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オズの世界の歩き方  作者: 藍沢
【第一章】 ようこそ 大魔法使いの国へ
2/46

─1辿り着いた先は…… ①

***




 閉じた瞼に、ちかちかと光が差し込む感覚がした。

「……朝?」

 掠れた声で呟く。朝。そうか……。


「朝じゃねぇか‼︎ ──会社ッ‼︎」


 俺は目も開き切らないまま勢いに任せて立ち上がった。バランスが保てず、後方に重心が崩れるのを足で立て直す。

 

 全身に伝う冷や汗が気持ち悪い。無駄に息切れし、動悸が止まない。床で寝落ちたせいで生じている節々の痛みを感じるが、そんなことを気にしている時間はない。


「待てよ……。今何時? 俺、昨日何してた? スマホは……。そう、スマホ……!」


 目を血走らせ周囲を見渡すと、玄関先に放置された仕事用の鞄がある。すぐに飛びつき、強引に手を突っ込むと、それはすんなりと見つかった。


 ──しかし、画面は真っ黒のまま動かなかった。充電切れ。ひどい形相の自分の顔が反射しているのが見えた。


「──ッ‼︎ もう、いい! そのまま行くしかねぇ‼︎」

 なりふり構っていられず、俺は鞄を引っ掴んで、くたびれた靴を手に取った。


「ワンッ!」


 後ろで普段吠えないトトが俺を呼んだ。


 はっとして振り返ると、トトはいつものあどけない表情でじっとしていた。


「あ……あぁ……! トト! ごめん俺、餌やらずに寝て……」


 靴を放り投げてリビングへ戻ると、トトは尻尾を小さく揺らして優しく擦り寄って来た。

 それだけで幾分か心がホッとする。


 ──しかし、トトの目を見たら、昨日の夜の事がフラッシュバックする。頭の中がどんどん白く染まっていく。


「こんなんでどうすんだ、俺……」


 自身の無力感が一気に押し寄せ、そのまま膝をつきそうになった。──その時だった。


「大丈夫ですか‼︎」

「何ですか‼︎ この大きな岩は‼︎」

「どうかお顔を見せてくださいませ‼︎」


 外で数人が騒いでいる声が聞こえた。


 なんだ? ふと窓に目を向ける。


 ──が、とてもじゃないが日差しが眩しすぎて全く様子が窺えない。


 俺は仕方なく玄関のドアを開けた。

 

 ──無数の目と焦点が合う。想像以上の人だかり……。人?


「はぁ?」

 口があんぐりと開く。


 脳が麻痺したまま、周囲に目をやった。

 

 とても豪華な大広間の、ステージの上に立っているようだ。


 そしてその下には謎の()()()が数十人。何故か揃って青色の服を着ていて、一帯は真っ青に染まっているのが何より気味が悪い。


 その全員が、俺を一心に見つめていた。


「……ここは──」

「貴方が『オズ様』ですか?」


 言い切る前に、群れの中に居た爺さんのような見た目の小人が、くりくりとした目を輝かせて俺に尋ねた。


 ──オズ様? 俺に言ってんだよな?


「……いや、オズ? じゃ無ぇ……──」


「この者はオズではありません」


 またもや言い切る前に、きりりとした声がその場の空気を締めた。


 その声の主は、光の反射で煌々と輝く衣装を纏った女性。ここからでも分かるほど、その背丈は俺を遥かに上回る高身長だ。額から垂れる絹のような銀の髪が、地面すれすれまで一糸乱れず揃っている。

 

 ──無邪気そうな小人達とは全く違う、険しい表情。


 彼女はまるで、この世の全ての中で一番醜悪なモノを見るような眼を、俺に向けて佇んでいた。


 ──いや、本当にどういう状況?

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