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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第2章 世界第七戦争
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第16話 再生の歌

「うぁあぁぁーーー!!」


 叫び声をあげながらレオは見境なく剣を振り回す。

 一振りする度に斬撃が衝撃波となり、キルネ本部が少しづつ崩壊を始める。

 強烈な衝撃波に、アリスはレオに近づけずにいた。


「レオ、何とか近づかないと……」


 必死にレオの傍に寄ろうとするも、容赦なくアリスを衝撃波が襲う。

 アリスは自分に張った結界によって衝撃波の直撃を避けるも、その威力を防ぎきれずに体が傷ついていく。


「アリス!! 無茶よ!! レオにたどり着く前にあなたが死んでしまう!!」


 リリーがアリスに向かい叫ぶも、レイズの結界によってその言葉はかき消されてしまう。

 結界の中で慌てるリリーの姿を見て、アリスは察していた。


(途轍もなく強固な結界。リリーさんとロランさんですら出ることができない……私が一人でやるしかない……)


 何とかレオに近づく方法を考えるも、アリスの中でそれは一つしか思いつかなかった。


(やっぱり、私にできることはこれしかない……覚悟はできてるよレオ……)


 覚悟を決めたアリスが、レオに向かい一直線に駆け寄る。

 まさに捨て身の行動であった。

 近づくことによって威力が増した衝撃波により、アリスの結界は直ぐに砕け散ちる。

 無防備になった体は、瞬く間にズタズタに斬り裂かれていく。

 体のいたるところから血を流しながらも、アリスは怯むことなくレオに歩み寄る。


 レオの目の前にたどり着いたその時であった……


「俺に近寄るなぁぁーーー!!!」


 自我を失っていたレオの剣が、アリスの腹部に突き刺さる。

 思わずアリスの表情が苦痛で歪んだ。


「アリス!!」


 ロランとリリーが結界の中で叫んでいた。

 アリスは今まで戦いをしたこともなければ、剣を握ったこともない。

 勿論、腹を貫かれる激痛など味わったことはない。

 戦闘に身を置いたことのあるロランやリリーは、その痛みがどれほどのものか良く分かっていた。

 常人では耐えることの出来ない痛み、アリスに耐えられるはずがない。

 何とか助けに行かなければ、その一心で結界に攻撃を続けた。


 しかし、その心配をよそにアリスは自ら剣を更に深くまで押し込み、レオを抱き締める。


「レオ、アリスだよ……」

「ア……リス……」


 血だらけのアリスに抱き締められ、一瞬正気に戻ったレオであったが、自分がアリスを傷つけている事象に耐えきれず、また直ぐに自我を失ってしまう。

 創遏の暴走、それは本人の意思で止められるほど簡単なものではない。

 だから暴走だけは起こさないように、普段から創遏の制御を鍛錬するのである。


「うぅうぅぅ……あぁあぁぁ……」


 アリスを傷つけたことによって、より一層レオの負の感情が高まりをみせた。


「レオ……辛いよね……もう大丈夫……私はずっとレオと一緒だよ……」


 レオを抱き締めたまま、アリスが歌を歌い始める。


 ──再生の歌。

 可憐な歌声がレオの狂気を抑え込んでいく。

 しかし、ただの歌声では暴走を止めることはできなかった。

 アリスは徐々に創遏を高め、更に力強く歌を歌う。


 その歌声の異変に、リリーは真っ先に気づいた。


「アリス!! それはだめよ!!」


 尋常じゃない焦りを見せるリリーに、ロランも直ぐに事態を把握した。


「あれはまさか……」

「だめ……あの歌い方。あの子……限界を超えるつもりよ……」


 何もできずリリーはその場に膝を突いた。


「再生の歌の限界点突破、それは全ての原子を塵にする力。アリス……レオと一緒に死ぬつもりか……」


 ロランもまた、何もできず怒りに震えていた。


 歌声に乗せた創遏はどんどんと増していき、次第に柔らかな光がアリスとレオを包みこんでいく。




 レオ……


 家族を失って生きる希望を失った私に、あなたは生きる意味を与えてくれた……


 無邪気な笑顔……


 怒った時の拗ね方……


 照屋さんな所……


 悲しむ私をいつでも優しく包んでくれたその両手……


 全部……全部大好きだよ……


 こんな助け方しかできなくてゴメンね……


 私も……一緒にいくよ。




 歌声が最高潮に近づき、アリスに刺さっていた剣が原子分解を起こし消えていく。

 更に、レイズが張った結界も徐々に力を失い崩壊を始める。


「これは……神々の力……ここまで引き出すのは予想外ですね……」


 レイズもアリスの歌声に驚いていた。


 結界が弱まったことに気づいたロランは、再び王喰を放ち結界を打ち破る。

 直ぐにアリスの元へリリーが駆け寄るも、膨れ上がった創遏は二人に近寄ることを許さなかった。


「アリス! だめぇーー!!」


 リリーの叫び声も虚しく、アリスとレオの体から蛍のように無数の光が浮かび、今にも消え始めようとしていた。


 レオが放っていた負の感情も、アリスの歌声により浄化され、正気に戻り始めていた。


「アリス……」


 レオがアリスを優しく抱き締める。

 正気に戻ったレオを見て、アリスから涙がこぼれた。


「レオ……おかえり……これからもずっと一緒だからね……」

「ありがとう、アリス……」


 二人の体が強烈な光を放ち、原子崩壊が始まり出した。


 ──その時。


 二人の付けていたペンダントが急に光り輝き、膨れ上がった創遏を全て吸収し、粉々に砕け散った。


「あれは、女神の涙……あんなものをもっているとは」


 レイズだけがペンダントにはめられていた宝石の存在に気がついた。


 ペンダントが砕けると同時に歌の効力は失われ、レオとアリスは意識を失いその場に倒れこんだ。

 アリスとレオの元にリリーとロランが駆け寄る。

 二人は肩を寄せ合いながら、すやすやと眠っていた。


「よかった……生きてる……」


 二人の無事にリリーとロランは肩を撫でおろす。

 そして、同時にロランが怒りを爆発させた。


「レイズ=ミル=レバンテ。貴様だけは絶対に許さない……」


 レイズを睨みつけると、満足げに笑うレイズが口を開く。


「いやいや、これは面白いものを見せてもらいました。まだまだ人間も捨てたものではないですね」


 一瞬でレイズの前まで移動したロランが、拳を振りかぶった。

 しかし、ロランを上回るスピードでレイズが背後に回る。


「あなたと遊ぶのも良いですが、何やらもう一つ面白そうなステージができていますね。私はここいらで失礼させて頂きます」


 そう言い残し、レイズは姿を消してしまう。


「糞が……」


 それはレイズに向けての言葉ではなく、ロラン自身に向けた言葉であった。

 逃がしてしまったことよりも、レイズがいなくなってくれたことに少しだけ安心してしまった自分に嫌気がさした。


 直ぐに気を取り直したロランは眠る二人を抱え、ひとまず入り口付近にいるであろうロドルフと合流することにした。


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