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scene4-2 教室×人形

今日日直の役目をおわされていた俺は、放課後になり学級日誌というものを職員室にいる担任に提出してきた。


その日の欠席者、授業、起こった特別な出来事、記載者の一言などどうでもいいことを書いて記録するのだ。


本当にどうでもいいと思いました、まる。



「失礼しましたー」


職員室を出た俺は急いで教室へと戻る。


廊下を走るな?そんなの知るか。


全速力で階段を駆け上がった。


教室の前まできて息を整える。


ガラッとドアを開けると彼女は窓際の席に座って校庭を眺めていた。


「小鳥くん、お疲れさま」


ひかりちゃんだ。



あの保健室でのことがあって以来、俺とひかりちゃんはこうして放課後の教室で待ち合わせをしている。


ひかりちゃんの趣味が裁縫だということを知ったあの日、彼女の作った小さな兎のマスコットに感動した俺。


すると彼女は難しくないんだよと、俺にも作れると言ってくれた。


それを聞いた俺はすっかりその気になってしまい、もうすぐ訪れる妹の誕生日に人形を作ってプレゼントしたいという無謀にも思える計画を思いついてしまったのだ。


その旨をひかりちゃんに伝えると、彼女は快く協力を約束してくれた。



それからほぼ毎日のように少しずつではあるが、ひかり大先生に教えを賜りながら人形作りを進めていった。


チクチク・・・チクチク・・・。


初めのうちはイチロー並みの打率で自分の指を針で突き刺していた俺だったが、今ではもうだいぶましになってきた。


それもひとえにひかりちゃんの教え方が上手かったこと、いつも俺のことを気遣って指の本数よりも多い枚数の絆創膏を用意してきてくれたこと、それに尽きる。


熱しやすく冷めやすい性格だった俺が人形を完成させるところまで行き着くことができたのは彼女のおかげなのは言うまでもないこと。


無事完成を迎えることができたのは誕生日の当日の放課後だった。



「できたー!!」


「やったね、お疲れさま!」


精一杯の笑顔で俺をねぎらってくれるひかりちゃん。


「ありがとう!ひかりちゃんのおかげだよ!お礼は必ずするから」


「い、いいよそんな!」


「だめ、するから」


「・・・うん」


夕日の差し込む放課後の教室で少しうつむいた彼女の顔にまつげが影を落とす。


ようやく完成したという達成感で心が満たされる。


床にハチミツを広げたような色に染まった教室もたったふたりで満たされている。


そこにいること、息をすることさえ心地よい空間。


放課後の教室は、これ以上誰一人として入ることができないほどに飽和していた。



よし、あとは妹に渡すだけだ。


渡したとき妹がどんな顔をするのか楽しみで仕方なかった。


結果は大成功だった。


俺が自分で作ったものだと教えると、妹はさらに喜んでくれた。



次の日。


今度はそのことを、人形作りを手伝ってくれたひかりちゃんに伝えることが楽しみでいつもより早く学校へ着いてしまった。


ひかりちゃんも喜んでくれるかな?


どうやってお礼をしようかな?


ひかりちゃん早くこないかな?


しかし、そんな俺の想いとは裏腹にその日ひかりちゃんは学校に来なかった。


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