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第一章 竜殺し 第一話 ウィニアの王


 日が暮れ、闇が辺りを包み込む。


「準備は整いつつある。くっくっく、はっはっは!」


 広々とした部屋。蝋燭の明かりが、その部屋を照らしている。その中、一人の20代終わりの男は部下から貰った報告書を見て高く笑ったのだ。

 ウィニアの国王、ロードゥル・メロヴィング。その外交能力の高さから掌握のロードゥルと各国の首脳から影で呼ばれている。


「ザレルのお陰で軍の指揮は上がるばかり、アーレからも予定通り調停を結ぶことができそうだ」


 ロードゥルは、椅子に腰掛ける。


「もうそろそろで竜王に手が届く」


 ロードゥルの政策により、ウィニアの軍は再編成を行われて一新した。その理由は竜王を倒すということ。竜王を倒してそれで終わりかというとそうではない。竜王が持つとされる竜玉。これが、ロードゥルの狙いである。

 竜玉は未知なる力を秘め、持つものに絶大な力を与えるという。

 現に、五年前竜王を殺した男も、その竜玉を手に入れ、さらなる力を手に入れたとされる。


「勝算はあるんですか?」


「勿論あるとも。そのための、竜……!?」


 ロードゥルに話しかけるその声。


「誰だ!」


 ロードゥルは机の上にある水晶に手をかざし、部屋の明かりを強くした。

 ロードゥルの正面にいたのは、ローブを纏った一人の人物。背の高さ、声からしてまだ若く十代半ば頃だろう。

 中性的なその容姿だが、少年らしくみえる。


「慌てなくても平気ですよ、陛下。我々は危害を与えに来たわけではありません」


 大陸一の大国の王を前にして落ち着いている少年。

 逆にロードゥルは、だんだんと冷静を失ってきている。


「ど、どうやってここに入ってきた?」


 ウィニア国の城。そして、国王の寝室である。

 物理的な面では大陸随一とロードゥルは思っており、魔法的な面から見ても魔法国として知られている知識のアーレには劣るものの他の国を圧倒していると自負している。

 ようするに、大陸一侵入が難しいとされる、城に目の前の少年はやすやすと入ってきているのだ。


「堂々というわけにはいきませんから、裏口からですよ。陛下」 


「……どこの者だ?」


 暗殺者ならさっさと自分を殺しているはず。

 アーレの者か? それならわざわざこうして会いに来るはずもない。

 しかし、少年が言ったその言葉はロードゥルの予想を裏切る者だった。


「竜停師です。紹介が遅れました。私の名前はサン・アルスト。盟約の危機を感じ、陛下に会いにきました」


 サンは手を前に組み、ロードゥルに軽く頭を下げお辞儀をした。

 ロードゥルはそれを聞き、動揺が走る。しかし、ここで顔に出なかったのは、さすがと言うべきだろう。


 竜停師。竜王は人族に干渉しない。

 実は遥か昔、竜王と人族は盟約を結び、非干渉をするという取り決めを行った。その仲介役をしたのが竜停師とされ、盟約が破かれそうになるとどこからと現れ、注意を促すとされる。

 竜王は人族に干渉しないのではなく、できない。それが正しいことである。しかし、これを知るのは一部の者のみで各国の王がそれに当たる。


 ロードゥルは目の前の少年が、竜停師なのかと驚きながら眺める。

 王とはいえ、一生のうち竜停師と会うのは稀とされる。基本的に竜停師が会いにくる以外、会う手段がない。

 若い、ロードゥルはそう思った。しかし、この城に誰も気づかずに侵入する手腕。そして、ロードゥル自身も剣を振るので分かる。自分と竜停師の力の違いにすぐに気づいた。

 そこは、さすがというべきだろう。もし、竜停師に剣を向けていたらロードゥルはどうなっていたか分からない。


 竜停師の存在自在、眉唾物だとロードゥルは思っていた。

 何故なら十年、竜王が暴れ始めたときに竜停師は現れなかったからである。


「その竜停師殿が、一体どのような用件で?」


 計画を気づかれているっと思いつつも顔には出さない。


「陛下は、軍を増強しているようですがその意図は?」


「何を言う。備えあれば憂いなし。十年前の惨劇を繰り返さないようにと、軍を強めているだけだ」


 一瞬サンの表情が曇った。ロードゥルはその瞬間を見逃さない。


「十年前竜停師は動かなかったようだが、何処に?」


「近代の竜停師は、私が三年前に着いただけ。それは数十年振りとのこと。竜停師はいつもいるとは限らない」


 竜停師のことは全然知らないため、その話を聞いてロードィルの眉を寄せた。


「というと?」


「十年前の出来事は我々にとっても予想外であると同時に、関与はしないということです」


「関与しないだと!? 貴様らは一体何をしている。何故、他の竜王は動かない!」


「竜王は盟約により、他の竜王の領域に立ち入ってはいけない。暴れていた竜王は自分の領域から外へ出ていないので、他の竜王は手が出せなかった。竜王は人間の盟約の他にも竜王自身の盟約が存在する」


 語彙を荒らげるロードゥル。それに対して、サンは無表情のままである。


「荒れた大地は?」


 竜王が暴れた土地は今も、荒地のままである。


「新たな竜王が生まれ次第、大地は蘇る」


「それはいつとのこと?」


「……黒の竜は今だ芽吹かない」


 話し振りからすると、まだ生まれる予兆すら出ていない。

 それは竜停師自身にとっても予想外なことなのだろうか。


「陛下忠告は致しました。今一度考えるべきです」


「ふん、竜停師もわざわざ竜殺しがいないときにくるとは。やはり、恐れられているのだろうかな」


 竜殺しがいない? サンにとっては特に考えていないことだった。戦うために来たわけではない、竜停師ということもあり、気配を消すのは得意であり、その竜殺しにも感知されない自信があったからである。

 今一度城の中の気配を調べても、サンと一対一で戦って勝てる兵士などはいなかった。ロードウェルの言っている通りにこの城にはいないようだ。休暇なのだろうか。


「それでは陛下失礼します。……闇よ」


 サンは今一度頭を下げると、短めな魔法の詠唱を行う。

 すると、部屋の明かりが一瞬消え、部屋は闇に包まれる。そして、部屋の明かりが灯るとサンの姿は消えていた。

 元からそこには誰もいなかったような、気配をまるで感じさせない消え方である。

 ロードゥルは小さなため息をついた。


「まさか、気づかれるとは。誰か密偵がいるのか。いや、それよりも面白い話が聞けた。竜王の盟約――まだ、チャンスはある」


 虚空に向かってニヤリと小さく笑ったのだ。

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