表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第2章 世界第七戦争
59/167

第21話 繋心

「ほう、こんな小娘が王創を纏うか……まがいなりにも四凰の歌を秘めるだけはあるな」


 桃色の王創を纏い立ち上がるナナを、エンドが興味深そうに見つめる。

 さっきまで掴んでいたカイトの首を離し、エンドはゆっくりとナナに向かって歩み寄った。


「がはっ……」


 カイトは解放されたが、その場に倒れこんでしまう。

 苦しそうに咳き込みながらも、意識はしっかりと保っていた。


「ナナ……逃げろ……」


 ボロボロの体で、必死に地面を這いつくばりながらカイトはナナの元を目指した。

 そんなカイトを見て、ナナは一つの決断をする。


「カイト。私は初めから何かできるかを考えるだけで、何かをしようとしてこなかった」

「王創を纏えば俺と戦えると思っているのか?」


 王創を纏ったナナは、まっすぐな目でエンドを見つめた。


「私に戦う力はない。だけど、私には歌がある」


 創遏を高めるナナを、桃色の王創が包み込む。


「歌を戦いに使うなんて間違っている。でも、大切な人達を守るためなら私は歌ってみせる!!」


 ナナが創遏を解き放ち、歌い始める。

 優しい歌声が大広間に響き渡った。

 その歌声に呼応して、辺りの空間がざわざわと騒ぎ出す。


 周囲の空気に漂う元素、そして壁や床などの造形物からもエネルギーが光の玉となりナナに集う。

 次々と集まってくるエネルギーに、エンドは危機感と同時に高揚感を感じた。


「四凰の歌、俺が求めた力。素晴らしいぞ……」


 すぐにでも歌を止めるべきだ。

 そう本能で分かっていても、エンドはその歌声に魅了された。


 大量のエネルギーがナナの元へ集まったのと同時に、ナナがカイトへと手を差し伸べる。

 カイトがナナの手を握ると、その全てのエネルギーが創遏となりカイトに流れ込んだ。


「これは……!!」


 とてつもない力が流れ込んでくるのが分かる。

 傷こそ治らないものの、尽きかけていた創遏がどんどん回復していく。

 それどころか、全快の状態を越える莫大な力が湧き上がってきた。


 リリーの鼓傑の歌が人の潜在能力を引き出すものだとしたら、ナナの統率の歌は意思やエネルギーの集束。

 ナナは統率の歌を応用し、エネルギーの集束、創遏への変換を行ってみせた。


「歌は人の心を繋ぐもの。戦いのために使うなんて死んでも嫌だった。だけど、目の前の大切な人を救えるなら……そんなプライド捨ててやる!!」


 辛い決断だったはずだ。

 しかし、ナナの表情に後悔はなく、決意に満ちていた。

 そんなナナを見て、カイトにも闘志が漲る。


「ありがとうナナ……この力があれば、俺はまだ戦える……」


 カイトの体から再び王創が弾け出し、どんどん勢いが強まっていく。

 先程よりも濃く、燃え滾る赤色のオーラがけたたましくうねりを上げる。


 傷ついた体を振るい起こし、剣を力強く構え直すとエンドに切っ先を向けた。


「いくぞ!!」


 先程の数倍の速さでエンドとの距離を詰め、カイトが剣を振るう。

 王喰状態のエンドには傷一つ与えられない程の差があったが、カイトの攻撃に凄みを感じたエンドは咄嗟に剣で防御する。

 カイトの攻撃を受け止めた瞬間、衝撃によりエンドが後ずさりした。


(こいつ、さっきまでとは別人のような強さだ……)


 真剣な顔つきになるエンドが、カイトの急激な力を冷静に分析する。


(確かに統率の歌によって莫大な創遏の上乗せをしたみたいだが、それだけじゃない……)


 カイトの王創とナナの王創がゆらゆらと交わり、美しい輝きを放っていた。

 本来、王創はその者の心を表している。

 似た志しこそあれど、王創は人によって必ず違いがあり、決して二つの王創が交わることはないとされてきた。


 だが、カイトとナナのお互いを想う心がその不可能を可能に変えた。

 信じ合う者同士の心が完全に一致した時、それに王創は答え呼応する。


 エンドやクロエ達が使う力が王を喰らうとするのなら、カイトは王を、世界を繋ぐ。


 その姿の名は『繋心(せんか)

 過去の神話で、闘神メルにのみに使うことができたとされる伝説の力。


 ナナとの共鳴により解き放たれた力が更に膨れ上がる。


「馬鹿な、この力は人間が身につけれるものではない!! これが世界の意思なのか?! 抗うことは許さないというのか始創よ!!」


 エンドは誰かが作り上げたかのような展開に怒りを爆発させた。


「カイト=ランパード、俺達は世界の駒にすぎない。お前はこの作られた運命に弄ばれているだけだ!!」


 カイトとエンドが剣をぶつけ合う。


「俺はお前が何を言っているのか分からない! 世界が何だっていうんだ!! 俺達の目的は大切な人を助けることだ!」


 先程まであった圧倒的な実力差は、カイトの繋心発動と同時になくなり、互角に剣を交えていた。

 拮抗した二人の戦いはその勢いを増し、キルネの本部全体に振動が響き渡る。


「ランパード!! 貴様はまた俺から全てを奪うのか!!」


 何かに憑依されたかのようにエンドは攻撃の手を強める。

 攻防は熾烈を極め、徐々に二人からは疲れが見え始めた。


「はぁ……はぁ……」


 先に力が尽きたのはカイトの方であった。

 初めて経験した強大な力に、体がついてこなくなってきた。


「くそ……ここまでなのか……」


 王創が消えかけ、ナナとの繋心がなくなってしまう。


「カイト!」


 膝を突くカイトにナナが寄り添う。

 エンドも王喰が消え、息があがっていた。


「はぁはぁ……ここまで手こずるとは……」


 エンドがカイトに止めを刺そうとするも、力が入らずふらつく体を支えるので必死であった。


 緊迫した二人の空気が微かに揺らぐ。

 その瞬間、エンドが突然一つの視線を感じた。


 いつの間に現れたのか、気がついたらエンドの後ろにはレイズが立っていた。


「やれやれ、ルーイン最強が聞いて呆れる。小僧一人殺すことができないとは……」


 エンドが息を整えレイズを睨みつける。


「ここで何をしている……レイズ?」


 レイズは不敵な笑みを浮かべながら、エンドとカイトの間に割って入った。


「何をしているかですって? それは私のセリフですよ。不甲斐ないあなたに代わり、この戦いを終結させてあげましょう」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ