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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第4章 神々の再臨
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第11話 老婆が残した笑顔

 地面を埋め尽くすように突き刺さった剣は、創成主がいなくなったことにより、次々と光の玉となり自然に帰る。

 朽ち果てた街並みに立っているのはカイト達だけであり、他に生存者がいないのは誰の目にも明らかであった。


 セントレイスに帰還したカイト達は、グロースの隊長達や弐王、更には歌姫ティナ達にも集合してもらい、チャーブルでの出来事を告げる。

 やっとキルネとの戦争の傷が癒え始めてきた所に、神といった不特定な存在は皆に重くのしかかってしまった。


「カイト、それに隊長格が二人いてマールと名乗った奴に苦戦をしいられた。更にはそれを圧倒的に上回る奴まで現れる。神と名乗った奴らの動き次第では、第七戦争以上の覚悟が必要かもしれないな……」


 いつになく真剣に言葉を発したのはクロエであった。

 各部隊の隊長達も静まり返ってしまい、緊迫した空気がこの場を包む。

 そんな中、一つの打開策を提案したのはエルマンであった。


「考えていても始まらない。今こそ長年グロースで研究段階にあった、科学的な王喰を完成させる時ではないか?」


 科学的に王喰を生み出す。

 そんな話を今まで聞いたことがなかったカイトとナナは何のことか分からずに困惑した。


「科学的な王喰ですか? 一体グロースでは何を研究しているのです?」


 エルマンは首を傾げて考えるカイトの質問に、話を返す。


「カイト君も知っているだろう。王喰とはクロエとロランのみが使いこなせる、凝縮し爆発的に濃度を上げた王創のことだ。この力を解析し、王喰を誰もが使いこなせるようになるのはグロースの悲願でもある。しかし、グロースの科学を結集し見いだした結論は、未熟な者がその力を制御するためには、女神の涙が必要になるということであった」


 ──女神の涙──


 クスハと出会った湖にあった水晶のようなものが女神の涙だ。

 ステラの遺志が根づき、エルマ細胞をふんだんに含んだ水晶は、創遏を極限に圧縮し吸い込む力を秘めている。


 アリスとレオが再生の歌の限界点突破を生き延びることができたのも、その時につけていたネックレスが女神の涙で作られていたからだ。

 あの時、暴走するアリスの創遏を女神の涙が一時的に制御したのである。


 しかしファンディングで女神の涙が目撃された情報は殆どない。

 現状はグロースの研究に使われる程の量を集めることができないのである。


(女神の涙……ルーインで見た時、俺はどこかで見た覚えがあったんだ……どこで見たんだ……)


 何か自分の記憶にひっかかりがあったカイトは、腕を組み静かに記憶の糸をたぐっていた。

 女神の涙の話を聞いて、カイトに答えを掴むきっかけを与えたのはクスハであった。


「私は女神の涙がどんな場所で産み出されるのか聞いたことがあります。厳密には、女神の涙自体にステラの遺志があるわけではありません。ステラの遺志が根づくのは神聖な湖です。その湖の水素が長い年月をかけ結晶化し、固体になったものが女神の涙といわれていま……」

「あぁーーー!!」


 クスハの話に皆が聞き入っているなか、突然カイトの叫び声が部屋に響き渡る。

 その大きな声に、隣に立っていたナナはビクッと驚き、怒り眼でカイトを見つめた。


「急にどうしたの?」

「あっ……ごめん。いや、思い出したんだ! 女神の涙を俺は確かに見たことがあった!」


 カイトの発言に皆がざわめき出す。

 エルマンが身を乗り出し、その記憶の情報に期待した。


「カイト君、一体どこで見たんだい?」

「俺が見たのはデモードの森にある歌姫の泉です。俺は過去に、あの泉の中に吹き飛ばされたことがあります。その時、泉の底に煌めく宝石のような物を見た覚えがありました。そして今思えば、歌姫の泉もクスハがいた湖と同じ青に染まっていた」


 エルマンはその話をすぐに納得した。

 それが事実ならば、今までのことが全て繋がるからである。


「カイト君がネルチアと初めて対峙した時の話だね? 確かにそれなら、カイト君が泉を飲んで急激に力が増したことにも合点がいく。あれ以来、泉の水質調査は行っていたが特に異常は検出されず、戦争の兆しと共に調査は一旦打ち切りとなっていた。泉に沈む水晶が女神の涙だったとは盲点であったな。しかし、我々が調査を行った時にはそんなものは見当たらなかったが……何か秘密があるのか……」


 一つの希望が見え始め、グロースでは急遽カイトとクスハを中心にした泉の大規模な調査を行うことにした。

 調査の決行は三日後に決まり、この日の会議は終わりを迎える。


 カイトとナナは家路につく前に、どうしても立ち寄らなければならない場所があった。

 そこに行くのは正直……気が重くなる。

 どんな顔をすればいいのか。

 そんな不安を胸に、たどり着いたのは老婆が営んでいる雑貨屋であった。


「カイトちゃん、ナナちゃん、帰ったかい。チャーブルはどうだったかのぅ?」


 店の前に立つ二人の不安げな顔を見て、老婆は既に察していたかもしれない。

 チャーブルでの出来事は混乱を招くため他言しないよう言われていたが、カイトは老婆に事実を全て打ち明けた。


「申し訳ありませんでした。俺達がもっと早く行っていれば何か変わったかもしれません。それに街が崩壊し人は肉片となっていたため、息子さんの正確な安否も分からず……」


 カイトは分かっていた。

 きっと老婆の息子は既に死んでいる。

 そこだけでも不確定にすれば、老婆も希望を捨てずにいられるのではと考えたのであった。

 しかし、それは要らぬ優しさでもあった。


「カイトちゃんや……気を使ってくれてありがとう。息子から連絡が途絶え、チャーブルの街がそんな風になっていれば、どんな結論に繋がるか分かるよぃ。カイトちゃんが気を重くする必要はない。あんた達が無事に帰ってきてくれたことが、私は嬉しいよ……」


 老婆の優しい笑顔がカイトはとても辛かった。

 その笑顔の底に、とても大きな悲しみを感じとってしまったからである。


 カイトとナナは老婆に頭を下げ、その場を後にした。



 ──二日後のことである。


 老婆が家で首を吊って死んでいたのが発見された。

 息子を失くした老婆の悲しみは、捌け口を見つけることができず、死といった形になってしまう。

 その話を聞き、最後に見た老婆の優しい笑顔を、カイトとナナはいつまでも忘れることはなかった。


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