─1辿り着いた先は…… ①
***
閉じた瞼に、ちかちかと光が差し込む感覚がした。
「……朝?」
掠れた声で呟く。朝。そうか……。
「朝じゃねぇか‼︎ ──会社ッ‼︎」
俺は目も開き切らないまま勢いに任せて立ち上がった。バランスが保てず、後方に重心が崩れるのを足で立て直す。
全身に伝う冷や汗が気持ち悪い。無駄に息切れし、動悸が止まない。床で寝落ちたせいで生じている節々の痛みを感じるが、そんなことを気にしている時間はない。
「待てよ……。今何時? 俺、昨日何してた? スマホは……。そう、スマホ……!」
目を血走らせ周囲を見渡すと、玄関先に放置された仕事用の鞄がある。すぐに飛びつき、強引に手を突っ込むと、それはすんなりと見つかった。
──しかし、画面は真っ黒のまま動かなかった。充電切れ。ひどい形相の自分の顔が反射しているのが見えた。
「──ッ‼︎ もう、いい! そのまま行くしかねぇ‼︎」
なりふり構っていられず、俺は鞄を引っ掴んで、くたびれた靴を手に取った。
「ワンッ!」
後ろで普段吠えないトトが俺を呼んだ。
はっとして振り返ると、トトはいつものあどけない表情でじっとしていた。
「あ……あぁ……! トト! ごめん俺、餌やらずに寝て……」
靴を放り投げてリビングへ戻ると、トトは尻尾を小さく揺らして優しく擦り寄って来た。
それだけで幾分か心がホッとする。
──しかし、トトの目を見たら、昨日の夜の事がフラッシュバックする。頭の中がどんどん白く染まっていく。
「こんなんでどうすんだ、俺……」
自身の無力感が一気に押し寄せ、そのまま膝をつきそうになった。──その時だった。
「大丈夫ですか‼︎」
「何ですか‼︎ この大きな岩は‼︎」
「どうかお顔を見せてくださいませ‼︎」
外で数人が騒いでいる声が聞こえた。
なんだ? ふと窓に目を向ける。
──が、とてもじゃないが日差しが眩しすぎて全く様子が窺えない。
俺は仕方なく玄関のドアを開けた。
──無数の目と焦点が合う。想像以上の人だかり……。人?
「はぁ?」
口があんぐりと開く。
脳が麻痺したまま、周囲に目をやった。
とても豪華な大広間の、ステージの上に立っているようだ。
そしてその下には謎の小人達が数十人。何故か揃って青色の服を着ていて、一帯は真っ青に染まっているのが何より気味が悪い。
その全員が、俺を一心に見つめていた。
「……ここは──」
「貴方が『オズ様』ですか?」
言い切る前に、群れの中に居た爺さんのような見た目の小人が、くりくりとした目を輝かせて俺に尋ねた。
──オズ様? 俺に言ってんだよな?
「……いや、オズ? じゃ無ぇ……──」
「この者はオズではありません」
またもや言い切る前に、きりりとした声がその場の空気を締めた。
その声の主は、光の反射で煌々と輝く衣装を纏った女性。ここからでも分かるほど、その背丈は俺を遥かに上回る高身長だ。額から垂れる絹のような銀の髪が、地面すれすれまで一糸乱れず揃っている。
──無邪気そうな小人達とは全く違う、険しい表情。
彼女はまるで、この世の全ての中で一番醜悪なモノを見るような眼を、俺に向けて佇んでいた。
──いや、本当にどういう状況?