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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第1章 始まりの歌
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第35話 失った者

 キルネが襲撃してくる少し前。


「カイト君、これをあげるから普段から身に着けておいて」


 ティナがカイトに虹色のミサンガを渡す。


「ミサンガですか? 自然に切れたら願いが叶うのでしたっけ?」

「ふふ、そうだといいね。でもこれは少し違うわ。このミサンガは空間転移の転送先になるの」


 ティナの言葉に、カイトは不思議そうに首を横に傾げた。


「空間転移の転送先? なんの話ですか?」

「もしも私がナナちゃんと二人でいる時に何かあったら、最悪の場合ナナちゃんだけでも安全な所に空間転移するわ。その転移先の目印になるのがそのミサンガなの」

「空間転移なんて高度な法遏が使えるのですか?!」

「使えるには使えるけど、私の空間転移は目印となる場所に対象を飛ばすことしかできないから、あまり優れたものではないわ。だけど、もしもの時にそのミサンガがあれば、ナナちゃんだけでもカイト君の傍に飛ばすことができる」


 ミサンガを腕に巻きながらカイトは話を聞く。


「もしもの時のためですか。そんな時が来ないことを願いますよ」

「そうね、そんなことが起きなければいいね……」



 ネルチアを倒した後、周りの死が受け入れられず立ちすくむカイトの元にナナが転送される。


「ナナ!? なんでここに!?」


 突然ナナが現れたことに、カイトは状況を理解できないでいた。


「カイト! ティナさんが……ティナさんが大変なの!!」


 焦り、混乱するナナの手をカイトが握る。


「どうしたんだ?! 何があった? ナナが俺のところに転送されるってことは……」


 ナナは、我慢していた涙が目から流れ落ちてしまった。


「カイト……ティナさんが……」



 時を同じく、グロース本部ではロランがメルドとドルドーム二人を相手に、互角以上に渡り合っていた。


「流石は弐王だな。キルネの師団長が二人がかりでもまだまだ余力がありそうだ」


 メルドとドルドームが一旦ロランと距離をとる。


「お前達もまだまだ本気ではないだろう。俺はセントレイスで本気を出すことはできない。俺の力を探っているなら無駄なことだ。さっさと全力でかかってこい」

「力が強大過ぎるのも不憫なものだな。やるぞドルドーム」


 メルドとドルドームが創遏を高めたその時、リーンハインから撤退の思念が届いた。


「これは……エンド様の方は上手くいったみたいだな」


 ドルドームがメルドに話しかける。


「メルドや、これ以上弐王の相手をするのは儂らもかなりのリスクがある。さっさと撤退するとしよう」

「……そうだな」


 撤退しようとするメルドとドルドームをロランが止めようとする。


「逃がしはしない!」


 ロランが剣に創遏を乗せ、メルドに斬りかかろうとした時、突如空間に裂目が入りグロース本部にレイズとレオが現れた。


「レオッ?!」


 レイズと共にいるレオを見てロランは驚愕した。

 更に、グロース本部で待機していたエレリオとリリー、アリスもその光景を目撃する。


「レオ! 何で敵と一緒にいるの!?」


 レオに向かってアリスが叫ぶ。

 しかし、アリスの言葉に反応するも、レオは返事をせず虚ろな瞳でただアリスを見つめるだけであった。


「レオ……? 一体どうしたの?!」


 困惑するロラン達に向かってレイズが話し出す。


「初めまして。私はキルネ総師団長 レイズ=ミル=レバンテ。今回の襲撃を提案した第一人者でございます」

「お前のことなんてどうでもいい!! レオ! 何でそいつらと一緒にいるんだ!」


 ロランがレオに向かって叫ぶも、レオは何も返事をしなかった。


「ふっふっ……無駄ですよ。彼は我々に忠誠を誓ったのです。今回はエンド様の命により撤退しますが、彼も一緒にキルネへ来てもらいます」


 そう言うと、レイズが次元の狭間を作り出す。


「ふざけるな! レオに何をした!」


 ロランがレイズに斬りかかろうとするも、レオが間に入って盾となった。


「レイズ様の……邪魔をするな」


 レオがロランに向かって斬撃を飛ばす。

 ロランは斬撃を跳ね除けるも、反撃できず戸惑っていた。


「くっ、どうなってやがる……」


 レオの行動にアリスとリリーも困惑していた。


「レオ! 正気に戻れ!!」


 エレリオがレオに向かって叫ぶ。


「エレ……リオ……」


 エレリオの方を見るや、レオは溢れる怒りを抑えきれないでいた。


「待ちなさいレオ、まだその時ではないですよ」


 今にもエレリオに襲い掛かりそうなレオを、レイズが止める。


「今回は我々の勝ちです。自分達の無力を後悔するがいい」


 メルドとドルドーム、レイズとレオが次元の狭間に入りルーインへと帰っていく。


「レオ! レオーーーー!!」


 涙を浮かべながら必死に叫ぶアリス。

 次元の狭間が閉じようとした時、レオがアリスの方を見て何かを呟いていた。


「アリス……ごめ……」


 しかし、言葉の途中で次元の狭間が閉じてしまう。


「レオ……」


 涙を流し崩れ落ちるアリス。

 そんなアリスをリリーが優しく抱き締める。


「アリス、しっかりしなさい。レオに何があったか分からないけど、最後にレオはアリスに謝ろうとした。まだレオには自我が残っているってことよ」


 リリーの言葉に、アリスが少し冷静さを取り戻す。


「レオが……レオが傍にいないと私……」

「アリス、レオを助けることができるのは貴方しかいない。しっかりするのよ」


 涙を拭うと、アリスは震えながら空を見上げる。


「レオ……何があったか分からないけど、私が絶対にあなたを……」


 アリスが悲しむ姿を見ながら、エレリオは何もすることができなかった自分に腹を立てていた。


(アリスがあんなに必死なのに、親である俺が何をしているんだ……レオを引き留めることができなかった……レオが何故あんな行動をとったのか何も分からない……俺は親としてレオのことを何も分かっていない……)


 エレリオは悔しさと苛立ちで拳を握りしめ、震えが止まらなかった。

 だが、それ以上に師匠として常に傍にいたロランが、何もできなかった自分に苛立ち、王創を自分の周りに垂れ流していた。


(……レオ)


 未だ見たことのない怒りに満ちたロランを見て、リリーがたまらず後ろからロランを抱き締める。


「リリー……」


 ロランの王創で、リリーの腕が瞬く間に傷だらけになっていく。

 それでも、リリーは離れようとしなかった。


「ロラン……自分を責めないで……」


 ロランは創遏を抑え、王創を静める。


「すまない……助かったよ……」


 リリーの優しさに感謝し、傷ついた体をゆっくりと抱き締めた。



 レイズ達の撤退と同じくして、各地で戦闘を行っていた師団長や魔獣達が一斉に退却していく。


 戦闘は終わった。

 グロースはカイトの善戦により第八師団長ネルチアを討ちとるも、二番隊が副隊長テスラを失う。

 グラニアと戦っていたエルマンも重症を負い、数多くの兵隊が死んだ。


 更には、ティナとレオをキルネに奪われるといった大敗北に終わる。

 カイトとナナもグロース本部と合流し、全部隊で緊急会議が開かれようとしていた。



 第1章 完


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