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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第2章 世界第七戦争
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第6話 姉妹の想い

 ──今から二十年前。

 当時六歳であったジャムは、いつも気になっていたことを母に尋ねた。


「お母さん。お母さんは何でいつも私の赤ちゃんの頃の写真を見て泣いているの?」


 真ん中で縦に破れた写真には、一人の赤ん坊が映っていた。


「ジャム。この写真に映っているのは、あなたではないの……」

「何を言っているのお母さん?」

「あなたも六歳、そろそろ話してもいいわね」


 母はジャムを抱き寄せ、悲しみに満ちた瞳で娘を見下ろした。


「あなたには、産まれて直ぐに離ればなれになった双子のお姉さんがいるの?」

「お姉ちゃん?! 私にお姉ちゃんがいるの?!」


 ジャムは嬉しそうに話を聞き入った。


「なんでお姉ちゃんはいなくなったの?」


 少しだけ考えた母は、そのまま言葉を続ける。


「お姉ちゃんは産まれて直ぐに、悪い人達に連れていかれてしまったの」

「そんな! お姉ちゃんを探さないと!」

「そうね、でもきっと見つかることはない……」

「大丈夫! 私がお姉ちゃんを必ず見つけるから!」


 幼い子の純粋な瞳は、母に罪悪感を与えた。


 母がジャムに話すことができなかった真実。

 ジャムの両親は、キルネで次元転送の研究に携わっていた。

 当時、まだ未完成の研究であった次元転送は、身体への負荷の大きさが懸念されていた。

 その負荷を軽減する実験に研究成果を求めていた父は、自らの赤ん坊を実験に使い成果をあげようとする。

 父の暴挙を母は止めようとするも、実験は強制に行われ、一人の赤ん坊がファンディングに転送された。


 転送される直前、母は双子の写真を自ら半分に破り、ジャムの映っている方を赤ん坊に託した。

 もしも生き延びることができた赤ん坊に、家族がいることを伝えたかったのだ。


 実験は成功に終わり、父は見事に名誉を手に入れた。

 しかし、父に強い殺意を抱いた母が父を殺してしまう。

 名誉を手に入れた父を殺したことにより、キルネを追放された母は、ジャムと二人で細々と暮らしていた。


 その五年後、ジャムに真実を伝えることができぬまま、母は病に倒れその命を落とす。

 一人となり蹲っていたジャムの元に現れたのは、エンドであった。


「お前は母の真実を知りたいか?」


 エンドはジャムに問いかけた。


「母の真実?」


 ──過去に母がとった行動を耳にし、ジャムの心が震える。

 その震えは母への悲しみなのか、父への怒りなのか。

 それをどういった感情と呼ぶのか、ジャムには分からなかった。


「俺はお前の母を気に入っていた。お前の母には、少しだけ通じるものがあったからな」


 ジャムの瞳から無意識に涙をこぼれる。


「……お母さん」

「俺と来い。キルネで好きなだけ姉を探すがよい」


 差しのべられた手を握り、彼女は決意した。


「お母さんのために、私がお姉ちゃんを見つけてみせる」



 ジャムの話を聞いて、ルディは驚きを隠せなかった。


「分かった? 姉さん。お願い……私と来て!」


 動揺するルディに向かいジャムが手をのばすが、咄嗟にその手は弾き落とされる。


「……何勝手なことを言っているの」


 ルディの声は震えていた。


「私がどうやって今まで生きてきたかわかるの!? 私はずっと一人だった。幼くしてグロースに拾われ、ずっと男に馬鹿にされて生きてきた。急に現れて私の家族だって? そんな確証もないのに、私のことを分かったつもりになって。私を分かってくれるのはクロエとティナだけ!」


 剣を握りしめ、切先をジャムに突きつける。


「あんたは私を惑わすために、ありもしないことをペラペラと話しているだけだ!」


 ルディは容赦なく攻撃を始めた。


「やめてよ! 私は姉さんをずっと探していたのよ!」


 涙を流しながらルディの攻撃を受け、ジャムは一方的にボロボロになっていく。


「反撃しなさい! あんたはキルネなのよ! 敵である私と馴れ合うなんて許されないでしょ! 私に肩入れしていないで、剣を握って向かってきなさい!」


 ジャムが剣を構え直し、やっと戦う意志を見せる。


「なんで分かってくれないのよ。こうなったら引きずってでもキルネに連れて帰る!」


 ジャムは奮闘するも、既に傷ついた体ではルディにかなわず、容赦のない猛攻に膝を突く。

 その隙を見逃さなかったルディが、ジャムに止めを刺そうと剣を突きつけた。

 ルディの止めの一撃を躱そうとジャムも必死に剣を突き出すと、剣が肉に突き刺さる感触が手に伝わった。


 その瞬間、ジャムの剣がルディの腹部に刺さり、ルディが口から血を流していた。


「……なんで?」


 ジャムは驚いていた。

 止めの一撃が決まる瞬間、ルディは自ら剣を引き、ジャムの攻撃を受けた。


「なんでよ……なんであなたが倒れるのよ……」


 倒れるルディをジャムは抱きかかえた。


「全く、私もまだまだ未熟だ……実はね……途中から私も確信していたの」


 ルディは懐から一枚の破れた写真を取り出す。

 そこには一人の赤ん坊が映っていた。


「……この写真は」


 ジャムが自分の破れた写真とルディの写真を合わせると、ぴったりと繋がる。


「やっぱり……」


 ジャムの目からは、再び涙が流れ落ちる。


「馬鹿みたいだね。私はてっきり、自分を捨てた親が当てつけに残した写真だったと思っていたのに。まさかこの写真に映っているのが自分じゃなくて、妹だったなんてね。捨てずに持っていて良かったよ……」

「なんで、なんで分かっていたのに攻撃をやめなかったの?」

「キルネとグロースは敵対しているのよ? その師団長と部隊長が馴れ合ったら、キルネはあなたを許さない。やっと出会えた私の家族。こんな可愛い妹が……私にいたなんて」


 ルディは涙を流しながらジャムの頬に優しく触れる。


「……お姉ちゃん」


 ジャムが泣きながらルディの手を握ると、その顔はどこか満足そうに笑っていた。


「さぁ、私に止めを刺しな。ジャムに殺されるなら本望。あの世で母さんに会ってくるよ」


 ルディは目を閉じてジャムに身を託す。

 しかし、ジャムはそんなルディの頬を力強く叩いて激を飛ばした。


「私に殺された姉さんにお母さんが出会って喜ぶと思うの?! キルネとグロースなんて関係ない、私は姉さんと一緒に生きる!」


 ルディがその言葉に微笑んで返す。


「なんてワガママな子だよ。まるで、私にそっくりだね……」


 ジャムも笑顔になっていた。


「……双子だからね」



 二人が同時に自分の部隊へ戦闘の中止を指示する。

 それぞれの部隊は各々に不満を抱えながらも、戦闘を中断した。


「さて、自分達の部下に状況を納得してもらうのは大変なことだよ」


 ジャムがルディの肩を支え立ち上がる。


「大丈夫、私達二人なら皆に説明できるよ」

「そうだね、皆にしっかり怒られてくるか」



 ルディとジャムの戦いは思わぬ方向で終わりを迎えた。

 しかし、二人が和解をしたところでこの戦争が止まることはなかった。


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