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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第4章 神々の再臨
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第8話 捕食者

 街は静寂に包まれていた。


 どこまでも続く血に染まった街並みを横切りながら、カイト達は一先ず中央広場に向かう。


 重たく冷たい空気がのしかかり、今までにあまり感じたことのない薄気味悪さに自然と汗が滲み出る。

 それ程大きくない街のはずなのに、中央広場までの道のりがとても遠く感じた。


「ここが街の中心……」


 中央広場を囲うように並ぶ商店街は崩れ落ち、中心に作られた噴水は赤く濁っている。

 辺りには先程よりも更に多くの肉片が散らばっていた。

 そのおぞましい光景に、ナナは限界を感じてその場に座り込んでしまう。


「なんなのこれ? 一体この街で何が起きたの?」


 カイトがナナの背中を優しくさする。

 ナナが困惑するのも無理はない。

 戦争で死体が転がっている街並みとは違う恐怖が、この場を支配していた。


「カイト。私達が周囲を調べてくるから、ここでナナと待っていてくれ」


 ルディとジャムは手分けして生存者を探しに向かう。

 しかし、二手に分かれるのを待っていたかのように、事態が急に動き出す。

 カイトが戦闘態勢に入り警戒していたにも関わらず、突如背後から一人の男が現れた。


「ぐふふ……新しいご飯見っけ~」


 突然現れた男にカイトは驚きながらも咄嗟に剣を構え、いつでも攻撃をできるよう態勢を整える。

 ナナも直ぐ様カイトの後ろに周り、邪魔にならないよう距離をとった。


(こいつ、どこから?!)


 何処にでもいそうな小太りの中年男性。

 それには到底似合わない血まみれの口、額には神々しく光る十字の刻印。

 不気味に笑う顔に反し、体からはとても清々しい創遏を感じとることができた。


「お前がここの人々を食った人喰い鬼か?!」


 カイトが投げ掛けた質問に、男は首を傾げ手を横に振る。


「何を言っているんだい? 僕ちんが鬼? やめてほしいね~そんな野蛮な呼び方」


 カイトは王創を放ち、男に向かい剣を振りかざす。

 その剣を軽々と腕で受け止め、男は再び不気味に笑ってみせた。


「食ったことは否定しないんだな」

「あらあら、この創遏……メルちゃんじゃないの。こんなところで会えるなんて、運命かしら?」


 男の言葉に驚き、カイトは距離をとるように後ろへ下がる。


「なっ……お前、一体何者なんだよ……」


 男は額の刻印を指差し、カイトに自己紹介を始めた。


「あなた、まだ遺志が開花してないのね。僕ちんは傲慢の神マール=ポーロ=ペリリエル。マールちゃんって呼んでね?」

「神?! お前も神の遺志を持つ者なのか?!」


 カイトの頭をホルスが過り、男が同じ神の遺志を持つ人間だと理解した。

 しかし、その理解には少し間違いがある。


「違うわよ~、僕ちんは開花が終わってるの。分かる? 人間じゃなくて、神そのものなの? 人間だった器の魂なんてとっくに食べちゃったわ」


 男がいうに、遺志の開花とはカイトのような神の遺志を秘めた人間が覚醒することであった。

 宿り木としての勤めを果たし、神にその身を捧げることで起きる再臨。

 三千年の時を経て、神がこの世に再び人の姿で現れたのである。


「な……だったら何で神が人間を食うんだよ?!」


 マールは、仕方ないだろうといわんばかりの顔をしながらカイトの質問に答えた。


「だって三千年ぶりに再臨したのよ? お腹ペコペコに決まってるじゃない~。僕ちん人間が大好物だもん」


 舌をペロリと出し、ヨダレを垂らしながらカイトを見つめる。

 その目はまさに捕食者。

 今にもカイトに襲いかかろうとする意気込みが見て分かった。


「メルちゃんの遺志、美味しそうね~。開花する前に食べちゃいたいわ」


 マールは四つん這いになり力を込めると、地面をえぐりとる程の脚力をバネにし、カイトに向かって飛びついた。

 口を大きく広げ標的の頭に噛みつこうとするも、カイトはすぐさま剣を盾にしてマールの体を押さえ込む。


「くそっ……なんて力だ……」


 マールは体を押さえ込まれながらも、そのまま勢い良く右手をカイトの腹部に当て創遏を込める。


「ぼーん!!」


 掛け声と同時に右手が爆発し、カイトは後方の建物まで叩きつけられた。


「ぐぁ……こいつ……」


 致命傷ではないものの、一撃で体がふらつく威力にマールの実力の高さが伝わってくる。


「カイト!!」

「来るな! ナナはもっと離れるんだ!」


 ナナが駆け寄ろうとするも、この戦いがすんなりと終わるものではないと判断したカイトは、ナナに避難するように促した。


「こいつ、ヤバい……俺の感覚が間違ってなければ、エンドと同じくらいの強さだ」


 カイトの判断にナナは息を飲んだ。

 エンドと同等、それはカイトの中で最上級の例えだ。

 確かにマールからは強大な創遏を感じるが、ナナはそれ程とは思っていなかった。

 しかし、今の一連のやり取りでカイトはマールの何か秘められた力を感じとったのであろう。


「カイト……私の歌で貴方をサポートする……」


 このままでは不味いと思ったナナは、エンドと戦った時のように歌でカイトに力を与えようとした。


「駄目だ! こいつはエンドとは違う! すぐに逃げるんだ!!」


 カイトが叫ぶと同時に、マールはナナに向かい口を開け飛びかかった。


「……えっ」


 突然のことに立ち竦んでしまったナナを、マールが丸飲みにしようとする。

 なんとか寸前の所でカイトの蹴りがマールの横顔を捕らえ、遥か後方の吹き飛ばした。


「大丈夫か?!」

「うん、ありがとう……」


 ナナは一瞬、自分の死を感じとっていた。

 目の前に広がった絶望に、足の震えが止まらない。


「ナナ、こいつは俺達をただの食い物としか見ていない。エンドや今まで戦ってきた奴らとは、根本的に危険度が違うんだ」


 吹き飛ばされたマールはゆっくり立ち上がり、無邪気な笑顔で再び近づいてくる。

 その笑顔は、戦いと食事を同時に楽しんでいるようであった。


「うふふ、やるじゃない。開花してないとはいえ、流石はメルちゃんね」


 カイトは剣を突きつけ王創を滾らせる。


「俺はメルじゃない! カイトだ! お前が神だか何だかしらないが、大人しくする気がないならここで殺す!!」


 カイトの殺すといった発言に、今までニコニコしていたマールの表情が急に固くなる。

 同時に大地が震え、マールから激しく創遏が溢れ出し、両目が黄色く変色を始めた。


「僕ちんを……殺す? 家畜が誰に向かって物申しとるんじゃ……大概にしとけやワレ」


 マールの変色した両目と爆発的に溢れ出す創遏は、まさにカイトがメルに飲み込まれていた姿そのものであった。

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