第31話 戦争の目的
グロース本部ではロランとエレリオの前に、第二師団長のメルドと第六師団長のドルドームが攻め込んできた。
「キルネ、お前達の目的は何だ?」
「私達の目的が知りたいか?」
ロランの問いに対し、意外とメルドが素直に答えようとする。
「まぁ、普通に考えたら歌姫を拐うことが目的だろうが、それにしてはこれ程の大規模な襲撃とはな」
エレリオも続けて会話に割って入る。
「そうだな。折角だ、少し話をするか」
「のんびり話などしていてよいのか? メルドや……」
「ドルドーム、まぁいいじゃないか」
エレリオに向かい手を広げ、メルドは堂々と目的を話し始めた。
「我々の第一の目的は勿論歌姫の強奪だ。現状ルーインには四凰の歌を持つ者がいない。これはファンディングとルーインの力の均衡を保つには、少し此方が不利であろう?」
「確かにそうだな。だが、それは今に始まったことではない」
「そうだ、しかし状況が変わった。今までは四凰の歌を持つ者が三人しか確認できなかったため、ルーインも残りの一人が此方にいると希望を持っていた。そのため、これまでキルネは大規模な攻撃を行うことはなかった」
メルドの話に、エレリオは全てを納得する。
「やはり……ナナちゃんか」
「そうだ。最近になって新たな四凰の存在が発覚し、四人目もファンディングにいることが分かった。更にはその四人全てがグロースに関連がある」
「それで事を重くみたキルネが襲撃にやってきたわけだな」
「大人しく歌姫を渡せば此方も引き上げるが、どうする?」
大剣を構え、ロランが創遏を高め威嚇する。
「……戯言を」
メルドも大剣を作り出すと、両者共に戦闘態勢に入った。
まさに一触即発である。
「今のうちに歌姫を差し出せば後悔が少なくてすむものを。ドルドーム、やるぞ」
メルドとドルドームは創遏を高め、ロランに向かい魔法陣を作り出し攻撃を始めた。
そんな中、エレリオは少し腑に落ちないでいた。
「ロラン、俺はまだ少し引っかかることがある。何か急な動きがあっても対処できるようにしておきたい」
「分かった。この二人は俺が一人で相手する、親父は奴らに他の目的がないか注意していてくれ」
メルド、ドルドームとの戦いが幕を切り、力と力がぶつかり合う。
一方、アーサムと共にシアンは異空間へ飛ばされていた。
「何だここは……辺り全てが白い」
異空間は何もなく、ただ白い空間がひたすらに続いていた。
距離感や方向感覚がなくなり、シアンは困惑する。
「安心してくださいシアン殿」
シアンの後ろからアーサムが声をかける。
声と同時にシアンはアーサムに斬りかかるが、その攻撃をアーサムは軽くかわす。
「ふざけるなよ。こんな何もない場所でお前を殺しても、誰が俺を評価するんだ。さっさと元の場所に戻せ」
「評価ですか。あなた程の人物がグロースに従っていてはもったいないですな」
アーサムの言葉に、シアンは思わず剣を止めた。
「何が言いたい?」
「あなたは今の世界に満足しているのですか?」
「……お前とそんなことを話して何の意味がある?」
「それがあるのですよ……」
アーサムが不気味に微笑む。
「私達の目的は歌姫の強奪にありますが、もう一つ重大な目的があります」
「お前たちの目的になんぞ興味はない」
「まぁ聞いてください。私達のもう一つの目的は有能な人材の引き抜きです。まさに、あなたのような」
「俺にキルネに来いと?」
「話が早いですね。私達は今回の襲撃の前に、何度か魔物を送り込みましたね? その目的は、グロースの中にあなたのような、現状に不満をいだく者はいないかを確認することが目的でした」
気づけば、アーサムの言葉をシアンは聞き入っていた。
「意味のなさないような襲撃をあえて起こし、グロースの上層部を混乱させ、その対応に不満を抱く者がいないか。まさにあなたがその一人でした」
剣をしまうと、シアンは王創を静めた。
そのままアーサムの勧誘を聞き入ると、その魅力に心を開き始める。
「俺がキルネに入れば、自由に自分の力を試せると?」
「その通り。貴方なら即幹部に配属され、キルネの師団長として才能が開花していくでしょう」
アーサムが手を伸ばし握手を求めた。
「さぁ、今日から貴方もキルネの一員です」
シアンはアーサムに向かって手を差し出したが、握る直前でその手を止める。
「一つ聞きたい。今の俺の部下はどうなる?」
「部下ですか? そんな者はキルネで好きに選べますよ。そうですね、折角なので皆殺しにしていくのはどうでしょう?」
アーサムは残虐無慈悲な言葉を、盛大に笑いながらいい放つ。
「……何を笑ってやがる」
差し出した拳を握りこみ、シアンは思いっきりアーサムの顔面を殴り飛ばした。
「ぐぅ……何をされるのですか?」
「お前達キルネは本当に屑ばかりだな。俺がキルネにだと?」
剣を再び作り出し、アーサムに近寄るシアン。
一歩一歩近づく度にシアンの創遏が高まり、威圧的な王創が渦を巻いて纏わりつく。
「俺を見誤るなよ。俺はグロースで力を誇示し、ファンディングで名声を上げたいんだ! ルーインになんて興味はない。まして、大切な部下達を見下すお前は絶対に許さん!」
超高速でシアンの剣がアーサムを斬りつける。
「ぬぅぅ……」
突然の攻撃を受け、アーサムはよろめき腹部から血を流す。
「この糞餓鬼が。レイズ様に勧誘を命じられたから下手に出ていたら、調子に乗りおって」
シアンの態度に怒りを爆発させ、アーサムが戦闘態勢に入ると、周囲の空気がピリピリと鋭さを増した。
「これだからファンディングの人間は腹が立つ。自分達が私達よりも下等な存在だということを理解しておらん。我らの寛大な勧誘を断るとはなんたることか!」
アーサムは怒りに任せ創遏を高めると、巨大な槍を作り出し、頭上で大きく振り回し始めた。
「御託の多い奴だな、さっさとかかって来いよ! お前がなんと言おうが、俺にとって自分自身を貫き通すことこそが正義。俺を従えたいなら俺を殺してみろ!」
シアンとアーサムが衝突し、異空間に衝撃が響き渡る。
各地で戦闘が激しさを増す中、カイトがセントレイス北部に到着する。
しかし、カイトが見た光景は絶望的なものであった。
街並みは崩壊し、ルーインの兵隊や魔獣、第二部隊の隊員がそこらじゅうで死んでいた。
(何だよこれは……テスラさんとエルマン隊長はどうなったんだ?!)
周りの光景に絶句していると、近くから強大な創遏を感じる。
「この創遏はあいつの?!」
以前に感じたことのある創遏に動揺するカイト。
創遏の方に駆け寄ると、そこには更なる絶望が広がっていた。
カイトの目の前には血まみれのネルチアが立っていた。
ネルチアの傍には、複数の隊員がバラバラに刻まれ死んでいる。
それだけでもカイトの心は酷く痛んだが、追い討ちをかけるように現実が目に入る。
隊員達の横で、テスラも心臓に風穴が空き絶命していたのだ。
「あら? 坊やはあの時の?」
返り血で赤く染まったネルチアが、カイトに気づき振り返る。
目の前の絶望に、カイトは立ちすくんでしまった。
「うふふ……立ちすくんじゃって、可愛いの」
大鎌を作り出しカイトに近づくネルチアは、妖艶な笑みを浮かべていた。
「き……きさまぁぁー!!」
カイトは怒りに身を任せ、ネルチアに立ち向かう。




