第10話 パロロカ
ルディとジャム、双子の姉妹の戦い方は細かい部分までそっくりであり、二人の創成力は他を寄せつけない。
ファンディングとルーイン、両方のトップクラスであった二つの創成力が合わさり、マールの頭上には数千もの刃が軒を連ねていた。
「あらら、凄いじゃない……これ程の数を同時に創成することができるのは、神でも一柱しかいないわ」
「ふん、誉めるわりには全然余裕そうじゃないの。気に入らないそのニヤケ顔を今すぐ叩き潰してやるよ!!」
ルディが右手をマールに向けると、数百の剣が一斉に襲いかかる。
ジャムはワンテンポ遅らせ、同じく右手をマールに向けると、絶妙な時差を作った攻撃が隙を与えまいとマールに降り注ぐ。
剣の波が怒涛の如くうねりをあげる。
ルディとジャムの攻撃に圧倒されながらもカイトは集中し、マールの隙を見逃さないように目を見張らせた。
「痛い……痛いよ~……」
降り注ぐ剣から体を守るように、マールは小さく蹲くまる。
丸まった背中に隙を見出だしたカイトは、剣を力強く握り地を蹴った。
「ここだぁー!!」
カイトの剣がマールを真っ二つに引き裂こうとしたその時、剣が届く前にマールの背中が大きく開き、背中全体が巨大な口に変化を遂げる。
「あぁーー!! 痛くて気持ちいいーー!!」
叫び声と同時に背中の口が家一つ丸呑みする程に広がり、上空から降り注ぐ数千の剣を全て飲み込んでしまう。
カイトは咄嗟に身をよじり何とか捕食を避けるも、その異界な光景に目を奪われる。
「こいつの体……どうなってるんだよ」
驚いていたのはカイトだけではない、ルディとジャムも目の前の信じがたい光景に圧倒されていた。
ムシャムシャと背を口のように動かし、満足げな顔でマールが辺りを見渡しながら舌を出す。
「美味しいわ~。もっと食べたい、もっと食べたーい!!」
剣を食べたことによりマールの創遏が更に増し、カイト達はどう戦えばいいのか困惑が頭を駆け巡る。
「こんな無茶苦茶どうすればいいの?! 私と姉さんの戦い方はこいつと相性が悪すぎる!!」
ジャムが焦りを見せるも、ルディはどんどん増していくマールの創遏をヒントにし、咄嗟に一つの対抗策を思いつく。
直ぐ様ジャムに作戦を伝え、カイトに退がるよう指示をだした。
「いくよジャム!」
「分かった! 姉さん!」
二人は次々と武器を創成し、片っ端からマールに向かい飛ばしていく。
先ほど作った数千よりも遥かに多い、数万はあるのではないかと思う程の大量な武器が、ひっきりなしに空を飛び廻る。
「あら~、こんなにご馳走してくれるの~?」
その圧倒的な数に怯むことなく、マールは吸い込むように次々と武器を飲み込んでいく。
カイトはルディ達が何を狙っているのか分からず、ただその光景を見守ることしかできなかった。
「一体何をしているんですか?! これではあいつの創遏がどんどん大きくなっていきますよ!!」
既に一万は食ったであろうか、マールの止まることを知らない食事が永遠と繰り返される。
「分かってるよ。だけどね、こいつの腹も無限じゃないでしょ? 食い続けるっていうなら、その太っ腹が破裂するまで存分に食わせまくってやるよ!!」
ルディが思いついたのは根比べであった。
マールの許容範囲を越える量を食わせれば、溢れでる創遏に体が耐えきれなくなり、自滅すると踏んだのである。
「このオッサンがくたばるまで、私達が無限に創成してやる!!」
額に汗を滲ませながら、ルディとジャムは必死に武器を創成し、ひたすらマールに向かい飛ばし続けていた。
あまりの量に、マールからも少しだけ焦りの色が見え始めた時、事態が急変する。
「……それが無限??」
どこからともなく透き通った綺麗な女性の声が聞こえた。
皆が声のする方に目をやると、チャーブルの空に一人の女性が座禅を組み浮いている。
ブロンドの長い髪を風にそよがせ、ガラスのように透明な瞳が戦いを見下ろしていた。
白いローブのような服装は胸元がはだけている。
程よく膨らんだ胸の谷間には、マールと同じ十字の刻印が刻まれていた。
彼女の出現により、荒々しかった戦場が一瞬で凍りつき、その場の全員がただ空を見上げる。
「あら、グラディちゃん。どうしたのこんな……」
マールが女性に声をかけようとしたが、言葉の途中で無数のとても小さな剣が、裁縫のようにマールの口を縫いつける。
「マール、馴れ馴れしいぞ。私のことはグラディ様と呼べといつもいっているでしょう」
縫いつけられた口をほどこうとマールがもがく。
それを追い討ちするように、突如女性の周りに現れた剣がマールの両手両足に突き刺さり、地面に張りつけにした。
先程まで暴れ回っていたマールが赤子のように扱われていることに、カイト達の顔が緊張で固まる。
「さて、そこの女。さっき無限といったな?」
女性はルディを指差し、殺意を剥き出しにする。
その眼光に圧倒されて、ルディは無意識に震えていた。
「覚えておきなさい。無限生成と有限生成は全く否なるもの。易々と無限を口にするんじゃない」
女性が創遏を高めると、チャーブルの空が黒に染まる。
一瞬何が起きているのか分からなかったが、カイト達は黒の正体に唖然した。
「私は神聖グラディ=バン=ブロス。創成を司る神」
チャーブルの空を埋め尽くしていたのは、数億といえる程の大量な黒い剣であった。
「マール、ステラ様の再臨は近い。転生したばかりで、瞳の色もまだ染まりきっていないではないですか。こんな場所で遊んでいる場合じゃない。いくわよ」
グラディが法遏を唱えると、マールと共にその場から一瞬でいなくなってしまう。
それと同時にチャーブルを覆っていた白い結界は消え、残されたのは数億の剣だけであった。
「おい……おい!! 嘘だろ!!」
カイト達はマール達がいなくなったことよりも、目の前の出来事に激しく動揺した。
グラディがいなくなったことにより、数億の剣が上空から一斉に降り注いできたのである。
「ナナ!!」
カイトは直ぐにナナの元に駆け寄り、不馴れな法遏を唱え全力で結界を張る。
ルディとジャムも咄嗟に結界を張り、無限に降り注ぐ剣の雨に耐え凌ぐことしかできなかった。
「くそがぁぁあぁ」
カイトは結界に創遏を込め、必死に抵抗する。
ナナは無力なままカイトにしがみつき、恐怖で目を閉じる。
数分であったが、それは数時間と錯覚するほどおぞましい時間であった。
カイトの結界はボロボロになり、剣の雨が止むと同時に崩れ落ちる。
何とか耐えきったカイトであったが、馴れない法遏を使ったため、力を使い果たしその場に膝を突く。
周りを見渡すと、街は跡形もなく崩壊し、カイト達の周りには黒い墓標が無限に突き刺さっていた。