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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第4章 神々の再臨
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第7話 否定的な理解

「カイト! 焦る気持ちは分かるけど、ちょっと歩くの早いよ!」


 チャーブルへと足早に進むカイトを、ナナが小走りで追いかける。

 人喰い鬼の話がカイトを足早にする要因の一つであるのは間違いない。

 だがもう一つ……カイトはあえて聞かないようにしている事実に、少し困惑気味であった。


 先頭を進むカイトの後方。

 つい最近までキルネの師団長であったジャムが、当たり前のようにそこにいる。


 事前に話は聞いていたが、それを納得できるかは全くの別問題だ。

 その不信感は背から漂い、ジャム本人に痛いほど突き刺さる。

 ジャムを明らかに避けているであろうカイトの態度は、誰もが見て分かるものであった。


「カイト、私達は遊びに行くんじゃない。街につく前にお互いのことをスッキリとしないかい?」


 見かねたルディが、きっかけに手を伸ばす。

 これはジャムだけの問題ではない、姉妹の問題なのだ。

 カイトはその場で立ち止まり振り返ると、そのきっかけに向かい容赦なく想いを打ち明けた。


「俺は、ジャムさんが平気な顔してグロースにいることが信じられません」


 ストレートな否定は、時に優しさでもある。

 カイトの言いたいことは、ジャム自身が一番痛感している。

 この状況で回りくどい言い方をされるより、ストレートに心を殴りに来てくれた方が何倍も気が楽になれた。


「カイト君、あなたの言いたいことは分かります。キルネはセントレイスに甚大な被害を与えた。その師団長であった私は、本来なら生きているべきではない」


 ジャムはカイトの目を真っ直ぐ見つめながら答える。

 その眼差しに迷いはなかった。

 紛いなりにも師団長として隊をまとめてきた女性である。

 否定されて落ち込み、うずくまるなんて柔な志しは既に乗り越えていた。


「周りから拒絶されるのは当たり前。だけど、それでも自分から動き出さないと前には進めない」


 現在、キルネ第四師団とグロース第三部隊は合併状態にある。

 それはトップの二人が勝手に和解しただけであり、現状は部隊内でもいざこざが絶えない状態だ。


「カイト、私は今回のことでグロースを除隊してもらうつもりだった」


 ジャムの言葉を追うようにルディが想いを打ち明ける。

 カイトとナナは突然の言葉に目を見開いて驚いた。


「責任をとるつもりだったんだけどね、レオに言われたんだ。『責任をとりたい気持ちは分かる。だけど、その行動は責任をとるとは違う。責任から逃げているだけだ』ってね」


 ルディの心を真っ向から否定せず、立ち向かう意思を与えたのはレオであった。


「情けなくなってね……レオは自分の過ちを乗り越えようと必死にもがいている。その姿を目の前で見ていたのに、私は自分の楽な方へと逃げていた」


 レオは毎日、セントレイスのためにその身をとしていた。

 それは自分の過ちを償うためだけではない。

 自分への信頼を取り戻すため。

 エレリオの息子を堂々と名乗るため。

 前に進もうとする強い意思がレオを動かしている。


「そんな人を前に、私達が諦めるわけにはいかない。自分を認めて貰うには、立ち止まっていてはいけない。だからこそ、今回の同行に名乗りでたの」


 ルディとジャムの強い意思を聞き、カイトはそれ以上なにも言うことはなかった。


「すみません。俺も表面でしか物事を見ていませんでした」


 話は理解したものの、今すぐ納得することなんて出来はしない。

 この気持ちを変えるかどうか、それはルディとジャム次第である。

 そんな否定的な感覚に囚われながらも、レオの想いを聞いて自分の心の狭さを少し痛感した。


 そのまま微妙な距離感を埋めきることより先に、カイト達はチャーブルの街へとたどり着く。


「なんだよ……これ……」


 遠くから街並みが見えた時に異変はなかったが、近づくにつれ街が白ぼけくる。

 目の前についた時には、街全体が真っ白い結界のような球体に覆われ、中の様子が見えなくなっているのが分かった。


「これは……結界なのか?」


 カイトが恐る恐る球体に手を当てると、水面のように柔らかな波紋をうつ。

 そのままゆっくりと吸い込まれるように体が勝手に中へ入っていった。


「えっ?! ちょ、体が……」


 結界の中に吸い込まれてしまったカイトをただ呆然と見ていたナナ達は、状況が良く分からないでいた。


「カイト……? ねぇ! カイト!!」


 ナナは結界に向かってカイトの名を呼ぶも、何の返答もなく不気味な静けさが辺りを支配する。


「一体どうなっているんだい?」


 ルディが続けて結界に触れると、同じように中へと吸い込まれていった。

 ジャムもそれに続き、その場に残されたのは遂にナナだけになってしまう。


「えっ……私どうすればいいの?! 何で誰も返事してくれないのよー!」


 返事を求めるように声を大にするが、自分の声が反響して返ってくるだけである。

 少しだけ待ってみるも、孤独感に耐えきれず、意を決してナナが結界に手を触れた。


 他の三人と同じように手が吸い込まれ、体が球体を越える。

 するとすぐ目の前にカイト達が見え、意地悪く背を向けていた。


「ちょっとカイト! 何で返事をしな……」


 自分の呼び掛けに対し、返事をしてこないことに腹を立てカイトに怒りをぶつけようとした。

 しかし、ナナは突然の鼻をつく異臭に思わず手で口周りを覆う。


「えっ……何これ……」


 目の前に飛び込んできたのは、血に染まった街並みと、バラバラに散らばっている肉片のようなものである。

 あまりの状況に、ナナの顔色は一気に青ざめ吐き気が襲う。

 肉片に残された布などを見るに、それが人間であったことは明白だ。


「ナナ、俺から離れるな」


 ナナを庇うように立ち、カイトは剣を握りしめ戦闘態勢に入っていた。


「カイト……一旦セントレイスに帰って報告した方がいいんじゃ……」


 事の重大さに、ナナはグロースに増援を要請した方が良いと判断したが、それは手遅れであった。


「ナナ……俺達は既に鳥籠の中に閉じ込められている」


 街を覆っていた結界は、街の状況を外部から見えなくするためだけの物ではなかった。

 入った人間を捕らえるよう、外に出ようとすると強い力で弾き返される。

 音や臭いも外部と遮断されている。

 一番に入ったカイトは、すぐに異変に気づいて結界を壊せないかも試していた。


 しかし、特殊な結界はカイトの斬撃を吸収するように震えるだけで、傷一つ入らず壊せる気配がなかったのである。


「この結界を作り出し、街の人々を残虐している奴がいる。今は俺達だけがそれに立ち向かえる唯一の人間だ」


 カイトの額から一筋の汗が落ち、剣を持つ手にも自然と力が入る。

 緊迫した空気が辺りを支配し、四人を飲み込もうと牙を突きつけた。

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