第9話 遺志の行方
急に怒りを露にしたマールから漂う創遏は、化物の一言である。
先程エンドと同格だと思った考えは、一瞬で書き換えられた。
「な……んだよ……この創遏。これは……王喰、なのか?」
マールの周囲は、圧縮された創遏が稲光のように飛び交い、触れたものをえぐりとる。
別次元の力を目の当たりにし、カイトは思わず後退りしてしまった。
少なからず、自分が戦った時のエンドより遥かに強い。
勝てるイメージが全く湧かず、額からは大量の冷や汗が流れ落ち、腕には鳥肌が立っている。
「あら、いけない……思わず力んじゃったじゃない。まだ体がしっかり馴染んでいないから、創遏を上げるとコントロールが効かなくなっちゃうわ。もう、家畜が僕ちんを殺すなんていうから、ムカついちゃったじゃないの」
マールの目の色が黒色に戻り、一瞬爆発的に上がった創遏も元に戻った。
「あなたが神聖の遺志を持っているからって、今は只の人間。六聖である僕ちんに歯向かうなんて許される行為じゃないわよ?」
「神聖? 六聖? なんだよそれ」
マールは手をポンと叩き、カイトに説明を始める。
「そうか、開花してないから神のことも何にも覚えていないのね? 仕方ないからお話しましょうか」
神にはいくつかの階級が存在する。
最上位に位置する『大聖官』
神の頂点であり、その存在はいつも一柱のみ。
神が産まれてから百億年もの間、セント=ステラ=ルールラがその座についている。
その理由は、ステラのみが持つ固有能力がそうさせていた。
「固有能力?」
「そうよ、神はそれぞれ固有能力を持っている。ステラお嬢の固有能力は『創生の産声』。輪廻の理を携える強大な力」
創遏を利用し、無から物体を作ることはできても、無から生命を産み出すことができるのはステラだけであった。
この力は輪廻より授かった理。
理を動かすことができる者は、望まなくてもそれだけで頂点に立つ資格を持つことになる。
「神々はステラお嬢の再臨が迫ると、それに合わせるよう地に足をつけるの。ステラお嬢が産み出した人間を器にしてね」
カイトとナナはその話を素直に聞き入っていた。
否定したくても否定することができない。
今までの経験が十分過ぎるほどに物語っている。
「何で神は再臨するんだ……何が目的なんだよ?! お前みたいにただ食事を楽しむのが目的なのか!?」
マールは再び舌を出し、旨そうな肉を前にしたようにヨダレを垂らす。
「ステラお嬢が何をしたいか何て分からないわ。三柱の例外を除いて、神々は全てステラお嬢の意思によって勝手に再臨するだけの駒よ。それに人間が好物なのは神の中でも僕ちんだけ。そもそも他の神は食欲っていう素敵な欲求を持っていないわ」
ナナは自分が抱える疑問を武器と変え、マールにぶつけてみた。
「ステラって。その神の遺志が私にあるとしたら、それでも貴方は私達に襲いかかるの?!」
その言葉に対し、マールは眉間にシワを寄せ少し苛立ちながらナナに殺意を向ける。
「何いってるの? あなたからそんな創遏は微塵も感じない。ステラお嬢を適当に語るなら、今すぐ殺してやるわよ」
「えっ?! そうなの……?」
予想してなかった言葉に、質問を投げたナナの方が驚いていた。
カイトも内心、ナナにステラの遺志が眠っている可能性が高いと思っていたため、マールの言葉に疑問が広がった。
(ナナがステラの遺志を継いだんじゃないのか? 違うとしたら……ステラの遺志は誰の中にあるんだ?)
「少し話がそれたわね、階級について話を戻しましょうか」
大聖官の次に位置する階級。
四大神と呼ばれる四柱の『神聖』。
唯一、神々の中でステラと同等に意見を交わすことができる立場にある。
その中には、メル=ブレイン=ランパードとハイネン=イグラニア=リスタードも含まれるという。
その次に位置するのが、マールの座する階級。
六柱による大聖官直属の臣下『六聖』。
それ以下の神々に階級はなく、『神人』と一纏めにされている。
「僕ちんはステラお嬢直属の臣下。僕ちんにとって人間は、食い物か玩具にしかみえないわ」
マールは説明を終え満足げに笑みを浮かべると、腹の虫が鳴くのか物欲しそうに腹をさする。
「一杯喋ったらまたお腹空いちゃった。そろそろ食事にしましょうか」
再び四つん這いになり、カイト達に向かい飛びかかろうとした――その時。
「くらいな!! この化物!!」
上空から無数の剣がマールに向かい飛んでいく。
その衝撃で土煙があがり、マールの体は視界から消えてしまった。
「大丈夫かい? カイト、ナナ!」
ルディとジャムがカイトとマールの間に割って入る。
先程マールが放った強烈な創遏を感じとり、急ぎ戻ってきたのであった。
「ルディさん! ジャムさん! こいつの強さは異常です! 油断しないで下さい!!」
カイトはすぐさまルディの横に並び、剣を構え警戒する。
次第に土煙が薄くなり、段々とマールの姿が確認できるようになると、その行動にルディとジャムは呆気にとられた。
「ん~美味しい! なかなか質の良い創遏じゃないの~」
マールの体には傷一つなく、地面に座ったまま降り注いだ剣をひたすらムシャムシャと食べていた。
「何だいこいつは! 剣を食ってやがる!」
無数にあった剣をあっという間に全て食べ、薄気味悪い笑みでマールがカイト達に顔を向ける。
「そういえば言ってなかったわね。僕ちんの固有能力は『絶対捕食』。創遏を秘めたもの全てが僕ちんの食べ物に変わり、食べた創遏は全て僕ちんの力と変わる」
マールがゆっくりと立ち上がり創遏を高めると、周囲の空気がピリピリと電気を纏い、空から結界を突き抜けて雷が街に降り注ぐ。
「この街の人間は全部食べちゃったし、君達を食べたら近くの大きい街に行こうかしら。確かセントレイスって大きな街が近くにあるわね……」
カイト達がマールを止めないと、次はセントレイスの人々が食われてしまう。
意を決し、カイト、ルディ、ジャムは王創を纏い全力でマールに立ち向かう。