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オズの世界の歩き方  作者: 藍沢
【第一章】 ようこそ 大魔法使いの国へ
17/46

─16 行ってらっしゃい!

 地面に寝転がるのは二回目だ。しかも同じ場所……。

「やれやれ……」

 俺はよいしょと体を起こした。

 オズはすぐ側に居て、城の反対側を遠い目をして眺めていた。


「向こうが南の魔女がいる土地なのか?」

「そうだよ。かなり遠い。迂回せず真っ直ぐ進んだら、森とか川とか、深い谷なんかもあるから、徒歩じゃ危険だね」

「そうか……。だからってさっきみたいに空飛ぶのは、今後何かあった時以外絶対嫌だからな……」

「僕もごめんだね。そもそもくっつくの嫌だし。途中で魔力無くなったら、そのまま真っ逆様でバラバラになっちゃうよ。シロー弱いんだから」

「何度かは護ってくれる体にはなってるはずだが……。考えりゃ分かるような事で魔法の力を無駄遣いするのは避けたい。……やっぱ地道に、歩いて行くしかないか」

「ま、僕は歩くの面倒臭くなったら飛んでいけるからいいか!」

「はぁ……」


 人の事は余りにもお構い無しのオズに、少々疲れる自分がいる。しかし、こんな状況でも楽観的に、何とかなるなどと思えるのは、やはりこいつの能天気さのお陰だろうか。

 ──そうだ。何とかなる。いや、何とかするんだ。


 俺もオズに並んで、南の方角を見通した。


「とりあえず真っ直ぐ南に向かうとして、途中で道が逸れたり、迷ったりでいつの間にか別の場所に……なんて事は起こらないか?」

「当然ありうる! 僕は基本的に方向音痴だからね! でもそれを解決する魔法は、もう随分前にかけてあるんだ!」

 ……方向音痴? 嫌な汗が垂れた。

「おい〜。今の聞き捨てならねぇぞ」

「──それ!」


 オズが両手でパチンと音を鳴らす。すると、俺達の足元の土が、トランプのようにペラリと捲れた!

 土の裏側から現れたのは明るい黄色の煉瓦だ。ペラペラと音を立てながら、次から次へと目線の先に道を作っていく。城を避けて南の方へ。まるで俺達を案内しているかのようだ。


「僕の行きたい方向に、この煉瓦の道がどんどん続いていくようになってる。分かりやすいだろ?」

「はぁ〜! 便利な魔法だな!」

 こういう魔法は少しばかり、見ていて楽しい気分になる。奇想天外も悪くないものだ。


 煉瓦の道が、目の前の広大な丘へ伸びて、一番先が目に見えない程になった所で──。


「よし、行くか!」


 ──俺は一歩を踏み出した。

 腰のポーチが揺れる。勿論お前の事、忘れてないからな、トト。


 ──オズの力を取り戻して、トトに掛けられた魔法を解く。そして俺達は元の世界に帰るんだ。


「オズ様‼︎」


 後ろから声がして、俺達は振り返った。

 庭の一本道の中央に、少女、リンクが立っていた。そして──。


 大人も子供も混じった、大勢のマンチキン族がこの庭に詰め寄っていた。

 皆、妙にそわそわしていて、とても思い詰めたような顔をしているのが分かる。


 その群衆の中から一人。長い髭を蓄えたよぼよぼの老人が、ゆったりとした足取りでリンクの隣まで歩いてきた。老人は目が開いているのかすら分からない、しわくちゃの顔をオズの方へ向けて、言った。


「貴方がこれから、旅立たれる前に……。私達はずっと、貴方に……」

 ゴホゴホ、と老人は喉の詰まりに苦しげに咳をした。リンクは横で、優しく老人の背中を摩った。


「オズ様……私達は、貴方にずっと、助けられてきました……。感謝申し上げます。心から……。感謝を……」


 老人は曲がった腰を更に深くかがめて、深々と頭を下げた。ぶるぶると震える体を、何とか杖で支えている状態だ。ふらりと体が前に倒れそうになるのを見て、俺は咄嗟に駆け寄ろうとした。──が、そこへ直ぐにリンクが支えになる。

 リンクは老人の体を上手く体にもたれさせたまま、オズに向かって言った。


「オズ様。私達はずっと貴方に、お願いを叶えて貰ってばかりでした。沢山、沢山、我が儘を言ってきました。……何百年も、貴方にお願いを叶えて貰う為に、毎日お城に出かけて。いつの日かオズ様をお城に閉じ込めて、一人ぼっちにしてしまいました」


 ──リンクの目からぼろぼろと涙が溢れた。


「本当は自由になりたかったって、昨日オズ様がそう言ってたって、皆から聞きました。本当に、ごめんなさい。ごめんなさい……。ご、め……」


 漏れ出す声が、言葉にならなくなってきたリンクに続いて、後ろの人々も老若男女関係無く、口々に言葉を放った。


「もう、我が儘は言いません」

「オズ様の魔法がなくても、ちゃんと皆で、何とか暮らしていけます!」

「だから」


「オズ様、また帰ってきてくれますか」


「僕達の王様。僕達にまた、会いにきてくれますか」


「私達を、まだ、見捨てないで、いてくれますか」


 小人達全員の泣き声と嗚咽が、この場一帯の空気を揺らした。

 俺は、ただそれを見ている事しかできない。


 オズは数歩、皆の前に歩み寄った。

 

 そして──高らかに叫んだ。


「ちゃんと帰って来るよ‼︎」


 その声は湿った空気を一気に吹き飛ばした。ぴたりと声が止んで、一同の目はオズに釘付けになる。

「だから、安心して」


 オズは、リンクと老人に近づいて、肩をそっと抱きしめた。


「……その時は、絶対泣いてるんじゃないよ」


 緑に煌めくローブが、ばさりと翻る。オズは一切を振り切って歩み始めた。

 俺は──。


「お兄さん」


 リンクがか細い声で俺を呼んだ。


「オズ様を、よろしくお願いします」

「あ……あぁ」


 涙をゴシゴシと拭いながら、俺の目をしっかりと見る。それに合わせて、後ろにいた一同も、静かに頷いては、鼻を啜っていた。

 こんな小さい子が。そして、内心俺に複雑な心境を抱えているであろう彼らが、懸命に頼んでくれている。

 それなら、俺はその気持ちを、決して無碍にしないように精一杯の事をしよう。そう。元よりそのつもりだ。


「リンク、俺は……シロウ。灰野シロウって、名前だ。またオズと一緒に、この城まで帰って来れるよう頑張るから。また会おうな」

「……! はい! シロウお兄さん!」


 行ってらっしゃい! その声を振り向くまでの間に聞く。俺の後ろから数々の声援が耳に響いてくる。

 もう随分と先の方まで進んでいるオズの代わりに、俺は一度振り返り大きく手を振った。


 思い切り息を吸い、肺に酸素を大量に送り込む。そして、全速力で駆けた。

 追い風が背中をぐんと押す。これ程まで気持ちのいい風を感じたのは、もう何年振りだろうか。


 オズの元へ、そしてこの道の先へ。俺の人生が、真っ白から始まったような気がした。

次回更新は 2/13(木)12:00 予定となります。

面白いと感じて頂けましたら、ブックマーク、高評価をよろしくお願い致します。とても励みになります!


***

X(旧Twitter) @ppp_123OZ

日常ツイ・進捗、更新報告等行っております。

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