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02 何も知らず、何のやり取りもせず結婚式当日に

 父に婚約相手は決まったと言われ、書類にサインしろと言われて、サインをして「相手は誰ですか?」と聞いたら「誰でもいいんだろう?」と聞き返されて「ええ、まぁ」と答えたら、そのままはぐらかされてしまった。


 手紙のやり取りもなく、プレゼントのやり取りもなく結婚式が近づいてきて「いくらなんでもこのままではまずいのではないか?」と思い父にそう伝えると「相手も政略で、何も期待していないから心配する必要ない」と言われて、結局相手の名前すら教えてもらえなかった。


 結婚式当日、白いドレスを着た女性が立っていたので「あなたが私の結婚相手でしょうか?」と聞くと声を上げて笑われて、走って逃げられた。


 神父の前に立たされて、未だに相手の名前も知らないのはまずくないか?とさっき見た白のドレスの女性を思い出しながら、結婚相手が来るのを待った。


 緩やかな曲が流れ始め、親族席を見回す余裕ができて、新婦側の親族席を見ると、ノーアヘルベルト辺境伯家の人達が座っているように見える。

 ???親族席だよな?


 新郎側の席を見ると、私の親族が座っている。

 頭をかしげていると、新郎新婦席からクスクスと笑いが上り、新婦が入場してきた。


 バーンノークスにとってそれはとても居心地が悪くて、今直ぐここから逃げ出したいと思った。


 そこにはノーアヘルベルト辺境伯に手を引かれたスラリと背が高い凹凸の少ない女性が目を伏せて歩いてきていた。

 どう見てもシールハウス嬢に見える。

 彼女がどれだけ自分を嫌っているのかバーンノークスには解っていた。


 あり得ない・・・!!


 私の目の前にまでやってきたけれど、ベールが厚くて、顔の表情が見えにくい。

 信じられない気持ちで式が進み宣誓書にサインした後、新婦にペンを渡すと間違いなくシールハウス・ノーアヘルベルトとサインされていた。


 両親達はなんて酷いことをするのだ・・・。


 私は驚きを隠せないまま、彼女のベールを上げるように指示され、そこには本当にシールハウス嬢が立っていた。

 何かをこらえるようなシールハウス嬢の顔に、嫌な汗が流れ落ちる。


「なにかの間違いでは?!」と神父に確認を取ると、また親族席から笑いが漏れて、シールハウス嬢も口元を押さえて震えていた。


 口づけをしていいのか解らなかったので、頬にキスするふりをして、訳が分からないまま、結婚式が終わった。


 宣誓書にサインするのではなかったと、その時気がついた。今なら取り戻せるだろうか?

 シールハウス嬢に「本当にすまない」と謝罪するが、シールハウス嬢は首をかしげるばかりだった。

「申し訳ない。どうすればいいのか見当がつかない」


 披露宴が始まる前に父に「何がどうなっているのか?!」と聞いたが「お前が相手は誰でもいいと言ったから、私がいいと思う相手を選んだだけだよ」と一つウインクをされて、披露宴用のドレスに着替えたシールハウス嬢が私の側にやってきて「お待たせいたしました」と言って私の腕を取った。


 その顔には幸せそうな表情はどこにもなかった。

 バーンノークスに心の余裕があれば、緊張していただけと気がつけたかも知れないが、恐ろしく酷いことが起こっているという認識しかないバーンノークスはシールハウス嬢がいやいやここにいるのだと認識した。


 なんて酷いことが行われているんだ?!

 人々の笑い声が、バーンノークスとシールハウス嬢を馬鹿にしているようにしか聞こえなく、叫びだして逃げ出したかった。


 必死で笑顔でいられるよう頑張って、披露宴が終わり、皆にお礼を言って、自邸へと戻る馬車の中にシールハウス嬢が一緒にいることの理由がわからなかった。


 玄関をくぐったところで「済まないが、何がなんなのか解らない。申し訳ないが、今日はとても混乱していて、どうしていいのか解らない。今夜は一人にしてくれ」


 家族全員の前でそう言ってバーンノークスはその場から逃げ出した。

 それでも、シールハウス嬢に「本当に申し訳ない。こんな結婚あり得ない」と何度も謝りながら。



 夫婦用に用意された部屋ではなく、シールハウス嬢の返事も聞かずに、俺は子供の頃からの自室にこもった。

 私の混乱は収まらず、部屋の扉が何度もノックされたが、それに返事することもできず、結婚した喜びすらなかった。


 その日は疲れていたので、そのまま寝てしまい、目を覚まして俺はまた、シールハウス嬢に初夜を断るという失礼なことをした。ということを考えられるまでになった。

 だが、私を嫌っている相手を・・・シールハウス嬢を抱くことなんてできない!!

 そんな失礼なことなど出来るはずもない!


 結婚してしまったのだと改めて考えるが、やはり結婚の喜びはどこにもなかった。

 私はこの後どうしていいのか解らなくなってしまった。


 こういったときこそ神父に相談すべきではないだろうかと思いつき、それが最善だと考えついた。



 誰もが初夜が行われなかったことを知っている、静かな食事風景に、誰もが私とシールハウス嬢を何度も見比べる。けれど、私が話しかける言葉はない。

 何をどう思えばいいのかすらわからないのだ。

 私は未だ混乱中だ。


 シールハウス嬢がナイフとフォークを下ろした時「少し話したいことがあるんだが、時間をとってもらうことは可能だろうか?」

 顔色の悪いシールハウス嬢は「はい」と答え「応接室に来ていただいてもいいだろうか?」と再度問うと「解りました」と本当に嫌そうに答えた。

 私の後を継いてシールハウス嬢が後ろをついて歩いてくる。


 応接室へ先に入ってもらい、使用人にお茶の用意を頼む。

 お茶の用意が済んで、人払いをする。

 私はシールハウス嬢に深く謝意を述べた。


「何がどうなったら、シールハウス嬢が私の婚姻相手になることになっているのか解らないのだが、無理やりこうなってしまったことは理解している。シールハウス嬢が私を嫌がっていることは勿論、承知しているので、婚姻無効の手続きを取ろうと思う。本当に申し訳ない。理由も解らないまま宣誓書にサインしてしまったが、サインなどするべきではなかった。結婚式で身内に笑われて結婚するなど、あっていいはずがない。本当に申し訳ない・・・」


「バーンノークス様は私との結婚をどう思われているのですか?」

「あり得ないっ!!私はあなたに嫌われていることをきちんと認識している。両親のしたことが本当に信じられないっ!!」


 バーンノークスは頭を抱え、シールハウス嬢の顔を見ることさえできない。

「前回も許してもらうことができなかったのに、今回こんなことになってしまって、私は本当にどうしていいのか解らない。許してくれと乞うことすらできない。私は両親とも話さなければならない。本当に申し訳ない。少しでも君に傷がつかない方法がないか調べてみるよ。本当に申し訳ない・・・!!」


 私はシールハウス嬢をその場に残して父の執務室へと向かった。


「父上!!よりにもよってどうしてこんな酷いことをするのですか!」

「私は何を息子に怒られているのかよくわからないよ」


「私を嫌っているシールハウス嬢を無理やり私の妻にするなんて、そんな非道なことをよくもできましたね!!こんなにも情けない結婚式をすることになるとは夢にも思いませんでした。結婚式の間に笑われた私達の気持ちなど、解らないでしょう!!私は結婚相手は誰でもいいと言いましたが、絶対に選んではいけない相手だったでしょう?!よくもこんな酷いことをっ!!」


 私はボロボロと涙をこぼした。 


 ぽかんとした父の顔に腹が立って、何を言っても私達の気持ちなど解ってもらえないのだと、情けなく思った。


 私は父の執務室から飛び出して、結婚式を挙げた教会へと足を運んだ。

 妻となった人からどれほど嫌われているかを力説して、笑われるような結婚式だったこと、彼女に申し訳なくて仕方ないことを伝えた。


 婚姻を解消する方法がないのかと問うと、一年間の白い結婚で婚姻解消ができるが、それ以外は離婚しか方法はないと言われた。


 私は白い結婚での婚姻解消の書類をもらい、私が記載すべき場所にサインをして、その書類を自分の机の上に手紙を添え、あらゆる書類を置いて、風に飛ばされないようにペーパーウエイトを載せた。


 シールハウス嬢に教会に行ってきたことと、離婚歴を付けずに婚姻を解消するには、白い結婚しか方法がないことを伝え、何度も何度も謝罪して、書類は私の机の上に置いてあるので、時期が来たら書類にサインして、教会に提出するように伝えた。


「君に一年間も無駄な時間を過ごさせてしまうことも、どうやって償えばいいのか解らない。二度と私は君には関わらないと約束するよ。本当にごめんね。許してくれとは言えない」


 私は最低限必要な物をカバンに詰め込んで、家督を弟に譲る書類や、平民になることの書類を置いて、二度と戻らない決心をして、家を出た。



******



 私が結婚してから二年の月日が経ったので、婚姻解消はもうされているだろう。

 私は自国から二つの国を挟んだヴァスリ公国というところで平民として生活している。

 この国ではただのバーンという名だ。


 元々は貴族だったことと、学校をそれなりの成績で卒業していることで、商人ギルドの内勤をしている。

 そこそこの収入はあるので、贅沢さえしなければ、生活に困ることはなく暮らして行けている。


 この国で、私のことを好きだと言ってくれるリュースという人とも出会えた。

 年は少し離れていて、やっと少女から脱却して間がない感じがする子だ。


 私の結婚の話をすると「シールハウス嬢は私のことを好きだったんだと思うよ」と言ってくれて、少し心が救われた気がした。


 リュースとは互いの家を行き来している間に、いつの間にか一緒に暮らし始めていた。

 リュースは穏やかに私を愛してくれて、私もリュースを心から愛していた。


 何時か結婚したいと思っている。だが自国まで確認を取りにいかなければならないことが億劫なのと、家族を許せない気持ちが未だになくならなくて、確認を取ることを後回しにしてしまっている。

次話、最終話。15日19時UP予定です。

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