scene6-5 演劇部に残された遺産
前回のあらすじー♪
徹夜までして必死で仕上げた脚本がないと言い出したクラスメイトの田之上じゅんごに巻き込まれ一緒に脚本を捜すことに。
なぜか関係のない加奈琉までパーティーに加えて、目指すは演劇部部室!
そこに現れたのは演劇部の長である野宮先輩と天ノ宮中の生徒の夏帆ちゃん。
そこで無事お目当てのアイテム『徹夜で仕上げた脚本』を手に入れた俺たち。
見事ハッピーエンドを迎えるかと思われた矢先にじゅんごの口から出た言葉、
「枚数が足りない」
そう、脚本はこれで全てではなかったのだ。
世界中に散らばった脚本を全て集めるまで俺たちの旅は終わらない、つづく。
最後は嘘だけど。
じゅんごは野宮先輩をすがるような目で見つめた。
「えっ、でもここにはそれだけしかなかったわよ、・・・ねぇ?」
そう言って、夏帆ちゃんに同意を求める。
「は、はいっ」
「もしかしてですけど、掃除してるときに間違えて捨てちゃった・・・とか」
加奈琉の言う通り、たしかにそれは十分にありえるかも。
じゅんごの表情が曇る。
しかしその考えはすぐに否定された。
「そ、それはないと思います」
「そうね、間違えて捨てないように脚本だけは私がちゃんと別の場所に置いておいたし、それからは誰もさわってない、掃除していたのも私たちふたりだけだしね」
「それじゃ、その前からなくなっていたってことですか」
なんだか考え込む様子の加奈琉。
推理オタクな部分が徐々に出始めている、よろしくないな・・・。
「もう練習を始めないと間に合わなくなるし、このまま見つからないようなら田之上くんには悪いんだけど今回は元々公演する予定だった脚本で・・・」
しばらく考えて発した野宮先輩の言葉をじゅんごが遮った。
「部長!1日だけください、明日の放課後までに書き直してこられなかったらきっぱり諦めます!」
そう言って、じゅんごは残された脚本を持って部室を飛び出していった。
相当気合入っていたからなぁ、その分ショックも大きいのだろう。
じゅんごがいなくなってしまったために部外者の俺と加奈琉だけが残されるという形になってしまった。
そんな俺たちの正面に野宮先輩が座り、その隣に夏帆ちゃんが座った。
「気の毒だけど仕方ないの、期限を引き延ばして今日まで待ったんだけどこれ以上はね、公演に間に合わなくなっちゃうから」
次の公演、たぶん創立祭だろう。
創立祭は我が天ノ宮高校の中でも学園祭に並ぶ大きなイベントだ。
そーいえば、
「あのー、さっき言ってた元々の脚本って何なんですか?」
「あぁ、それはね、えっと・・・これなんだけど」
野宮先輩はバッグから冊子を取り出して、俺たちに見せてくれた。
「去年まで演劇部にいた先輩が書いたものなの」
加奈琉はそれを手に取ると熱心に目を通している。
まるで何か変なスイッチでも入ってしまったかのように。
「去年、先輩たちの最後の公演のとき、2つの脚本を別々のふたりの先輩が書いてきてね、どちらをやるかでもめたんだけど、結局部員の多数決になってできなかったのがその脚本」
へぇー。
「その脚本を書いた先輩が“この脚本はお前らに預ける、来年こそは演じてくれ!”って私たち後輩に残していった、いわば遺産みたいなものね」
「そんな大事そうなもの、端から放っておいちゃマズいんじゃないですか?」
「大丈夫、大丈夫、今年の公演の場はこれっきりじゃないんだから」
「「はぁ・・・」」
最後に俺と加奈琉は声を揃えたのだった。