第13話 王を従える者
アリスは思わずエレリオに問いただした。
「さっきの話は本当なんですか? そんなはず……ないですよね?」
アリスの問にもエレリオは無言を通す。
そんな姿に我慢の限界がきたのは、リリーであった。
「なんで黙っているのですかエレリオさん?! こんなのは嘘に決まっている。私やロランは、ヒースさんの亡くなった日を今でも忘れたことはない!」
同じく、ロランもレオに向かって声を上げる。
「そうだ。こんな訳の分からない奴の話を全部鵜呑みにして、この馬鹿野郎が!!」
ロランが叫んでもレオの耳には届いていなかった。
そんなやり取りを、レイズが結界の外から笑って見ていた。
「私が話したことを全て嘘のようにいうのはやめてください。私が百億の時を生きていることと、バルハルト一族の過去は本当の話です。まぁ、エレリオの話は全て作り話ですがね」
高笑いを続けるレイズに、怒りが限界に達したリリーが弓を作り出し矛先を向ける。
「小僧一人の心を操るの何てわけない。こんな簡単な戦略で乱れるのですから、人間は面白い生き物です」
「酷すぎる……レオが一体何をしたっていうの……」
アリスの瞳には涙が浮かんでいた。
「あんた、いい加減にしなさいよ……」
黄緑色の王創を放つリリーが渾身の一撃を放つ。
リリーの創遏を纏った矢は、強烈な勢いでレイズに向かうも、結界に当たった瞬間に弾け飛んでしまった。
「はっはっは、滑稽ですね。弐王の攻撃でも傷一つ入らない私の結界が、あなたのような小娘に壊せるはずがないでしょう」
レイズに何もすることができない自分に苛立ち、リリーが唇を噛み締める。
「さぁレオ、今がその時です。存分に暴れなさい」
レイズの命令と共に、レオがエレリオに目を向ける。
その表情は怒りに溢れ、憎悪に取りつかれていた。
「エレリオ……殺す……」
剣を構えエレリオに飛び込むレオ。
振りかざした剣を素手で受け止たエレリオは、手から血を流し苦痛の表情を浮かべた。
「親父!!」
ロランがレオを引き離そうとした時、エレリオが口を開く。
「手を出さないでくれロラン。これは俺がけりをつけなければいけない」
レオがエレリオを蹴り飛ばし、お互いに少し距離ができる。
血が流れる右手を見て、エレリオがレオに語り掛けた。
「痛いな……痛みとはとても辛いものだ。レオ、お前が抱えていた心の痛みは、こんなものじゃなかったんだろうな……」
「うる……さい……」
「俺は親としてお前に何もしてやれなかった。レイズになんと言われても仕方ないな」
「だ……まれ……」
「俺が親としてできること。お前とのケジメをつけないといけないな」
「偉そうに……言葉を……発するなぁあぁぁ!!」
怒りが頂点に達したレオは暴走しかけていた。
そんなレオに向かい、エレリオは静かに剣を構え、目を閉じる。
(ヒース、すまない……俺は息子に何もしてやれなかった。こんな俺を許してほしい……)
覚悟を決めたエレリオがレオと剣を交える。
「レオ、俺が……父さんがお前を必ず救ってみせる」
「黙れ……エレリオォーー!!」
エレリオとレオが剣を交える姿を見ていたアリスは、必死にレオに呼び掛けた。
「レオ!! お願い……お願いだから正気に戻って!!」
ロランとリリーはレオにかけられた法遏を解除するために、レイズを倒すしかないと考えていた。
「リリー、正直俺だけではこの結界を壊せないかもしれない。力を貸してくれ」
「言われなくてもだよ。あの糞野郎を叩きのめすよ」
意を決したロランが王喰状態に入る。
片目が白く変化し、とてつもない量の創遏が辺りへ圧力をかけた。
そのロランに合わせるようにリリーも創遏を限界まで上げ、歌を歌い始める。
四凰の歌の一つ、鼓傑の歌。
その美しくも力強い歌声が、ロランの力を更に増幅させた。
リリーの歌声に合わせロランも剣をしまい、体中に力を貯める。
弐王が本気を出す時。
それは、剣を作り出す創遏さえも自らの活力に変換し、己の全創遏を拳に乗せる。
力を集中させるロランの周辺は、強大な圧力により空間がねじ曲がり、蜃気楼が発生したように靄がかかっていた。
弐王が王喰状態に見せるこの姿は、神をも退く威圧を放つ。
「これが俺の全力だ」
ロランの握りしめた拳がレイズの結界を捉えようとしたその時、レイズの両目が仮面越しでも分かるくらいに茶色い光を放つ。
そのレイズの行動を意もせず、ロランは渾身の力で結界に拳を打ち当てた。
ファンディング最強の人間の全力。
クロエがリーンハインに軽く放った一撃ですら、天変地異と変わらぬ威力。
ロランの拳はそれを遥かに上回る衝撃であった。
──しかし。
「なっ……」
ロランが目の前の光景に唖然とした。
結界は壊れるどころか、微かにヒビが入っただけであった。
「いったでしょう……あなたの力は不完全だと……」
ロランの拳が当たる直前に、レイズは結界に自分の創遏を乗せた。
今までに経験したことのない異質な創遏。
その力にロランは驚きを隠せないでいた。
「……こんな奴がいたなんて」
リリーは想像にもしなかった事態に困惑していた。
「ロランの全力が……こんな簡単に……」
動揺する二人に向かい、レイズが手をかざす。
「私がその気になったら死にますよ、全員……」
不気味に笑うレイズに、ロランは王喰を鎮めるしかなかった。
弐王になって初めて味わう屈辱。
無力な自分に対し湧き上がる怒り。
しかし、そこで冷静になり状況判断ができるのは強者だからである。
「そうです、せっかく楽しい舞台ができたのです。水を差してはいけませんよ、親子の殺し合いに……」
「くっ……」
沸々と煮えあがる怒りを堪え、ロランとリリーはレオ達を見ているしかなくなった。
エレリオとレオは激しくぶつかり合う。
しかし、レオを傷つけまいと加減するエレリオは徐々に劣勢となり、体中が傷ついていく。
レオも怒りに創遏の制御ができず、自らの体を自らの創遏で傷つけていた。
そんな姿を見ていたアリスは、耐えきれず思わぬ行動にでる。