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序章

 「あかり…」

「あかりちゃん…」

「俺のものになれ、あかり…!」


 私は今、困っています…こんなかっこいいイケメンがいっぱい私に言いよってきますが…その、私…!


「想い人がいるので!勘弁してくださーい!!」


第一話 「私、ヒロインになっちゃった!?」


 「あぁ…雷鳴マジで神作~!」


 私は蒼井 桜。幕末時代を愛する所謂「歴女」である。私は今、空前の大ブームを巻き起こしている革命的乙女ゲームをプレイしている。「雷鳴」は幕末時代を舞台としたゲームで、近藤を始めとする新選組や、革命を起こした薩長同盟の仲間。坂本龍馬などの偉人と、現代から来た女子高校生の主人公が時を越え、時代の渦に巻き込まれながら、未来を変化させていくゲームである。神的なイラスト…時代に忠実に再現されたシナリオ…攻略サイトがなければ自分と会うキャラクター以外はクリアできない鬼畜難易度を誇り、ゲーマだけでなく、歴女、海外でも今注目を集めていた。私は、ツイッチを手にしたまま、一つの不満を持っていた。


「とてもいいシチュエーション…素敵なスチル…シークレットキャラ以外全てクリアした…けど!」


 そう…このゲームの最大の弱点…それは、私の推し様…


「なんで沖田さんが攻略外なのよ…!」


 私の推し。新選組 一番隊隊長 沖田総司である。彼は幕末時代に流行っていた病魔。「労咳」又の名を肺結核だ。巷では大流行しており、当時の医学では治すことは不可能だとされていた。その為、未来を変化させることが不可能とされており、攻略キャラから外されていた。しかし、現代日本では死亡率1.8%くらいであり、薬を処方してもらえば治るケースなどいっぱいあると言うのに…なのにも関わらずだ。攻略キャラクターとして認定されずに、扱い的には皆を守る盾となり、困難時に槍となって先陣を切ったり…挙句のはてに最後は新選組から静かに姿を消し、息を引き取るという設定…


「こんなに美形で…攻略キャラと並んでも違和感ない位綺麗な顔…なのにどうしてルートがないの!!」


 そんな事を呟きながら、怒りのまま布団の上にダイブした。枕から顔を上げると、新選組を去ろうとする沖田の姿が見える。その悲しげな背中と、労咳で蝕まれてしまった体を引き攣りながら重い足取りをただ私は見るだけ…こんな悲しい結末があってたまるものか…!


「私なら…沖田さんに一生を尽くすのに…!」


 そう思った時だった。後ろから気配を感じた。多分男の影だったと思う。彼は黒い霧のような冷徹な声で私に話しかけてきた。それは悪魔の囁きのように、甘く、苦い誘いだった。


「だったら君が幸せにするといいよ…」


 背後からじんわりと痛みが感じられた。私は振り向き、背中を見ると、刃が刺さっていた。


「え…?」


 男は刃物を私の背中から抜くと、目の前が暗くなっていった。私は薄くなる意識の中、相手の顔を見た。黒いウサギの仮面を被っていた。男は胸元にある懐中時計を開くと、時刻を見ては、私の動かない体を持ち上げた。抵抗しようと足に神経を向けるも、ピクリと反応しなかった。私はそのまま目を閉じた。


♪.:*:'゜☆.:*:'゜♪.:*:'☆.:*:・'♪.:*:・'゜


  走馬灯の中、瞼の裏に声が聞こえた。私は閉じた瞼を開けると、目の前には小さな兎が時計を持っていた。

 

「…あなたは?」


 真っ白な雪のようなうさぎは、こちらを見ては小さな口を開けた。


「初めまして。僕は時うさぎ。可哀想に…君、黒うさぎに殺されたんだね…?」


 私は殺されたと聞くと、背中をさすった。さっきまでの痛みは無くなっていた。私は時うさぎを見直しては疑問を投げかけた。


「ここはどこ?私は一体どうなるの…?」


 時うさぎは小さな手を私に突き出すと、首を振った。


「そんなに時間がないんだ。僕が時を操れるのは、5分だから…少ない時間で話をするから、聞いておくれ?」


 私はこの小さな兎に信頼を置き、首を縦に振った。


「君はこれから、「雷鳴」の世界へに行くことになった。乙女ゲームの世界に入りたいと願ったからだろうね…でも、このまま連れていかれちゃったら、黒うさぎはまた君を襲うだろう。そうなってもいいように、君には僕からこれを送るよ」


 白兎はそういうと、自分の手にしていた懐中時計を両手に握りしめた。すると時計は光だし、鋭い短剣となった。白兎は短剣を鞘にしまっては、私に手渡した。


「これは僕の力を込めた刀だよ。この刀を抜いたら、5分だけ時を止めることができるし、念じれば、過去や未来に行けるし、願えば自分の体や人の体の時間求められる便利な代物だよ」


「…いいの?これって貴方が大切にしていたものじゃないの…?」


 私が刀を両手で抱きしめながら尋ねると、うさぎさんはにこりと笑みをむけて頷いた。


「でも注意点があるんだ。その刀で時を操れば、どんどん君の記憶は薄れていく。君のいた世界の家族や、この世界でできた大切な仲間の記憶も、この刀がかき消してしまう…だから、使うときはそれなりの覚悟を持ってほしい…気をつけてね?」


 白兎は真剣な眼差しで私を見つめていた。初めて出会った私にここまでしてくれる優しいそのふわふわした生き物に私は感謝を込めて頷くと、世界が崩れ始めた。時間だ…そう白兎は呟くと宙に浮き、空へと向かって飛び出した。


「君がまた、僕を呼んでくれたら、その時は僕の方から会いに行くね。君が頑張る姿を応援してるよ」


私は短剣を手に彼のさる姿を眺めていた。光の粒子と共に消える彼の姿は、かぐや姫のように美しく、見とれてしまった……


♪.:*:'゜☆.:*:'゜♪.:*:'☆.:*:・'♪.:*:・'゜


目を覚ますと、そこは見知らぬ天井であった。

自分の記憶を思い出すと……やはり自分は「雷鳴」のヒロイン。寺本あかりになっていた。母親の朝ごはんの催促が聞こえた。


ゲームの展開では主人公はこの時、階段で足を踏み外し、タイムスリップする……私はカバンに必要なものと、白兎から貰った刀を手に、階段の前に立った。いざ、あなたの元へ……!私はカバンの中に必需品を入れ、短剣を持って現在、主人公が転げ落ちる階段の前までやってきました。ゲームのシナリオ通りであれば、私はここで足を踏み外し、転げた先でタイムスリップします…しかし!


 「待って!?純粋に考えたら2回目の死じゃん!怖いよぉ!」


 そう、私はたった今前世の自分の人生を終わらせてきた。そして今世でも、今この瞬間死のうとしている…しかし下手に短剣は使いたくはない。短剣を使うと、私の記憶が一つ消えてしまうからだ。そうはいってもここで一生を過ごすわけにもいかない…そんなことを思いながら階段の前で立ち往生していると、後ろから誰かの手で押された感覚があった。


「え…?」


以前プレイした時は、遅刻すると急いでいた主人公が自ら足を踏み外し、タイムリープしたのだ。しかし自分以外に兄弟のいない主人公。父は仕事に出た後、そして母親は一階…この状況で私を突き落とせる人間がいるはずがない…!オリジナルストーリでもあり得なかったこの展開に、私の心の中で葛藤が行われていた。私の足が前に滑り落ち、体が傾いた。階段の角が頭にぶつかる前に、誰がおしたのか確認しようと後ろを振り向くと、黒い仮面の兎がいた。私を現世で殺した男だ。恐怖のあまり、私はすぐさま刀を抜くと地面から大きな時計の魔法陣が現れた。私は時計の中に身を落とした。


  ※


 時計の魔法陣に体が吸い込まれると、周りの風景が真っ白に消えた。恐怖で目を瞑ると、周りから時計の針の音が鳴り響いていた。恐る恐る目を開けると、大きな時計が無数に広がり、足元は底がなく、いつまでも針の音を立てていた。ふと空から強い光が差し込むと、空に手を伸ばした。光は大きくなり、何かに手を引かれるよう、体が吸い寄せられていく。


  ※


 目を覚ますと、そこは日に照らされた京都の街だった。現代とは少し変化はあるものの、じめっとした空気に山の数々。少し離れた場所に寺が見える。京都のまちならではの風景であった。


 「やばい…早く新選組のところに行かなきゃ…!」


 オリジナルの「雷鳴」では今日の巡視時、四条でこの世界を探索する私を見つけた新選組が、現代の学生服をきた私を不審者だと認識し、捕まる事で出会いの演出がある。私が降り立ったのは五条の西本願寺近く…ここから四条までは歩いて20分はかかる。私は急いで四条に向かう砂利道を走ろうとすると、後ろから声が聞こえた。


「そこの君。そんな格好で街を出歩いて…一体何してるの?」


 この爽やかなCVキャラクターボイス。子どもをあやす様な優しい声色…間違いない!!私はその声の主に惹かれる様に後ろを振り返ると、沖田さんが立っていた。「雷鳴」で自分の推し…生でみられた…!ゲームをプレイするたび何度も彼の死を見てきた。画面の向こうでやるせない思いをずっと持ったまま、沖田さんの死を悔しい気持ちで見ていたあの頃を思い出し、どことなく涙が溢れた。思わず涙と共に溢れた喜びが、頬を緩ませた。


「やっと…やっと会えた…!」


 涙ながらに私が彼に笑いかけると、気味が悪そうな顔を浮かべながら沖田さんは私に問いかけてきた。


「君は一体……」


 私が自分のことを伝えるために、自分は何者なのか言葉を思い出そうとした瞬間。自分が何者かわからなくなっていた。私がここにきた際階段で突き落とされたこと、朝カバンにつめた物、寺本あかりという主人公として生きてきた時間全ての記憶が消されてしまった。ただ覚えているのは、寺本あかりは高校三年生であることだった。私は沖田さんに名前だけでも伝えようとした時、攘夷派の浪士がゾロゾロとこちら側に集まってきたのが見えた。


「新選組 一番隊隊長、沖田総司とお見受けする」


 私たちは敵に包囲されてしまった。怖さのあまり後ろに後退りすると、沖田さんの肩に肩が当たった。私の恐怖心を察してか、沖田さんは微笑みながら私の方を見て落ち着いた声で囁く。


「いい子だからここで待っててね?」


 最高のシチュエーションだ…自分の推しが敵に恐怖する私のために微笑んでくれた…私は赤くなった顔を両手で押さえながら、首を縦に振った。沖田さんは敵に居直ると、飄々とした笑みで浪士を見ながら、腰の刀に手を回す。


「そうだよ…で?君たちは誰?」


「私たちは薩長の誓いに敬意を払い、尊皇攘夷を掲げた同志だ。貴様らの命をいただく」


 浪士が次々と刀を抜く。沖田さんは私を片手で隠しながら、刀を抜いては、目の前の浪士を睨みつけた。浪士の1人が叫びながら沖田さんに切り掛かると、沖田さんは足を踏み込むと風を切る音を鳴らしながら刀を振り下ろした。目の前の浪士が倒れ込むのを合図に、一斉に浪士は沖田さんに切り掛かる。しかし、彼は浪士たちの間をくぐり抜けるようにステップを踏みながら刀を絵を描くように振り回した。沖田さんが浪士の間から姿を表すと、浪士は次々と体を横たわした。私は彼のその姿に釘付けになった。カッコ良すぎる…私を守って戦い抜いたその姿と、美しい容姿…心のときめきが止まらなかった。沖田さんはこちらにゆっくりと歩み寄る。沖田さんは腕を組み、こちらを見た。


「で、君は何者?」


 私は言葉に詰まり、前世の記憶を辿った。ふと「雷鳴」の設定を思い出し、自分が沖田さんを幸せにしたいと言っていた事を思い出しては、馬鹿正直に自分の思いを伝えた。



「はい!私、寺本あかりって言います。貴方を幸せにするため、未来からやってきました!」


沖田さんは威勢よく自己紹介をする私に微笑みかけた後、手を握られた。そして腕に違和感を感じ、下を俯くと、私の手には縄が巻つけられていた。


「とりあえず……屯所まで一緒に行こっか……」


優しい言葉とは裏腹に、怪しむ彼の笑みが輝いて見えた。その輝きはイケメンのそれではなく、腹の黒い感情を隠す笑みであった。私は沖田さんに連れられながら、壬生屯所にやってきた。思い出す……前世では沖田さんを追い求め、跡地巡りの際に行った施設のひとつだと……今私は推しに腕を拘束され、推しがで生活している場所に連れてこられた……最高である。私はこれからどうなるのだろうか……心がときめく。


「何を立ち止まってるの?ほら、入って」


私は沖田さんに導かれるまま、屯所の中へと足を踏み入れた。今は無き米蔵、稽古を行う隊士達の声、全てが思い描いた過去のままで、心が踊る。ふと目の前には眉間に皺を寄せ、形相を浮かべた鬼の副長の姿が見える。土方歳三だ……ゲーム内でも何度も登場しては隊士に厳しく指導する姿が伺えた。個人的には苦手なキャラだが、面と向かって顔を見ると、中々の二枚目顔だ。そんな鬼の副長が、出会い頭に棘を指してきた。


「……総司、屯所に女を連れてくるたァ舐めてんのかてめぇは」


鬼顔の土方に飄々と笑みを浮かべながら、沖田さんは悪戯っぽく言葉を返す。



「僕はただ洋装に身を纏った怪しい女性を捕まえただけですが、そんな事が職務怠慢になる筈ないですよね……?」


沖田さんの言葉に副長は舌打ちをしながら背を向ける。


「確かに怪しいのは同意だが、妙な格好をしてるくらいでわざわざ女とっ捕まえて屯所に連れ込むのはおかしいだろ……」


ため息を着き呆れ返る土方を目に、沖田さんは続けて声をかけた。


「彼女は僕に「あなたを幸せにしたい」って言ってきたんですよ。しかも未来から来たとも言ってます」


土方は呆れ顔をこちらに向けては、鬱陶しそうに重い口を開けた。


「未来だ?馬鹿馬鹿しい……そんなホラを吹いて気を引かせたいだけだろう……」


私はこの土方の決めつける態度にカチンと来た。知りもしない相手をよくもホラ吹きだなんて……ほんっと侵害だし嫌な感じ……!私は「雷鳴」の主人公と同じようにカバンの中から数学の教科書を取り出し見せた。


「ほら、この本の出版日を見てください」


 そこには2022年の文字があった。流石の土方さんもこれには驚き、教科書をまじまじと見つめた。


「この本の文字はなんだ…?炭で書かれた形跡がねぇ…」


 沖田さんも教科書を覗き込んで見た。


「確かに、この日付も未来のものだし、この文字も初めてみるね。この文字はなんて書いてあるの?」


 沖田さんはCOSをさし、私に問いかけた。


「これはコサインと言って、これを使って三角形の三角比を求める公式になるんです」


 私は脳みそを振り絞り、沖田さんに答えた。こんな人生で受験でくらいしか使わない公式を、今日この推しのために覚えておいて良かったと思うことはこの先絶対にないであろう。右手に拳を握りながら感動を握り占めていると、土方さんは教科書から目を離し、私を見て言葉をかけた。


「しかし、本当にテメェが未来から総司のためにやってきたって言うんなら、どうやって来た。そして総司の身にこれから何か起こるのか?」


 どうやって…自分も思い出せなかった。あの時剣を抜き、時を超えた代償として、寺本 あかりとして生きた18年の記憶が綺麗さっぱり無くなっているのだから…というよりも、以前からそれがあったのかすら危うい位、記憶が混乱した中こちらにきてしまったのだから、記憶の糸すらない。あるのは「雷鳴」を全キャラ(シークレット以外)周回し、全スチルを手に入れたというプレイ履歴だけだ。私は「雷鳴」の主人公が初めにここにきた経緯である「階段から落ちた」という理由を答えることとした。


「はい。私は以前、朝に学舎に行こうと思って階段を駆け降りた際に、足を踏み外して、転落してしまいました。その時大きな時計の中に吸い込まれて、この世界にやってきたんです」


 信じられない…と言った顔を2人は私に向けた。それもそうだ。私だって逆の立場ならそんな反応をするだろう。沖田さんと土方は互いの顔を見合わせ、こちらに目を写した。


「じゃぁお前はここに来たのは自分の意志ではないのか…?」


 自分の意志じゃない…確かに元々の寺本あかりならそうだろう。元々の「雷鳴」のオリジナルキャラクターなら、主人公は元の世界に戻るまで新選組のお世話になるという立ち位置で各攻略キャラの小姓。または新選組の雑用担当に配属される。私もそうすればこんなややこしい話し合いにならなかったことは知っていた。しかし、これでは沖田さんは攻略できない…ゲームの主人公と同じ行動をすれば、必ず沖田さん以外の攻略キャラと行動を共にする事となるだろう…ましてや沖田さんの尊敬する師、近藤さんルートに行ってしまえば沖田さんは近藤さんを絶対に裏切らないため、自ら応援するだろう。それは絶対あってはならない…だからこそ、ここで私がその質問に頷いてはならない。


「いいえ、ここに来ることは存じていました。だからこそ、私は沖田さんを幸せにするため、策を弄し、ここへ来ました」


 絶対に沖田さんの小姓になる…そして沖田さんルートを構築するために、ここで皆を納得させなくてはいけない…!私の言葉の矛盾点に2人は眉を顰めている。言い分が苦しいのはわかる。でもここで引いては絶対に沖田ルート構築なんてできない…何か、もう一手言葉を口にしなきゃ…そう思っていた時であった。


「ほぉ、総司をここまで想う女子が、こんな男臭い屯所までやってくるとは、やはり総司は隅におけないな」


 陽気な声でこの凍りついた話し合いに割混んできたのは、大柄で優しい声の近藤勇だ。近藤は斎藤一をつれ、こちらに歩み寄る。ゲームでも感じていたが、何たるイケメン…そして漢らしく、安定感のある面構え…思わぬ助け舟に心が絆される。土方は近藤さんに呆れ顔を向けながら、文句を垂れる。


「近藤さん、さっきの話聞いてたんだろ?どう考えても可笑しいじゃねぇか…話が難点か矛盾がある」


 近藤さんは土方に一喝入れられるも、言葉をもろともせず、笑いながら返す。


「そうか?だが、この女子が嘘をついている様には見えん。こんなに真剣な眼差しは、中々の覚悟がないとできないと思うぞ?」


 近藤さんの温かい言葉に感激をうけた。流石新選組の局長。心が広く、温かい…しかし、私の顔を覗き込むように腰を低くしては真剣な眼差しでこちらを見た。


「しかし、我々新選組は命と隣り合わせの身、君が総司を守りたいという気持ちは否定しないが、それ相応の剣術と自衛できるだけの才覚がないと、総司にとっても足手まといがいるのは困るだろう。君の実力を知るためにも、一度手合わせを行う。もし君の剣技が認められれば、総司の隊に入ってもいいぞ?」


 剣技のない自分には最悪の展開だ…剣の心得のない私には、ほぼ絶望的だ…でも沖田さんを攻略するのにはまたとないチャンスが訪れた。一番危惧していた近藤ルートに遠のくだろうし、沖田さんの隊に入れば、他の隊士ルートにも干渉しにくくなるだろう…私は首を縦に振った。


「わかりました。ぜひそのお話、引き受けさせてください…!」


 震える手で拳を作り、少しの恐怖心を隠す。大丈夫…人を殺すってわけじゃないんだから…近藤さんは私の顔を見るなり、「良い面構えだ」と声を漏らした。隣でただ話を聞いていた斎藤さんはこちらに来るなり、静かに言葉を発した。


「なら、俺が相手をしよう」


 顔色ひとつ変えずに淡々と話すこの白い百合のような美しい男性…佇まいもしとやかでとても人斬りをしているようには見えない。細身の背丈が長い男性だ。新選組でもトップ3と謳われる彼が話を割り込んだ時点で額から汗が流れた。私はこの彼に勝てるのだろうか…そしてみんなに認めてもらえる武士の仲間に入れてもらえるのか…顔を引き攣りながら道場へと導かれていく。

 

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


道場には新選組幹部が揃っていた。攻略対象の近藤をはじめとし、土方、永倉、斎藤、ダンディ井上、谷、藤堂、原田。またのちの5番隊組頭の尾形もいた。ヒロインの力なのだろう。恐ろしい…普通こんなにギャラリーが着くような戦いではないだろうに…私は額から汗が流れながら、道場に足を踏み入れた。

近藤さんに自分の道着を持ってきて「使うか?」と尋ねられたが、男性の袴を借りるのはさすがに申し分なく、遠慮させてもらった。代わりに新しい女物の道着を土方が倉庫から出してきてくれた。意外と気配りをしっかりしてくれるいい人なのかもしれない。彼の心使いに優しさと尊敬を感じたが、貸してくれた後に「お前を俺は隊士として認めた訳じゃない。洗って返すように」と言われた……一言多いんだよ。一言が……!内心腹が立つも、貸してくれたことには変わりない為、感謝を述べたあと、道着を着て場内に入った。

齋藤さんは道着を着ても美しい……細身の体に清潔感を保たれている道着。何度見てもその姿は花のように美しい。齋藤は竹刀を右手に持ち、腰の付け根に手を添えると、頭を45℃下げた。自分も左手の竹刀を腰に持ち上げては、そそくさとお辞儀をした。


「貴様、剣を持つのは初めてであろう。俺を見て真似るといい」


この数分でなぜバレたのだろう。そんなにおかしな行動をしていたのかな……齋藤さんが3歩前に歩き、竹刀を構え、そんきょするのを見て自分も真似る。竹刀を持とうとする手が大きく震えていたが、竹刀を構え、相手の剣先と交わらせた時、不思議と不安と恐怖が消えた。齋藤さんが立ち上がるのを合図に、立ち上がった後、大きな声でやぁ!!っと叫んだ。


「……気配が変わった……」


ギャラリーにいた隊長達がざわつき始め、幹部がこちらを見入った。齋藤さんが竹刀を振り上げた瞬間。その姿が遅く感じた。相手の振る刀の導線が自分にはハッキリと予測できた。私はその刀を受け流すように齋藤さんのつばに軽く竹刀の剣先で触れ、軸をずらした。


「な……」


周りで見ていた近藤が口をポカリと開けて驚いている。私は齋藤さんのズレた剣先を見てそのまま竹刀をを頭頂部に付くように剣先を真っ直ぐ伸ばすも、それに気がついた齋藤さんは私の竹刀のつばを齋藤さんのつばで押さえつけた。当然女の方が力は弱い為、直ぐに体が傾く。それを狙って齋藤さんが後ろに下がりながら、私の横腹目掛けて剣先を描く。遅い……もう次に何が来るか分かる……私は横腹に齋藤さんの竹刀が当たる前に後ろに体を引いた。互いに剣先を交わらせ、横歩きしながら見つめ合うと、斉藤さんが言葉を交わしてきた。


「先程までとは見違えるようだ。咄嗟の判断力、自分の力量と相手の技の繰り出し方を見抜き、体を動かす……素晴らしい身のこなしだ……本当に初めて剣を取るのか?」


お世辞を述べる齋藤さんに私は気づいていた。彼の本質を……


「齋藤さん……手加減してますよね?」


マニュアルの様なお決まりの動き、体の動きと手を振り下ろす際感じる導線……この動きはどう考えても最強と謳われる男の剣筋ではない……私は左足を少し上げ、右手を少し浮かせては、姿勢を低くし、竹刀の持ち手を耳の横に振りかざしては、静かに息を吸う。


「本気で挑んでください……」


齋藤さんは私の姿を見て、目付きが変わった。先程までの美しく花のような彼は消え、鋭い目付きと、牙を向いた獅子の様なオーラを身に纏った。私は左足を踏み込み、体全体を飛ばすと、齋藤さんは剣先を詠み、避け、後ろから振りかぶる。私はそれに気がつくと、体を回し、つばで剣を払い除け、首元につきを放とうとし、齋藤さんに剣を振り払われる。


何度も互いに剣を触り合い、その度に竹刀から風圧が増し、鋭い音が鳴り響く。互いに剣を合わせ、つばを突きつけあった時、お互いの竹刀から鈍い音が聞こえた。竹が割れる音だ。齋藤さんは私の顔を見るなり言葉を漏らす。



「竹刀が限界だ。そろそろ決着をつけないか……?」


「はい、私もそう思っていた所です……」


互いに竹刀を払い除けた。向き直り、竹刀を構え、2人は静かに見つめあった。ギャラリーも息を殺し見守る。どちらともなく走り出し、竹刀が風を切る。互いの竹刀が大きく響き渡ると、走りきり、背を向けあった。齋藤さんは竹刀を持ったままその場に居直った。


「俺の負けだ……見事な剣筋。尊敬に値する」


言葉の後に齋藤さんの手から竹刀が落ちると共に糸が解れ落ち、4本の竹が飛び散った。私も居直り、言葉を振り絞る。


「いいえ、これは私の負けです」


手に持つ竹刀はヒビが広がり、大きな鈍い音と共に崩れ落ちた。互いに振り向くと、齋藤さんは目を大きく開けながらこちらを見た。小さな声で


「美しい……」


と零す。何を言ってるのか分からないまま手を差し伸べると、齋藤さんは手を見て驚いたまま、手を握り返した。


「齋藤さん。とても素敵な勝負ありがとうございました」


私の言葉に齋藤さんは笑みを向けると、ギャラリーから1つ。2つと拍手の音が大きくなった。幼い顔の永倉さんがこちらに走ってくると、私の手を取り、大きく振った。


「あんたすげーよ!天才剣士だ!」


私はふと自分が天才と言われた後、首を傾げた。


「何の事ですか……?」


永倉さんの後ろから落ち着いた声のお兄さん。原田さんが顎に手を当てながら歩み寄る。


「おめぇさん、自覚がないのか?うちのの3剣豪の1人と同格で戦えるのはあんたが初めてだ」


忘れていた……齋藤一。新選組の最強の剣と謳われた彼に負けたとはいえ、あんな戦いを繰り広げてしまった……というかおかしくないか?何で剣を1度も取ったことない私があの剣豪と渡り合えたんだろう……主人公補正か?しかし元々の寺本あかりは剣を1度も握らない。消えた記憶の中に剣を振っていたのか……いくつか疑問が生み出される中、土方と近藤さんが身を乗り出しながら走ってくる。近藤さんは私の手を取ると、目を輝かせた。


「素晴らしい才覚……!どこの流派の者だ!?」


どこの流派も何も、習ったことすらありません……流石に言えないかと思いながら土方の方を見ると、先程までの呆れ顔は消えて、尊敬の眼差しを向けてきた。


「こりゃ文句無しの一級剣士だ。総司の隊と言わず、新たに隊長となり、戦うも良いかもしれんな……」


顔が引つる。勘弁して欲しい。私は沖田さんの隊に入って沖田さんルートを構築したいんだ……!こんな……


「なぁ、君。私、近藤勇の元で護衛として働かんか?君の才能を開花させるためにも、俺と一緒に稽古しながら、強くなろう!」


「ずるいよ近藤さん!ねぇ、僕ら二番隊においで。うちの二番隊の副隊長の枠が欲しかった所なんだ」


「やめろ。彼女は俺たち3番隊と共に行動する方が良いだろう。戦いの反省を共に話し合い、更なる強みを共に探そう」


こんな展開望んでない……!どうあっても攻略キャラとくっつけようとしてくる……


「主人公補正なんて!大っ嫌いー!!!」


私は前回沖田さんの所属する1番隊の隊士枠をかけて戦い、齋藤さんに負けるも、見事な剣技だと評された。各々私に興味を持ってくれたが、沖田さんの隊に入りたい私の意見そっちのけで攻略対象達が私を引き抜こうとする。


「ちょっと待て」


話に割り込んだのは土方だ。土方は先程の態度と一転し、私に問いかけた。


「俺も興奮のあまり隊長にと考えたが、こいつは総司の隊に入ると約束した身。こいつの意見を優先するのが筋ってもんだろ」


と上記を述べた。そうだ。私を置いて勝手に話を進めないで欲しい。私は沖田さんの為に戦ったのに、本当に勝手な人達だ……そう考えていると、沖田さんが水を指した。


「僕は嫌です」


まさかの本人からの拒否……言葉が詰まった。考えてもいなかった。私の気持ちの前に本人はどー思ってたのかなんて。後ろで否定をする沖田さんに目をやると、渋い顔で私を見ていた。


「確かにこの子には剣の才覚を感じます。僕や新八さんが相手をしても、対等にわたりあえると思います。実力重視の1番隊に入れば、彼女を稽古し、更なる高みへと目指すことも可能でしょう。しかし、彼女の発言には矛盾点がある」


その言葉には重みがあった。信頼して貰えないとは薄々思っていたが、ここまでハッキリと言われるとは思わず、痛む胸を手で押さえつけた。沖田さんは構わず言葉を続ける。


「僕の隊には、僕の信頼に値する仲間しか、隊に入れない。新八さんや齋藤くんを当たって」


冷たく凍りつく言葉で私を押しのける言葉……自分からここに連れて来といて、勝手な姿。悲しい気持ちと相手の身勝手さに怒りが込み上げる。黒くどす黒い感情が渦巻く中、齋藤さんは冷静な言葉を投げかける。


「しかし、連れてきたのは沖田さん。あんただろ?」


齋藤さんの言葉に静かに食いかかる沖田。


「僕は洋服を身に纏う姿から、攘夷派の可能性があるとみて連れてきたんだよ。それに僕は別に仲間にするとは言ってないよ」


その言葉に繋ぐように齋藤さんは続けて刺した。


「だが、彼女の心意気を買って隊に引入れると言ったのは、誰でもない局長だ。そして、あんたの隊に入れる事を許可したのは土方副長だ。異論はあるまい」


齋藤さんが私を庇うように次々と言葉をかけてくれる。心強くて、頼りになる。感動に浸っていると、後ろから援護するように近藤さんが声をかけた。


「総司。お前を思って遥か未来から逢いに来てくれるなんて、ロマンチックで心の清い女性じゃないか。お前が面倒見てやれ」


沖田さんの肩に手を置く近藤さんは、本当にお父さんみたいに優しくて、素敵な師弟関係だ。内心感動を感じた。少し睨みつけている沖田さんも、近藤さんのお願いには頷くしかなく、不貞腐れながら首を縦に振った。


「君がもし使い物にならなかったり、新選組に仇なす用なら、容赦なく殺すから妙なことは考えないこと。良い?」


私はその言葉で心が晴れ渡った。これで愛しの沖田さんルートに行ける!!心を躍らせながら、軽やかな声で沖田さんに頷いて見せた。


「はい!よろしくお願いします」


鬱陶しそうにこちらを見る沖田さんに私は幸せを感じた。これで彼を幸せにする……この奇跡にかけて……!明日から始まる沖田さんとの生活に心から喜びを覚えた。さぁ、沖田さんルートの始まりだー!



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save point


好感度メーター


近藤→30%

土方→5%

齋藤→45%

永倉→20%

原田→2%

井上→12%

谷 →0%

尾形→??

?→0%

?→0%

?→0%

(Secret)→30%


root→近藤勇


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→作者 スイートポテト


攻略キャラに負けないを見ていただいている皆さん。いつもありがとうございます!

序章いかがだったでしょうか?

謎の黒兎。時計の力を貸す白兎。謎の剣術力を持つ主人公……他にも様々な謎が飛び交う中終わったこの序章ですが正直皆さんを置いて行ってないか不安です笑


皆さんは何が気になりましたか?皆さんのご意見良ければ聞かせて欲しいです!


答えられる範囲で笑

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私は沖田様大好きな歴女です〜!! 沖田様かっこいい……! [一言] 続き、楽しみにしてます♪
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