─13 元に戻す方法 ①
城の玄関は一度通過したはずだが、その全貌はほぼ見覚えがない。それもそのはず。あの時の魔法で一気に外へ吹っ飛ばされたからだ。
一歩踏み出すごとに、俺とオズの靴の音だけが、長い廊下にこだまする。
中世風の城の内部。一面に白の漆喰の壁で、等間隔に柱が並んでいる。
外装は至る所にエメラルド結晶でできた装飾のオンパレードだと言うのに、中身は特にこれと言った飾り気も無い。
「何か、花とか壺とか置いてそうなイメージなんだけどなぁ」
「花は枯れるし掃除が面倒だから要らない。何で壺?」
「いや、俺の知るお偉いさんはみんな壺を部屋に置いてんだよ」
「ふうん。見てみたいな。そのオエライサンの頭の中」
完全にバカにしているような口振りだ。絶対興味無いだろ。
軽口は程々の所で、最初の大広間に辿り着いた。
昨日集まっていた大勢のマンチキンは一人も居なかった。無限の広さを感じる空間だ。俺達はそのまま奥へと歩いていく。
最奥には俺の家が墜落した壇上があるが、崩れた箇所など一つも見当たらないくらい、綺麗に整備されていた。
その中心にはポツンと一つの椅子があり、それから非常に厳かな雰囲気が醸し出されている。非常に近寄り難い。
「戻りましたか。二人とも」
突然の声。冷たく重い空気。ピンと神経が張り詰める感覚。それは全て明らかにあの目の前の椅子から発せられた。
細かな光に包まれたゲイエレットが、厳格な態度でこちらを見据え、壇上に姿を現した。
オズは先程からずっと口を閉じている為、俺から切り出した。
「お、おはようございます、ゲイエレットさん。あの、昨日はすみませんでした。色々と……」
「ふむ、結構。言いつけ通り、ここに二人揃ってきちんとやって来た事で、全て良しとしましょう」
そう、色々と……。散々喚き散らかして迷惑をかけた事。彼女の計らいによって自分の安全が担保された事。それらを挙げようとしているのを、彼女は全てお見通しであるかのように、さらりと流した。
「──さて。大魔法使いの力を取り戻す、たった一つの方法。オズ、貴方に説明しましょう」
いきなり本題か。
オズは真面目な顔をして、大人しくゲイエレットの話に耳を傾けていた。
彼女が再び口を開く。
「この国の王。『大魔法使いオズ』が授かりし魔力は全て、神から賜りし恩恵である」
「その恩恵とは、神の作りしこの国に住まう民を護り、平和を永続させる事で得られるものである」
「神が未来に、国と民の終焉を視た時。その恩恵は断たれるであろう」
重々しい声色で語るゲイエレット。少し間を置き、オズへ問いかけた。
「ではオズ。仮に、神がこの国の終わりを視たのだとしたら、なぜ貴方は今、少なからず魔法を使えるのでしょうか?」
「まだ、未来では国が終わってないから?」
「そういう事です」
……俺は話に付いていくのに必死だった。
オズはというと、眉間に皺を寄せ、若干そわそわと落ち着きのない様子だ。話が長い、といった具合だろう。一応我慢して聞いてはいるんだよな……。
「未来はまだ終わってはいません。しかし貴方は確実に、大魔法使いの権能を大きく失っている。これは、神による貴方への罰です。」
「あー‼︎ それ昨日も聞いたってぇ! 早く言ってよ方法を!」
……我慢できなかったようだ。
「……はぁ。一応、ハイノへの配慮も込めてなのですが。全く。いつも貴方がどこまで人の話を聞いているのか分からないから、余計に説明を繰り返しているのですよ?」
「う……」
自業自得……。あと俺にご配慮いただいても、半分くらいしか頭に入って来ませんよ。努力はしますが。
「では申します。大魔法使いの力を再び授かるには、まず、四人の魔女の力を己が身に集約させる必要がある」
「そして、貴方が心からこの国を愛し、民を護る力がある事を証明し、あらゆる知恵をもって神の赦しを聞けば。──元通り。貴方は大魔法使いの権能を行使できるようになるでしょう」
「四人の、魔女……」
オズが意味深に呟いた。
……ゲイエレットの説明は実に抽象的だ。具体的に何をどうすれば良いかが全く分からない。
「ゲイエレット。僕はこの力を手にした時から今回まで、一度も力を奪われた事が無かった。……その、魔女の力を集約、っていうのは、何をすればいいの?」
オズの質問で、今度こそ本題に入った。
「……では」
ゲイエレットは壇上の椅子の前からゆっくりと階段を降り、俺達の目の前に立った。
オズの方へ体を向けた彼女は、一瞬だけ顰めっ面をして、右手を前に差し出す。
「オズ。目を閉じて。そして十秒数えるのです」
「は? 何?」
「早くなさい」
オズは不服そうにぎゅっと目を瞑った。
そして。
「んむ?」
──ゲイエレットは静かに、オズの唇へ、自身の唇を重ね合わせた。
「──え?」
俺は思わず声を漏らし、突然の出来事に脳と体がびしりと硬直した。
次回更新は 2/5(水)12:00 予定となります。
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