第19話 破壊王
──セントレイス東部。
次々と戦いが終わりを見せるなか、メルドと対峙していたラヴァルは苦戦していた。
戦いが始まってすぐ、ラヴァルはメルドの実力を感じとる。
自分と大差がないと見立てていたが、一方的に押されていたのであった。
ラヴァルの斬撃は全て力負けし、法遏もメルドに届く前にかき消されてしまう。
逆にメルドの強力な斬撃を防ぎきることができず、瞬く間に体が傷だらけになっていく。
(おかしい……奴の創遏と俺の創遏は大差ないはずだ。なのに何故こうも一方的にやられる)
ラヴァルはグロースの第一部隊長になってから、いくつもの戦いを乗り越えてきた。
その経験の中で感じたことのない不快をメルドから感じとっていた。
「何故自分が押されているか分からんか?」
迷いを見せるラヴァルの心をメルドは見透かしていた。
「ああ、まったくもってその通りだ。貴様と俺にはそう実力に大差がないはずだ。なのに俺の攻撃だけが一向に当たらないのはおかしい」
メルドは自慢げにラヴァルにその理由を話始めた。
「お前が俺に勝てない理由は二つある。一つは戦いの相性。お前の戦い方はまさに典型的なバランス型だ。法遏、活遏、創成、どれもそつなくこなし、いかなる事態にも臨機応変に対応するだろう。しかし、それは突出した一つの力に脆い。俺は破壊王メルド。破壊することに特化した俺の攻撃を、お前の攻撃や防御で打ち破ることはできん」
メルドの言葉に対抗するように、ラヴァルが剣を振るい反抗する。
しかし、メルドはラヴァルの剣を一撃で粉々にしてしまう。
「お前みたいな攻撃に特化した奴を相手にするのは初めてじゃない。それに俺の知っている最強の二人は全てにおいて強い。バランス型だから負けるのは言い訳にならない」
「弐王か、お前は弐王に憧れているのか?」
「憧れとは違う。一人は正義感の強い頼れる兄貴のような人だが、もう一人はふざけた思考で自分勝手な奴だ。はっきりいってクロエは誰よりも気に入らない。だが、俺はどちらも同じだけ尊敬している。あの人達はいままで、何度も世界を守ってきた。憧れなんて言葉で表せる存在ではない」
ラヴァルの話にメルドは頷きながら納得した。
「お前は弐王には一生追いつくことはできないと?」
「あぁ、俺は世界を守るために高みを目指す。だが、あの二人は例外だ。一生追いつくことはない。俺とは住む世界が違う。だからこそ、追いかけたい背中でもあるんだ」
メルドがラヴァルに向かい指を差す。
「それが二つ目の理由だ。俺とお前では創遏の量はたいして変わらない。だが、質が違うんだ。弐王も同じ。産まれた瞬間から、お前は俺や弐王とは器が違う」
「なんだと?」
「お前からは内に秘めた向上心、正義への強いこだわりを感じとれる。それに加え努力する才もあり、今の地位まで必死に上り詰めたのであろう。だが、所詮はそこまで。お前はあくまで人間の域に留まる存在、それが限界なのだよ」
煽られたことに怒りを覚えたラヴァルは、新たに剣を作り出しメルドに立ち向かう。
二人の剣がぶつかりあった瞬間、一瞬で腐食したかのようにラヴァルの剣が粉々になってしまった。
「くそが……どうなってやがる」
一旦メルドとの距離をとり打開策を考えるも、ラヴァルからは明らかに焦りが見えていた。
「俺はレイズ様によって作られた人工物。始創様の力によって作られたのだ。お前達のような神の失敗作とは違う」
「作られた? 始創の力? 一体何を言っているんだ」
「弐王も同じ、お前達とは存在の質が違うのだよ。失敗作ごときが俺に歯向かうことがおこがましい。実力に大差ないといったな? 創遏の量だけを見て、その本質を見ようともせず俺と同じ土俵に立てると思うなよ。俺がその気になったら、今すぐにでもお前を灰に変えてやるぞ」
メルドが創遏を集中し始める。
周り一帯の空気が震え、重々しい圧迫感がラヴァルを襲った。
「こいつは、一体……」
ラヴァルの額から、無意識に冷や汗が流れ始める。
「しかと見ておけ、これが破壊王と呼ばれた俺の力だ」
メルドから膨大な創遏が弾け飛ぶと同時に、片目が茶色く変色していく。
これはラヴァルも見たことのある光景であった。
「これは……まさか……」
周囲の空気がメルドの創遏により重圧を増し、ラヴァルは思わず膝を突いてしまった。
「お前達は確かこの力を王喰と呼んでいたな。弐王ほどではないが、俺も使えるんだよ」
弐王に劣るともいえない力を感じ、ラヴァルは思わず絶望してしまう。
キルネを甘くみていた。
まさか、弐王と同じ力を使える者が他にもいるとは想像もしていなかった。
「俺では、勝てない……」
戦う気力を失ったラヴァルを見て、レイズはため息をついた。
「お前は第一部隊長なのだろう? 何とも簡単に折れてしまう正義だな」
簡単に折れてしまう正義。
違う、ラヴァルの心は決して弱くない。
今までも数々の境地を乗り越えてきたラヴァルですら、抗うことを許さない格差。
実力が均衡していると思っていたメルドに秘められた力は、それ程に強大だったのである。
メルドはラヴァルの髪を鷲掴みにすると、そのまま腹部に剣を突きさした。
口から吐血し苦しそうに悶えるラヴァルに対し、メルドは手をかざし詠唱を始める。
このまま、ラヴァルを跡形もなく消し飛ばすつもりであった。
その時、けたたましい轟音と共にセントレイス上空を覆いつくすであろう超巨大な次元の裂目が発生する。
それを見たメルドが詠唱をやめ、空を見上げた。
「これは、レイズ様か……」
何かを察したメルドがラヴァルから剣を抜き、空間転移を使ってその場から消えてしまう。
血だらけになりながらも命を繋いだラヴァルであったが、意識を失い倒れこんでしまった。
──今より一時間ほど前に遡る。
カイトとナナは最下層に続く階段を下り、大広間に到着する。
広間の中央には球体にはティナが閉じ込められていた。
「ティナさん!! 俺達が一番に着いたのか? クロエさんはどうしたんだ?」
カイトとナナに気づいたティナは何かを叫んでいるも、声は外に通らなかった。
「ティナさん、今助けます!」
ティナの元に駆け寄ろうとした時、一人の男が奥から歩いてきた。
その男から放たれる創遏に、カイトは思わずたじろんでしまう。
ルーイン最強の人間、エンドがカイトの前に立ちはだかった。




