scene3-3 ケーキでも食べようか
自転車を押しながら七瀬さんと駅前に戻る。
大通りに出るとそこは相変わらずの人通りの多さを保っていた。
彼女のおかげで今日は良い買い物ができた、財布の中身もほんのりあたたかい。
感謝、感謝。
スクランブル交差点の信号が青く点灯し、全員が一斉に歩き出す。
と、渡り終える直前、前方から走ってきたスーツ姿の男性。
「きゃっ!」
その男は左隣を歩いていた七瀬さんの肩に勢いよくぶつかったのだ。
なんてやつだ!
七瀬さんは後ろへ突き飛ばされ、バッグの中身が辺りに散らばった。
男はよほど急いでいたのか、何度か大きく頭を下げて謝るとすぐに走っていってしまった。
俺は少し先に自転車を停め、今度は七瀬さんを立たせてあげると散らばったものを急いで拾う。
信号が点滅を始める。
全て拾い集め、七瀬さんの手を引いて自転車を停めた位置まで向かう。
「怪我とかしなかった?」
「う、うん・・・大丈夫だと思う」
七瀬さんは制服のスカートについた埃を掃う仕草をする。
その左手にうっすら血がにじんでいた。
「七瀬さんって甘いもの平気?」
「え?うん、好きだけど」
「じゃぁ、ここは入っていかない?傷口洗ったほうがいいよ。あと、お礼ってわけじゃないけどさ、七瀬さんのおかげで手持ちもあるし」
来るときに見つけておいたケーキショップを指差す。
実際理由はそれだけじゃないけど。
きょろきょろと傷口をさがしていた七瀬さんに、
「左手首のところ、袖まくったほうがいいよ」
と、教えてあげた。