第20話 漆黒を纏う者
エンドと対峙したカイトは咄嗟に身構えるも、内心は思ったより冷静であった。
エンドから無意識に放たれる創遏は強大。
しかし、それはいままで経験したことがない程ではなかった。
「ほう……俺を前におじけづかないか。大した気構えだ。お前は確かカイトといったな?」
「ああ、俺はカイト=ランパード。ティナさんは俺が助ける!」
カイトの名前を聞いたエンドは一つため息をついた。
「全く、この世界はまるで誰かに操られているようだ。俺とお前は戦う運命にある。抗うことのできない絶対的な運命にな」
「それは意外だな。俺はお前に運命なんて感じたことはない」
エンドが黒い王創を纏い、戦闘態勢に入る。
(黒い王創だと?! いや、あれは漆黒……)
クロエの黒い王創よりも更に深い漆黒。
自由を表す黒、その自由をも飲み込まんとする漆黒は、まるで孤独を表しているようであった。
「俺とお前の運命がいかなるものか、直ぐに分かるさ」
剣を作り出すエンドを見て、カイトも赤い王創を纏う。
その瞬間、一瞬で間合いを詰めてきたエンドが剣を振りかざした。
咄嗟にエンドの攻撃を避け、カイトも怯むことなく攻撃を返す。
そのまま何度もお互いに剣の交えるも、戦況は少し意外な展開に発展する。
カイトの攻撃をエンドははじき返すも、カイトはエンドの攻撃を全て躱してみせる。
現状の二人を見るに、スピードに関してはカイトが風上に立っているようにみえた。
(やれる。確かにエンドからは強大な力を感じるが、それは普段から剣を交えているクロエさんも同じ。俺はルーイン最強の男と対等に戦えている!!)
エンドもカイトの実力に驚いていた。
以前ネルチアからの報告でカイトの話は聞いていたが、秘められた力があるものの、その時はまだひよっこのような強さであったはず。
クロエに鍛えてもらっていると情報はあるが、それにしてもこの短期間で爆発的に強くなっている。
まさにエンドと戦うこの時のために、力が強制的に開放されているようであった。
「これもまた、世界の意思なのか……」
何かを悟っている様子のエンドは、目を細めて再びため息をつく。
カイトは自分の強さの成長をクロエ達との修行のおかげと信じ、エンドと対等に渡り合えることに違和感をいだいてはいなかった。
「こいつと戦い、俺が負けることを世界は望むか? ならば、その世界の意思に反旗を示してやろう」
エンドの王創がゆっくりと体内に流れ込み、片目が黒く変色する。
「これはクロエさんと同じ、王喰……流石に覚悟はしていたが、やっぱり使えるか」
王喰状態になったエンドを前に、カイトは初めて後ずさりをし距離を広げた。
「本来この力は使える者が限られる特殊な力。俺も元々は使えなかった。だが、世界の意思に歯向かうためにはこの力がどうしても必要だ。強くなる、その一心でこの力を手に入れた。これもまた、世界の意思かもしれないがな」
エンドが度々言葉にする世界の意思。
この時、カイトはこの意味をよく分かっていなかった。
「何が世界の意思に歯向かうだ。それとティナさんやファンディングの皆が傷つくことと、何が関係あるっていうんだ!!」
カイトがエンドに駆け寄り、剣を振り下ろした。
しかし、先程までカイトの攻撃を剣で防いでいたエンドであったが、王喰状態になったことにより均衡していた実力に圧倒的な差が現れる。
振り下ろされたカイトの剣を片手で受け止めると、同時に剣を振り下ろす。
身の危険を感じたカイトは、咄嗟に後方へ飛び攻撃の直撃をさけるも、強烈な剣圧に壁まで吹き飛ばされてしまう。
(くそっ! 王喰になるだけでここまで力に差がでるのか!?)
倒れこむカイトに、エンドが追い討ちをかける。
すぐさま体を起こし、エンドの追撃に対応するも、先程までの攻撃とは速さも重さも桁が違った。
みるみるうちに追い込まれるカイトであったが、その瞳に滾る闘志が途切れることはなかった。
「気に入らない目をしている。この実力差を見せつけてもまだ勝つことを諦めないか」
「諦めないさ、皆が戦っている。俺だけが勝手に諦めるわけにはいかない」
エンドの戦い方を肌で感じ、カイトは勝つために何が必要か感じていた。
(王喰……俺もこの力を使うことができたら……)
カイトは見様見真似で自分の王創を一点に集中し、力を貯める。
「王喰を使えれば……そう考えているのであろう」
エンドはカイトの心を見透かしていた。
「そうだ。俺もこの力を使うことができれば、お前に勝つことができるかもしれない」
甘い考えのカイトを蹴り飛ばし、エンドは笑い始める。
「そんな思いつきでこの力を手に入れられると思っているのか? 笑わせるな小僧。今の俺に勝つこともできん奴が王喰を使うだと? 少し弐王に鍛えてもらったからと粋がるとは、愚かなものだ」
エンドの言葉の通り、どれだけ王創を集中してもそれはただ力を貯めただけであり、とても王喰と呼べるものではなかった。
「くそっ、王創はかなり使いこなせるようになったはずだ。いったい何が違うっていうんだ」
エンドのから立て続けに攻撃を受け、傷だらけになっていくカイト。
次第に力が弱まり、ついには王創まで解けてしまった。
膝を突き苦しむカイトにナナが駆け寄り、腕を掴む。
「カイト、このままじゃカイトが死んじゃう……」
「ナナ……離れるんだ。俺の傍にいたら攻撃に巻き込まれる……」
必死に歯を食いしばり、カイトは何とか起き上がる。
しかし、満身創痍のカイトは誰が見ても戦える状態ではなかった。
エンドの全てを飲み込む漆黒が、カイトを死へと引き込んでいく。
近寄ってくるエンドとカイトの間に、思わずナナは割って入った。
(このままじゃカイトが死んじゃう……私だって何か役に立ちたくてここに来た……私にできること、何かあるはず……)
「小娘が、力も無いのに戦いに割って入るでない」
エンドが軽く剣を振るう。
「きゃっ!?」
剣圧によって簡単に吹き飛ばされてしまい、ナナは壁に叩きつけられ倒れてしまった。
「ナナっ?! 貴様ぁぁーー!!」
カイトがエンドに向かい剣を振りかぶるも、ボロボロのカイトの一撃はエンドに傷一つ与えることもできない。
「歌姫だから殺しはしない。だが、あまり度が過ぎれば今すぐにでもこの男の命を握り潰してやるぞ」
エンドがカイトの首を握り絞めたまま持ち上げる。
「ぐぁあぁぁ……」
じたばたともがくカイトの口から、泡が噴き出している。
声にならない苦しみがカイトから力を奪い、首もとからはメシメシと軋む音が響く。
「やめて!!」
ナナは必死に叫んだ。
しかし、その叫びがエンドの心に届くことはない。
「さて、そろそろ終わらせてやろう」
「やめてぇぇーー!!」
エンドが首を絞める力を更に強めようとした時、悲痛な叫び声に呼応するかのように、ナナから桃色の王創が弾けだした。




