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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第1章 始まりの歌
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第34話 女の覚悟

 深く染まる黒い瞳に、華やかな二人の歌姫が色を添える。

 歌姫と対峙したエンドは、真っ黒な強い憎悪に包まれていた。

 ナナは身を刺すようなその憎悪に恐怖する。

 しかし、ティナはエンドの奥底にある何かに違和感を感じていた。


「お前達は二人共ルーインに来てもらうぞ」


 ティナはナナの前に立ち、庇うように身を呈して剣を構える。


「何故あなた達は私達を連れて行こうとするの? 無理矢理連れていかれても、私達があなた達に協力することなんてないわよ」


 ティナの言葉にエンドは笑いながら答える。


「協力など初めから求めておらん。お前達が我々に逆らおうが、キルネでは既に歌姫の力を強制的に引き出し、その力を他者へとうつすための設備が完成している。お前達は只のエネルギー源になればいいのだ」


 エンドの返答に、ティナとナナは目を見開いて驚いた。


「歌姫の力を他者にうつすですって?! あなた達はそこまでして何を手に入れたいの?!」

「知れたことを。ルーインでは力が絶対。ファンディングのような生温い世界では考えもせんだろうが、力を手に入れるためなら何でもする奴はいくらでもいる。他者に歌姫の力を奪われる前に、我がその力を奪いに来たまでだ」


 エンドの無茶苦茶な言動に、ナナは思わず声を荒げた。


「なんて勝手なの!! 歌の力はそんなことのためにあるんじゃない!」

「自分に秘められた力が如何なるものか、理解もできていない小娘が粋がるな!!」


 ナナの軽率な怒りに、エンドは創遏を高め威圧する。

 エンドから放たれる創遏を感じ、圧倒的な力の差を悟ったティナは冷や汗を垂らした。


(まずい……私では相手にならない……)


 救いを求めるように、思わずクロエに視線を向ける。

 クロエはティナの視線を感じるも、相変わらず防御に徹するリーンハインに行く手を阻まれていた。


(くそったれ……ティナの方がヤバいってのに、コイツの守りが硬い)


 クロエが焦っているのを見たリーンハインは、少し余裕の笑みを浮かべて挑発した。


「まぁまぁそう焦るなよ。焦ったところで俺が徹底的に防御に徹する以上、あんたがエンド様の元にたどり着くことなんてない。仮に俺を倒せたところで、エンド様には勝てない。諦めた方がいいよ」

「勝手なことをぬかしやがって。俺をあまり舐めるなよ……」


 クロエは大きく深呼吸をする。

 何かを決意すると、真剣な眼差しでリーンハインに集中した。


(仕方ない……ティナとナナは俺が絶対に守る)


 クロエは額に手を当てると、そのまま王創を一点に収束する。

 王創がクロエの体に凝縮されていき、急激に高まる創遏によって辺りの大気が重圧を帯びていく。

 まるでクロエ自身が重力を放っているかのような圧迫感に、リーンハインの表情が一変した。


「俺を怒らせたことを後悔するなよ、リーンハイン」

「おいおい、こんな力は聞いてないぞ……」


 クロエを覆っていた王創が全て身体の中に流れ込むと、ゆっくり片方の瞳の色が変化を始める。


「クロエ!! その力を使ってはダメ!!」


 今にもクロエの力が解放されると思われた時、ティナの叫びがそれを止めた。


「何故だティナ! 俺が王喰(ギグウ)を使わなければこの状況を打開出来ないぞ!」

「私が言わなくても分かっているでしょ!? クロエが王喰(ギグウ)を使えば戦況が変わるかもしれない。けどここはコンサート会場よ! クロエがその力を解放したら、観客の皆がクロエの創遏に耐えきれずに死んでしまう! それが分かっているからクロエは力を抑えているのでしょう?!」


 クロエは自身の判断の遅さに苛立っていた。


「あぁ、全ては俺の甘さが引き起こした事態だ。だからティナがなんといおうが、俺はティナを守るために力を使う!」


 ティナの言葉に構わず、クロエは力を解放しようと創遏を高める。


「バカッ!! どうせ私に嫌われても私のことを守ろう何て考えているんでしょ! もしもクロエが力を解放して観客の皆を死なせたら、私もこの場で一緒に死ぬわ!!」


 クロエの心を見透かしたティナの言葉は、クロエが何をされたら一番困るか、的確に捉えていた。


「なっ……ティナ!! 今の状況が分かっているのか!?」


 クロエを見つめると、ティナは強張る頬で無理やり微笑んだ。


「クロエ……私はあなたを信じているから……」


 そういうと、ボソボソと呟くように法遏を唱え、一瞬でナナを丸い結界に閉じ込める。


「ッ!? ティナさん! 何ですかこれは!?」


 ティナは結界に手を当てると、ナナに優しく話しかけた。


「ナナちゃん……あなたには未来がある。もしも私が戻れなかったら、私の代わりにファンディングに光をもたらす歌姫になって」


 ナナは何が起きているのか分からず、結界の中で困惑していた。


「……ティナさん……一体何をいっているのですか」


 困惑するナナを他所に、ティナが再び法遏を唱えると、ナナがその場から結界ごと消えてしまう。


「空間転移か……中々高度な法遏を使えるみたいだな」


 何もせず、エンドはその場で立ったままティナの行動を見ていた。


「空間転移を止めようと思ったら止められたはずでしょ? 案外優しいのね」


 ティナは再び剣を構えるも、そこからは戦闘の意が感じられなかった。


「やめておけ。お前がもう一人の歌姫を逃がしたということは、覚悟ができたのだろう?」


 戦う気がないことを悟ったエンドは、剣をしまいティナの元に歩み寄る。


「そうね、私がルーインまでついていくわ。その代わり、今すぐ全部隊を撤退させなさい」

「ハッハッハッ……あまり交渉が上手くないようだな。お前は連れていくが、部隊を退かせる意味はないであろう?」


 エンドがティナの腕を掴もうとするが、それよりも先に剣を自らの首に当てるティナ。


「女の覚悟を甘くみないで……あなた達が退かないというなら、私はここで自害するわ。そうなったら、怒り狂ったクロエを止める人は誰もいないわよ」


 ティナの強い眼差しを見て、エンドの表情は真剣になる。


「中々度胸のある女だ。いいだろう、今のお前の心意気を評価し部隊を退散させるとしよう。我々の目的は十分に達成した。リーンハイン、皆に退却の合図を送れ」

「了解しました」


 エンドの言葉を受け、全部隊に思念で退却の命令を出すリーンハイン。

 それを見たクロエが激怒し、ティナの元へ行こうとする。

 しかし、リーンハインが邪魔をするように割って入った。


「ティナ! お前何考えているんだ!!」


 泣き出しそうな気持ちを抑え、ティナはクロエに笑顔を飛ばす。


「クロエ……ゴメンね……」


 そう言い残し、エンドと共に次元の狭間に消えていった。


「ティナーーーー!!!」


 リーンハインを押し退けティナがいた場所までたどり着く。

 しかし、既に次元の狭間は閉じてしまった。

 ティナを守りきることができず、クロエはその場に項垂れる。


「良かったじゃないか。エンド様が来たにも関わらず、彼女の判断のおかげで被害が最小限ですんだ。彼女に感謝するんだな」


 そう言い残しリーンハインも次元の狭間に消えていった。


 敵がいなくなると、次第に観客達は落ち着き、各々が好き勝手に言葉を発する。


「なんだ? ルーインの奴ら帰っていったぞ?」

「弐王がやってくれたのか?!」

「歌姫はどうなったの? 私達は助かったの?!」

「助かった! 俺達は助かったんだ!」


(こんな糞どもを守るためにティナを犠牲に……俺は……)


「くそったれがぁーー!!」


 怒りを抑えきれないクロエがステージを殴りつけると、跡形もなくステージは吹き飛んでしまう。

 そのクロエの姿を見て、観客達は静まり返った。


(ティナ……絶対に助けるからな……)


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