第38話 襲来する亡霊、氾濫する感情
それから数ヶ月が経過した後、ヒナタとカズキとカナデは命脈の雫をヒスイに預けて人助けの旅に出て、ヒスイと黒ヒスイは一向に目覚めないシイナの看病に当たっていた
ヒスイは外にも出ず、ずっとシイナのそばにいる
シイナを運び出した段階でシイナの体の異変に気づき、あらゆる手を尽くしているが一向に体の腐敗は止まらず、シイナからは植物の香りが漂い、身を置いていた所からも追い出され、人が全く寄り付かない小屋でシイナの看病をしていた
ヒスイ「せっかく命脈の雫を手に入れたのに....
いつにたったら目覚めるんですか....
この体の変質はいつまで経っても止まらない胸の辺りや顔はまだ進行していないけど、手や足はもう完全に植物と化してる
結構硬かったから仮に目覚めたとしても歩けはするでしょうけど....
とてもじゃないけどもう二度と戦闘なんてできやしない
このまま全身が覆われたら....やがて完全な植物となり風化する.....
....なんてネガティブな思考はダメだ
....この雫を彼に飲ませば......」
「やめておいた方がいいよ」
声と同時に扉の開く音がする
黒いヒスイだった
ヒスイ「でも....私たちがどんな手を尽くしても彼の状態は一向に良くならない
それに、もうこんな状態だったら生力が尽きて死んでしまってるんじゃ....」
黒ヒスイ「だとしても、だよ
仮に生き返ったところで彼がどう思うと思う?
文字道理の必死に手に入れたものを自分に使うなんて....
言い方は悪いけどさ
これ以上の生き地獄を彼に与える気?」
ヒスイ「それは.......」
黒ヒスイ「それに、私はまだ彼は生きてるって思ってる
根拠は一つ
彼の体の状態がまさにそう
ここまで来ると、植物が彼を侵食していたり、彼自身が腐敗しているんじゃなくて、「彼自身が何らかの影響で完全に妖怪化した」とも推測できる
現に、彼は融合化にはとある呪いがあるって言っていた
彼の性格から鑑みるに、恐らくだけどそれ誇りを持っている自分の種族が永遠に変わってしまうことなんじゃないかな?」
ヒスイ「.....」
黒ヒスイ「だから、まだ死んだと決めつけるのは些か早いんじゃないかな?」
ヒスイ「....わかりました
確かにあなたの言うことは一理あります
それにしても、どうして私がずっと彼に寄り添っていても何一つ文句を言わないでくれるんですか?
貴女だって彼に恋をしてるんじゃ...」
黒ヒスイ「....確かに、彼に惚れているのは事実だよ
でもね正直に言うとどうせならぽっと出の私より、これまでもずっと暮らしてきた貴女の方が彼に相応しいって思ったんだ
あ、勿論それは彼の世界の私も同じだよ?」
ヒスイ「.....なんか今まで色々あったせいで霞んでいたけど、世界は違えど同じ私と会話するってとても不思議ですね」
黒ヒスイ「確かに、それは言えてるかもね」
そうしてふたりが談笑したその矢先に
「おまえと...たた...かいたくな...い」
二人「っ!?」
声の正体はシイナだった
そしてまるでゾンビのように立ち上がったシイナは、どこからともなく桜剣ネフリティスを取り出し、構えた
ヒスイ「...わかってますね?」
黒ヒスイ「うん、「絶対に斬らずに出来れば拘束して落ち着かせる」それが出来なければ「気絶させる」だよね?」
ヒスイ「...はい
ですが2人だからといって絶対に慢心しないように
慢心した瞬間に二人とも仲良くあの世へ行けますよ」
黒ヒスイ「そんなことわかってるよ....!」
そうして、シイナと2人のヒスイの戦いが幕を上げた
....と思いきや意外とすんなり拘束できた
ヒスイ「......そもそもの体が体なのか、相手にすらなりませんでしたね
(それにしても戦いたくないって言っておきながら戦意があるのはなんででしょう....?)」
黒ヒスイ「まぁ彼のあの強さを相手にしなかっただけよしとしようよ
後暴れられて傷つけずに拘束するの結構大変だから早くしてくれる....?」
ヒスイ「あ..すいません」
そうして気を取り直して、
ヒスイ「師匠!私です!ヒスイです!目を覚まして下さい!
私達は毛頭もあなたに危害を加えるつもりはないんです!」
一方その頃シイナは
シイナ「ここは....どこだ?確か、命脈王に勝って、それで....そうだそして意識を失ったんだ
しかしここはどこなんだ?早く抜け出して意識を回復しないと....」
「そんなことさせる訳ないでしょーが」
シイナ「っ....お前は」
ヒスイ「全く.....私が死んだからって数百年も雫を探し続けちゃってさ.....
勿論それは嬉しいけど、なんというか呆れたわ.....」
シイナ「呆れたって....俺はだな、お前のために....」
ヒスイ「私にために何百年も戦い続けるんだったらもういっその事自分のために時間を使ってくれた方が嬉しいんだよ!!」
シイナ「っ....」
ヒスイ「今もそんなボロボロになって完全な妖怪化までしてさ....
お願いだから自分をそんなに痛めつけないでよ....」
シイナ「.....」
ヒスイ「....もういい
いっその事、私が終わらせる」
シイナ「な....待て、それならもう....」
ヒスイ「言い訳無用
来い、桜剣ネフリティス
もう.....貴方が傷ついて居るのを見たくないの
お願いだから抵抗しないでよ?
.....苦しむ貴方の顔をみたくないから」
シイナ「お前と...戦いたくなんてない」
ヒスイ「じゃあ抵抗せずさっさと死んで
.....どうせ、自分のために生きるよう諭しても聞く耳を持たないでしょ」
シイナ「....それは」
ヒスイ「安心して
ちゃんとしてれば一撃で仕留められるから」
そして斬撃が飛んでくる
シイナ「(この程度なら避けれ.....
っ!?
身体の反応が圧倒的に遅い!
これじゃ躱せないか...仕方ない急所だけはずらして最大限ダメージを抑える)
っ!!」
ヒスイ「チッ...だから言ったのに....まあいいか
もう瀕死なんだからトドメをさせば.....っ!?
(剣が抜けない!?シイナは私の剣を抑えている訳でもない...いや、魔力か!魔力で最大限剣を体の器官にしようと抑えているんだ!)」
シイナ「がぁぁぁ...っっっっあ"あ゛あ゛っっっ.....」
ヒスイ「やめて....やめて...もうこれ以上抵抗しないで....これ以上貴方の悲鳴を聞きたくない
どうして貴方はこんなにも自分を粉にしようとも生きようとするの....?」
シイナ「(....!今だ!)」
シイナは力を振り絞ってヒスイを振り払い、腹に突き刺さってる剣を掴み、剣をヒスイに首に突き立てる寸前まで迫っていた
ヒスイ「ははは.....結局勝てないのか
小さい頃ならいつも私が勝ってたのに....」
シイナ「そりゃ何百年前ものの話だろ
....時代は変わるさ
良くも、悪くもな」
ヒスイ「....私は結局貴方を止めれなかった
だけどこれで終わりじゃない
私は貴方のためにこれからも殺そうとする
だから...まずは私の1敗ってことで
....そのまま殺して
どうせ、死んでる身なんだから」
シイナ「...それについてなんだがな既に命脈の雫は確保している」
ヒスイ「.....え?」
シイナ「つまり...その....少し俺の姿形が歪になったとはいえ二人で一緒に過ごせるって訳だ」
ヒスイ「....ハハ...なんだ
そりゃ必死に生きようとするよね....
わかったよ
もう少しだけ待ってあげる
だけど、少しの間だけ眠ってもらうからね
思ったより傷が深そうだし」
シイナ「ハハ....確かにな
それじゃ、お言葉に甘えて眠るとするか」
ヒスイ「おやすみ」
シイナ「ああ、おやすみ」
ヒスイ「.....
(結果的に私が負けたとはいえ、もっと圧勝されるかと思った
身体も数ヶ月経ってかなり回復してきてるし.....
そもそもの話、あんな速度の突きなんて余裕で躱されて一瞬で勝負が終わるって思ってた
でも、彼は躱すんじゃなくて、受け止めた
いや、「躱せなかった」....?
その謎は私もよく分からない
ただ言えることは.....)
またあの日常が戻るのかぁ....
楽しみだなぁ....」
一方その頃現実世界
ヒスイ「...あれ?」
黒ヒスイ「......急に動きが止まったね」
ヒスイ「....まるで人形劇のように
っっ...もしも仮に今のが人形のように無理やり動かされていたのだとしたら....?」
黒ヒスイ「それならいきなり私たちを襲った理由もあの言動もまぁ説明がつかないことは無い
だとしてもなぜあんなに衰弱した彼を選んだ?
どうせやるなら私か貴女の方が合理的な気がするけど」
ヒスイ「真相は未だ分からない....か」
そうして寝床に寝かせつけたシイナを見ながら思考を巡らせるのであった
それから1週間ほど経った後....
ヒスイ「.....何やってるんですか」
黒ヒスイ「いやー....1週間前に久しぶりで急に戦闘したのと色々飛び回ってたのが祟ったのかもね....
ゴホッゴホッ」
黒ヒスイは風邪にかかっていた
ヒスイ「全く.....まぁ、あらかた処置もしましたし、お粥でも作っとければそのうち治るでしょう」
黒ヒスイ「いやほんと....ありがとね」
ヒスイ「....なんか性格変わりました?」
黒ヒスイ「あー...よく言われる
私風邪ひくと性格変わるみたいでさ
私自身ではよくわかってないんだけどね」
ヒスイ「よく言われるって....
もし仮に今シイナさんが目覚めたらどうするつもりなんですか?」
黒ヒスイ「そんなよりにもよってこのタイミングで起きあたったりしないでしょ......」
二人「.........」
ヒスイ「....起きませんね」
黒ヒスイ「折角フリまでしたのに....」
ヒスイ「あれ以降完全に音沙汰無し.....
強いて言えば、顔色が少し良くなった程度でしょうか?」
黒ヒスイ「まぁ気長にまとうよ.....元よりそのつもりでここに残ったんだからゴホッゴホッ」
コンコンとドアから音が聞こえた
ヒスイ「?誰でしょう
はい、どうぞ」
ヒナタ「久しぶりだねヒスイ
って言っても8ヶ月程度だけど....」
カナデ「あれ以降なんかあった?」
ヒスイ「それがですね....」
〜事情説明中〜
ヒスイ「ってことがあって以来何も変化なしです」
ヒナタ「うーん.....その時になにかすべきだったのかな?」
ヒスイ「それは私も思ったんですが、よく考えたらいくら私が呼びかけても全く反応無しで、しかも急に糸が切れるように倒れ込んだんですよ」
カナデ「うーん...わかんないわね」
ヒスイ「....ところでカズキさんは?」
ヒナタ「ああ....カズキならとある街でいつぞやの剣祭りに似たようなものに情報収集も兼ねて参加してて、その時僕は別行動してて不参加だったんだけど、あまりにレベルが高すぎてカズキに弟子入りしたい人が続出して、放っておくことも出来ず、今では教室を開いてるみたいだよ
その街も大きかったから色々情報が集まるだろうってことでその街はカズキに任せてるんだ
ヒスイ「へぇ......」
カナデ「...あれ、そういえば黒い方のヒスイは?」
ヒスイ「あー......
まぁ中に入れば分かります」
黒ヒスイ「久しぶりー....ゴホッゴホッ」
ヒスイ「このとおり風邪を引いてまして.....」
二人「えー.....」
ヒナタ「まぁいいや
ヒスイ、移されないようにね」
ヒスイ「はい、その辺は対策しているのでご安心を
....一応、師匠にも」
ヒナタ「なら良かった
それじゃあ僕らはこの辺で。
また情報収集に勤しむとするよ」
ヒスイ「はい、それではまた......
......(いつも自分の無力さに虫唾が走る
シイナさんが起き上がったとき、なにか方法があったかもしれない
その方法を見つけてさえいればシイナさんの安否を心配せずに済む
そもそもあの洞窟に入った時だってそうだ
私にもっと力があればシイナさんがあんなに危険を犯すことはなかったのに....
「馬鹿言えそもそもあのままレーヴァテインを使い続けていれば俺が居なくならずともお前が死んでる」
はは....そうですね
全くその通りです
いつかあなたの事をシイナさんや師匠ではなく「シイナ」と名前で呼べるように....
ならないといいな....
だって、そう「なる」ってことはシイナさんの世界の私は二度と生き返らなくて、シイナさんも生を謳歌していないとまでは行かなくても心のどこかで大きな穴が空いているはず
それは私でも塞ぐことの出来ない傷....
だからこそ、私はシイナさんと「そういう関係」になりたくない
...それでも、私は.....なぜシイナさんと離れたくないって思ってしまうのでしょう......)
.....っ
いつの間に夜に....
ダメだ....私も疲れてる
今日はよく眠らないと.....」
ヒスイ視点
それから、私は夢を見続けた
最初はシイナさんを追いかけてひたすら戦う夢....
でもそれが段々と凄惨な夢に変わってゆき、シイナさんが目の前で死ぬ夢、シイナさんの葬式に参加する夢、仲間全員が惨殺され、自分も力尽きる夢......
.....そして、シイナさんにある日いきなり奇襲されて暗殺される夢....
私の精神状態が段々とおかしくなっていっているのは自分でもわかる
次第と棒状のものを見かけるとそれで自身を絞殺する想像が働いてしまう
なんでもかんでも何かを見かける度にそれで自殺する想像をしてしまう
そんな日常に耐えれなくなった私は....
自分自身を幽閉して感情を封印することだった
.....それからというものの10年は経過しただろうか?それとも30年?
段々と時間の感覚が分からなくなっていく
それからというものの、黒い空間でぽつんとある椅子にただ座る錯覚を繰り返し見るようになった
シイナ視点
シイナ「ここは.....
おい、ヒスイ!いるんだろ?」
......来ない
どういうことだ?この空間を作ったのはヒスイでは無いのか?では一体誰が......
.....あれは....弟子の方のヒスイか?なんであんな椅子に座って....
ただ.....何故だろう
絶対にヒスイの元に言ってはならないと俺の本能が叫んでいる
もし行ったら、二度と起きれなくなるレベルの打撃をうける....と
...ただ、これ出る方法あるのか?
仕方ない...開けてくれるまでここで眠るとするか
〜一方その頃現実世界〜
それから約2週間が経過した後....
シイナ「ん...
(足と手が重いな.....いや.....これか
あの時突きを躱せなかった正体はこれか....)
それと...いたな」
シイナからみて左の小屋の隅っこでヒスイが椅子に座って眠りこけている
ガチャ、と音がした後出てきたのは黒いヒスイだった
黒ヒスイ「....やっと起きたんだ」
シイナ「ああ....お陰様でな
あれからどれくらい経ったんだ?」
黒ヒスイ「えーと....多分9ヶ月ぐらいかな?」
シイナ「....死の淵を彷徨っていたとはいえ結構な時間眠っていたな....俺」
黒ヒスイ「全くもってその通りだよ....
それと、弟子の方の私が「2週間前」からずっと寝たきりなんだけどどうすればいいと思う?」
シイナ「2週間前から...?」
黒ヒスイ「うん。丁度私が風邪を引いてヒナタとカナデが様子見に来たタイミングだね
風邪が治ってから以降一度も目を覚ましてないよ」
シイナ「とりあえず呼びかけてみるか....
おい.....起きろ」
ヒスイ「ん...ううん....むにゅ.....」
シイナ「普通に起きたんだが.....」
黒ヒスイ「おかしいな....確かに起きなかったはずなんだけど....
もしかしたら君の声で目覚めたのかもね」
シイナ「白馬の王子様じゃねえんだぞ俺は」
黒ヒスイ「.....いやなにそれ」
シイナ「....なんでもない」
ヒスイ「師匠だー......
師匠!?」
シイナ「正気に戻ったな」
二人「(さっきのふにゃけた起きる時の声と返事はなんだったんだろう(か)....」
ヒスイ「っっっ......
(師匠が私を暗殺した時の光景がフラッシュバックして.....
...いや、私の「師匠」はそんなことする人じゃない冷徹であっても、冷酷ではないんだ.....!)
すみません.....少しよろめいていました
それより今は何年経ったんですか?あ、師匠に聞いてもわからないですよね...」
シイナ「ちょっと待て、時間の単位がおかしくないか」
ヒスイ「....え?
いや、私に感覚だと既に60年は.....」
シイナ「だとしたら黒いヒスイはもっと顔が老けるはずだろ
俺が年で変わらないからって自分たちが人間であることを忘れてないか?」
ヒスイ「あ.....確かに」
シイナ「....ったく
んま...世話になったな...
そうだな、随分長い付き合いだった
出来れば帰るまでも護衛してくれないか?
まぁ最後に少し喋りたいってのが本音だが」
黒ヒスイ「ああ、それは別にい......」
ヒスイ「だめ!!」
シイナ「....びっくりしたなお前がそんなに大声を出すとは
なにか不都合でもあるか?」
ヒスイ「もう離れたくないの.....
それでも行くなら貴女を殺して私も死ぬ」
シイナ「.....こんなやつだったか?ていうか性格がとてつもなく変わっているんだが」
黒ヒスイ「おかしいな...君が起き上がる前までは普通だったのに
....それにこんな口調だったっけ」
シイナ「大方、長時間にも渡る不安と焦燥で過去のトラウマが掘り返され、精神状態が不安定になっているとかだろ
さて....どうしたもんかね
1番手っ取り早いのはこいつを殺してしまうのが早いが.....」
黒ヒスイ「まさかしないよね?」
シイナ「.......」
黒ヒスイ「ちょ.....ほんとに冗談だよね?」
シイナ「まぁ.....後味が悪いか
ったくどうすればいいんだよ
黒ヒスイ「そんなこと言われても...」
シイナ「......
(おそらく衝撃による記憶を戻してもまた逆回りするだけだろう
なら、トラウマをどうにかするのが先決か
多分....最初に別れたアレがトラウマだよなぁ....
まぁ....抱きしめてもしてやれば治るか?)」
そうしてヒスイの事を抱きしめた
その後そのシイナの胸の中でヒスイは安心して眠った
シイナ「.....これどうすればいいんだよ」




