─12 初めまして ②
「君が、子供達を?」
「そうです! オズ様に興味無い? って声を掛けて回ったら、みんな会いたいって言ったんです! だからみーんな連れてきました!」
……なんだ、オズ。お前が思ってるのと全然真逆で、ちゃんとみんなに好かれてるじゃないか。
「でも、大人達には止められたんです。……絶対会っちゃいけないって。だから内緒なんです」
「そ、そうか……。それでも皆、勇気出して来てくれたんだよな。オズは……まぁ、あんな感じだけど、絶対内心喜んでるよ」
「……良かった! です!」
安堵の表情を浮かべて朗らかに笑う少女は、騒ぐオズ達の輪を嬉しそうに見つめた。
それにしても、大人のマンチキン達はオズを避けてる様子なのか。しかし、今の所俺には如何ともし難いな。
──そうだ。この少女にはちゃんと言わなければならない事がある。
俺はもう一度、少女に目を合わせた。
「なぁ、昨日の夜、食べ物を届けてくれたのって君だろ?」
「は! そ、そうです! ……遅れてしまって、ごめんなさい……」
「いやいや、謝る事じゃない。本当にありがとな! オズもちゃんと食べてたし、俺も大満足だ!」
「そ、それは! 本当に、良かったです! ……食べてくれた!」
満面の笑顔になった少女。俺は後方の輪の方に手を振る。
「おーいオズ! お前もちょっと来い!」
「何──⁉︎ ていうかこの子達どうにかして……ん?」
ちゃんとオズもこの子にお礼を言うって、約束したもんな。さぁ、その子らをどうにかしてこっちに来い。
──突然、オズの動きを、何かが止めた。
ん?
俺はマンチキンの家の方向から、多数の人が駆け足でやって来ているのに気付いた。そう、大人達だ。
必死な形相で突進をする彼らの先頭が、大声で叫んだ。
「お前達いぃ──‼︎ あれほど近付いてはならんと言っただろうがあぁ──‼︎」
「見ないと思ったら! こんなに寄ってたかって、オズ様に無礼でしょうがあぁ──‼︎」
「「「うわあぁ──‼︎ 父ちゃん、母ちゃんだ‼︎ 捕まる──‼︎」」」
子供達はこの見晴らしのいい原っぱに、逃げる先も隠れる物影も無い事に狼狽え、散り散りになっていく。
「ど、どうする⁉︎ オズはともかく、俺も逃げた方がいいのか⁉︎」
「そ、そんな事、無いです! あの! えっと……! どうしよう、私も、怒られちゃう……」
みるみる青ざめていく少女をとりあえず庇うようにしながら、オズの方へ二人で小走りで近づく。
こんな中、オズは表情も無くこちらに向かってくる大人達をじっと見つめていた。
──何を考えてる?
「みんな、勝手だよね」
「え?」
オズは一言呟くと、左腕を天高く掲げた。手の先には眩い光が灯り、──瞬間、打ち上げ花火のように空に飛び出した。
太陽より強い光が頭上をギラリと照らし、その場の動きが止まる。そして皆の目線は上に向けられた。
チカチカ……とこの場一帯の空がまた光る。それと同時に、その光はだんだん目に見える物になってきて、はっきりとそれが何か認識できると皆は口をあんぐりと開けた。
細かな雨粒のように降り出したのは──。
「──エメラルドだ」
極小のエメラルドの粒が、俺達の頭に、こつりと当たった。
こつり。こんこん、バラバラバラバラ──。
「いや痛えよ‼︎」
叫んだ時には宝石の雨はもはや霰のようになっていて、容赦無く体を痛めつけてきた。
「宝石だ! 綺麗! でも痛い〜!」
「お、オズ様の宝石の雨だぁ! 皆伏せておけえぇ──‼︎ ヒイィ⁉︎」
マンチキンの方も同じく被害に遭っているようで、各々地面に体を伏せてやり過ごしていた。
うぅ! いい加減痛い!
「オズ! 止めろって! もう十分だって!」
「ん〜ひと月分まとめて降らすのはまずかったか」
俺の静止を聞かずに、やっちゃったなぁと言う顔で周囲を見ているオズ。
……オズをよく見ると、体全体に薄い光の膜みたいなものが張っていて、それが落ちてきた粒を全て弾いている。多分魔法だ。
この野郎‼︎ 自分だけ‼︎
「あの! お兄さん! これを使ってください!」
「え? な、何? ……帽子?」
少女は青いとんがり帽子を俺に手渡した。こ、これで頭を守れと? その少女はもう既に同じものを身につけている。他のマンチキン達も全員が同じ帽子を、ぎゅっと頭に被って押さえつけていた。
この対応の速さ……。日常茶飯事なのか……。
「あ、ありがと……! で、でもこれちょっと小さ……!」
「あ、あわわ、やっぱり! ど、どうしよう……」
慌てふためく俺達をちらと見たオズはこちらに声を掛けた。
「さっきから何やってんの二人とも。いいよ、もうじきに終わる。それに、もう僕らは行くから」
オズは俺の傍らにいる少女に目を合わせてゆっくりと手を伸ばし、優しく少女の頭を撫でた。
「パン、おいしかったよ。ありがとう。──リンク」
「! ……は、はい! オズ様! 食べてくれて、ありがとうございます!」
リンクと呼ばれた少女は、今までよりも一層嬉しそうな表情をして、目に涙を滲ませていた。
そんな温かな光景を静かに見守っていたのも束の間。
──突然、オズに物凄い力で脇腹を引っ掴まれる。
「うお⁉︎」
「飛ぶよ‼︎」
─へ?飛ぶ? 理解が追いつかないまま、オズは俺の腰を支えた状態で、一気に空中へ飛び立った。
浮遊感に全身が震え、俺は思わず素っ頓狂に叫んでしまう。
「うおおおおおおああぁぁぁぁ──ッ⁉︎」
「うるさッ」
上空では、正面から吹き飛ばされそうな勢いの強風が吹きつけ、たまらずオズに手も足も絡めてしがみ付く。
その高さはここからマンチキン達が指一本くらいの大きさに見え、城の方までの道のりを一望できる程だった。
オズが手を離したら最後、俺は確実に地面に叩き付けられて終わる! 悲惨な未来を想像して一層体は強張っていく。
「無理無理無理‼︎ 離すなよ‼︎ フリとかじゃなく‼︎」
「ちょっ……! うるさい! 痛い! 服引っ張るな! もういっそ気絶してくれた方がマシ!」
オズが嫌がって身をよじり、俺の体を揺らす。負けじと掴める場所を必死で握り締め対抗した。
すると、突然体が前に引き寄せられる。オズは城の方へ向かって進行を始めた。
このまま行くのかよ! 俺は無駄な抵抗を止め、ただただじっと体を硬くした。
そんな事をしている間に、エメラルドの雨は降り止んだようだ。目が慣れてきた為、離れていくマンチキン達を上から見る。
その中には、俺達をじっと見つめる者。
俺達に手を振る者。
落ちた宝石を一生懸命に拾う者。
子供達はみんな親に捕まっていて、頭を上下に振っては、隙を見てこちらを見上げた。
その群衆の真ん中を走ってこちらに追いつこうとしているのは、リンクだった。
リンクは両手を大きく振り、遠ざかっていく俺達を見えなくなるまで見送っていた。
「なぁ、オズ。思うんだけどさ。宝石って高価なもんだろ。いいのか? あんなにばら撒いて……」
「いいさ……。あんなもの。世界一要らない物なんだから」
──そんなもん、なのかな。俺はそれ以上何も聞かなかった。
ギラギラと輝く緑の城には、ほんの数十秒で辿り着いた。
震える膝に喝を入れ、なんとか立つ事に成功する。
オズはこちらに構いもせず、速攻で城の中に入っていった。
「ま、待てよ!」
俺はすぐ様後を追った。
次回更新は 2/1(土)12:00 予定となります。
面白いと感じて頂けましたら、ブックマーク、高評価をよろしくお願い致します。とても励みになります!
***
X(旧Twitter) @ppp_123OZ
日常ツイ・進捗、更新報告等行っております。
***