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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第4章 神々の再臨
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第6話 人喰い鬼

 ティナのコンサートが終わってから、早くも一ヵ月が経っていた。


 セントレイスの街並みは少しずつではあるが元に戻り始め、戦争の悲しみも時が和らげていく。


 カイトはクロエとの修行を続けながらも、午後は街の復旧に力を入れ、毎日セントレイスに顔をだしている。

 そんな姿は民衆にも受け入れられ、最近ではセントレイスの街を歩く度に「カイト! 元気しているか?」などと声をかけて貰えるほどであった。


 カイトは今日も朝から昼にかけて修行をした後、いつものようにナナとセントレイスの復旧に向かっていた。


「カイトちゃん、ナナちゃん、今日も元気そうだね?」


 街を歩いていると、雑貨屋の店主が声をかけてきた。

 いつも元気で明るい老婆が営んでいる店には、食糧から医薬品、生活用品とあらゆる物が並ぶ。

 しかし、戦争が影響しているのか棚に置かれた商品は点々と隙間を空け、店の雰囲気も少しみすぼらしさに包まれていた。


「お婆ちゃん、こんにちは。どうですか? 何か困ったことはないですか?」


 カイトはどことなく老婆の元気がないように見え、然り気無く気を回してみた。


「そうだね~。実はちょっと心配なことがあってね~」

「何かあるなら教えてください! お力になれることなら協力します!」


 カイトの言葉に老婆は少し俯き、相談を始める。


「実はね、うちの店の商品は息子が運搬してくれているの。だけど、もうその息子と一週間連絡がつかないんだよ。いつもは二、三日に一回は連絡をよこすんだけどね」

「だからお店の商品も品薄になっていたのか。息子さんはどこにいるか分かりますか?」


 老婆は店の奥から地図を持ってきて、カイト達の目の前に広げた。

 セントレイスから北東方向にある街、チャーブルを指差しながら説明を続ける。


「息子はこのチャーブルを拠点にしていつも物資を届けてくれるんだよ。小さな街だけど、その周囲には医薬品の元になる薬草が沢山とれるみたいでね」

「チャーブルですか。俺達はいったことがないけど、急げば一日でたどり着けそうだ。俺がチャーブルまで行って様子を見てきますよ!」


 息子探しを買って出たカイトに忠告するよう、老婆は一つ不安になっている噂話を告げた。


「カイトちゃんや、最近このチャーブル付近で人喰い鬼がでると噂があるんじゃ。息子を探してくれるのは嬉しいんだけどね、危ないかもしれない」


 老婆が息子の安否を心配する理由はこれだろう。

 連絡がつかなくなり、人喰い鬼の噂なんて聞いたらいてもたってもいられないはずだ。

 カイトは老婆が気を使わないよう、明るい笑顔を作って答えを返す。


「大丈夫です。俺もそこそこ強いんですよ? 人喰い鬼の噂があるなら尚更です。俺がチャーブルに行ってきます」


 老婆はカイトの優しい言葉を素直に受け入れ、頭を何度も下げながらお礼をした。

 カイト達は老婆が気負いしないようその場を離れ、少し冷静に物事を判断する。


「人喰い鬼か。これが本当なら、俺一人で納める話じゃなくなるかも知れないな」

「そうだね。カイトは今グロースに所属しているわけじゃないし、あまり勝手すぎる行動も良くないんじゃない?」

「そうだな。一度グロースに掛け合って、正式な調査の許可をとった方がいいかも知れない。急いでラヴァルさんの所に行こう」


 現在グロースは最高司令官が不在の状況である。

 臨時で第一部隊長のラヴァルがその役割をやってはいるが、正式な最高司令官としての地位には任命されていない。


 一度はラヴァルやロランといった、正義感に溢れる強者が次の最高司令官に任命されるべきだと話題にはなった。

 しかし、良くも悪くも正義感が強すぎる二人は、民衆の絶対的な支持を得るには何か足りないものがあったのである。

 最高司令官になるためには、強さや正義だけではなく、民衆全員に愛される圧倒的なカリスマ性が必要であった。


 カイトとナナはラヴァルの元で事情を説明し、グロースで調査隊が結成される。

 現状はセントレイス復興の最中。

 大人数を調査部隊に選別できる余力がないため、メンバーはカイトとナナを筆頭に、第三部隊からルディとジャムが同行することとなった。


「カイト、まともに話をするのは闘技大会以来だね。宜しく頼むよ」


 ルディとカイトが握手を交わす。


「此方こそ急なお願いをして申し訳ありません。宜しくお願いします!」


 準備を終えたカイト一行は、足早にチャーブルの街を目指した。



 ──チャーブル中央広場。

 小さいながらも、薬品作りで栄えるチャーブルの街はいつも賑わいを見せていた。


 しかし、今この街を支配しているものは活気に溢れた人々の声ではない。

 至るところであがる悲鳴と、恐怖に怯える泣き声であった。


「あぁ……お助け下さい……」


 小太りの中年男性が、怯える民衆の後をゆっくりと追い回す。

 その顔は不気味な笑顔で包まれ、口の周りは血で染まり、額には十字の刻印のようのものが刻まれていた。


「ほれほれ、早く逃げないと食べちゃうぞ~?」


 人々の悲鳴を楽しんでいるように、その男は執拗に民衆を追いかけまわす。

 民衆が必死に逃げ惑う中、一人の女性が段差に足をひっかけ転んでしまい、男に追いつかれてしまった。


「神様……どうか私達をお救いください」


 女性は震えながら手を合わせ、神に願いを乞う。

 そんな姿を見て男は高笑いし、女性の髪を鷲掴みにしながら顔を近づける。


「あぁ……お助けを……」

「君は不思議なことをいうね?」


 その言葉に対し、慈悲は一切与えられなかった。

 そのまま男が創遏を手に込めた瞬間――女性の頭は爆発し、残された胴体のみがピクピクと震える。


「君達は家畜の悲鳴に声を傾けたことがあるのかい?」


 男は舌を出し、ペロリと自分の口周りに飛んできた返り血をひと嘗めすると、満足げに笑いを飛ばす。


「そうだね~……君達に捧げる言葉があるとすれば、それは『いただきます』かな?」


 男は顎が地面にくっつく程大きく口を開き、女性の胴体を一口で丸飲みにする。

 その姿に周囲の人々は怯え固まり、神に祈りを捧げるしかできなかった。


「神様……どうか、どうかこの化物から我々をお助け下さい……」


 男はそんな人々の姿を見て、不思議そうに首を傾けながら次の獲物を見定めていた。


「神様? 僕ちんがその神様なんだけどね? 本当、君達は不思議な生き物だね~」

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