りますねぇ。

 とりあえず全体的に壁へ寄せて、せめてもの寝られるスペースを確保した。

 

 そんなこんなで外はすっかり暗くなっていた。月の薄明かりを頼りに、何とか服を全て綺麗に畳み終わる事ができた。

 ホッとした気分で、一気に体が脱力する感覚がする。

 ──あれ? 俺、もしかしてもう眠いのか? こんな早くに? 体力落ちたな……。

 

 まだ何か出来る事があるはず。そんな気はするが、俺の体は頭で考えている事とは真逆の行動をとり始めた。

 傍らに置いてある布団を広げる。そして吸い込まれるように寝そべった。


 ──もういいか。また明日にしよう。

 そう決めるとスイッチをオフに切り替えたみたいに、何もかもが動きを止めた。

次回更新は 3/1(土)12:00 予定となります。

面白いと感じて頂けましたら、ブックマーク、高評価をよろしくお願い致します。とても励みになります!


***

X(旧Twitter) @ppp_123OZ

日常ツイ・進捗、更新報告等行っております。

***

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ