scene6-14 エピローグ
月日はちょっとだけ流れて創立祭当日。
校門には特設の大きなゲートが建ち、そこを抜けると生徒たちが運営するたくさんの出店が並んでいる。
にぎわう構内には生徒に混じって一般の人々の姿も多くみられる。
じゅんごの脚本をコピーしていた昼休み、あのとき後輩の和泉が話したのはこんなことだった。
脚本が消えたあの日の昼休み、和泉は部室で夏帆ちゃん宛の手紙を書いていた。
内容は思いを寄せている彼女に告白するために呼び出すためのものだった。
でも、それをすぐに渡すつもりはなくカギのかけられる部室の自分のロッカーに入れておいて、創立祭での公演後に告白しようと決めていたらしい。
念のため部室にカギをかけて手紙を書いていたところ、運悪く人が来てしまい、慌てた和泉は窓から逃げようとした。
しかし緊張で腕に力が入っていたせいか、下にあった脚本に跡がくっきりとうつっていることに気づき、一部を一緒に持ち出してしまったのだそうだ。
後になってそれが次の公演のためにじゅんごが書き上げた脚本であることを知ると、一刻も早く返さなければと思うが、1枚目にうつってしまった文字から自分が想いを告げるよりも先にそのことがバレてしまうのを避けたかった和泉は、脚本を持ち出してしまったその日に夏帆ちゃんを呼び出すことを決意し、告白。
次の日返すことができれば何とかなるんじゃないかと思っていたのだが、夏帆ちゃんから返事を1日だけ待ってほしいと言われたことから、次の日になっても脚本を返すことができず、その後に及ぶというわけだ。
ここ体育館では今まさにその演劇部の公演が行われている。
もちろんじゅんごの書き上げた脚本で。
暗幕が引かれた薄暗い空間、俺の隣には加奈琉が座っている。
「そういえば前に脚本がなくなるってことがあったよね、あれって結局なんだったんだろ・・・」
実は加奈琉もその事件の真相は知らない。
「さぁ?こうして無事に公演できてるんだからいいんじゃないの?」
結局、じゅんごは和泉から真相を聞いてもそれを誰にも言わず、事件は謎のまま終わりを迎えた。
そのことを新聞部の浅倉さんは残念がっていたみたいだけど。
「まぁ、それにしてもあのふたりがこうやって恋人役を演じているなんてね」
それを聞いて俺は一瞬ドキッっとした。
「わたし、夏帆ちゃんと和泉くんはお似合いだと思ってたのよね」
そう、驚いたことにふたりはその後うまくいっていたのだ。
結果オーライとでもいうのだろうか。
そのふたりを恋人役としてキャストに推薦したのはじゅんごの優しさからなのか、それともいたずら心からなのかは俺も想像しがたいところだ。
ステージ上では和泉と夏帆ちゃんが手を取り合い見つめ合っている。
「私は一生あなたのそばに居続けます」
「はい」
こうして全ての幕は閉じた。
「そしてふたりはいつまでも幸せに暮らすのでした」
そんな締めのナレーションに俺、そして観客は心からの拍手を贈った。