scene1-1 懐かしきかな新天地
ひどい揺れだった(結果的に)。
そのおかげで目的地に着く頃には日も傾きはじめていた。
今日から始まる新生活。
俺はそれなりに期待に胸を躍らせたりしていたわけで、要するにあれだ、昨夜はあまり眠れなかった。
それも手伝ってか、心地よい電車の揺れが俺をまどろみの中へと誘うのは容易なことだった。
出端をくじかれたというか自らくじいた感はあるが、気を取り直して出発点の再設定。
こっそり心の中で宣言し呼び鈴を押した。
とりたてて記することもないごく普通の家。
ただ、こまめに整理されている花壇の色とりどりの花々が家主の性格をあらわしているような気がした。
「はぁーい」
中から甘ったるい返事と共に出てきたのは俺の母の親友である遥さん。
色白の肌、髪はセミロングで後ろをくくってまとめている。
最後に顔をあわせたのは10年近く前のことだろうか、何というか・・・全く変わってないよなー。
「もぉー、遅かったから心配しちゃった。さぁ入って入って!」
満面の笑みで俺の手を握り、家の中へと引っ張る。
玄関から見た風景も思い出の中のものそのままだ。
「ぁ、今日からよろしくお願いします」
しばらくお世話になる身だ、礼儀として頭を垂れる。ぺこ。
「まぁそんなにかたくならないで、今日から家族のようなものなんだから」
そういうと遥さんは俺をあたたかく迎え入れてくれた。
こういう相手に気を使わせない態度を自然にとることができるところも昔と変わっていないな。
それは俺にとってすごく助かることだ。
「届いた荷物は2階の部屋に運んであるから、部屋は幸太郎君の好きに使って」
そう言われ、俺は2階へと上がった。
夢にまでみたひとり部屋。
大人への階段を上がっていく。
決して階段をかけた洒落ではないことをここに補足。
部屋はきれいに片付けられていて、隅にダンボールの箱がいくつか積み上げられていた。
俺が実家から送っておいたものだ。
さて、これからどう俺色に染め上げてやろうか、ふひひ。
という考えはいったんどこかに預け、ベッドへと身を投げ出した。