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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

桃太郎【最後の戦】

作者: ●▲■

 むかしむかし……


「ギャァァ!」


「やめろ……やめてくれ……!」


 あるところでおじいさんが戦っていました。


「わしは後悔している。どうしてあの時お前達を許したのかと……あの時……根絶やしにしなかったのかと……な。」


 雨の降る山の中、既に二体の鬼を切り捨てたおじいさんは、最後の鬼を追い詰めて言いました。


「わしはまだ戦える。お前らはわしが弱くなるのを待っていたようだが、そうはいかん。」


 すると、怯える鬼は苦悶の表情をを浮かべて言い返しました。


「そんなことは無ぇ!昔同族があんたにやられてから俺達は心を入れ替えたろう!?今までも何も無かった!これからも悪事はしねぇ!」


 手を前に伸ばし、助けを乞う鬼。

 それを見たおじいさんは怒号をあげました。


「それをどう信じればいいのだ!わしが死ねば村に復讐しないという保証をどうしてできる!?」


 鬼はそれを聞いて驚いたような表情を浮かべ、その後で歯を食いしばって言いました。


「あんた……狂ってんぞ……。」


 おじいさんは刀を振り、構え直しました。


「待てっ……!やめてくれ……俺には小さい息子がいる……!」


 鬼が泣き顔になり、後ずさりしながらそう言うとおじいさんは目を細めて言いました。


「そうかい……。好きなだけ……わしを恨むといい……。」


 鬼は最後の抵抗をと、全身の筋肉を隆起させ身構えた。


「うわぁぁぁ!俺は死ぬ訳には……いかぁぁぁぁん!」


一桃両断いっとうりょうだん……。」


 鬼の咆哮は山に虚しく響いた。


 おじいさんの神速の切り込み。

 鬼ははっと息を呑む間もなく上半身と下半身に別れて死んでしまいました。


……


 どんっと門を力強く叩く音が響き渡る。


鬼ヶ島


「たかが狩りに出かけただけで……もう……まる三日だぞ……っ!」


 巨大な棍棒を地面に突き立て、空いた手で門を思い切り殴る鬼。

 拳が門にめり込んでメキメキと音を立てている。


「な、なにかあったんじゃ……。」


「山も獣も……俺達は鬼だぞ!その俺達がもし……何かあったんだとしたらそれは……。」

 

 怒りを見せる鬼の横に立つもう一人の鬼がごくりと唾を飲んだ。


「も、桃太郎……?」


「……しか考えられねぇ……っ!どういうつもりだ……っ!」


 そこへトコトコと鬼の少年がやってきた。


「父ちゃんはまだ?」


 門に立つ二人の鬼は焦った。


「き、鬼ノきのすけ……。と、父ちゃん達は……」


「まだだ。ほら、もう寝なさい。心配しなくてもすぐに帰ってくるから。」


 そう言われた鬼ノ助は一瞬視線を下にずらし、その後二人を見上げて笑った。


「うん……!そうだよね!おじさん達!おやすみなさい!」


 鬼ノ助が帰っていくと、気弱そうな鬼がもう一人に視線をやった。


「いいんだ。あの子を心配させるな。それに、いずれ分かる。今じゃない……。」


 鼻歌交じりで自分の家に入っていく鬼ノ助。


「父ちゃんまだかな〜!」


……

 

「はっはっは!凄いな!桃之助もものすけ!そんなに上手くコマを回せるのか!」


 孫の桃之助と戯れるおじいさん。

 山で見せた表情が別人のように明るく楽しげだ。


 そこへコンコンと扉を叩く音。

 おじいさんはその瞬間一瞬目付きを変え、すぐさま元の楽しそうなおじいさんに戻ると、桃之助に伝えた。


「わしに客人が来てしまった。少しあっち部屋で遊んでなさい。」


 桃之助は手を挙げて元気に返事をするとコマを握りしめて隣の部屋と駆けていった。


「入ってくれ犬丸まる。」


 扉が開くとそこに立っていたのは人間のような出で立ちをした犬だった。


「桃……。よく私だとわかったな。」


「お前ほどじゃないがぁ……わしも鼻はいい方でな。」


 犬丸はおじいさんの前に座り込み、話を切り出した。


「理由を聞かせてくれ。」


「はて……なんのことだろうか。」


 おじいさんのその言葉に犬丸は苛立ったように目をぐっとつぶると言った。


「何故……あんたからあの匂いが……鬼の血の匂いがする……っ!」


 おじいさんは目を瞑り、静かに語り始めた。


「さすが……やはり鼻が効くなぁ。お前”達”にもう一度戦いをさせるのは酷だと思って言わなかった。」


「今の鬼は昔のとは違う。人間とも上手くやってる。あの時……全部解決しただろう。」


「鬼とは古来より……悪意そのものだ。そんなものがたかだか数十年猫かぶった程度で安心できるものか。」


 二人とも会話自体は静かなものだが、ふつふつと滾る闘志を感じる。


「桃……一体何があった。」

 

「何も無いさ。ただ思い出し、これからの未来を憂いたまで。」


 二人は沈黙した。

 犬丸は拳を握りしめながら、頭にある言葉から適切なものを選ぶのに必死そうだ。


「桃の家が匂うから何かと思えば〜。なっつかしいメンツじゃねぇの〜。同窓会するなら俺も呼べよ桃〜!犬丸まる〜?」


 二人の沈黙を切り裂くように現れたのは懐かしい戦友。


猿末まつか。久しいな。」


「……ややこしいのが”二人”も……。」


 大きな羽音。

 玄関先に緑の羽がゆらゆらと落ち、そこに現れた男。


雉吉きっちゃんも来たか!いつぶりだ〜?俺らで揃うのは〜。」


 猿末は雉吉を見てそう言うと雉吉は猿末を見て言った。


「暇つぶしにカラスと競争してたら桃の家にみんなが集まってるのが見えてね。久しぶり桃。ただ……桃と犬丸まるは大事な話をしているように見えるね。少し黙ったらどうだい猿末まつ。」


……


「へ、へぇ〜?そ、そりゃまた面白そうなことしてるじゃねぇの〜?」


 話の全てを聞いた猿末は方を震わせ、少し笑いながらそう言う。

 しかし、雉吉は違った。

 目を細め、流れるような口調でおじいさんに言った。


「かつての戦いであなたは間違いなく英雄だった。そんなあなたが悪に堕ちる姿を見るのは耐え難い……。今……ここで辛い生を終わらせてあげようか?」


 ビリッと空気が変わる。

 鬼ヶ島での大戦は半世紀以上も前だと言うのに、雉吉は当時と同じような覇気を纏っている。


「わしを殺すか?お前ら……もしかしてもう”効力”は切れてると思っているのか……?」


 おじいさんのその言葉に犬丸、猿末、雉吉はハッとした。

 そして冷や汗を流す。


「まさか、まだ残ってるのか、きびだんごの効力が……!?」


 犬丸がそう言う。

 

「従者に絶対服従を誓う代償に力を得る……お前達の体は……まだ力が満ちておるようだが、都合の悪い効力だけが消えたと思っているのか?」


「わ、私達には今の鬼を殺す目的がない!」


「今なら引き返せる!かつての英雄桃太郎に戻ってくれ!」


 慌てる犬丸と雉吉。

 しかし、猿末だけは違った。


「俺はいいけどなぁ?最近暴れたりなくて困ってたところだ。桃ぉ?」


 犬丸と雉吉は二人で猿末を睨みつけた。


「三日後の夜……鬼ヶ島へ向かう。わしと共にお前達も来い。」


 犬丸、猿末、雉吉の三人に取って耐え難い重圧がのしかかる。

 まるで自分たちの所だけ重力が何倍にもなったかのような重みだ。


 彼らの意志とは無関係に口から言葉が飛び出した。


「「「お供します。桃太郎さん。」」」


 この会話はこの家にいた五人だけが知っている。

 横の部屋で聞き耳を立てていた桃太郎の孫、桃之助を含めた五人だけが。

……

 鬼ヶ島では、鬼ノきのすけの父達の復讐に燃える鬼が会議をしていた。


「きびだんごの力があるとはいえ、もう死に体のじじいじゃ!かつての同族のようにはならねぇ!こっちから乗り込んで村ごと……!」


 血の気の多そうな赤い皮膚の鬼が怒鳴るように言った。


「いや、死に体というのは甘く見すぎだろう。もしそうなら三人もの鬼が殺られるはずは無い。それに、犬猿雉が今どうなっているか知っているか?」


 冷静そうな青い皮膚の鬼がそう呟くと、辺りの鬼が口々に人間のような姿になり今も生きていると言った。


「そうだ。それだけ強力な効果のある代物だと言う訳だ。そしてもし次に戦をするとすれば、もう一度それを口にするだろう。」


 そこに狡がしこそうな黄色い皮膚の鬼が横槍を入れた。


「おい……まるでまた負けるみたいな言い方じゃなぁ?力のない青鬼さんは随分自信が無いようだ。」


 どんっと机を叩きわる赤鬼。


「ベラベラとぉ……。身内が三人も殺されとるんじゃ!人間とも上手くやれるようになってきた矢先にぃ!奴らは裏切った!八つ裂きにして食ってやる!」


「まだ決めつけるには早い!桃太郎以外が全員我々の敵かどうか分からない。それを見定めずに村ごと戦争するのか?それはお前も思うところがあるはずだ!」


 そう言われ威勢の良かった赤鬼はたじろいだ。


 それもそうだ。


 半世紀以上の前は力にあぐらをかき、野蛮な行為をしてきた鬼達だったが、敗戦を機に行動を変え、ようやく認められはじめたのだ。


 今では商売だけじゃなく、個人的に異種間で繋がりを持つ者もいる。


「……だったらてめぇが考えろ。今日中に”人間と戦争せずに”桃太郎に勝つ方法をな。」


 そう言うと赤鬼は席を立った。

 それを見て慌てて物陰に隠れる鬼ノ助には誰一人、気付くことは無かった。


……


「桃之助のじいちゃんが……みんなを殺してる……。みんなって……父ちゃんも入ってるのかな……。」


 鬼ノ助は一人、自室にて泣きながらぶつぶつと呟いていた。


「桃之助に聞けばわかるかも……!」


 鬼ノ助は夜遅く、門に立つ鬼達をかいくぐり、海へ出た。


……


「ぐう……その老体でここまで……!」


 森の中で、数人の鬼がおじいさんを前にたじろいでいる。

 それぞれ腕が欠損していたり、腹から血を流す満身創痍の状態だ。


犬丸まる!飛びかかれ!」


 おじいさんの声を合図に茂みがガサガサと音を立てると、そこから犬丸が飛び出し、回し蹴りを放った。


「な、なんだこいつ……!人間……じゃねぇ!」


「……げろ……ぐっ……!」


 何かを呟く犬丸は、すぐさま攻撃を始めた。


 それを間一髪で避けると、鬼達は蹴り飛ばされた一人を置いてその場からちりじりになった。


猿末まつ雉吉きっちゃん追え……。」

 

 おじいさんの後ろから猿末が、上空には雉吉が見下ろし、鬼の行方を追う。


『敵は桃太郎と獣人 村の人間に害無し』


 鬼の一人が逃げながら、自分の血で紙にそう記すと、口笛を吹いた。


 すると空からカラスが降り立ち、鬼はその足に紙を括りつけた。


「行けっ!」


 鬼はカラスを再び飛ばしたタイミングで背中に激痛を感じた。


「わ……りぃな……鬼ぃ!」


 猿末の鋭い爪は鬼の分厚い皮膚を切り裂き、あたりの木を赤く染めた。


 一方、飛び立ったカラスはまっすぐ鬼ヶ島へと向かう。

 しかし、その後ろには追っ手が。


 カラスの全速力を超える速さで一瞬にしてカラスに追いつく雉吉。


 足を振り上げ、カラスを蹴り落とすが、それをギリギリで躱すカラス。

 一瞬雉吉の方を向いたカラスは驚いた。


 雉吉から何かが飛んできたのだ。

 カラスは咄嗟にそれを口にくわえ、夜の闇に紛れ雉吉をまいた。


 カラスを逃がした雉吉は何故か少しほっとした様な表情を浮かべて森へと戻るように向きを変えた。


……

「これがお前のやり方か!?」


 カラスの持ち帰った手紙を見て赤鬼は憤怒した。

 青鬼は目を瞑り怒鳴る声を静かに聞く。


「敵が誰か……それを明確にするためだ。だがこれではっきりした。”友”に牙を剥く必要は無いと。」


 赤鬼は悔しそうに肩を震わせると、青鬼に飛びかかった。

 そして拳を振り上げたその時。


「鬼ノ助はどこだ!?」


 赤鬼やそれを止めようとした鬼達の動きが止まる。


「なに……?」


「家にいねぇのか!?」


 居住区から息を切らしながら走ってきた鬼は首をぶんぶんと横に振る。


「どこにもいねぇ!」


 しばらく沈黙が流れ、一人の鬼が言った。


「まさか……父親追いかけて狩場に行ったんじゃねぇだろうな!?」


 鬼達は冷や汗をかいた。


「……っ!今すぐ出港!女子供だけ残ってほかは全員船に乗れ!今日……!桃太郎の首をとる……!」


……


「桃之助!」


 鬼達の会話を聞いてしまった鬼ノ助は、なるべく人間に見つからないように隠れて桃之助の家の近くの茂みから顔を出した。


「……。き、鬼ノ助……。」


 一方、桃之助もおじいさん達の会話を聞き、今まで仲良くしていた鬼ノ助に対してよそよそしい返事をしてしまう。


「……ど、どうしたんだよ!」


「み、みんなはどこにいるの?」


 よそよそしい桃之助に対していつも通りに振る舞う鬼ノ助だが、桃之助が静かに口を開いた。

 二人共大人の会話を聞いてしまい探り探りのようだ。


「今日は一人で来たんだ。ちょっと話がしたくてさ!」


「ごめん。鬼ノ助……でもこっちに来ちゃダメだ。」


 鬼ノ助はハッとした。

 そして、桃之助を真っ直ぐ見つめて言った。


「……お前のじいちゃん……今何してるんだよ。」


 桃之助も気付いた。

 お互いに知っているんだということを。


「おじいちゃんは……今山に芝を……」

 

 桃之助はそこまで言って首をぶんぶんと横に振ると、鬼ノ助に向かって声を荒らげた。


「おじいちゃんは今!鬼を……鬼ノ助、頼むから逃げてくれ!おじいちゃんが帰ってきたらきっと……!鬼ノ助っ!」


 鬼ノ助は桃之助の手振り通りに茂みから転がり出た。

 それと同時に先程まで鬼ノ助が潜んでいた茂みが裂けた。


「桃之助、離れてなさい。今おじいちゃんが退治してあげるから。」


 転げる鬼ノ助の肩を抱き、立ち上がる桃之助。

 

「もうやめてよ!鬼ノ助は友達なんだ!」


「わしは……鬼を根絶やしに……。孫にも恨まれる事になるのか……。」


……


 ざわめく村。

 祭りでもないのに鬼が結集している様子を見れば当然のことだ。


「おいおいー!今日はお祭りだったかー?」


「久しぶりだなぁ!そんな怖い顔してねぇで飲もうや!」


 村人の声を無視してある一点を目指し行進する行列。


 そこへ空から何者かが降り立った。

 雉吉だ。


「……。」


「奇妙なもんだ。ただの鳥が……寿命も種族も関係ないわけだ。あれには。」


 先頭を歩く鬼達は一気に筋肉を隆起させ、ひとまわりふたまわりと大きくなった。


 雉吉は翼を広げ、陽の光すらも隠した。

 そして尖った爪の生えた足を出し、鬼に蹴りを放つ。


「……感謝する。」


 蹴りを受けた鬼は一言言葉を言うと、雉吉の足を掴み、地面に叩きつけた。

 そして、横から別の鬼が棍棒を振り上げ……。


 鬼達はさらに行進を続ける。


 鬼達が通り過ぎた地面には痩せ細り、羽もボロボロの、頭の潰れた雉の死体が転がっていた。

 

……


 鬼の大行列の後方から叫び声が聞こえた。

 鬼達がその方向を振り向くと、数名の鬼が血を流して倒れている。


雉吉きっちゃんは死んじまったかぁ……。俺も最後の戦……前回とは違う……同じ土俵でやったらぁ!」


 猿末は飛び跳ね、空中で回りながら周囲を切り刻む。

 鬼達は各々棍棒で防御したり、一歩引いて避けたりして対応する。


「あの時は反応も出来なかったのになぁ。だったらこいつはどうだ!」


 猿末はさらに飛び上がり、木の枝をぴょんぴょんと飛び移りながら攻撃を繰り返した。


 一部の鬼はそれを受けて呻き声をあげている。

 

「ぐぉぉぉ!」


 鬼の一人が木に向かって思い切り棍棒を振り抜いた。


 ミシミシと言う音ともに倒れる巨木。

 それに掴まっていた猿末も地に落ちた。


「へっ……先に行ってんぜ犬丸まるよぉ……。」


 猿末の最後の記憶は怒りか、悔しさか、顔を歪めた鬼の辛そうな表情と、握られた巨大な拳だった。


……


「待て。」


 鬼達の前に堂々と現れた犬丸。

 犬丸は鬼達に向かって手を広げた。


「きびだんごを食べていない者は引き返せ。死ぬぞ。」


 一瞬どよめいた鬼達だったが、先頭を歩く三人の鬼が制止した。


「何故だ。」


 鬼達を制止した三人の鬼が前に出て、そのうちの一人がそう聞く。


「お前達は”三人”で島に帰りたいのか?」


 犬丸の一言で先頭の力ある鬼達は察した。


「お前を殺した後で、全員島に帰らせることにしよう。」


「正しい判……っ……。……。」


 犬丸は話の途中で頭を押さえて悶えると、犬が変わったように静かになった。

 その姿は最初に戦った雉吉を思い出させる。


 犬丸は何も言わず、真っ直ぐ鬼の列に突っ込むと、先頭の三人の鬼をかいくぐり、後列へ入り込んだ。


 次の瞬間。


 鬼が宙を舞った。

 それも一人ではない。


 軽やかな動きからなる格闘術。

 これまで戦った二人よりも熟練されているのだと、鬼達はすぐに理解した。


「うぉぉぉ!くらぁぁえぇぇ!」


 棍棒を犬丸に向け振り下ろす鬼。

 地面がえぐれるほどの衝撃だが、それを簡単に避ける犬丸。


 そして即座にカウンターの膝蹴りが鬼の顔面を襲う。


 しかし、さすがに多勢に無勢の犬丸。

 綺麗なカウンターを決めたのも束の間、真後ろからの正拳突きをまともに受け、突き飛ばされる。


 起き上がる暇もなく浴びせられる棍棒の衝撃。

 地面に生えた雑草を最後の景色に、視界は失われた。


……


 鬼ヶ島出港前。


 カラスは思い出したように腹から小袋を吐き出した。


「な、なんだこれ。」


「キジガヨコシタ!」


 鬼の一人が小袋を恐る恐る開けると、そこには三つのきびだんごが入っていた。


「まさか……!どういう……つもりだ?」

 

 鬼達が驚いている最中カラスがやかましく鳴き始める。


「クァー!クァー!キジ!ワザトニガシタ!クァー!クァー!」


 きびだんごは出港する者の中でも特に腕っ節の強い”剛鬼ごうき””裂鬼れっき””戦鬼せんき”の三人が食べた。


「クァー!クァー!モモタロウヲタオセー!クァー!クァー!」


 鬼ヶ島にはカラスの鳴き声だけが大きくこだました。


……


「わしは……鬼を根絶やしに……。孫にも恨まれる事になるのか……。」


 桃太郎が鬼ノ助に向かって刀を振り上げた。

 鬼ノ助、桃之助、二人は共に覚悟を決めた。


 振り下ろされた刀が鬼ノ助を切りつけようとしたその時。


 ギィィンと鈍く高い音が辺りに響く。

 恐る恐る目を開ける鬼ノ助と桃之助は驚きと共に安堵の表情を浮かべた。


 二人に覆いかぶさるような体制で桃太郎の刀を弾く裂鬼。

 そして桃太郎の両側から飛びかかる剛鬼と戦鬼。


「いけぇぇぇ!」


 しかし、桃太郎を捉えることは出来ず、剛鬼と戦鬼は互いにぶつかった。


「上だ!」


 裂鬼がそう叫び、視線を上へと向けた。

 

「ぐぁぁ!」


 その瞬間突如として裂鬼の目から光が奪われた。


 慌てる裂鬼をよそに、桃太郎は剛鬼と鍔迫り合いを繰り広げていた。


「鬼ヶ島に戻っていない鬼がいる!」 


 剛鬼は桃太郎の刀を弾いた。

 そこに飛び込んできたのは戦鬼。


「心当たりあるよなぁ!?桃太郎!?」


 飛び込んできたと同時に爪で腹を狙う戦鬼だったが、あっさり寄せられてしまう。


「さて……覚えとらんな……。」


「「……っ!」」


 剛鬼、戦鬼は歯を食いしばり怒りを顕にした。


「そこかぁぁ!」


 と、そこに目を潰された裂鬼が腕を振り上げて全速で前進していた。


「うらぁぁ!」


 裂鬼の拳は空を切り、桃太郎の後ろにあった木の幹をへし折った。


一騎桃千いっきとうせん……。」


 うねるように流れる川を思わせる滑らかな動き。

 それと同時に繰り出される高速の斬撃。


 三人の鬼達の体にいくつもの切り傷を付け、血を流させた。


「思ったより浅いの……。」


 桃太郎がつけた傷は、鬼達の動きを鈍らせるのに十分な深さのものだった。


「歳をとってこれだけ動けるのか……。」

 

「昔、同族が大敗したのも……当然の結果って事か。」


 鬼達は痛む体にムチをうち、ゆっくりと立ち上がる。

 そして雄叫びを上げ、全身に力を込める。


……


 先陣を切ったのは戦鬼。

 背中から棍棒を手に取り、振り下ろした。

 桃太郎はそれを軽くいなし、返しの斬撃を狙う。


 が、それを許さないのが剛鬼。


 後ろから掴みかかるように突進する。

 それに気付いた桃太郎は体を捻って剛鬼の方へと刀を振った。


「裂鬼!」


 戦鬼の叫び声で動き始めた裂鬼。

 

「そこだぁぁ!」


 突き出した拳はまたしても避けられるが、次は指示が早い。


「上!」


 剛鬼の指示とほぼ同時に上へと飛び上がる裂鬼。


「そこだ!振りぬけ!」


 剛鬼は爪を立てる。

 しかし、またしても避けられ、今にも重力に従い落ちてしまう。


いや、まだだ。

あいつらは……


 裂鬼は姿形を変えた犬、猿、雉を思い出した。


俺にもできるだろ!


 その瞬間、裂鬼の視界がはっきりとした。

 裂鬼の額には第三の目が開かれ、背中にはコウモリのような羽が生えた。


 桃太郎、剛鬼、戦鬼があっと驚く間も無く、上空へと飛び上がる裂鬼。


 そしてとうとう、その鋭い爪が桃太郎の腹を貫いた。


「ぐふ……っ!」


 桃太郎は咄嗟の判断で刀を振り、裂鬼の腕を切り落とすが、もう遅い。


 地面に着地した時には既にふらつき始めている。


「おじいちゃん……っ!」


 鬼ノ助と共に隠れていた桃之助が桃太郎に近寄る。


「おぉ……桃之助……。どうしたそんな悲しそうな顔をしてぇ……。そうだ……お前に見せたいものがあってな……コ……マ……しってるか……?」


 その言葉を最後に桃太郎は事切れた。


 えんえんと泣き喚く桃之助の声が響き渡る。

 鬼達も切なそうな表情を浮かべた。


……


 十年後……。


「よーっし!また俺の勝ちだな!鬼ノ助!」


 紐をびゅんびゅんと振り回しながら誇らしそうな表情の桃之助。


 地団駄を踏み悔しそうな表情の鬼ノ助。


 二人は駒回しの勝負に熱中しており、今のところの戦績は二十勝無敗で桃之助の勝ち。


「なんっでお前のはそんなに回るんだ!それか!そのコマになんか仕掛けて……」

 

「ほーん?なら俺の使うか?結果は一緒だと思うけどなー?」

 

 桜の木の下で酒を飲みながら子供達を見守る大人達は、随分と微笑ましい様子だ。


 鬼も人間も入り交じり、歌って踊り、飲んで騒いでたのしげな姿。


 それは桃太郎が恐れ、不安視していた未来とは全く違う世界だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 他にも面白いの書いてるのかな?って思ったんですけど、作者名がリンクになっていないので●▲■さんのマイページに跳べないんですよ〜 新しい作品を投稿する際は、作者名は空欄のままの方が良いですよ…
[一言] めっちゃ面白かったです!
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