表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第二話 飄々とした

 月明かりが照らす廊下。サンは気配を消しつつゆっくりと歩く。

 移動魔法もあるのだがここの王間からの廊下までは使えない。それは、一部の宮廷魔法使いたちしか知らない秘密。この城が建てられたときに土台に組み込まれた古の魔法が働き、他の魔法を阻害する。それはサンにとっても手を焼く物。いや、無理やり破ろうと思ったらできるのだが、術を施した魔法使いを尊重しそれをしないだけ。

 ここら一帯で一番高い場所に位置するこの城。そこから見える月は、いつもよりもずっと近く感じる。

 今日は満月。月がとても綺麗だ……。サンは顔を見上げ月を眺める。

 ふと違和感を感じる。視界の端に何かが移るのだ。後ろに下がり身構える。

 サンの視線の先には一人の男が柱に寄りかかっていたのだ。


「そんなに、硬くなるなよ」


 男が一歩、一歩ゆっくりと歩く。月明かりが男を照らした。金色の綺麗な髪。そして、瞳は漆黒の黒。

 思わずサンは眼を見開いた。そのアンバランスな容姿で、サンは目の前にいる男が何者か悟るのだ。


「竜殺し、ザレル・ウィストール」


 目の前にいる人物は、あの竜殺し。歳は20代前半、しかし雰囲気だけで、彼が数々の戦場を駆けていたことが分かる。

 今まで気配を感じなかったのも頷ける。しかし、サンにとっては頷ける物ではない。決して、竜殺しを軽視していたわけではない。だが、実際数メートルまで近づいていたのにその存在を感じることもできなかった。

 対峙して分かるその実力、辛くも先ほどサンと国王との間にお起こった出来事が、今竜殺しの間でも行われたのだ。


「光栄だな。知ってもらえるなんて」


 ザレルは余裕のある笑みを向ける。その黒いまなざしから逃れるようにサンは目を逸らした。

 暫しの間沈黙が訪れる。


「……なんか言えよ」


 身構えっぱなしのサンを見て、ザレルは少し困ったように頬を掻く。


「休暇中では?」


 先ほどロードゥルはザレルは休暇中だっと言っていた。なのに、今現在城の中にいて、目の前に立っている。


「誰に聞いたんだ? まあ、いいか。城下にいたんだよ。それで、変な気配を感じたから城へ行くと、国王の部屋には魔法が掛かれ、お前がいたと」


「……どうやって気づきました。気配はきちんと消したつもりでしたが」


「うますぎるだ。人ごみがあるのに、そこだけ空白が存在する。普通なら気にもしないが、俺ならその違和感に気づく」


「次回は気をつけます」


「えっ? いや、予想外の反応」


 思わぬことを言われ、少しあわてるザレル。


「包み込む闇よ。吹き荒れる風よ」 


 その隙にサンは魔法を発動させる。実力者でも魔法を発動することができない、魔封じがかけられている中、サンは無理やりここに存在する魔法に切れ込みをいれる。

 闇が二人を包み込むと、同時に風が窓ガラスを壊した。サンは躊躇なくそこから外に飛び出す。


 月明かりが二人を照らす。落ちながらサンは見上げた。場所はザレルがいる方を。漆黒の瞳はサンを見下ろしていた。視線が合う。サンは一瞬ザレルの姿被り、黒竜を見たような気がした。

 

 


 目を覚めると、あまり見覚えのない木の天井。ここはウィニアにある一つの宿である。

 安くもなく高くもない。新しくはないが、清潔で、人の出入りが多い。なので、サンにとっては宿主や他の宿泊者から詮索をされないためなにかと都合が良かった。元からその理由で宿を決めたのだが。


「やっと、起きたか」


 あまり聞き覚えがない男の声が、起きたばかりのサンに掛かる。緊張感があまり感じられなく、間延びした雰囲気を感じさせる。

 サンは声のほうに顔を向ける。すると、そこには壁に背中を預ける金髪に黒目の男がいた。

 スッとサンの頭は急激に目が覚めていく。そして、もしものために枕元においてあった剣を手に取ろうとしたが、手が空を切った。


「探し物はこれか?」


 ザレルは口元を笑わせながら、サンの剣を手元でクルクルと遊ばさせる。

 サンはザレルをにらみ付ける。うまく逃げられたつもりだったが、簡単に追跡されていたようだ。


「そんなに怖い顔すんなよ」


 ザレルはサンに向かって剣を投げつける。サンは剣を受け取り大事そうに握り締める。


「どうしてここにいるんですか?」


「ん? ああ、国王にきいたらお前が竜停師って言っててな。興味があったから会いに来た」


 サンは顔を見上げる。しかし、視線はザレルの首元でとまる。

 追跡されていたわけではないのに、ザレルに発見された。


「なんでここにいると分かるんですか?」


「……そりゃ、見えるからに決まってるだろ。ただの人間がそこまで精霊に愛されるはずはない」


 ザレルは視線があっていないことに気づいているのか、背を屈み無理やりサンと視線を合わせる。

 すると、ビクッとサンは肩をならす。


「……なんか傷つくな」

 

 ザレルは苦笑する。その一方でサンは自ら視線を外した。

 人族が使う魔法にはいくつか種類がある。しかし、サンの魔法はそれらに属さない特別なもの。精霊の加護によって力を得ている。普通の人間には精霊を見ることはできないが、ザレルは見ることができるらしい。竜殺し。それは、竜の力を受け継ぐとも言われている。


「それで、ご用件は?」


「ない。だから、興味だ」


 きっぱりとザレルは言い切った。

 サンは無言のまま立ち上がり、部屋を出ようとする。


「な、何か反応しろよ」


 ザレルは慌てて、サンの後を追う。

 ドアが開き、サンが出ようとした瞬間、ザレルはサンの左腕を掴んだ。

 掴む瞬間ピクッとサンの腕は動き払おうとするが、動かない。


「行くなよ」


 そのままザレルはサンを壁際に押しつけた。

 サンは無表情のままザレルを見上げる。


「いやー驚きましたねー」


「本当ですよー」


 その雰囲気を壊すかのように、隣室のドアが開き商人と思われる男が二人出てきた。


『……』


 そして、壁際で寄り添うザレルとサンを見て固まる。


「きょ、今日の朝ごはんは何ですかねー」


「そ、そうですね」


 商人たちは慌てて一階へと降りていった。


「睨むな。悪かった。なっ?」


 明らかなに、あの商人たちは二人を見て誤解していた。ザレルの影でサン自身の顔を見られることは無かったが、サンの服装をみると男だということが分かる。

 そんなサンをザレルは壁に押し付けていたのだ。


「邪魔です。着替えるから、出て行ってください」


 サンは部屋に戻り、バタンッと勢いよくドアを閉めた。

 ふと、顔を向けると、部屋の窓が目に入る。

 あそこから逃げようっとサンは心の中で思った瞬間、


「おっと、逃げるなよ。窓から出ようとか思うなって」


 サンの心を見透かしたように、ドアの向こうからザレルの声が聞こえてきた。


「面倒です」


 小さなため息をつき、逃げることを諦めたサン。仕方なく着替えて、再びザレルと対峙することになった。




 

  

かなり久々の投稿だったりも……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ