第4話 開戦
クロエがキルネ本部を襲撃すると同じく、セントレイス上空には超巨大な次元の裂目が発生し、キルネの幹部達がグロースへ襲撃を開始した。
「……やはり来たか」
グロース本部ではラヴァル率いる第一部隊を筆頭に、セントレイスの護衛を託されていた全部隊の迎撃準備が完了していた。
「相手の数は、人型の幹部が六人と多数の魔獣。それに対して此方は幹部と渡り合えるのが、ラヴァル殿、シアン殿、ルディ殿、そして儂の現状四人。なかなか厳しい戦況じゃのう」
ステインが戦力差を感じているのに反し、シアンは滾る興奮を隠しきれずにいた。
「何だ爺さん、ビビっているのか?」
シアンの態度にルディは呆れ顔である。
「全く。只でさえ数で不利なのに、ワガママ坊やがいたら手を焼くわね」
「なんだと?!」
ルディに煽られ、子供のようにシアンは食いついた。
「やめろ、今は我々がセントレイスを託されているのだ。目の前の敵に集中しろ」
ラヴァルが先頭に立ち指揮をとる。
「数の不利は今回に限ったことではない。幹部の相手は隊長達で対応しなければならない以上、誰かは二対一で戦うことになる」
ラヴァルの言葉に即答したのはシアンであった。
「二対一だろうが三対一だろうが俺がまとめて相手にしてやるよ!」
「シアン、お前のそういったところは嫌いじゃないが今回は相手が悪い。数で不利な以上、周りとのチームワークがかなり重要になる」
ラヴァル達が話をしているところに、一人の老人が歩いてくる。
「困っとるようだなラヴァル。俺も参加しようじゃないか」
ラヴァル達の元にやってきたのは、グロースの戦闘顧問であり、前グロース総司令官であるグラスであった。
「グラスさん、あなたは心臓の病を抱えています。無理をしてはいけません」
「ひよっこが何を言っておる! 老いはしたが、まだまだやれるわ。それに幹部と渡り合えるといったら、もう一人おるじゃないか。なぁドラグや」
第四部隊 副長のドラグをグラスが指差した。
「……私ですか」
「今でこそ副長に徹しておるがドラグも元は隊長、実力者には変わらんぞ。シアンもそう思うだろう?」
「ドラグですか……俺は文句ないですよ」
「決まりだな、これで幹部には一対一で対処できる。他の副長達に魔獣は任せて大丈夫だろう。ラヴァルよ、誰に誰を当てるか指示を出してみろ」
司令台に立ち、ラヴァルが皆を見渡した。
その目は、力強い自信に満ちている。
「グラスさんに感謝します。今よりラヴァルが命ずる! 第四師団長ジャムにはルディ! 相手は同じ女性だ、絶対に負けるんじゃないぞ」
「ジャムだね。この前は決着がつかなかったからね、今回は絶対に倒すよ」
腕を組み意気込むルディ。
「第五師団長アーサムにはグラスさん。相手は勝つためには手段を選ばない悪徒です、気をつけて下さい」
「はっはっは、悪徒歓迎。ひねくれた根性叩き直してやるわい」
グラスは笑って返す。
「第六師団長ドルドームの相手は言うまでもないな、ステイン頼んだぞ」
「ふむ、キルネ最強の魔導士。ワクワクするのぅ」
椅子に座りながら頷くステイン。
「第七師団長シフにはシアン、存分に暴れてこい」
「第七かよ。さっさと殺して他も相手にしてやるよ」
シアンは不満そうに舌打ちをした。
「第九師団長クルルにはドラグ、元隊長の力を見せてくれ」
ドラグは自信なさげにシアンを頼った。
「俺はあくまで数合わせ、隊長の援軍を待っていますよ」
「ドラグ、俺に気を遣う必要はない。元々隊長だったあんたの実力は俺が一番身近で見てきた。たまには思いっきり戦ってきてください」
ラヴァルが剣を作り出し、キルネに向かい突きつける。
「第二師団長レイズは俺が相手をする。セントレイスは俺達が守るぞ!!」
全部隊の士気が震え上がる。
各々が武器を作り出すと、志しを示すように空へと掲げた。
「いくぞ!! 戦争の開幕だ!!」
ラヴァルの掛け声と同時に、全部隊がキルネへと立ち向かう。
「始まりますね……メルド殿」
シフがメルドに話しかける。
「奴らがどんな作戦でくるか知らんが、我々はグロースを殲滅するまでだ。まずは隊長達を叩き潰す!!」
戦闘態勢に入るキルネの前に、いち早くシアンがたどり着いた。
「おらおら! 七番はどいつだー?!」
勢いよく突っ込んでくるシアンの前に、シフが立ちはだかった。
「おや、わざわざ指名されるとは。一対一が希望ですかな? そちらの作戦に付き合う必要はないのですよ?」
シアンに気を取られているのを確認したステインが、後方で法遏を唱える。
「いやいや、此方の作戦に付き合ってもらうぞい」
ステインが法遏を放つと、キルネの師団長とグロースの隊長達が一瞬で空間転移される。
「ふむ。それぞれを一対一に持ち込むため、瞬時に大多数を個別の場所に空間転移するとは。なかなかやりおる」
ドルドームだけが空間転移されず、その場に残っていた。
「流石じゃの。予想通り、お前さんだけは空間転移の法遏を瞬時に相殺してくると思ったわい」
ドルドームとステインが対峙する。
「そこまで計算通りか、なかなか頭の回る策士じゃの。老体同士ボチボチやりあうとしようや」
ドルドームが右手をステインに向けると、ステインの周りに超重力でできた小さな黒い球体が無数に現れる。
「一つ一つが小型のブラックホールじゃ、受けみよ」
ドルドームが右手を握りこむと、無数の球体がステインめがけて飛んでいく。
しかし、ステインに当たる直前、球体が空間ごと消え去ってしまう。
「ほっほっほ、こんな程度では儂には届かんよ。この程度ではないじゃろ? お互いに思いっきりやり合える相手じゃ、せっかくならこの戦いを存分に楽しむべきじゃよ」
ステインが法遏を唱えると、巨大な炎の龍が現れドルドームを喰らおうとする。
「お前さんとは気が合いそうじゃの」
すぐさまドルドームが巨大な水の龍を作り出し、ステインの龍と相殺する。
一息つく間もなく、ステインがドルドームの後方へと瞬間移動し、数多の落雷をドルドームに打ち込む。
「なんの!」
ステインの攻撃に対し、結界を張り防御しながら巨大な竜巻を作り出し反撃するドルドーム。
二人の法遏がぶつかり合う度に、溢れた法遏が弾け飛び、周囲に数多の自然災害が発生する。
「なんと巨大な竜巻じゃ!」
グロースの巨大な城をも飲み込みそうな巨大な竜巻が、ステインに襲い掛かる。
竜巻に対し結界を張り防御するも、強烈な鎌鼬がステインの先程放った雷を纏い、鋭い斬撃となって結界を斬り裂きステインの体を斬り刻む。
「ぐぅ……儂の法遏を防御しながら、同時に自分の法遏に反射属性の法遏を複合。儂の雷をも鎌鼬に吸収させ反撃してくるとは。恐れいったわい」
無数の斬り傷から出血し、ステインの膝が落ちる。
「複数の法遏を同時に使えるの者はルーインでもそうおらん。防御、攻撃、反射、これらを同時に行うのは骨が折れるわい」
倒れそうなステインに向かい、再び右手を向けるドルドーム。
先程よりも大量の黒い球体を作り出し、右手を握りこむ。
「ファンディングの大魔導士よ、楽しかったぞ」




