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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第2章 世界第七戦争
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第14話 忘れえぬ愛

 レオの容赦ない攻撃がエレリオを襲う。

 感情を失い、暴走状態にあるレオの戦闘力は、エレリオを大きく上回るものであった。


 そんな中、エレリオはレオを傷つけまいと防御に徹していた。

 徐々に体力が失われ、耐えきれなくなるのも時間の問題である。


(何とか……何とかレオを正気に……)


「レオ!! しっかりしろ!!」


 エレリオがレオに声をかけるも、その声はレオの気持ちを逆なでしてしまう。


「エレ……リ……殺す……」


 レオの攻撃は更に強まり、押されるエレリオを見かねてロランが間に入ろうとする。


「来るな!!」


 ロランに向かいエレリオが声をあげた。


「親父! そのままだとレオに殺されるぞ!!」

「分かっている。だが、これは俺が……父親が何とかしないといけないんだ!!」


 やむことのない猛攻に、エレリオは必死に食らいつく。

 その姿を見ていたアリスは、耐えきれずレイズの方へと歩き出した。


「何ですか? あなたではこの結界を壊せませんよ?」


 結界越しにレイズを見つめると、膝を突き、額を地に擦りつけながら願いをこう。


「お願いします……レオを……返してください……」


 涙を流し、頭を下げる姿にその場の全員が驚愕した。

 敵であるレイズに願うアリスの姿には、恥もプライドもなかった。

 レオを救いたい、その一心でアリスは額を地面に擦りつけた。


「私はどうなってもいい……実験にでもなんにでも使ってください……だから、だからレオを……レオを元に戻してください」


 本来なら止めるべきであろうが、アリスの純粋な行動に対し、誰も口出しすることができなかった。


「アリス=フリューゲル。四凰の歌を持つ一人。あなたの再生の歌は、全ての物質を元に戻すとともに、全ての原子を崩壊させることもできる。とても魅力的な力ですね……あなたが我々の元に来るというなら考えてあげましょうか?」


 レイズの言葉に思わず顔を上げるアリス。


「本当ですか?!」


 アリスの必死な顔を見て、レイズは再び笑い声をあげた。


「はっはっは、何て面白い顔ですか。図が高いですよ小娘。私がその気になれば、簡単にあなたを奪うことができます。それに……正直ね、私個人は四凰の歌になど興味ないのですよ」


 思わぬ答えにアリスの表情が絶望へと崩れる。


「そんな……それならあなたは何でこんなことをしているのですか……」

「全ては始創の意思、私は始創の目です。それにね? もう私にも止められないのですよ。私がレオにかけた法遏は呪いともいえる呪縛。標的を殺すまで解けることはない、エレリオを殺すまでね」


 ロランとリリーはその言葉に驚きを隠せなっかた。


「酷すぎる……そんなの酷すぎるよ……」


 アリスもその場に泣き崩れてしまった。


「あなた達の行動は全て無駄なのですよ、いったでしょう? これは親子の殺し合い。どちらか死ななければ面白くないでしょう」


 レイズとアリスが話し合う最中も、レオの攻撃はやむことはなかった。



 ──真っ暗だ──


 真っ暗で何も見えない……


 女の子が泣く声が聞こえる……


 一体誰が泣いているんだ?


 俺はレイズとの戦いで……


 どうなったんだっけ?


 確か、母さんの死んだ話を聞いて……


 あぁ、分かっている。


 きっとあれは嘘だ……


 分かっているんだよ。


 全部、俺の勝手な独りよがりだ。


 親父は家族を愛していた。


 微かに覚えているんだよ……


 まだ小さかった俺の手を握り、一緒に歩いていた姿。


 母さんと三人で笑いながら過ごした日々を……


 暖かくて、とても大きな手だった。


 今も感じるじゃないか、あの時の暖かい手の温もりを……


 何だ……


 周りが明るくなってきた……



 暗黒から目が覚め、レオの視界がゆっくりと戻る。


 感じた手の温もり、それはレオの手を握るエレリオ大きな手。



 それだけではなかった……。


「親父、親父!!」


 ロランの叫び声にレオが正気に戻る。


 レオの手の平は、エレリオから流れる血で赤く染まっていた。

 手に感じた温もりは、それによるものであった。


「あ……あ……」


 目の前の光景にレオは絶句した。

 剣を握るレオの手をエレリオが掴み、自らの心臓に突き刺していた。


「な……んで……」


 目に光が戻ったレオを見て、エレリオの苦しそうな表情は笑顔に変わる。


「レオ……戻ったか」


 安心したエレリオが口から大量に吐血し、その場に倒れこむ。

 胸からは絶え間なく血が吹き出し、辺りは赤く染まる。

 咄嗟にエレリオを抱き寄せたレオもまた、その赤に染まっていった。


「なんで!! なんでこんなことしてるんだよ!!」

「自分の子供を救えるなら……命を投げ出すことを躊躇う親なんていない……」


 エレリオの瞳から生気が徐々になくなっていく。

 それでもエレリオは必死にレオを抱き締めた。


「すまなかった……ずっと謝りたかった……本当にごめんな……」


 レオの瞳からこぼれた涙がエレリオの頬をつたる。


「なに勝手に謝ってるんだよ……わかんねぇよ……謝らないといけないのは俺の方じゃないか……」


 レオは、抱き締める力がどんどん弱くなるエレリオを強く引き寄せた。


「勝手に死ぬんじゃねーよ!! まだ生きなきゃ、まだ俺は親父になんもしてやれてねーんだよ!!」

「レオ……愛して……いた……誰よりも……お前を……愛し……て……」


 エレリオの手は、ゆっくりとレオから離れていった。

 そのまま動かなくなってしまったエレリオは、安心したように笑っている。

 最後に息子と抱き合ったエレリオは、昔の優しい父親の顔であった。


「親父……俺が……俺が……うぁぁぁあぁあぁぁーー!!」


 レオを負の瘴気が覆いつくす。

 それはレイズがレオにかけた法遏とは違い、純粋に暴れ狂うレオの感情であった。


「ぁあぁぁ……」


 再び暴走状態に入ったレオは、見境なく辺りを破壊し始めた。

 それを見ていたレイズがにやりと笑う。


「やれやれ……エレリオの思わぬ行動で興が削ぎれたところでしたが、再び暴走してくれるとはなんとも面白い。まだまだ楽しませてもらいましょう」


 レイズがロランとリリーに向かい法遏を唱える。

 すると、二人は小型の結界に閉じ込められてしまう。


「しまった!!」


 ロランが咄嗟に結界を壊そうとするも、その強度はキルネ本部を覆う結界と同じであり、ロランの攻撃を軽く弾き飛ばす。


「さて、邪魔をしてはいけませんよ。今度は愛する恋人との一騎打ちが始まりますよ」


 暴走するレオがアリスの前に立ちはだかる。


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