─9 異世界で初めての暮らし ①
「い、今の衝撃でどっか壊れたんじゃねーのか?」
「大丈夫でしょ。これでもそっと置いた方なんだからね。だって元々が余りに脆そうな家だからさぁ」
ほんとかよ。
確かに、壁にはヒビ一つ入って無い様子。一応納得はしてみる。しかしながら拭いきれない疑念。じろじろと睨みながら玄関前まで歩いた。
──と、そこで気付いた。オズが付いて来ない。
「おいオズ、入んないのか?」
「えぇ? だって狭そうじゃないか。僕窮屈な部屋嫌いなんだよね」
「ウルセェ! そりゃどうせお前の豪勢な部屋程じゃねぇだろうよ! 狭くて悪かったな!」
「分かった分かった。一応興味はあるから入ってあげるって」
渋々と歩を進めるオズ。こいつ、本当に一言二言多いぞ。
玄関を開けると、目に入ってきたのはいつもの日常だった。
家具が殆ど無い、スカスカの1LDK賃貸アパート。
玄関で靴を脱いで、入ってすぐにあるキッチン。
俺の身長程も無い冷蔵庫。
八畳リビング。その横に寝室・洗面所へそれぞれ続く扉。
以上、俺の家の紹介終わり。束の間の安堵感に、心無しか涙が出そうだった。
本当に、いつもの変わらない俺の家だ。
──トトがぬいぐるみになっちまってる事以外はな。
「せっっっっっっっっっっっっま‼︎」
そしてこいつがいる事以外は。
「だから狭いっつってんだろ!」
「ヒェ〜! まるで空の倉庫だ! 本当に何もないね! でも見た事ない内装だ! これが他の世界の家なんだね〜! 面白ーい!」
オズは土足で部屋の中へ駆け込み、辺りをぐるぐる見回した。
好き放題言ってくれる……。改めて、こいつと顔付き合わせて生活するなんて不安しかない。
とりあえず、あのカツカツいっている小綺麗なハイヒールをひっぺがしてやる!
オズに目を向けると、奴は寝室のドアノブに手をかけていた。
俺は駆けた。いや、後ろめたい物が置いてあるからでは無いのだが。
「人の寝床に勝手に上がるな‼︎」
「なにこれ」
オズは目の前の物を凝視して固まった。……なんだ? 俺は後ろから追って部屋を覗き込んだ。
フローリングに直に敷いたシングルサイズのせんべい布団が一つ。あ、畳んでなかった。ちょっと恥ずかしいだろ。
そしてちょろりとのびた充電器。
うん。いつもの。至って普通の寝室だ。何がおかしい。
「……独房?」
「失礼な事言うな‼︎」
「だ、だってそうじゃないか。床に布が一枚敷いてあるだけの部屋なんてそれ以外考えられない……」
「あれは布団だ。俺が寝るとこだ」
「え⁉︎」
オズは驚愕の表情を浮かべながら、恐る恐る布団の前でしゃがみ込み、布団を捲る。いや捲るな。
それから何も言わず、左腕を前に突き出すと……。
──瞬く間に豪華絢爛キングサイズベッドを出現させた。
「おいぃ‼︎ いきなり改造するな‼︎」
「そうそう、これくらい無いと! ──いよっと‼︎」
オズはベッドへ思い切り大の字になってダイブした。
「やっぱベッドは最高にフカフカでないとね〜! あんなぺっらぺらで寝られる訳ないよ!」
「……何でもうお前の部屋って認識なんだよ」
聞く耳持たず、きゃっきゃと転げ回るオズに、これ以上何か言う気も失せ、リビングへ移動する。
──そして、ある事に気づいた。
「俺、そういや飯食ってねぇ……。それも昨日の夜から……」
そこから俺の腹は、やっと気付いたか馬鹿めと言わんばかりにくぅくぅと音を立て始める。
全く、少し安心すればこれだ。空腹を紛らわす為、「何か無いか?」と呟きながら冷蔵庫を開けた。
しかし中に食料は何も無い。使いもしない調味料類と、飲料水入りペットボトル一本のみだ。
「ぐ……醤油でも舐めるか。いや、それは何かまずい」
……食料、どうする?
やはりここでの頼みの綱はどう足掻いてもあいつだ。
俺は渋々、奴の完全なるテリトリーとなった寝室に戻った。
オズはまだベッドで寝転がっており、天井に指差しをしながら何かぶつぶつと言っている。
「天井が低い……明日にはもっと高くして、ちゃんとした綺麗な灯りを取り付けないと。壁も窓枠もそっけないし、それから……」
楽しそうだなおい!
「……お部屋のリフォームの構想を練ってる最中に失礼しますが? ここでは食料をどう調達したらいいのか教えていただけませんかねぇ?」
「あ、そうか。君、食事が必要なんだった。僕は基本何も食べないから……外にある草の中とか探してみたらいいんじゃない?」
「俺をその辺の山羊か何かだと思ってるだろ! そんな簡単に見つかるかぁ? ──ん?……オズは、その、体が無いから飯が要らないのか?」
違和感を口にすると、オズはむくりと体を起こして、軽く腹をさすった。
「うん。食べられるけど、食べなくてもいい。これは元の体があった時から。魔法使いと魔女は食物から得られる栄養を必要としない。全て神様から、魔力として分け与えられたもので賄えるのさ」
「……食べたいとも思わない?」
「うん! 全然興味無い!」
あっけらかんと答えたオズは、また周りの装飾をどうするかに気を取られ始めた。
──なんか、便利な体のような。それじゃあ寂しいような。しかし、本人がここまで食を重要視してないと言い張るなら、俺が気にするのは単なるお節介か。そう思って口をつぐんだ。
家を後にして、もう一度外の景色を眺めた。
──そうだ。マンチキン達の家にはあまり近づかないようにしないと。単独行動をするのだから、万が一の事があってはいけないからな。
家が比較的少なく、木々の生えている場所までこっそりと移動することにした。
次回更新は 1/22(水)12:00 予定となります。
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