scene6-8 犯人の存在
その日じゅんごは遅刻ぎりぎりで教室に現れた。
「ぉ、ようやく主役のお出ましね」
そう言って浅倉さんはじゅんごの方へと駆け寄っていった。
「田之上くん、ちょっとインタビューいい?」
じゅんごは疲れた様子でどかっとイスに座ると、バッグから原稿用紙を取り出す。
「時間がないんだ、悪いな」
するとそこでチャイムが鳴った。
タイミングよく先生もドアを開けて入ってくる。
それを見た浅倉さんはしぶしぶ自分の席へと戻っていった。
昼休みになり俺はじゅんごと机を向かい合わせ昼飯を食べていた。
とはいえ、じゅんごはさっさと昼飯を済ませると原稿用紙のマスを埋める作業へと戻ってしまったのでそれを見ながら俺は朝買っておいたパンにかぶりついている。
「それでどうなの?何か考えついたの?」
そして普段なら一緒に昼飯なんて食べない加奈琉が、なぜか俺たちのクラスに乗り込んできて机を向かい合わせている。
「いや別に」
じゅんごの脚本がなくなったことについて聞いてきているんだろう。
「はぁ・・・一晩考えて何にも出てこないなんて見損なったよ、コウちゃん」
見損なうのは自由だが、理由が釈然としないのはなんともしっくりいかない。
「考えたもなにも、どれだけ俺のこと買いかぶってたのよ?」
「昔はもっとさ、こういうことには熱かったのに」
昔って小学校上がる以前の話だよね?
「さいですか」
まぁ、その話は教室の隅のほうにでも置いておいて。
「なぁ、それってなくなった部分だけ書き直せばいいんでしょ?」
「そう簡単に言ってくれるな、なくなったのは最初の部分なんだがつながりもあるし、そもそも内容を全部覚えているわけじゃない、それに納得のいくものでなければ出したくはないしな」
大変そうだなぁ、トラブルがあったからといって中途半端なものは出せない、じゅんごの演劇に対する熱いものが伝わってきた。
「けっこうな枚数なくなってたのか?」
「・・・まぁな」
そこへガラッと大きな音を立てて浅倉さんが入ってきた。
休み時間のたびに教室を飛び出していき、昼休みになるやいやな姿を消したと思っていたら、
「号外でーす!」
浅倉さんは教室にいる生徒たち一人ひとりに校内新聞を配っていく。
「どうぞ」
俺もそれを受け取り目を通す。
仕事早すぎでしょ、そこはもう新聞部員としての浅倉さんの力量を褒めるほかない。
そこにはなくなったじゅんごの脚本のことが記事として取り上げられていた。
『消えたプロローグ!犯人の目的は!?』
なんかもう犯人がいる前提で話が広がってしまっている。
実際のところ当の本人はどうなんだろう。
「なんか、色々大げさに書かれてるけど、じゅんごは犯人がいると思ってる?」
「どうだかな、俺自身昨日の記憶が曖昧だから何とも言えんが、もし仮に犯人がいたとしたら全部持っていかずに中途半端に置いていく理由がわからん」
たしかに。