scene3-4 たしかどこかで
「いらっしゃいませー!」
中に入ると、元気のいいお姉さんに奥へと案内された。
俺はコーヒーで七瀬さんはカフェオレ、それと日替わりケーキを2つ注文した。
注文を終えると七瀬さんは傷口を洗いに席を立った。
彼女が見えなくなるのを確認すると、俺はポケットからあるものを取り出した。
指輪だ。
給料3ヶ月分とはよく言ったもので、俺はこの3ヶ月間を今日この瞬間のために費やしてきた。
今日で彼女と付き合いだしてからちょうど1年がたつ。
俺は決めていた、今日必ずプロポーズすると。
準備は万端だ。
これを見せたらどんな顔するかな?
思わず顔がにやけそうになる。
というくだらない妄想とか、水の入ったガラスのコップに口をつけてみたりして気分を落ち着かせる。
もう一度先ほどポケットから取り出したものを見る。
どうみても・・・。
見覚えのある小さな人形。
実はさっき七瀬さんのバッグの中身を拾い集めているときに見つけて、拝借してしまったしだいなのだが。
人形とにらめっこしていると、先ほどのお姉さんがケーキと飲み物を運んできてくれた。
とっさに笑顔をつくって対応すると相手もにこやかに笑ってくれた。
人形と話してる変な人って思われたかな・・・。
まもなく七瀬さんが戻ってきた。
「お、おまたせ」
イスに座った七瀬さんはケーキにひとしきり感動した後カフェオレに口をつけた。
俺はタイミングを見計らいつつ、意を決して話しかける。
「“百瀬さん”」
彼女の肩がビクッと震えた。
ケーキに刺さったフォークがそのままの状態で止まっている。
俺は気持ちを落ち着けるためにコーヒーに口をつける。
「気づいてたの?」
やっぱり。
「いや」
「でも、覚えてくれてたんだ」
彼女の顔がほころぶ。
「久しぶりだね、4年ぶりかな?」
俺はケーキの上に乗っていたブルーベリーを口の中へ放り込んだ。