scene1-2 記憶の中の女の子
気がつくとしばらく眠っていたようだった。
ズボンから携帯を取り出して時間を確認し、体を起こす。
んーっ。
外から入る光は完全に途絶え、部屋の中は真っ暗になっていた。
無音の室内、まだ頭がぼーっとしている。
ん?下で遥さんが誰かと話している、誰だろ?
しばらくして会話が聞こえなくなったかと思うと、今度は階段を物凄い勢いで駆け上がってくる音が聞こえ、俺のいる部屋のドアをノックもなしに開放する。
ひょこっと顔を出し覗き込んできたこやつは・・・。
寝ぼけ眼をこする。
そいつは部屋の電気をつけるとこちらへ近づいてきた。
蛍光灯の光に目を細める。
「コウちゃん久しぶりー☆」
次の瞬間、ダイビングヘッドバッド的なそれをちょうだいする俺。
星のついた浮かれたセリフに俺の頭は星を飛ばし律儀に返事をした模様。
「いてて・・・」
頭をさすりながら苦笑いをする侵略者。
どうやら、俺のバッグにつまずいてこけたらしい。
もちろん俺は頭を押さえて絶賛悶絶中!
・・・・・・。
しばらくしてようやく痛みから解放され、元凶の姿を確認する。
そこには俺と年のかわらないであろう女の子がぺたんと座り込んでいた。
俺、回想中。しばらくお待ちください。
「久しぶりって言った?」
目の前にいるのは見たことのない女の子。
左の眉毛がピクリと反応する。
俺の第一声により機嫌マイナス1。
俺、思考中。しばらくおまちください。
ひとつひとつ記憶の引き出しを開けていく。
ぉ?隊長!鍵のかかったそれらしき引き出しを発見しました!
「か・・・」
目の前の女の子から1つ目の鍵が渡される。
か、か、か・・・だめだ、記憶のサルベージをかたくなに断られる。
「な・・・」
続けて2つ目の鍵が差し出された。
な、な、な・・・ガチャ、隊長、やりました!
「・・・る?」
俺の問いに目の前の女の子は大きく頷いた。
どうして忘れていたのだろう。
いや、忘れていたんじゃない、記憶の中の少女と目の前の女の子がリンクしなかったのだ。
月城加奈琉、彼女とは幼少期を共に過ごした仲で、昔はよく一緒に遊んだものだ。
だけど、目の前にいるこいつは・・・
「コウちゃん全然変わってないね」
「お前は変わりすぎだ」
主に容姿、花丸だ(俺査定)。
俺の記憶では男か女かも曖昧だったのだが、月日の流れとは恐ろしい。
流れるように肩より少し長く伸びた黒髪はその色をただ単に黒と表現してしまうのがためらわれるほどに綺麗で、俺の鼓動を加速させる。
この部屋の照明に何か仕掛けがあるのではないだろうかとつい疑ってしまう。
が、もちろんそんなことはなく、ただいま美少女絶賛光臨中なのである。
なんか後光みたいの差してない?
いや、これはおいらの寝ぼけたおめめが原因か、てへ☆
一直線にこちらを見つめる瞳に俺は思わず目をそらした。
だってさ、美少女と3秒間目をあわせると魂を持っていかれるっておばあちゃんが言ってたし。
だが、これではいかにも負けたような気がするので視線を戻す。
それは直線で絡み合い血脈が高騰するのがわかる。
いや、これは錯覚だ!
俺は幼馴染という属性に対し異様な興奮を覚えるなんていう一部の限られた人たちしか持つことを許されない特殊スキルは持ち合わせていなかったはず。
「とりあえず・・・久しぶり」
「うん!」
母親譲りの驚異的な殺人スマイルに再び目をそらしてしまったのは、俺の防衛本能が危険を感じ取ったということにしておく。
「夕飯できたって、行こっ!」
そう言って俺の腕を掴み引っ張っていく加奈琉さんの中身は幼い頃の記憶の中にいる女の子とほとんど変わっていないのでしたとさ、まる。