scene4-1 保健室×消毒
これは俺がまだランドセルを背負っていた頃の話。
初めて七瀬さんと同じクラスになり、初めて言葉を交わしたのは体育の授業のときだったと思う。
男子と女子に分かれて、男子はサッカー、女子はドッジボールをしていた。
そのときだった。
2チームに分かれて行われていたサッカーの試合中に、俺はできもしない玉乗りを披露してしまったのだ。
全自動ウルトラC!
もちろん不可抗力で、結果は言わずもがな。
不名誉の傷を負った俺は試合開始早々の退場となった。
「おーい保健委員のやつ、小鳥を保健室まで連れて行ってやってくれ」
先生のその声で少し離れた場所でドッジボールをしていた女子までもが俺の負傷に気がついてしまった。
先生余計なことを・・・。
格好わるいったらない。
そのとき俺を保健室まで連れて行ってくれた保健委員というのが七瀬さんだった。
「う、うわー、小鳥くん大丈夫??」
駆け寄ってきた七瀬さんが心配そうに傷口を眺める。
初めて名前を呼ばれたことに対して一瞬ドキッとした。
「大丈夫だよ、つき合わせちゃってごめんね」
「いいの、私保健委員だし」
七瀬さんに付き添われて保健室に行き着いた俺たちだったが、そこには先生の姿はなかった。
「あれ?いないや」
「ほんとだ、でも大丈夫、私傷の手当てくらいならできるから」
任せてと両拳を握り締めると、慣れた手つきで棚から消毒やガーゼを取り出し始めた。
「まず水で傷口洗ってきて」
言われたとおりに傷口を洗って戻ると、丁寧に手当てをしてくれた。
「ありがとう、じゃあ戻ろうっか」
「お、小鳥くんちょっと待って・・・」
俺がイスから立ち上がろうとすると、たった今手当てをしてもらった上から思い切り腕を掴まれた。
「っ!」
思わず苦痛に顔がゆがむ。
「・・・!ご、ごめんなさい!」
「・・・大丈夫、大丈夫」
俺は今上手く笑えているだろうか?
「で、なに?」
「もしよかったらその左膝のところ・・・」
自分の左膝の辺りを見てみる。
記録より記憶に残る素晴らしい転び方をしてしまったおかげで、体操着が破れて穴が開いていた。
「縫ってあげようか?」
「え、悪いよ、傷の手当てまでしてもらったのに」
と、一時は遠慮したのだが、しゅんとした七瀬さんの表情に負けて結局お言葉に甘えることにした。
教室のロッカーに裁縫セットがあるからということで俺たち二人は教室へと向かった。
「じゃぁ小鳥くん、脱いで!」
「ちょ、いきなりなにを!」
すると七瀬さんの顔がみるみる桜色に染まっていく。
「冗談です、ごめんなさい」
素直に体操着の長ズボンを脱いで七瀬さんに預ける。
もちろんその下は下着というわけではなく、ちゃんと半ズボンをはいていた。
七瀬さんがズボンを縫っている間、俺は教室の窓から体育の授業の風景を眺めていたのだが、しばらくすると飽きてしまいそれからは七瀬さんの様子を近くに座って眺めていた。
なんといってもその手際の良さに見入ってしまったのだ。
途中で七瀬さんに、
「恥ずかしいからそんなに見ないで」
と言われてしまうほどに。
「えっと・・・も、百瀬さんってなんでそんなに裁縫上手いの?」
「私、お家で時々やってるの。人形とか作ったり、小さいやつだけど」
そしてランドセルについていた可愛い兎のマスコットを見せてくれた。
あまりのできの良さに感動してしまった。
「すごっ、これ百瀬さんが自分でつくったの?」
「う、うん、そんなに難しくないんだよ?」
少し照れながら作業に戻る。
「あと呼び方・・・ひかりでいいよ、みんなそう呼ぶから」
「そっか、じゃぁ・・・」
でも、呼び捨ては気が引けるなぁ。
「ひかりちゃんで」
「うん」