scene1-4 友達100人できるかな?
そこへ俺の携帯の着信音が鳴り響いた。
手にしていた写真を元へ戻し、時間を確認する。
時刻は11時半をまわっている。
こんな時間に誰だろう?
と一瞬考えたが、すぐにひとりの人物が頭をよぎる。
「・・・は、はい」
電話にでると予想通りの言葉が返ってきた。
「ちょっとお兄ちゃん!?着いたら連絡してって言ったじゃん!」
第一声から怒鳴られ、右耳をやられた。
大丈夫、俺にはまだ左耳がある!
携帯を素早く持ちかえる。
「あぁ、ごめん琴葉。いろいろ忙しくて・・・忘れてたんだ」
もうおわかりの通り俺の妹である。
年は3つはなれているのである。
今年中学校へ進学するのである。
こちらへの到着の報告を怠ったのである。
「忘れてたって・・・何かあったのかと思って心配してたのに」
本当に心配していてくれたらしく、最後のほうはトーンが下がっていた。
けなげで出来の良い妹をもったものだ、うんうん。
「悪かったね、無事着いたって母さんにも伝えておいて」
「お母さんが遥さんと電話してるの聞いて、お兄ちゃんが遥さん家に着いたんだって知ったのぉ!」
「そっか、というか琴葉も明日から学校なんだろ?」
「うん、そうだよー」
「じゃぁ遅くまで起きてないで早く寝ないと間違えてランドセル背負って中学校の入学式いっちゃうぞ」
「お兄ちゃんじゃないから大丈夫だもん」
おい、いくら出来の良い妹だからって俺を出来の悪い兄みたいな言い方するとは・・・。
「それじゃ俺ももう寝るからおやすみな?」
「うん、わかったぁ。また電話するね」
「はいよー、おやすみー」
相手が切るのを待って電話を切る。
さて、明日の準備だけしてそろそろ寝よう。
寝坊なんてできない、加奈琉にも釘をさされているしね。
明日は高校の入学式。
これで晴れて俺も高校生というわけだ。
友達できるかなぁ?とかクラスに馴染めるかなぁ?とか通過儀礼としてほんのり考えてみたりして人生でたぶん一度しか経験できない高校生活に思いを馳せてみる。
俺がわざわざ実家を出てまでこの高校を選んだのも、このあたりでは1,2を争う進学校であり、ありがたいことに特待生として推薦をもらえたからだ。
じつは加奈琉が進学するのも同じ高校なのだが、こちらは少しわけが違ったりする。
加奈琉の通っていた中学校からはほぼエスカレーター式に多くの生徒が進学してくるのだそうだ。
それもそのはず、広大な敷地内に中等部・高等部といったように校舎が建てられているのだ。
加奈琉は中学校と変わらず家から近いという理由で進学を決めたらしい。
必死に受験勉強をした俺とは違い、通学距離で選んでこの学校に入れる加奈琉の学力はどれほどのものなのだろうか。
バッグの中に必要なものを揃えた俺は、携帯のアラームをセットした。
ベッドにもぐり目をつむる。
夕食前に昼寝していたとか、慣れない枕だとかは小さなこと。
すぐに俺は寝息をたてていた。