scene6-9 跳躍力に長ける
「ねぇ、これどう思う?」
一生懸命に記事を読んでいた加奈琉が口を開いた。
黙って文字を追っている加奈琉は本当に絵になる。
そのまま雑誌の表紙でも飾れそうなくらい。
もうずっと本でも読みながら生活したらいいよ。
で、なんだっけ?
「演劇部女子部員2名の証言、昼休みにお昼ご飯を部室で食べようと向かったさい、普段かかっていない部室のカギがかかっていた。しかし、中に入ってみると窓は開いていた。部室にカギをかけるのは学校に来ない休日のみ」
加奈琉は記事を読み上げる。
「おっちょこちょいの話?」
ドアのカギは閉めたのに窓閉め忘れてましたー、えへへ☆みたいな。
「部室は職員室にあるマスターキーでは開け閉めできず、演劇部で合カギを持っているのは高校の2・3年生のみ。3年生2名、2年生3名、よって部室のカギは全部で5つ、もちろん中からは合カギなんて使わずにカギをかけられる」
ふむふむ。
「それで?」
「意味もなく部員の誰かが外からカギをかけるはずないから、やっぱり脚本を盗んだ犯人がいて中からカギをかけたんだよ」
力説する加奈琉。
まぁ、カギがかかってたことと犯人がいることには何の関係性もないと思うけど。
「持ち去るだけならカギなんてかける必要ないんじゃない?」
「探してる脚本がすぐに見つかるとは限らないんだから、カギくらいかけてもおかしくないでしょ」
「うーん・・・」
「それで無事犯人はお目当てのものを見つけ出したんだけど、そのときちょうど女子部員のふたりがお昼を食べに部室にきて慌てた犯人は窓から中庭へと逃げた」
どうよ!?と言わんばかりの表情。
「否定はしないけど、どうして脚本を全部持っていかなかったのかが引っかかる」
「それは・・・」
考え込む加奈琉。
考えているときの真剣な表情の加奈琉もこれまた絵になる。
加奈琉にミステリー小説読ませたら最強なんじゃないだろうか。
てか、そーいうのはいつも読んでるね、“推理おたくの幼馴染”っていうのが俺の中での加奈琉だし。
「慌てていたから持っていきそこねた・・・とか」
「なくはないけど苦しいな」
「じゃぁコウちゃんはどう思ってるの!?」
おいら?
なんとも思ってないよ・・・なんて言ったら怒られるよな。
どうしよ・・・。
「そうだなぁ・・・ネコ」
「「ネコ!?」」
黙々とペンを走らせていたじゅんごも一緒になって俺のほうを見る。
「その開いていたっていう窓からネコが入ってきて偶然ドアのカギを閉めてしまった。その後、じゅんごの書いた脚本をくわえて窓から出て行った。脚本の一部分だけがなくなっていたのはネコが全部をくわえて持ち出すのは不可能だったから」
「なんでネコが脚本持っていくのよ?」
「原稿用紙に魚のにおいでもついてたんじゃない?じゅんごの家の一昨日の夕食は?」
「冗談だろ?」
「うん、冗談だよ、ごめん」
するとじゅんごはため息をついて作業へと戻っていった。
加奈琉も呆れた様子で机を元に戻すと自分のクラスへと帰っていってしまった。
いいじゃんネコだって、ネコ可愛いじゃん!
そろそろと机を戻す。
「あれ、どーしたの?小鳥くん、元気ない?」
昼ごはんを済ませて戻ってきた七瀬さんだ。
「ちょー元気!」
七瀬さんに気遣われた瞬間にHP全回復です、はい。
「そ、そっか」
そんな照れながら微笑んだ表情がすごくまる。