第46話 死人に手向ける二振りの剣と花
ヒスイ「......」
ここは、彼の墓地
でも、この墓の下に彼の死体はない
そんな場所に、私は墓参りに来ていた
生き物は、何かを頼り、何かをバネにして、次に進む
だから、喩え死体が無くとも、生き物には墓が必要
......そう考えるのは、自分に対する言い訳だろうか
(ヒスイが手に持った二刀の剣を墓の近くへと置く)
ヒスイ「「どうか冥界へと旅立つ前に、餞別として受け取ってはくれぬだろうか
さすれば、魂は大地に還り、武人として冥界に歓迎されるだろう」......」
私の家の鎮魂の儀式である
冥界へと旅立つ死者にかつて相棒だった剣を捧げ、その剣を持てば武人として魂は精算されるだろう
という考えで生まれた儀式.....と言っても口頭上のものだけど
私が捧げたのは、既に刀身が割れた私の神器と、彼が普段愛用していた剣
一見するとただの剣だが、この剣はどれだけ乱雑に扱っても刃こぼれせず、いつ使っても1番切れ味がいいという幻のような剣
彼はただの武器と言っていたが、並大抵ならぬ力を持つ武具は、その時点で神器と言っても良いのでないだろうか
と、私は考えている
ヒスイ「......っ」
拳を握りしめる
それもそのはず、時々.....いや毎日、彼が灰塵となって消えゆく様が脳から離れないんだ
それに、この場所は彼の告白を受けた場所
ヒスイ「そんな場所.....とてもじゃないけど居座れない」
そうして踵を返そうとした瞬間、異変が起きた
ふと、気になって墓を見ると、供えたはずの二刀が消えていた
ヒスイ「......餞別として持っていった
....って事かな」
そうしてヒスイは家に帰った
ラディウス視点
???「ラディウス、お茶置いておくね」
ラディウス「ありがとう、助かる」
彼女はアレクシア
私の助手で、妻でもある
アレクシア「シイナさんの件は残念だったね....」
ラディウス「あぁ....本当に....残念だ」
唇を噛み締める
彼の訃報は実に残念だ
いや....「残念」という他人行儀で表すのは良くないな
彼は古くからの友人で.....
もはや家族のようなものだった
だからこそ、彼の死は実に堪えるものがあった
....しかし、もっとこの死をもっと悲しんでいる人物がいる
そう、彼女だ
実は私は時間の合間を縫って何度も墓参りに行こうとしているのだが、毎回墓の前で心底悲しそうに、そして悔しそうに立ち尽くしている
そんな彼女を邪魔して部外者である私が割り込むのも少々気が引けるので、今まで避けていたのだが....
ラディウス「アレクシア、彼の墓参りに行こう」
アレクシア「え、急に?まぁいいけど...」
ラディウス「丁度私も、そして君も暇だ
それに、そろそろいい頃合いだろう
彼女には悲しみを分かち合える存在が必要だ」
アレクシア「あぁ....確かヒスイさんだっけ?僕は両方会ったことないからわかんないけど....
そこまで他人の死って堪えるものなの?」
ラディウス「現に私がそれなりに堪えているんだ
彼女が堪えない筈が無い
それに、家から歩いて1分程度とはいえ、未練がましく何度も墓参りに行くのは何より堪えている証拠だろう」
アレクシア「ふーん....」
そう、何度も短い間隔で墓参りに行くのはどう考えったっておかしい
余程堪えているか、何か理由があるのどちらかだ
ラディウス「何はともあれ、今の仕事を終えたら行くぞ」
アレクシア「はーい」
それから時が経って、シイナの墓前
ラディウス「....やはり居るな」
アレクシア「あの人がヒスイさんねぇ....」
ラディウス「..........何故こっちをみるんだ」
アレクシア「いや、随分綺麗な人だなぁ....って」
ラディウス「....だからなんだ」
アレクシア「いや、未亡人って立場を理由して浮気とかしようとしてんのかと」
ラディウス「逆に何故私がすると思った!?」
ラディウスが驚いて大声を出した瞬間、ヒスイが驚いたような仕草をした後、ラディウスたちの方向を見た
ラディウス「....この距離の気配を察知できないのなら、余程堪えているに違いないな」
ラディウスは小声でそう呟き、ラディウス達はヒスイの前に顔を出す
ヒスイ「貴方は....確かラディウスさんでしたっけ?
えーっと隣の方は....」
アレクシア「アレクシアです
彼の助手兼妻です」
ヒスイ「妻....ってことはラディウスさん結婚したんだ」
ラディウス「あぁまぁ....
それより、俺達にも供え物を捧げさせてくれないか」
ヒスイ「ごめんなさい、食べ物とかそういった部類は鎮魂の儀式の都合上禁止されてるんです」
ラディウス「取り繕わなくていい
彼、味覚が無いんだろ?仮にも私は医者だぞ
だから、花を持ってきた」
ヒスイ「....そうでしたね
花なら大丈夫だと思います」
ヒスイは脇に逸れ、口を開く
ヒスイ「どうぞ、ご自由に
では私はそろそろ帰りますので」
そう言って立ち去ろうとした瞬間、ラディウスが話し出す
ラディウス「待ってくれ」
その言葉を聞いた瞬間、ヒスイは振り返る
ヒスイ「はい..........?なんでしょう」
ラディウス「何度も墓参りに来る理由を教えてくれ
いくら家がすぐそこだとしても、そこまで頻繁に来る理由は無いはずだ
ただ、もし感情の奔流による行動だとしたらすまない
だが私にはそれ以外の理由がある気がするのだよ」
ヒスイ「理由..........ですか
..........まぁ、強いていえばあそこに行けば擬似的にではあるけど、彼もどってくるかのよう気がして........
ここは少し個人的にもトラウマがある場所なんですけどね.........」
ラディウス「うん?だったらなぜこの場所に?」
ヒスイ「自分でもわからない..........
ただ、その時本能的にその場所じゃないとダメだ、と思った」
ラディウス「....まぁ、人ならざる者である我々にだって感情はある
彼が1番わかりやすい例だ
そう思う時だってあると私は思う
......すまない、引き止めてしまったな」
ヒスイ「いえ、少しだけ心の整理がついた気がします
ありがとうございました」
そうして一礼をした後、ヒスイは去っていった
アレクシア「...なんか、何から何まで丁寧な方だね
ヒスイさんって」
ラディウス「あぁ....まぁ彼女は人間で言うお嬢さんだからな
少しだけシイナに聞いたが、彼女はそれなりに裕福な家に生まれ、清く正しい礼儀作法を教え込まれた
...まさに、お嬢様って感じだな
だがある日彼女は剣術に目覚め、剣術を始めたらしい
それからかなり時が経ち、シイナと婚姻してから徐々に彼に影響されていき、敬語等が彼の前だけでは外れて話していたそうだな
だがそんな素振りを微塵も見せないあたり、やっぱりかなり心に響いてるんだろうな」
アレクシア「ふーん
で、そろそろ戻ろなきゃ行けないのに全く墓参りらしいことしてないけどどうするの?」
ラディウス「....もうそんなに時間が経っていたのか?」
アレクシア「うん、結構雑談とかしてたからね」
ラディウス「なら花だけでも手向けよう」
二人はシイナの墓の元に花を置き、ラディウスは目を閉じて合唱し、心の中で死者に語りかけた
アレクシア「(.....花だけ手向けるって言ったくせに)」
ラディウス「....よし、じゃあ戻ろう
早く研究を進めなくては」
アレクシア「はいはい」
そうして2人は自らの研究室に戻った
火焔姫視点
火焔姫「......っ!」
唇を噛み締めてしまう
あの時我に姿を表した時は漸くこの世界に真の平和が訪れると思い込んでいた
その矢先に奴が死んだという訃報を受けた時は何の冗談かと思ってしまったが事実であることを確認してしまった
火焔姫「.........」
つい、昔の事を思い出してしまう
かつて世界を混沌に陥れようと暴走したあの日、どこからともなく2人の男女が現れた
「誰だこやつらは?」と思ったが結局殺せばいいという結論になり、全力で殺すつもりで戦った
しかし、負けた
いくら1対2とはいえ、こちらは神器2つを解放している身
それに比べてあの2人は神器など持っていなかった
敗因は数の差ではない
実力だ
負けた後に牢屋にぶち込まれた後、そう思った後は何もかも活力を無くした
そんなある日、例の2人がやってきた
「敗者を嘲笑いに来たか?」と自虐混じりで話しかけたら返ってきた返答は
「...何故、君はもう全て諦めているんだ?」と奴に我の全てを見透かされたかのように返答をした時は驚いた
自殺して死のうと思っていた事すらも見透かされ、我は白状して自分の全てを話した
〜当時〜
火焔姫「...これが我のこれまでの全てだ
全てに絶望し、世界に復讐をしようとした事すらも止められ、自身よりも強き者に捻じ伏せられる
............もう....生きる理由を失うのには充分だろう....?」
そう言い火焔姫は牢屋に落ちていた鋭いガラス片で自身の喉を貫こうとする
しかし、シイナ即座に手をだしガラス片は火焔姫の喉ではなくシイナの掌を貫いた
火焔姫「なっ.....!?」
シイナ「....君のこれまでの全ては聞かせてもらったよ
確かにそれらは君が生きる活力を失うに値する出来事かもしれないし、当事者じゃない僕らは君の気持ちを完全に理解できない」
火焔姫「.....っ!それならっ!」
シイナ「でも!!!」
シイナは大声で火焔姫に言わんとしてる事を止め、一拍を置いて話し続ける
シイナ「この世には他人に手を上げる事ばかり考える悪人や、世界に害を為す者達がいるかもしれない
勿論君だって世界を破滅させようとしたし、到底許されることでは無い
それでも、死んでいい人なんて一人もいないよ....」
火焔姫「....」
火焔姫は俯いて黙り込む
シイナ「...過去は、変えられない」
火焔姫「...?」
シイナ「大事なのは、今をどう生きるか」
シイナは一泊を置いて続ける
シイナ「もし、この世界が本当に救いようのない世界で、生きることがそこまで苦痛だというなら....」
シイナはナイフを火焔姫の近くに置く
シイナ「それで自殺すればいい」
火焔姫はナイフを手に持ってナイフを見つめる
シイナ「ただ、少しでもこの世界に希望や、自分の生に先を見出したのなら.....」
一拍を置いて、言葉を続ける
シイナ「僕に相談してくれればいい
この国の王様は僕たちに借りがある
何とかして君を牢屋から出すよう頼むよ」
火焔姫「....なぜそこまで我に執着する」
シイナ「.....強いて言えば、君に同情したから....かな
大切な人を失う気持ちは僕たちもわかる
だからこそ、そこまで墜ちてしまった君に救いの手を差し伸べてあげたくなる」
火焔姫「......綺麗事だな」
シイナ「僕はやらぬ善よりやる偽善の方が好きなんだ」
火焔姫「..........フン」
シイナ「一週間後、また来る
その時に選択を聞かせてくれ
もし途中で死にたくなったら僕たちに遠慮せずやってくれ」
火焔姫「...言われなくてもする」
~現在~
火焔姫「そして、結局我は生きることを選んだ
最初は愚かな選択をしたと後悔した
だが、次第にそれが善い選択であった事を自覚し始めた
あとから気づいたよ
あの時死にたかったのは生きる活力を失ったからじゃない
「人と関わることが怖かったから」だ
こんな口調になり、あの頃の我....
.....いや
私を棄てたのも、他人を拒絶したかったから
あの二人の温情に触れるのも怖かった
いつか...私を裏切るんじゃないかって
でもあの二人はそんなことしなかった
最後まで、私の「友人」として振る舞ってくれた
ヒスイさんが死んだと最初聞いたときは悲しかった
でも、もっと哀しさを体感している人物がいると思って、彼の事を慰めにいった
そしたら....見たくもない彼の姿を見てしまった
まるで、「全てに絶望し、世界を混沌に陥れている自分を見ている」ような感覚がした
綺麗事を並べ、善の塊のような存在だった彼が.......
...........彼の事を慰めれなかった
かつて慰めてくれた彼のように、彼を絶望から救い出すことが出来なかった....」
いつしか、彼を「亡き番を追う骸骨」と呼ぶようになった
死んだようにあちこちを奔走している彼の姿が痛々しくて見ていられなかった
そんな彼が、ヒスイさんを生き返らせたという報告が入った時は到底信じられなかった
彼の幻覚かと疑ったが、この目で確かめた
....彼女の存在を
だからこそ、ようやく真の平和が訪れたと思った矢先に彼が死んだという情報が入った時は
ー自分を抑えれる気がしなかった
その時、火焔姫の目尻から炎で無くなった筈の涙が
一粒、流れた




