scene2-1 登校
俺は今、すがすがしい春の青空の下幼馴染の自転車をこいでいる。
まだ4月ということで気温はそれほどでもないが、体を動かしているのと陽の光が暖かいのもあって吹き抜ける風が気持ちいい。
額にうっすらと汗もにじむくらいだ。
なんて爽やかな登校風景だろうか。
なのに泣きたくなるのはなぜだろう・・・。
この爽やかさ120パーセントの情景にマイナスの要素など・・・
暖かな春の陽気→○
心地よい風→○
登校初日の期待感→○
新しい制服→○
自転車という健康的な通学手段→○
隣を歩く幼馴染→○
荷台に積まれた謎のダンボール箱(※重い)×2→×
・・・あった。
「あのー・・・ハァ、ハァ・・・話が違うんですけど、加奈琉さん」
隣を歩いている加奈琉に話しかける。
というかまずこの次点でおかしい。
自転車に乗ってペダルを必死にこいでいる俺と新しい制服を清楚に着こなしてしなやかに歩いている加奈琉が同じ速度だなんて。
「話って?」
こちらを向いていたずらっぽく微笑む加奈琉。
「こんなの・・・聞いて・・・ない」
自転車のバランスをとって前に進むだけで精一杯でまともに会話もできない。
「言ったじゃん“動力になって”って、それで一緒に登校してる」
たしかにそう言ったけど俺はこんなの想像していなかった。
俺はもっとこう腰にまわされる細い腕とかを思い浮かべてたわけで。
こんなんじゃ青春の1ページなんて飾れやしない。
「もう少しなんだから頑張って♪」
くやしいことに加奈琉に言われるとペダルをこぐ足に力が入る。
美人って得だよなぁってつくづく思う。
うまいこと駒にされてる俺も俺なんだけど。
「で、・・・中身・・・なんな・・・の?」
うっ・・・、朝食べたベーコンエッグがこんにちはしそう・・・。
「うん、ちょっとね。部活で使うの」
ほー、加奈琉が部活に入っていたとは。
何だろう、走るのは速かったから陸上部かな?
まぁ、それも小学校以前の話だけど。
何をしているのか聞きたかったけど、とてもこれ以上言葉を発することのできる状況ではなかった。