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彼方より雫を求めて  作者: 春星
最終章 掴んだ「希望」と手放した「絶望」
46/50

第45話 一生に一度の別れに「ありがとう」の言の葉を

それから幾分か時が過ぎ、ある時横たわっているシイナに向き直ってヒスイが口を開いた

ヒスイ「.....体調はどう?」

シイナ「悪くない....と言うには些か説得力に大幅に欠けるな」

ヒスイ「じゃあ悪いってこと?」

シイナ「正直俺でもわからん

長年この「身体」に慣れてるせいか、自分が辛いか楽かわかんなくなってきた」

ヒスイ「.........そんなボロボロになりながら無茶するからでしょ

ほんとにこの人はもう......」

シイナ「悪いな、そういう性格なんだ」

ヒスイ「はぁ........」

シイナ「....わかってるとは思うが、俺の後を追ったり、俺と同じようなことをするなよ?」

ヒスイ「そんなことわかってるよ.....

そんな馬鹿な真似をするのは貴方だけでしょ.....」

シイナ「.....悪いな」

ヒスイ「別に

ただ、どうしてそこまで自己犠牲精神が強いのかなって」

シイナ「んなこと言われてもな.....

「最愛の人だから」としか言いようがねぇ」

ヒスイ「....ありがとう」

シイナ「.....普通の感謝の言葉として受け取らないことにするよ」

ヒスイ「当たり前でしょ

私からしたら複雑なんだもん....」

シイナ「悪かったな」

ヒスイ「.......それ、後悔も反省もしてないでしょ」

シイナ「バレたか」

ヒスイ「はぁ..............」

ヒスイは心の底から呆れたような声を出す

ヒスイ「それにしても........

やっぱり今でも昔を時々思い出すんだよね....

例えば、貴方が私に初めて告白してくれた時とか」

シイナ「あぁ、あの時の.....だがもう今に満足しちまってるのか、昔の事はもう思い出さなくなっちまってるんだよな」

ヒスイ「...私としては、満足しないで欲しいんだけどね....」

シイナ「ただ.....なんだろうな」

やっぱ、もっと生きたかった」

ヒスイ「.....っ!何度も自殺しようとしてた人が今更何を言い出すの!?

だったら、私に相談して解決法を何とかして探し出すか、ラディウスに頼るとか

....いいえ、最初から私の為に時間を使わずに平和に生きて、平和に死ぬとか......

.......やっぱやめた、最期の時にこんな話して喧嘩したままでいたらきっと後悔する」

シイナ「悪かったな

まぁ、お前の言うことにもごもっともだな」

ヒスイ「ごもっともって......」

シイナ「初めから、お前の言う通りにしていた方が良かったかもしれない

今よりその方が誰が見てもいい結末だったのは火を見るより明らかだ

だが、俺は」

シイナは1呼吸置いて続ける

シイナ「たとえ数百年の時間を無為に費やしても、

たとえその過程が肉を抉って骨が碎けるような地獄であっても、

たとえその結果がたった一時の妻の笑顔のためだったとしても、

俺はお前の命が救えるためだったら迷わずその道を選ぶ」

ヒスイ「......狂ってる

狂ってるよ....貴方」

シイナ「自分でも知ってる

....俺が如何にとんだ馬鹿野郎で、クソッタレで、救いようのなくて、願うはずのない奇跡に縋り、身の全てを賭けるようなどうしようもない

「妖怪」って事はな」

ヒスイ「....私は、自分が死ぬ時あんな遺言を遺すんじゃなくて、いっその事思いっきり貴方のことを投げ捨てるような事を言った方がよかったのかな........」

シイナ「だとして、俺は自死を選ぶだけだ」

ヒスイ「...........どの道、貴方は救われないんだよね

私は何度も救われてるのに」

シイナ「いや」

シイナは否定し、言葉を続ける

シイナ「これまでに一杯お前に救われてきたし、第一俺はお前が生きてるって事実だけで救われてる」

ヒスイ「そ....っか

...多分、私達は必要以上にお互いを求めすぎたんだろうね

お父様が死んだその日から、私達は穴を埋めるように互いに傷を舐めあった

でも、それが良くなかった」

シイナ「...........」

ヒスイ「....私も元病人だからわかるよ

もう、辛くなってきたんでしょ?」

シイナ「.....ああ」

ヒスイ「.....今更だけど、どうして貴方はそこまで諦めが早いの?

この症状を知っていたとしても、どうにかしようと画策しないの?」

シイナ「....とっくの昔に」

シイナ「自分の為に生きるのはやめたんだ」

シイナ「命脈の雫の存在を知った時......いやもっと前だな」

シイナ「お前が最期の言葉を遺した時からかな」

シイナ「元々雲を掴むような話だったし、それでお前が救えれば万々歳だと思ってた」

シイナ「.....それに、お前に命脈の雫を」

シイナ「使う前から思っていたんだ」

シイナ「「なぜ俺が生き残ったのだろう」って」

シイナ「俺は確かに強い妖怪で、「優しい人」なのかもしれない」

シイナ「けど、最近まで思ってたんだ」

シイナ「既に血に塗れたこの手を見る度」

シイナ「果たして俺が生きてる価値はあるんだろうか、と」

シイナ「常々思っていた」

ヒスイ「.......」

シイナ「結局、別に世界のお前を救ってたのも罪滅ぼしのつもりだったのかもな」

シイナ「お前の似て非なる存在を救ったってお前を救ったことにはならないのにな」

ヒスイ「....でも、少なくともその「私達」は救われた....でしょ」

シイナ「その言葉も既に聞いたな......」

シイナ「確かにそうだ」

シイナ「けど、それで俺に葬り去られてしまった人々が」

シイナ「戻る訳じゃない」

シイナ「たった2人を救ったからなんだ」

シイナ「たった1人を幸せにしたからなんだ」

シイナ「....ただの俺の自己中心的回路のせいで、数え切れない人数の人々が死んでるんだぞ」

シイナ「そんなの、慰めにならねぇんだよ.....」

ヒスイ「..............................っ」

思わず唇を噛むヒスイ

シイナ「.....もう.....か」

シイナ「そろそろ俺の体が限界のようだ....」

ヒスイ「っ......待って、聞きたいことがある

平行世界の私と共に過ごそうとは思ったことないの?

貴方的にはそれも悪くは無いんじゃないの?」

シイナ「.....たしかにな」

シイナ「でも悪いけど....」

シイナ「俺はお前しか愛せないんだよ」

ほとんど動かない表情筋を無理やり動かして笑みを作るシイナ

シイナ「ありがとな.....」

シイナ「ヒスイ」

ヒスイ「.......っ!

私も....っ!こちらこそ....っ!貴方を愛してるっ....!

そして今までこんな私を愛してくれてありがとう...........っっ!!!」

満点の笑みと涙を浮かべるヒスイ


以後、シイナは完全に物言わぬ物体と化し、緩やかに風に運ばれてシイナの身体はやがて塵芥の如く完全に消え去った


ヒスイ「さようなら.....たった一人の女のために全てを犠牲にした私の最愛の人....」


空を見上げながら呟くヒスイの足元を

ーー涙の粒が地面を濡らした




一方、少し時が遡って小屋を掃除する別世界のヒスイ二人


黒ヒスイ「あれ、なんかベッドの下に置手紙が」

弟子ヒスイ「え、シイナさんのものですかね?」

黒ヒスイ「どうやら貴方に向けたものらしいよ はい」

弟子ヒスイ「えーと何々...?」


-ヒスイへ

ヒスイ、これを見てる頃には恐らく俺は自分の世界に帰り、お前たちは中々世話になったこの小屋に掃除にきている頃合だろう

お前達ならそうするだろうと思って置手紙を渡すことにした


これまで、色々ありがとうな

少なくとも、お前は俺の心の拠り所になってくれていた

これを言ったら恐らくお前は激昂するだろうが、それでも聞いてくれ


実は、お前に会うまでは


弟子ヒスイ「今まで行った世界を滅ぼしていたんだ....!?」

黒ヒスイ「え....!?いや、彼はそんなことする人柄じゃ.....」

弟子ヒスイ「....恐らく、口頭ではそこまで実感が湧きませんでしたし、本人もまるで軽口を言うように言っていましたが、私達が想像しているより圧倒的に彼は彼自身の世界の私を失ったことに絶望していたんでしょうね

そして、あの時シイナさんにこう言いました「あの地獄のような世界の時、剣術を教えくださった時、私はカナデさんが扱う魔法を全く知りませんでした」と

その理由は、これまで人と関わらず「全員皆殺しにしていたから」

「だから」、あの精神が不安定だった時の夢のようにシイナさんは私を徹底的に打ちのめさせずに、夜逃げするかのように置手紙を用意した

きっと、あの夢で時間停止を使ったのは、それほど彼と初めて剣を交えた時の謎の衝撃が私自身にとって衝撃的なことだったから

.....正直全てに合点が行きました」

黒ヒスイ「いや、まだ疑問はある

なぜ、彼はこんな手紙を用意したんだい?

わざわざこんな手紙を用意する意味が....」

弟子ヒスイ「....続きを読んでみましょう」



勿論、今頃深く動揺している頃だろう

だが合点がいっただろう?

なぜ、路銀の入手経路で俺が人を殺すのにそこまで抵抗がないのか

その理由は、既に大量の人を殺して、「この手は汚れに汚れている」から

自己犠牲精神が強いと自分の行動を見返して思ったし、俺の世界のヒスイにも言われたが、

俺は自己犠牲精神が強い高潔な存在じゃなくて、もう血で染まった俺の身体を清算したいだけだ


...だが、きっとお前は「そうじゃない」と否定してくれるだろう

なら、それでいい

俺は、俺自身はそう思わなくても、周りが思う「高潔な存在」で居たいからな


弟子ヒスイ「....終わりですね」

黒ヒスイ「.....おかしい」

弟子ヒスイ「何がです?そこまで違和感はないとは思うんですが.....」

黒ヒスイ「どうしてこんなに、さも彼は「遺書」を書いてるかのように手紙を書くんだい?」

弟子ヒスイ「....「遺書」?」

黒ヒスイ「そう、「遺書」

これから死にゆく人が親しい人に宛てて手紙を書くんだ

......昔、とある人がこれと似たような感じで書いてたから」

弟子ヒスイ「杞憂だと思いますけどね......

見返してみても、ただ永い付き合いに終止符を打とうと感謝の意を込めてるようにしか見えませんし、そもそも彼が死ぬ意味が.....

そこで、弟子ヒスイはハッと気付く

弟子ヒスイ「いや.....あの別れる前、あの夢が終わったときに「月に何度か帰ってくる」って確かに言いました

なのに、こんなもう二度と会えないみたいな書き方をするわけがない

忘れてるとは考えづらいですし....」

黒ヒスイ「......天井裏」

弟子ヒスイ「え?」

黒ヒスイ「天井裏から微かに甘い匂いがする」

それを聞いて、弟子ヒスイも鼻で嗅いでみる

弟子ヒスイ「確かに....何か匂いが.....」

黒ヒスイ「...一応警戒」

そういい、左手で黒炎を構える黒ヒスイ

それを聞いた弟子ヒスイは頷いた後、自身の鞘に手をかける

そうして天井裏に入った瞬間、真ん中の花と手紙に目がいく

黒ヒスイ「....やっぱり」

弟子ヒスイ「........」

黒ヒスイ「.....これも、かな はい」

弟子ヒスイ「.............(このタイミングで手紙....さらに同梱されてるあの花.....

チューリップではないけど.......

嫌な予感が......)」


-ヒスイへ


これを見つけたってことは何かに気づいたってことだろ?

まぁそれが何かは想像もつかないが......

この手紙の内容は、はっきり言って、書いてる今でさえ本当に書くべきか悩んでる


残酷な真実か、甘い偽りの夢か


お前がどちらを選ぶかは任せる

あのベッドの下の手紙だけで済ませるのもいい

それもまた選択の一つだ

ただ、この先を読む

つまり、残酷な真実と告げられる勇気があるのなら、屋根裏の端にある手紙を読め


弟子ヒスイ「....なんですかそれ」

黒ヒスイ「.....どうする?

これはあくまで貴女に問われてる

.....私は助言しないよ」

弟子ヒスイ「そんなの.....

読むに決まってるじゃないですか

もう今更何に絶望しろとってぐらい彼との別れは経験してるんです

むしろ読んでやりますよええ」

黒ヒスイ「(......これ間違いなく怒ってる)」


そうして、端にある手紙をみつけ、読んだ二人



......正直、お前なら絶対読むって思ってた

そして多分、お前は怒ってるんだろうな

まぁ俺に怒るのも当たり前か.....


さて、前置きはさておき本題に入ろう

俺はきっと、段々と身体が動かなくなりつつあるんだろう

だが、それ自体は重要じゃない

問題は、その原因が「命脈の雫」ってことだ

命脈の雫は死した者ですら現世に還る事ができる代物だ

その代償として、身体が動きにくくなるってわけはねぇよな

.....そろそろ気づいただろう

そうだ


ーーー俺はもう死んでいる


今までみたいな疑似的な死ではない

「本当の死」だ

恐らく、自分の身体の時を止めて無理やり動いたせいもあるが、俺は風化して風塵と化すだろう

「もう、絶対に助かることのない「死」」

それが命脈の雫という禁忌に触れた呪いだ

無論、使用した全員が全員死ぬというわけではない

ただ、覚えているか?

あの時、俺は「ヒスイ」と戦わずにお前たちに「任せた」

それは、心を試す試練に背き、無理やり過ぎた力を使用したということ

命脈の雫というあまりに強大な力に俺の心は耐えることはできなかった

これは、戦っている時も「一人でなきゃならない」

そうでないと、力まで雫に耐えられない

だから、お前たちと離れたがってた

だが、あの宿屋から出て、俺達二人で命脈の雫を探していた時俺がやけにすんなり諦めた理由はな

俺の心の試練を代わりにやってもらおうと思ったからだ

きっとお前なら一人でも、あいつに勝てると信じて.....っていえば聞こえはいいよな

実際やってることは本来自分一人でやらなきゃいけない事をお前に押し付けようとしてただけだ

しかも、結局俺以外の全員に押し付けちまった

全く情けない話だな


まぁこれを見て、お前は急いであの遺跡に向かい、俺の世界に行くことだろう

だから先手を打たせてもらった

あの遺跡を封印し、俺が解除するまで二度と異世界に行けないようにした

嘘だと思うなら実際にやってみてもいい

ただ、徒労に終わるとだけ言っておく


そうだ、手紙に同梱していたあの花だがな

名前はスカビオサ

花言葉は.....


「私はすべて失った」


弟子ヒスイ「そんな......

本来彼のためを思ってした行動が......

彼を死なせた......」

黒ヒスイ「ヒスイ....」

弟子ヒスイ「それに、「絶対に助かることのない「死」」って.....

そんなの...あんまりだよ.......」

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