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出会い

登場人物


ゆう

種族:葉と光のハーフ 年齢:13 性別:男

正義感の強い少年。小学生の頃から両親は仕事で夜遅くに帰ってくるため、鍵っ子。家事全般もまあまあできる。


ミキ

種族:葉 年齢:?(見た目は5歳くらい) 性別:女

友たちが通う学校近くの地下通路に封印されていた謎の少女。魔力がかなり高い。



用語集


虹星

この話の舞台。大きさは月と同じくらいでロシアと同じくらいの面積の大陸が1つ存在している。様々な種族の妖精と、彼らを支える精霊が暮らしている。


種族

基本、火・水・風・植物・光・能力系とその他に分かれる。植物と能力系は更に種類を分けることができる。光の種族は劣勢遺伝で光の種族同士でしか生まれない。その他に虹の種族、蝶の種族が含まれる。


虹の種族

この星の王族。全ての魔法を使うことができ、魔力も高い。


蝶の種族

浄化魔法を得意とする。赤、青、黄、緑、橙、紫、虹の種類に分かれており、赤は火、青は水、黄は光、緑は植物、橙は風、紫は能力系を使える。虹は全ての力を使える。羽根の形が通常の妖精は細長い羽根であるが、この種族のみ、蝶の羽根の形である。


4つの大木

この星のバランスを守る大木。城下町の近くに古代樹、その南に光樹(こうじゅ)、最南端の闇の森の入口に双子の大木が存在する。それぞれ個性的で古代樹は1番長生きのおじいさん。光樹は女性的。双子樹は常に同時に話しのんびり屋である。


大木の守護者

上述の大木を護る者。光と何かの種族のハーフであることが条件で、一度に4人現れる。一度選ばれれば死ぬまで守護者から逃れることはできない。封印魔法が得意。選ばれた者は3歳の誕生日の未明に担当する大木の夢をみる。守護者は羽根をもたず、飛べない代わりに木の種族の魔法が使える。


魔法の種類

○○スター:基本攻撃魔法。ビームのようなもの

○○アタック:小攻撃。連続で打つことができる

○○フロア:範囲攻撃。魔力の消費が激しい

星暦2000年。この星は戦争を繰り返している。この星ができてから突然現れた、『闇』との戦争を。

闇は人々の心の中に入り込み、弱いところをつき、この星の光の者を堕としていく。俺の親友の2人も、油断していたところ、哀しみに捕らわれていたところをつかれ、先日闇に堕ちた。


10年前、ここ『虹星(にじぼし)』は何者かの手によって自然が消滅した。残ったのは、俺達が守護する4つの大木のみ。まあ、これらの木まで消滅したら、それこそこの星は終わってしまうのだが。

当時の俺はまだ2歳だった。当然、その時のことは覚えていない。親から聞かされた話では、とある少女がその自然を蘇らせたらしい。

彼女の年齢は推定5つ程。長い緑髪と青緑の瞳をもつ美少女だったという。彼女はその莫大な魔力で自然を蘇らせた。

人々は彼女に感謝した。しかし、ある1人がこう言った。


彼女が死んだら、自然は再び消滅するのではないか――と。


馬鹿な話だと俺は思う。そんな勝手な都合で根拠もなく、大人達は彼女を地下に封印してしまった。

俺は幼い頃から親にその地下には行ってはいけないと強く言われていた。

大木の守護者である俺達は、封印魔法を得意とする。きっと、少女の封印が解かれるのを恐れてのことだろう。


始めに言っておこう。光と闇に正義と悪の仕切りはない。光の者であっても、堕ちるときはすんなりと闇に堕ちていく。これは、そんな光と闇の物語の始まりの話だ。



※※※



放課後のチャイムが鳴り響く。

鼻歌を楽しげに歌っている、クラスメイトのリョウに、同じくクラスメイトで俺の幼馴染のユカリが「ねえ」と話しかけた。

「何か企んでない?」

「へ? 別に何も…?」とリョウは目を逸らす。

「心が詠める私に誤魔化したって無駄よ! 白状しなさい!」

ユカリは『心』の種族だ。彼女には人の心が詠める。

リョウは「ちぇっ」と舌打ちすると、口を開いた。

「今日はあの地下に行こうぜ!」

クラスに残っていた俺と、親友で同じく守護者のヒサシが「はあっ!?」と声をあげる。

「地下って…何処にあるか知ってるの? そもそも、あそこは立ち入り禁止でしょう?」

「この間、偶然見つけたんだ! いいじゃんか、行こうぜ? ユカリは怖いのか? あそこ、幽霊が出るって噂が…」

「こ、怖くないわよ!」

「じゃ、決まりな!」

リョウはそう言うと、パチンと指を鳴らし、テレポートした。



「こんな、強引な…」

無理矢理テレポートをさせられた俺達3人は、呆れて肩を落とした。

俺が守護する古代樹から少し離れたところに、茂みに隠された地下へ続く階段の蓋があるらしい。リョウはそこに飛ばしたのだ。

「不気味ね…」

ユカリはそう言うと、俺の腕を掴み、後ろに隠れる。

「怖いわけじゃないわよ……友?」

『たすけて』

ユカリの声は俺に届かなかった。

「なんか、聞こえなかったか?」

俺はそう、ヒサシに尋ねる。

「何か? いや、聞こえないけど」

「何が聞こえたの?」

「『たすけて』って…」

「おもしろそーじゃねーか! さ、行くぞ!!」

そう言ってリョウは蓋を開け、中に入っていく。

俺たちは仕方ないと肩を落とし、リョウに続いた。



「見せて。貴女が見ている世界を…私に」

声が聞こえる。

とても大切な人の声だった。

貴女は誰?



「案外明るいんだなー!」

地下に入ると、明かりが点々と付いていて、その明るさにリョウは声を上げた。

「どこがよ…」

ユカリがなにか聞こえるのか、耳を塞ぎながら反論する。

「やっぱり怖いんじゃねーか」

「違うわよ!」

俺は内心、アホくさと思いながら、奥に進んだ。先程の声はだんだんはっきりと聞こえてくる。

やがて、薄暗かった周りが明るくなり、目の前の光景に、俺は目を見開いた。

「なんだこれ!?」

リョウがそう声を上げる。

そこには、鎖で繋がれた幼い少女が眠っていたのだ。

「女の子?」

年齢は5つくらいだろうか。エメラルドのような緑の長い髪は腰くらいまであり、とても綺麗だ。

「友?」とユカリが俺に呼びかけるが、耳に入らない。

『たすけて』

どうやら、助けを求めていたのは彼女のようだ。

「俺にも聞こえた! 友、この子だな? 声の主は」

「多分そうだ! 助けてーけど、どうやって…」

「俺たち、守護者は封印系の魔法が得意だろう? それを使えばいけるか?」

「そっか、やってみるか」

「サセナイヨー!」

俺とヒサシが構え技を出そうとしたときだった。

「きゃあ! 何これ…動けない!」

ユカリが下を見て怖がり、悲鳴をあげる。

足元には無数の雪ダルマのような、黒色の頭巾を被った二頭身の生き物が群がっていた。闇ダルマだ!

「いつからいたんだよー!」

「多分、最初からだ! あの子を助けられないように、見張っていたんだ」

「なんで…そんなことっ」

「闇ダルマが言っているわ。彼女は10年前のこの星が滅亡の危機に曝されていた時、それを救った子どもだって! 強大な魔力をもっているから、闇にとって大きな敵になる。だから、封じたのよ!」

「なるほど、じゃあ俺たちの味方だよな!」

俺は少女を縛っている鎖の中心に向かって手を伸ばした。

「彼女と力を合わせれば、きっと闇は消える! ヒロセやアキラも元に戻るんだ!」

闇ダルマからの邪魔を振り切り、俺は鎖に触れた。

瞬間、突然強い光が放たれ、一部の闇ダルマが一掃される。

光が消えたとき、鎖から解かれた少女が倒れてきたので、俺は慌てて彼女を受け止めた。

「タイヘンダ! 封印ガ解カレチャッタ!」

「ロベン様ニ伝エナキャ!」

「『ロベン』…?」

「私が死んだら、自然がまた消滅するなんてデタラメを流した人…」

声が聞こえ、下を向くと腕の中の少女が目を開けて口を開いていた。

(目、すっげー綺麗だ)

澄んだ青緑色の瞳だった。

青空に翳した木の葉のような色に心を奪われるが、今はそんな場合じゃない。

「なんでそんなデタラメを流したんだ?」

「彼がDarkWarldのボスの直属の部下だから…」

「なるほど…キミが闇の脅威になるとふんで、封印したってわけだね?」

ヒサシの問いかけに、少女は頷く。

「私の名前はミキ。ごめんなさい! 巻き込んでしまって。それから、封印を解いてくれて、ありがとう…」

少女――ミキは俺を見上げるとふわりと笑った。

(かわいい…!)

友の胸が高鳴った。

「ツカマエロ!」

「モッカイ封印シヨウ!」

残った闇ダルマが一斉に襲いかかる。

「やべっ」

「私に任せて」

ミキはそう言うと、俺から離れ技を出した。

「リーフフロア!」

広範囲に拡がる技で闇ダルマを一掃する。

「すげぇ…」

「あんなにいっぱいいたのに、一瞬で…」

流石、この星を救った者だと圧倒される。

「じゃあ、ここから出よう?」



外に出ると、辺りはもう夕焼け色だった。

「だいぶ長い間いたみてぇだなー」

「ミキちゃん、これからどうするの?」

ユカリが屈んでミキに尋ねる。

「封印される前とか、どこに住んでたの?」

そう聞かれ、ミキは首を振った。

「何も思い出せないの…時折、声は聞こえるけれど」

「声?」

「『見せて』って。女の人の声…」

「どうしようか」とユカリが俺を見上げた。

「どうするって…」

「古代樹ならどう? 友」

ヒサシの言葉に俺は首を傾げた。

「この子、友や俺と同じ植物系の種族みたいだし、これだけ魔力が強ければ食べ物がなくても、光合成さえできれば生きれる。だったら、安全なところは古代樹の傍じゃないか?」

「そっか…」

「古代樹?」と首を傾げるミキに、俺は視線を合わせる。

「案内するよ」



リョウのテレポートで城下町付近の古代樹に飛んだ俺達。

リョウは1日で2回もテレポートを使ってヘトヘトだ。

元々、テレポートは高難易度魔法で魔力もかなり使う。寝坊したいが為に習得したリョウも大したものだ。

「俺、帰っていい?」

「え、うん。また明日」

帰りはワープの地を使うか…少し遠いが仕方ない。

「これが古代樹? あれ…見たことあるような?」

ミキが古代樹を見上げて呟いた。

『友、なんじゃ? この娘は』

古代樹が問いかけた。

「『ミキ』。10年前にこの星が危機になったときに救ったのがこの子だ」

『ああ、この娘であったか…確かに友たちの先代の守護者が封印してしまったからの…今代の守護者であるお主らであれば解けるかと思ったが…封印場所を知らんでの…救えて良かったわい』

「え、知らなかったんですか」

『きっと闇の力で隠されておったのじゃろう…先代の守護者は皆高齢で、闇に騙された後に殺されとるしの』

「それで俺達が同い年で同時に選ばれたのか」

『どうやって場所を知ったんじゃ?』

「リョウが偶然見つけたんだって」

『なるほどな…そやつはちと堕ちやすい傾向にあるかもしれんし…要注意じゃな』

「ただでさえ、アキラとヒロセが堕ちてんだから、これ以上は勘弁してくれよ」

「2人の友達が堕ちてしまったの?」

ミキが首を傾げてそう尋ねた。

「まあな…」

『2人とも、心に余裕がなかったからのう…』

「そうなの…」

『ところで友よ。その子をどうする気なんじゃ?』

「ミキはさ、記憶がないみたいで、行くところがないんだよ。だから暫く、古代樹が匿ってくれないかなーって思ったり…」

『なんじゃ、そんなことか。構わんよ。こんな可愛い話し相手ができるなんて嬉しいわい』

「へ、変態…」

ユカリがボソリと呟いた。

『しかし、なーんかあの子に似とるのぅ』

「あの子…?」

古代樹の言葉にミキが首を傾げた。

『昔、お主によく似た幼い少女が会いに来た事があるんじゃよ』

「初耳だぞ、それ!」

『初めて話すからの。1000年以上も前の事じゃし…』

「1000って…じゃあその子はもう…」

『通常じゃ死んでるじゃろうな…それより、お主らこんな遅くまでおって大丈夫なのか?』

古代樹の言葉に俺達は現実に引き戻された。

見れば辺りはもう薄暗くなっている。どうやら話しすぎたようだ。

「やべっ。じゃあミキ、また明日来るよ」

「うん…色々と本当にありがとう」

ミキと別れ、俺達はそれぞれ家路についた。



※※※



『あなた達に見せて欲しい世界があるの』

あの美しい世界で、彼女はそう言っていた。

でも、もう何も思い出せない。



(夢…?)

友と別れてから古代樹に上ってぼんやりしているうちに眠ってしまったのだろうか。

なんだか、とても綺麗な夢を見ていた気がするが、思い出せない。

『どうかしたのか?』

私が不安気にしていたからだろうか、古代樹が話しかけてきた。

『とても悲しそうな顔をしておったぞ』

「なんだか、夢を見たような気がして」

『夢? それはもしや失った記憶のか?』

「わからない…どんな内容だったかも上手く思い出せないし…」

『そうか…』

「ねえ、古代樹が昔会ったっていう『あの子』の話を聞かせてくれる?」

『ああ、いいが…ワシもあんまり知らんぞ?』

「いいの。もしかしたら、記憶の鍵になるかもしれないし」

『そうか…』

古代樹は小さく葉を揺らすと話し始めた。

『お主より少し幼い子じゃった。3つくらいかのぅ…虹色の髪を2つ縛りにしておってな、瞳も綺麗じゃった。友には敵わんがな? 少し会話をして直ぐに帰ってしもた。それから直ぐに闇が力を増したからの、それっきり会っておらん』

「そう…」

『蝶の種族は浄化魔法が得意じゃ。その中でも虹蝶は特にな…』

「虹蝶?」

『この大陸の南に「闇の森」という森がある。そこの奥にあると言われている丘に住む蝶の種族じゃ。あの子はその虹蝶の子じゃった…星暦500年を過ぎたあたりからぱったりと見なくなり…「闇の森」の入口にいる双子樹に聞いてみたが、どうやら虹蝶は丘を封鎖したらしい』

その言葉に、私は驚いた。

古代樹は続ける。

『闇との戦いが始まってから約400年…星暦500年頃から急に闇が力を増しての…ワシらの守護者も何人も倒された。その力を浄化しきれないと悟ったのか、丘に闇を一切入れぬように封鎖したのじゃろう。ワシが知っているのはこの位じゃ』

「そうなんだ…ありがとう、教えてくれて」

『よいよい。久しぶりにこんな可愛い子と話せて良かったわい。…さて、今代の守護者も窮地に立たされておる』

「確か、4人中2人が堕ちたんだよね?」

『そうじゃ。ヒロセとアキラ…あの子らはその双子樹の守護者じゃった。1番闇に近づきやすい子らでの…ヒロセはお調子者で危なっかしいヤツじゃし、アキラは最近双子の妹を亡くしたばかりなんじゃ。それが闇にツケ入れられるスキになる』

「友は? 彼は大丈夫なの?」

私は自分を助けてくれた男の子が気になり、尋ねた。

『友は心配ない。彼は誰よりも強い光を放った目をしておる。あの娘よりもな…あんな目をワシはこの2000年、一度も見たことがない。きっと彼が闇をうち祓ってくれよう……話はここまでじゃ。もう夜も遅いぞ? 子どもがこんなに夜更かししちゃいかん』

「うん、お休みなさい…」

古代樹と話しているうちに、再び眠くなった私は、そのまま眠りについた。



※※※



(可愛い子じゃ)

ワシはミキが眠ってから、彼女を起こさぬよう、葉で彼女を撫でた。

触れるだけで感じる強い魔力。まさかこんな幼い子にこれ程の魔力があろうとは...

しかし、葉の種族の者でこんなにもつとは思えない...彼女は一体……

そう思いながらワシはミキが付けている葉っぱ型のヘアピンに触れた。

『あら、おじいちゃん。可愛い子を連れてるじゃない。誰なの、その子?』

ヒサシが守護している、『光ヶ丘』の大樹が話しかけてきた。

『なんじゃい、光樹こうじゅよ。話しかけるでない。ミキが起きてしまうじゃろう』

『いつもは優しいのに、冷たぁーい! その子、ミキって言うの? 凄く妖力が高い子ね。私にまで伝わってくるわ?』

『光樹も感じるか?』

『えぇ。本当に葉の種族?』

『さぁのぅ…稀におるじゃろう? 突然変異という子が。お前さんのヒサシの一族だってそうじゃろ?』

『まあ、そうだけど…ところで、双子樹は大丈夫なの? さっきから黙ってばかりだけど』

光樹がそう言うと、のんびりとした声が上がった。

『『だーいじょーぶじゃありませーん』』

『なんじゃい、そんな呑気な声は』

『元気そうじゃない』

『『いえ…全然ですよー…光樹は辛辣ですね』』

『失礼ね! これでも心配してるのよ! …前代未聞だものね。守護者が堕ちるなんて』

『大抵は殺されるか、寿命で死ぬかじゃったからのぅ…それ程、今の闇は強大なのじゃ』

『ヒサシと友くんは大丈夫かしら…』

『『2人なら心が強いですし、大丈夫じゃないですかねぇ…特に友は私達も好きですよー』』

『そうか…』

その時…ミキが少し身じろいだ。

『おっと…いい加減黙らんと本当に起きるわい』

『そうね。…また4人で笑い合える日が来るといいわね』

『そうじゃな』


願わくば、今代で闇を封印出来ることを…



※※※



翌日の放課後、俺は再び古代樹を尋ねた。

『友か』

「こんにちは…ミキは?」

「こっち」

声に反応し見上げると、ミキが太めの枝に座っていた。

「こんにちは、友」

「こ、こんにちは…あれから記憶は?」

俺がそう聞くと、ミキは首を振った。

「全然…でもね、古代樹が色々話を聞かせてくれたの」

「そっか。記憶の手がかりになるといいな」

「うん」

ミキは頷くとにっこり笑った。

うわ、ホントに可愛い。


と、そのときだった。

「やっぱり、ソイツの封印解いたの友だったか」

声が聞こえ、俺は咄嗟に「誰だ!」と振り返る。青みがかった黒髪の、俺と同い年の男がそこに居た。

「ヒロセ…!」

「彼が堕ちたって言う?」

『凄まじい闇の魔力じゃ…まさか、これ程深く堕ちとるとは』

「闇はいいぜ? 友…お前もその子を渡してこっちにこいよ」

「ふざけんな! なるかよ、闇になんか」

俺はそう返すと、魔法で剣を出し構える。

「そう簡単にはいかないよなぁ!」

ヒロセも青色の剣を出してきた。

互いに構え、走り出す。

それぞれの目的を果たすために。


※※※


私は彼等の戦いを見ていた。

形勢は明らか。友が圧されている。

(このままじゃ…)

でも、どうすればいいのだろう。

『闇を祓いなさい』

(誰!?)

頭の中に直接響いた声に、私は辺りを見回す。

『ん? どうしたんじゃ、ミキ』

古代樹の声じゃない。今のは一体?

同時に呪文も浮かび上がる。

これを使えと言うのだろうか?

声はもう聞こえない。でも、私がやるしかない。

私は古代樹から飛び降りた。ゆっくりと友たちに近づく。

「ミキ、離れろ!」

「大丈夫」

十分な距離に近づくと、右腕を頭上に構えた。

「リーフプリフィケーション!」

鐘の音が鳴り、緑色の光がヒロセと友を包み込む。やがて収まった時、2人が倒れていた。

『浄化魔法じゃと!?』

「友!」

私は直ぐに友に駆け寄る。

「友、大丈夫?」

「…なんだったんだ? 今の光…ミキがやったのか?」

彼の問いかけに、私は頷いた。

「もしかして、今の浄化魔法?」

「多分…」

「そういや…自然がなくなったのも闇の力による影響だから、元に戻すのも浄化魔法だな…こういうのは朝飯前だよな」

友はそう言いながら立ち上がり、ヒロセに近づく。

彼は、呻き声をあげながら目を開き、その海のような瞳に友を映した。

「ゆ…う、か? オレ、なんでここに…」

「何も覚えてないのか?」

友にそう言われ、ヒロセは少し考えてから続ける。

「……いや、覚えてる…そうかオレ、闇に堕ちて…っ、スマン友! 手間かけた!」

「ヒロセのそういうとこは今更だからいい」

「ひでぇよ!」

『それより、アキラはどうなんじゃ? あと、闇には他にどんなヤツがいる?』

「あ、えぇっと…アキラはオレよりヤバい…かなり深く堕ちてる」

「マジかよ…じゃあ魔法では浄化しきれないかもな」

『それ程、リコを亡くしたショックが大きいんじゃな』

「あと他の闇のヤツらだろ? 今、DarkWorldにはアキラの他に3人しか居ない。あとは闇ダルマだけだ」

「は?! 3人ってなんでそんな急に…」

「今の頭が元々光のヤツなんだけど…ソイツの魔力がかなりつえーんだ。ソイツが堕ちる前に、前の頭を含めてほぼ全員の闇のヤツらを倒したから、殆ど残ってないって闇ダルマが言ってた」

「そんなに強いのに、どうして堕ちたんだろう…」と私は呟く。

『闇を取り込み過ぎたのかもしれんな』

古代樹の言葉に私は首を傾げた。

『闇に堕ちる原因は大きく分けて3つじゃ。一つは今回のヒロセのように、闇を舐めて油断していた。もう一つは、アキラのように大きなショックに立ち直れなかった。そして、光の者が闇を撃退していくうちに、その身に闇を宿していったことじゃ』

「まっ、今の頭の事を考えてたってしゃーねーだろ! 封印すりゃ終わりなんだし!」

「するにも、4人いなきゃできないだろ」

「そうだなー! とりあえず明日、ヒサシも誘ってアキラんち行ってみようぜー……ところでさ」

ヒロセは手を頭の後ろで組むと、私を見た。

「お前、誰?」

「今更かよ!」



※※※



翌日。休日に俺達守護者とミキは、人形通りのアキラの家を尋ねた。

一応、チャイムを鳴らし、そっと扉に手をかける。

扉は意外にもすんなりと開いた。

「鍵かけないなんて、不用心だなー」

「アキラ? いるわけ…ないか」

「お邪魔します」と一声入れ、家に入る。泥棒が入った気配はなく、家の中は整理されていた。

「綺麗な家…」

「アキラもリコも綺麗好きだったからな…」

「ねえ、友。私達が捜しているのはアキラさんだよね? リコさんって誰なの?」

ミキの問いかけにヒサシが答える。

「アキラの双子の妹だよ。2人の種族は能力系の人形師。2人共孤児で両親を幼い頃に亡くしててさ。親の昔の作品や、自分達が創った人形を売ったりして、なんとか暮らしていたんだけど…1年前くらいかな。リコが闇の者に襲われて亡くなったんだ。それからあまり学校に来なくなって…多分それからまもなく堕ちたんだ」

「アキラの部屋に行ってみよーぜ」

「勝手に行って怒られないか?」

「その相手はいないんだし、いいだろ?」

そう言って階段を登るヒロセに俺達は続いた。



他の部屋と違い、アキラの部屋は荒れていた。所々に人形の手や足、胴体が転がっている。

「不気味だな…」

「言うなよヒロセ…」

辺りを見回すと一つだけ、頭部まで出来ている人形がベッドに寄りかかっていた。

この顔には見覚えがある。

「なあ、あれ…」

俺はその人形を指さした。

「うわ、リコにそっくりだな!?」

「すご…今にも動き出しそうだ…」

そう言ってヒサシがミチに触れた時…彼女の目が開いた。

「ウソだろ…!? なんでっ」

昔、アキラから聞いた事があった。人形師は完全な完成品を造る為に、命を落とすことがあると。完成品とは、「生きた人形」…彼の父も自分の命と引き換えに、人形に魂を宿らせ、完成品を造ったという。

父親がそうしたから、自分もとは考えておらず…そもそも守護者に選ばれたからそっちの方が大事だと、アキラは困った笑顔で言っていた。

だから、この人形であるリコが動き出した理由はただ一つ…だと思っていた。

「初めまして」

人形は立ち上がると、丁寧に一礼した。

「双子樹の片割れ様が一時的ですが、私に命を与えて下さいました。アキラ様を救う為に」

「一時的に?」

「はい。一時的です」

人形はにっこりと笑う。

「アキラ様の闇が祓われたら、私はまた動かない人形となります。それが本来の姿でしょう?」

「でも…ホントにいいの?」

ミキの問いかけに、人形は頷いた…その時だった。

ガチャ…聞こえた扉の音に、俺達は神経を尖らせた。

今、この家に入る人なんて、泥棒を除けば俺達の他に1人しかいない。

階段を上り、扉を開けたのは長めの茶髪を下の方で一括りにした少年――アキラだ。

「みんなお揃いで…どうしたの」

平然と話しかけてきた彼に、俺達は一瞬気が抜ける。

「アキラ様!」

声を上げた人形を見て、アキラが目を見開いた。

「リコ…? どうして」

「アキラ様…違います。私はリコ様ではありません」

人形がそう言って腕の球体関節を見せると、彼は急に冷めた目になった。

「そう…」

瞬間、彼の足元にあった人形の手足が突然浮かびあがり、一斉に襲いかってくる。

その内の何体かがリコ人形に向かってきたのが目に入り、俺は彼女の前に立った。

「リーフバリア!」

直ぐにバリアを貼り、攻撃を受け止めるが、一瞬にしてヒビが入り、俺は目を見開いた。

「マジ…かよっ」

そういや、アキラは守護者の中で1番自身の能力を使いこなせていたなと思い出す。それに加え、今は闇の力が加わり、更に力が増している。

受け止めきれるわけがなかった。直ぐにバリアが割れ、俺は弾き飛ばされる。

「「友!」」

直ぐにヒサシとヒロセが駆け寄ってきた。

「大丈夫?」

「いってて…なんとか」

「なんかアキラ、めちゃくちゃ強くなってねぇか?」

「アイツが俺達の中で1番強いからな…」

「今度は3人で受け止めよう」

ヒサシの提案に俺達は頷く。

ミキが控えめに「あの…」と口を開いた。

「私がまた、浄化魔法でアキラさんの闇を祓えばいけないかな…」

「マジ!? したら簡単じゃねーか!」

「いや、やめておいた方がいい」

ミキの提案をヒサシが断る。

「今のアキラはヒロセの時よりだいぶ強く堕ちている。その状態の彼に浄化魔法を使っても、無駄に魔力を消費するだけだし、アキラにも危険が及ぶ。それに、強い闇に関わりすぎると、今度はキミが堕ちるよ?」

「そっか…ごめんなさい」

「ミキ、浄化魔法はアキラが弱った時や、こっちに心が揺らいだときにお願いできるか?」

俺がそう言うと、ミキは笑顔で「うん」と頷いた。

「話は終わり?」

冷たい表情でアキラはそう言うと首を傾げる。そして再び攻撃をしようと手足を浮かび上がらせた。

「やめて下さい、アキラ様! それらは貴方が折角作り上げた作品でしょう? 友人を傷つけてはいけません!!」

「こんなに沢山つくれたって結局はリコを護れなかったんだ。意味がないよ」

「そんなことっ!」

「黙って…ドールスター!」

さっきよりも強い力で今度は確実にリコの人形を狙い、技を放つ。

「「ウッドバリア!」」

今度は3人で人形の前に立ち、バリアを張った。

「くっそ…! 3人でもやっとかよ!」

「流石だね、アキラは」

「褒めてるの…?」

「「そうだよ!!」」

声を揃えてそう言うが、アキラは「よくわからない」と首を傾げた。

「なんで…? 僕は…護れなかったのに、あの『黒い蝶』から」

「黒い…蝶?」

「僕に守護者である資格はない。友たちと同じ舞台には立てない。…もう僕は独りだ」

「アキラ! それは違う!!」

俺は叫んだ。

「俺は1年前に2人に何があったのか知らない…知らないけど、アキラだけのせいじゃない! 俺だって何度も思った! あの場に居たらって!! でも、過去は変えられない! だから、俺達は支え合うんだ! この星を護って、俺達が闇を封じるんだ!」

「友…」

「アキラ、やろうよ。闇の封印。そしたらきっとリコだって報われる」

「そうだぜー! オレ達がいるんだから、アキラは独りじゃないし!」

「だから、アキラ! 戻ってこい!!」

「「ウッドスター!」」

3人で放った技はアキラに直撃した。(勿論、手加減はしている)床に尻もちをつき俯く彼を見て、俺はミキに「今だ!」と合図を送る。

ミキは頷くと、前と同じように浄化魔法を出した。

「リーフプリフィケーション!」

ミキの技を受け、アキラは気を失った。



※※※



翌々日。俺とヒサシが話をしていると、アキラが欠伸をしながら教室に入ってきた。目には小さくクマができている。

直ぐに女子達がアキラに駆け寄り、「もう大丈夫なの?」と口々にそう言う。

「うん、大丈夫」

実に爽やかな笑顔で彼は言った。

女子の群れから逃れ、アキラはヒサシの隣の席に鞄を置く。

「アキラ、クマできてるけど大丈夫?」

「あー…昨日休んでた分勉強してたら徹夜しちゃって…」

「あれから人形は?」

「とりあえず双子樹に預けてきた。やっぱり僕が戻ったら動かないみたい」

「大丈夫か?」

「うん…本当に大丈夫と言えば嘘になるけど…もう堕ちないから。友たちがいるから大丈夫」

満面の笑みでそう言うアキラに、俺はホッとした。

「それで、いつ封印しに行くの? 敵が少ない今がチャンスだと思うけど…」

「次の休みにしよう。ナナ先輩にも連絡しないと」

ナナとはこの星の女王だ。元々は同じ学校の2つ上の先輩だったのだが、君臨と同時に退学している。

とそのとき、チャイムが鳴ると同時にドタドタとけたたましい足音。ヒロセとリョウだ。

「「セーフ…」」

2人同時に教室に入ってきた。

「アウトだ。お前らもっと早く来い」

そして先生にバインダーで頭を叩かれ、それをクラスのみんなが笑う。

ようやく日常が戻ってきたと、俺はそう感じた。



※※※



夕方。私は友たちがよく言っていた、『闇の森』に来ていた。

「ここが『闇の森』…」

辺りを見回しながら奥へと進む。

背の高い木が何本も生い茂っており、光が殆ど届いていない。

まだ日が沈む前なのに、もう夜のようだ。

ふと、前を見ると分かれ道があった。きっとどちらかが『DarkWorld』に続く道なのだろう。

『思い出した?』

ふと、左側の道から声が聞こえた気がして振り向く。

相変わらず暗い道だ。何も見えない。

私は、足元から伸びる手に気づかなかった。

「危ない!」

誰かに突き飛ばされ、私は地面に倒れる。

私に覆いかぶさったのは、黒茶色の髪を一括りにした少年だった。

「アキラ…さん?」

「大丈夫? なんでこんなところに一人でいるの…」

「ご、ごめんなさい」

体勢を立て直し、振り向いたアキラは私の足を掴もうとした闇ダルマに向かって攻撃を放つ。

「ドールスター!」

敵が一掃されたところで、アキラが私の方を振り向いた。

「ここは危険だよ」

「アキラさんこそ、どうして」

「僕は双子樹と話しに来ていたらキミがこの森に入るのを見たから…ごめん、つけてきた」

「ううん…私こそ勝手にこんなところまで来てごめんなさい…記憶を思い出す鍵になるかと思って…」

「そういえば、記憶がないんだったね…でもこんなところに手掛かりなんてあるかな…」

アキラはそう言うと辺りを見回した。

「でも、さっき…その道から声がして…」

私はそう言って先程声が聞こえた左の道を指さした。

「そうなの? でもあそこは確か行き止まりだったと思うけど…空耳じゃないかな」

「そうなのかな…」

「…ミキちゃんは葉の種族だよね? だったら、手掛かりがあるとしたら、友やヒサシが住むグリーンストリートじゃないかな」

「そこに、虹色の髪の女の子っている?」

「虹色? 女王陛下の事?」

「その人の事かはわからないけれど、夢にその子がよく出てくるの」

「そっか…じゃあ週末、僕らは女王陛下の所まで行くからその時に一緒に行こうか。古代樹まで送るよ」

アキラにそう言われ、私は頷いた。



※※※



週末。友たちと一緒に私は王宮を訪ねた。

「久しいな、友」

テーブルを6人で囲み、私の向かいに女王、ナナが座っている。

「他の皆も…また揃って良かった」

ナナがそう言ってにっこりと笑う。

「いやー! 心配かけました!」

「もっと反省しろよ…」

「ふふっ、相変わらずだな。…さて、明日にDarkWorldを封印しに行くのだな?」

ナナの問いかけに4人は頷いた。

「私もそれに賛成だ。同行しよう。集合場所は双子樹でいいな?」

「ありがとう、先輩」

「敵が少ない今がチャンスだと私も思う。ところで、その者は誰だ?」

ナナが私の方を向いた。

「ミキ…10年前、この星の自然が無くなったとき、救ってくれた少女だよ」

友がそう説明し、私は頭を下げる。

「はじめまして。ミキと言います」

「礼儀正しい子だな。はじめまして」

「ミキちゃん。やっぱり面識はない?」

アキラの言葉に、私は頷いた。

「どういうことだ?」

「彼女の夢によく出てくるんですって。虹色の髪の女の子。もしかしたら、陛下の事かと思って…」

「確かに、私の髪は虹色だが…初対面ではないか?」

「私もそう思います。それに、あの子と雰囲気は少し似ている気はするけど…でも違う気がする…」

「そっか…ごめんね、僕の勘違いだったみたい」

「ううん…大丈夫」

「でも、虹色の髪って虹の種族以外にいるのかー?」

ヒロセはそう言うと、頭の後ろで腕を組んだ。

「確かに、虹色の髪は滅多にない。私のような王族の虹の種族と、もう1つは虹蝶の種族だな」

「虹蝶…? それって、古代樹も言ってた…」

「ああ。今では伝説に近い種族になっているがな…彼らを見たという記録は、もう1000年以上前のもので止まっている」

「そんな前に、虹蝶は丘を封鎖したのか」

「そのようだな…丘は『闇の森』のどこかにある…私が知っているのもそれくらいだ。あまり力になれなくてすまないな」

「大丈夫です。…あ、あの」

「なんだ?」

私は意を決して口を開いた。

「明日の戦い、私も同行させてください」

「ダメだ。危険すぎる」

即答されるが、私もひかない。

「でも! 気になるんです。アキラさんの妹を殺した『黒い蝶』のこととか…『丘』のことも…私は真実が知りたい。記憶が戻る手掛かりになるなら、なんだってやりたい!」

私はそう言ってナナの紫の瞳を真っ直ぐ見つめた。

暫く見つめ合い、ナナは一度ゆっくりと瞬きすると、「わかった」と口を開く。

「同行を許そう。ただし、無理はするな」

「あ、ありがとうございます!」

こうして、私も明日の戦闘に行くことになった。

これが、終わりへの始まりと知らずに



※※※



「そろそろ、来る頃ね」

漆黒の髪と瞳の少女は、そう言うと指に漆黒の蝶を乗せ、微笑んだ。

「楽しみだわ…早く会いたい」


※※※


翌日になり、俺は双子樹の前まで来た。

双子樹を見上げてから、森の方を見つめる。

相変わらずの真っ暗だ。先が全く見えない。

「友、おはよう」

上から声が聞こえ、俺はそちらを向く。

双子樹の入口を向いて右側の木の枝に、ミキが腰掛けていた。

「ミキ! 早いな」

「気になって仕方なくて…」

「2人とも、もう来ていたのか」

振り向くと、ナナとアキラとヒサシも来ていた。

「来る途中に会ってな。折角だから、一緒に来た。後はヒロセだけだな」

「まさか、また遅刻…?」

俺がそう言うと「失礼だぞ!」と、ヒロセが走ってきた。

「おまたせっ! つか、オレは! ギリギリで来ることはあってもっ、遅刻はっ、した事ないぞ!!」

「いや、あれはアウトだって」

ヒサシのツッコミに、みんなが苦笑する。

「よし、行くぞ」

ナナの声を合図に、俺達は森の中を進んだ。


※※※


『あの子を止めなさい』

先日尋ねた分かれ道で再び声が聞こえ、私は振り向く。

「ミキ、どうした?」

「また声が聞こえて…」

「ゆ、幽霊か!? やめてくれよー」

ヒロセがそう言って震える。

「ミキちゃん、前に言ってた声と同じ?」

私は、アキラの問いかけに頷いた。

「この先には何があるのですか?」

「いや何も無い。ただの行き止まりだ」

『まだ来るべきではないわ。闇の方へ行きなさい』

「あ、また声…」

「ミキ、なんて?」

「まだ来ちゃだめって」

「そうか…なら今は先へ進もう」

ナナの言葉に頷き、私達はDarkWorldの方へと足を運んだ。



森の奥に進めば進む程、辺りは暗くなっていた。

私は怖くなり、友の手を握る。

友は一瞬戸惑っていたが、私の怯えた表情を見て、そっと握り返してくれた。

「行こう、みんな。この先からDarkWarldだ」

ナナにそう言われ、私達はアスカ達の横を通り、闇の方へと駆けた。



DarkWorldは更に真っ暗だった。1寸先も見えない。

「ライト!」

ナナが光の玉を掌の上に出し、辺りを照らすが、あまり意味はない。

「みんな、離れるな」

と、そのとき、私の目の前を何かが横切った。

「何?」

目を凝らすと、それは真っ黒な蝶のようだった。

「黒い蝶…?」

私は吸い寄せられるようにそれについて行く。

「ミキ、どこに行くんだ!」

友の声も届かず、私はDarkWorldの奥へと進んだ。



「はぐれちゃった…ここどこ?」

何も見えない。凄く怖かった。

「やっと会えたわね」

突然声が聞こえ、辺りが薄暗い明るさになる。周りは真っ黒な花畑で、そこかしこに黒い蝶が飛んでいた。

「久しぶりね」

その中心に彼女はいた。漆黒の長い髪と瞳、私はその顔を見て驚愕した。

「私と同じ顔…?」

年齢は私より10くらい上だろうが、私とよく似た少女が、花畑で佇んでいた。

「そっか、何も覚えていないんだったわね。あの子のことも、私達が受けた使命のことも」

「使命…」

「私達、3人いつも一緒だったじゃない。寂しいわ」

彼女がそう言った瞬間、突然激しい頭痛に見舞われ、私は気を失った。


※※※


「ミキ!」

ミキは黒い蝶を追って直ぐに見えなくなった。

「離れるなと言ったんだがな…」

「たしか、『黒い蝶』が気になるって言ってたよね。僕にとってはリコを殺した憎悪の対象だけど…ミキちゃんにとっては何か別の気になる事があるみたいだね…」

「とにかく、追わねーと! 闇ダルマもなんかうじゃうじゃ湧いてきてるしよー!」

いつの間にか足元を闇ダルマが埋めつくしていた。ヒロセが彼らを倒しながらそう言う。

「だけど、追うってどこに…」

「あれは…」

ふと、ナナが何かを見つけたようで顔を上げた。俺達の目の前を黒い蝶が横切る。

「さっきの…?」

「あれを追おう!」

ヒサシの声に頷き、俺達は闇ダルマを払い除けながら蝶を追った。



暫く進むと、薄暗い花畑にたどり着いた。

その中心に少女が立っている。

「うわっ、ミキにそっくりだな!?」

最初に声を上げたのはヒロセだった。

彼女の顔はミキの髪と目が黒くなった状態で成長したかのように、瓜二つだったのだ。

「いらっしゃい」

俺達を見てそう微笑む彼女の後ろで、ミキが倒れ気を失っている。

「ミキ!」

「彼女に何をした?」

ナナの問いかけに、少女は首を振る。

「何もしていないわ。私を見て、この子は記憶を取り戻しただけよ」

「記憶を…?」

「私達はある少女から使命を受けてここに来た。私とこの子は家族みたいなものね」

「家族…?」

「そ♪ さ、お喋りはこのくらいよ。貴方達がどれだけ強いか、あの子に見てもらいたいわ」

少女はそう言うと、黒い蝶の羽根を広げた。



数分戦っただけで、俺達は全員ヘトヘトだった。ナナでさえも膝をついている。

「蝶の種族でこれ程力があるとは…お前、もしや」

「そう、私は『虹の丘』出身よ」

「『虹の丘』…?」

「蝶のみが入ることの許される、神聖で美しい場所よ。多くの蝶が飛び交い、光と笑顔で満ちた世界…今はもう、あの子しか居ない世界…いつか私達も使命を終えた時、帰るのよ」

少女がそう言ったそのときだった。

突然、彼女の背後から放たれた緑色の光が彼女の肩を掠めた。少女の肩から血が溢れる。


「帰る…? あの子の愛した世界に闇を連れ込む気? 裏切り者!」


見ると、ミキが頭を少し抑えながら立ち上がっていた。

少女がミキを振り向く。傷は瞬時に治っていた。

「貴女も同じでしょう? あの子の望んだ世界を見せられなかった裏切り者」

「…っ、確かに私は10年封印されたせいで、あの子との約束を果たせなかった…でも! あの子を…あの子の愛する世界を、穢れさせるわけにはいかない!」

そう言ってミキも、少女と同じ形の緑色の羽根を広げる。

「ミキ…その羽根」

「ごめんね、友。全部思い出したの。私の本当の種族も」

「本当の種族…?」

「これが終わったら、全部話すね」

ミキはそう言うと、少女に飛びかかった。



彼女らの力はほぼ互角だった。

互いから感じる凄まじい程の魔力。

放たれる魔法全てが高等なもので、俺達は見ているしかなかった。

「す、すげぇ…」

ヒロセがそう言って目を瞬かせる。

少女がミキの技を防ぎながら「凄いわ」と感嘆した。

「流石、元伝説の蝶ね。でも、あの子から3色の力を貰った私に勝てるかしら?」

「勝つ気はない…私は、貴女を闇から解放して見せる! …グリーンバタフライプリフィケーション!」

ミキはそう言うと、浄化魔法を少女に放った。

その魔法はあの時見たものよりも、遥かに高い力を放っていた。

「やめろ! そんな強い浄化魔法を放つと、ミキお前が!」

「わかっています。でも、私は死ぬことはない。だって私はあの子に創られた存在だから…帰ろう? ミキ・ブラック。光に戻って、あの子の元に…そうして、また3人で笑おう?」

ミキはそう言いながら少女に近寄り、彼女の手を握る。

「ミキ・グリーン…」

「一緒に謝ろっか」

「そうね…あの子、怒らせると怖いものね」

辺りが光に包まれた。



光が晴れたとき、2人とも地面に倒れていた。呆気にとられる俺達だが、「今だ!」とヒサシが叫ぶ。

「封印するぞ!」

「えっ、あ、ああ!」

俺達は戸惑いながら手を重ね、息を合わせた。


「「封印魔法、ウッドフォーシーリング!」」


瞬く間に俺達の足元から光を放った木が生える。

残っていた闇ダルマを貫き消し、再び辺りが光に包まれる。

光が晴れた時、そこは木々が生い茂るごく普通の森だった。

「もうここを『闇の森』とは呼べないな」

ナナが明るい空を見上げてそう言った。

「ミキ!」

俺は倒れているミキに駆け寄った。

彼女の傍で倒れていた少女が黒い蝶になり消えていく。

「友…私…」

俺はミキを抱き上げた。

「連れてって、お願い…『虹の丘』に」

「でも、どこにあるか」

「大丈夫。ミキ・ブラックが案内してくれるから」

ミキはそう言って俺達の目の前を飛ぶ黒い蝶を指さした。



俺達は蝶を追って森を駆ける。

暫く走ると、先程の分かれ道を森の出口とは逆の方向に、蝶は曲がった。

そこは行き止まりの筈だったが、いつの間にあったのか、洞窟が続いていた。

「すげー…この洞窟、壁が虹色だぜ!?」

「目が痛くならないのが不思議だな…」

そう言ってヒロセとヒサシが辺りを見回す。

やがて洞窟を抜けた先は、一面虹色の花畑だった。

「綺麗だ…」

思わず感嘆する。これ程までに綺麗な景色を見たことはあっただろうか。

「下ろして…」

ミキの声に我に返り、俺はミキを地面に下ろした。

彼女は力なく地面に座り、前方の岩に座る少女を見つめる。

「ミキ・レインボウ…」

ミキの言葉に、少女は振り返った。

物凄く美人だった。

腰まで届く程、長く透き通る虹色の髪、強い光を放つ虹色の瞳、雪のような肌。ミキと瓜二つでも印象はここまで違うのか。

「めっちゃ美人…」

ヒロセがそう呟いた。

彼女は俺達を視界に入れると、目を細めた。

「ミキ・グリーン、どういうこと? ここに蝶の種族以外を招くなんて」

鈴のような声だった。

「ご、ごめんなさい…でも、この人達が私を助けてくれたの」

「確かに、貴女の封印を解いたそこの少年と、女王様だけは許すわ。でも、他は帰りなさい」

「客人に向かってなんだよ!」

「招いてもいない客に出す茶なんてないわ」

とても威厳のある言葉は王族のようにも思える。

「神聖な場に土足で入り込んですまない。私はこの星の女王、ナナだ」

ナナの自己紹介に少女はしばし黙り込む。

暫くして岩から下りると、彼女は胸に手を当て深々と礼をした。

「……初めまして、ナナ女王陛下…私はこの丘の巫女、『ミキ・レインボウ』です。先程は私の遣いの『ミキ・ブラック』が失礼をしました」

「『遣い』?」

「高魔力を持つ者のみが使える『分身の魔法』に似たようなものだ」

「ナナ先輩は知ってるの?」

「知識としてなら知っている。私はこの星の女王だからな」

「あれ? でもアイツってだいぶ前からDarkWorldにいなかったか? 分身魔法は分身を出している間はずっと魔力を消費するし、長時間顕現させていると本体の寿命も縮みかねないわけだし…」

ヒサシの問いかけに、彼女は首を振った。

「『分身』と『遣い』は違うわ。これは、『蝶の巫女』だけが使える魔法よ」

そう言って少女は指に先程の黒い蝶をとまらせる。蝶はやがて、赤黄青の3つの蝶に分かれると、彼女の胸に吸い込まれた。

「私は虹蝶の種族。虹と虹蝶は虹星の基本の6種族、火・水・植物・風・光・能力系全てを使うことができるわ」

少女はそう言って顔の横で指を折る。

「『蝶の巫女』はその種族の魔力から1色をとって、自分の遣いを出すことができるのよ。とった種族の魔法が使えなくなる変わりに、戻すまでか主人が死ぬまで存在することができる。さっき貴方達が戦った『ミキ・ブラック』もその1人。一度に最大5人まで出せるわ」

「だからあんなに強かったんだね」

「『ミキ・グリーン』も、私の遣いよ」

少女はそう言って立ち上がると、ミキに歩み寄った。

「私は2人にお願いをした。『この世界を見せて欲しい』と。この丘の外の世界を私はあの一瞬だけしか見られなかった。貴女を追いかけて暗い森を駆けて、辿り着いた大木の傍…あの力強く生える大木に、私はもう会えない」

そう言って少女はミキを抱きしめる。

俺は一瞬でそれが『古代樹』のことだと悟った。

「なんでだよ。いつでも行けばいいじゃねぇか」

「出られないのよ。外の世界は闇が溢れている。どんなに浄化の力があっても、あれには勝てない」

「キミは、10年以上もそうやって1人でいたの?」

アキラの言葉に俺は首を傾げた。

確かに目の前の少女は俺達より歳上のようだが、それでも10代半ばだろう。そこからアキラが「10年以上」と解釈するのは間違っていない。でも確か、古代樹は『少女に最後に会ったのは1000年以上も前』と言っていた。色々な矛盾に俺の頭がこんがらる。

アキラに少女は再び首を振った。

「この丘は私の先代の巫女が命をかけて封鎖してから10年後、私独りになってからずっと時をとめているわ。1500年ずっとよ」

「「1500年も!?」」

「時を止めるとか、そんな高等魔法を長時間も…妖力をもつわけが」

「『蝶の巫女』の特徴は『遣い』の他にもう一つある。それが『無限の魔力』だったな。それは闇にとって最大の脅威になるし、味方になれば切り札にもなる…」

「そう、その魔力で私はずっとこの丘の時を止めているの…」

少女がそう言いながらミキの髪を解いていると、突然彼女は苦しみ出した。

「ミキ!」

「限界のようね、戻すわよ」

「ま、待って! 私はまだ!」

ミキの制止を聞かず、彼女は無数の緑の蝶へと姿を変え、少女に吸い込まれた。

「何を!」

「…ただ戻しただけよ。殺したわけじゃないわ。あの子の力が戻って、私の気まぐれ次第では再び遣いとして出すことも可能ね」

「でも、ミキはまだ!」

「あの子の力はもう限界だった。あの子は他の遣いとは違うし、消したくなかったのよ」

「違うって?」

「『虹星伝説』くらい、学校で習ってるでしょう? あの7章の『一羽の蝶』。この戦いが始まって間もない頃、1羽の莫大な魔力をもった蝶がいたわ。ミキ・グリーンは元々それだったのよ」

「それであんなに魔力が強かったのだな」

「そうよ。…話はこの位かしら? 出ていってちょうだい」

「おい、待てまだ!」



次に目を開けた時、そこは森の入口だった。

双子樹が俺達を見下ろしている。

「なんだったんだ…」

俺はもう、ミキに会えないのか…?

と、そのときだった。

アキラが何かに気づいたようで、自分の木を勢いよく見上げる。

「誰かいる!」

彼の木の上に、1人の少女が座っていた。

黒い髪に赤い瞳。ナナと同い歳くらいの少女に、彼女は見覚えがあったようだ。

「…っ、お前はっ!」

ナナがそう言いかけるが、彼女は少しだけ微笑むと、「ボクは戦うつもりはない」と言い残し、直ぐにテレポートしてしまった。

「そういや…闇の幹部って3人だけ残っていたんだよな…」

何か思い出したのか、ヒロセが顎に手をあてる。

「そういえば…闇ダルマが『ロビン』って言ってたっけ?」

「まだ…敵は残っているの…?」

アキラがそう言うも、俺はずっとうわの空だった。



※※※※



「おかえり、ロビンお兄ちゃん」

真っ暗闇の中待っていた長い黒髪の少女に微笑むと、俺は彼女の頭を撫でた。

「ああ。ところで彼等はどんな様子だ?」

「さっきまで、巫女の様子を怯えた表情で見ていたわ」

そう言って少女は牢屋に閉じ込められた彼等を指さす。

俺はそいつらに近づき座り込む彼等に微笑んだ。

「やあ、俺とは初めましてかな?」

俺の挨拶にも彼等は怯えた表情しか返さない。ただ2人だけ、高身長で彼とよく似た少女を抱き寄せている青年と、長い髪の老婆だけが俺を強く睨みつけていた。

「なんだよその目…殺されたいの? 希望をもったって無駄だよ。彼女もじきにこちらへ来る」

俺はそう言うと、魔力でできたモニターを見上げた。

そこには1人の少女が花畑にある岩に座り、涙を流していた。

俺の視線を追った青年が静かに「ミキ…」と呟く。

彼女さえ居なくなれば、この星は完全に浄化の力を失う。


封印しただけで終わりだと思うな…

光の者よ――

はじめまして。鈴風里麦(りんぷうりむぎ)です。小学生の頃から書いてきた小説を直しに直しをかけて、ここには初めて投稿します。一人称視点系の文章ってやっぱり難しいな…のんびり投稿となるかと思いますが、あたたかく見守って頂けると幸いです。

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