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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第2章 世界第七戦争
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第25話 守りたい世界

 キルネ本部から数百キロメートル北に向かうと、そこには巨大な渓谷が存在する。

 谷の側を流れる川が流れ込み、底見えぬ深い谷に美しい滝を作り出す。


 ──メルトームの涙。


 キラキラと可憐に輝く水しぶきから、その滝は知の女神メルトームの名がつけられていた。


 流れ込んだ滝は、深層の地に到達する前に水蒸気へと変わり蒸発をする。

 その理由は、深層にあるルーインの核から発せられている膨大な熱量によるものであった。


 世界には必ず一つの核があり、核からは無限の創遏が生成されている。


 この世界(ルーイン)は、神話の戦いに勝利した闘神メルが作ったと伝えられていた。

 神が世界を創成する理由は諸説ある。

 新たな神の歴史を作るため、自らの存在を他の神に誇示するため、自分好みの世界を作り鑑賞するため、様々な憶測があった。


 しかし、メルがこの世界を作った理由はそのどれにも当てはまらない。

 ルーインは、戦いに敗けたハイネンを閉じ込めておく監獄。

 ハイネンが二度と歯向かわないよう、他の世界に干渉できないように細工し、孤立した次元に一つだけ作った孤独の世界であった。


 細工された世界の核はとても脆い。

 本来無限に生成される創遏もルーインに限っては限界があり、この世界は作られたその瞬間から崩壊の道を辿っていた。

 更には次元を越える手段が発覚し、それを乱用するようになってから核にかかる負担は一気に増幅された。


 崩壊に向かい進むルーインの核に自らの創遏を流し込み、滅びゆく世界に抗っているのが他でもない、エンドであった。

 しかし、エンド一人の創遏では限界があり、崩壊の速度を下げることができても完全に止めることはできなかった。


 そこでエンドが目をつけたのが四凰の歌であった。


 神の力とも噂される四凰の歌の力があれば、世界の崩壊を食い止めることができる。

 確証はないものの、確信はあった。


 しかし、この想いを理解する者はいない。


 ルーインでは自分さえ良ければそれでいい、その考えを持った者が一般的である。

 世界を救おうなんて正義の心を持った者など、他にはいなかった。

 エンドはそのルーインに染みついたの思考を理解しており、自分の部下にも真意を話すことはなく、ただ一人この世界を守るために戦っていたのである。



「普段から核に自分の創遏を流し込んでいるエンドは、体にほとんど創遏が残ってない。そもそもまともに戦いをすることができるような状態にないのよ」


 ティナの言葉にカイトとナナは驚きを隠せなかった。


「嘘でしょ?! そんな状態でカイトと互角以上に戦っていたの?」

「エンドと互角に剣を交えていた時は舞い上がっていたが……言われてみればそうか。ルーイン最強と謳われ、キルネを力でまとめ上げているのに、俺があれだけ抵抗できていたのがおかしかったんだ」


 更にティナは話を続けた。


「それだけじゃない。セントレイスへ襲撃に来た時も万全ではなかったはず。それなのに、弱っていることを部下に悟られないよう気丈に振舞っていたのよ」


 クロエは話を無言で聞いていた。


「自分が産まれた世界を守りたい、その想いでエンドは戦っていた……たった一人で。確かにその手段はとても許せるものではない。だけど、私達はもっと理解しあいお互いに助け合うことができるはずよ」


 ナナもティナの話に賛同した。


「そんな事情が。自分の産まれた世界を一人で守ろうとしていたなんて……もっと早く話し合うことができていたら、違う選択肢があったはず」


 カイトはティナに賛同するナナの言葉を黙って聞いていた。

 クロエも目を閉じ、何か考えているようであった。


 そしてエンドは、手のひらを返したようなティナとナナの態度に反論する。


「俺はお前達に理解してもらおうとは思っていない。それにお前達二人が理解したところで、俺達がファンディングに与えた被害が無くなるものではない。俺はお前達の敵だ、さっさと殺せ……」


 拘束された体ではクロエに抵抗できないと分かっていたエンドは、素直に殺されることを選んだ。

 その姿に、ティナは思わず同情の念が頭を(よぎ)る。


「待ってよ! あなたが死んだらルーインを守ろうとする人はいなくなる。あなたが今まで必死に守ろうとした世界を、そんな簡単に見捨てるの?! 私はあなた次第で協力する。あなたが産まれたこの世界を、私の力で守ることができるなら……」


 エンドはティナの心意気を鼻で笑った。


「ふっ、少し話をしたらもう全て分かったつもりか? この俺が同情されるとはな……」

「同情じゃない! 私は自分の意思でこの美しい自然に溢れたルーインを守りたいと思っただけよ!」

「美しい世界か……確かにこの世界は美しい。自分のことしか考えず、力で全てを解決しようとするルーインの人間性は醜いものがある。それでもファンディングの糞野郎どもに比べたら、それは純粋に生きようとする人の本能。産まれた世界が違うだけで、こうも思考が変わるとは不思議なものだ」


 エンドがファンディングの人を見下した態度に、ナナは少し苛立ちを見せる。


「あなたはファンディングの人々の何を知っているの! ルーインしか見てこなかったのに、ファンディングの優しい人々を否定しないで!」


 それはエンドにとって軽率な発言であった。

 明らかに怒りを露にしたエンドは、激しく反論を始める。


「何も分かっていないのは貴様のほうだ!! ルーインしか見てこなかっただと?! 何も知らない小娘がしゃしゃりでるな!! お前達に教えてやろうではないか、ファンディングの人間が如何に醜い生き物かを!!」


 エンドが自らの過去を語り始めた。



 ──今から三十九年前──


 ファンディング北西部の山々に囲まれた小さな村で、一人の男の子が産まれた。

 母親は子供が生まれると同時に絶命し、父親は産まれたての子供を捨て行方不明となった。

 身寄りのない赤子を村の人々は誰も育てようとせず、自然と力尽きるのは時間の問題であった。


 そんな赤子を育てると引き取ったのは、小さな村から更に山奥にある掘っ立て小屋に住む一人の女性であった。


 彼女の名はレーベン=センティア。


 赤ん坊はレーベンに抱き上げられると、天使のような笑顔でレーベンを見つめた。

 その笑顔に魅了され、レーベンも優しく赤ん坊を包み込む。


 レーベンは赤ん坊に名前を付けた。


 エンド=センティアと……


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