第29話 攻め入る脅威
第二支部に攻め込んできた幹部は二人。
一人は第五師団長 アーサム。
もう一人は第九師団長 クルル。
アーサムとクルルの前に第四部隊と第五部隊が立ちはだかり、今にも戦いが始まろうとしていた。
「紋章を見るに、第四部隊と第五部隊か。流石レイズ様だ、見立て通りの配置であるな」
「ア~サム~? クルルは暴れてもいいんだっけ~?」
自身の小さな体よりも大きな熊の人形に抱きつき、フワフワと空を漂うクルル。
そんな愛らしい姿からは想像しがたい、とても禍々しい創遏が底知れず滾っていた。
「クルル殿よ、レイズ様の戦略をお忘れかな?」
「あ~レイズ様の~? 忘れちゃった~」
「相変わらずですな。第四部隊長のシアン=ペルザは私が相手します。クルル殿は他をお任せしましたよ」
「そんな感じだっけ~? まぁいいや、いっくよ~」
クルルが右手を空に向け、魔法陣を作り出す。
それをきっかけに、戦いの火蓋が切られた。
魔法陣から大量の流星群が降り注ぎ、その攻撃をきっかけにアーサム達と同時に現れた無数の魔獣が一斉に襲い掛かる。
「くるぞ!」
シアンとステインを中心にし、グロースも迎撃態勢に入る。
「第二支部の連中は拠点の防衛に集中しろ! 最前線は第四部隊がもらい受ける!」
シアンが先陣をきり、降り注ぐ流星群を消し飛ばしながら魔獣に突撃する。
「やれやれ、若いのは血の気が多いのう。第五部隊は後方より法遏で援護にまわるかの」
ステインの指示で第四部隊の援護を始める第五部隊。
「オラオラ! どうしたー!」
一人で魔獣を殲滅しながらシアンはアーサムの元へ向かう。
「隊長ー! 一人で突っ込みすぎですよー! 突っ込むのは私のボケだけにしてくださいなー!」
ルルが後を追うも、シアンはお構いなしに一人で敵陣中央に突撃していく。
「ルル! お前は周辺の魔獣の対応にまわれ! 師団長は俺がやる!」
「そんなー! 無理はだめだよー! 怪我すると不機嫌になるんだから怪我しないでくださいよー!」
ルルの言葉を無視し、一人特攻するシアン。
その勢いを止めるよう、アーサムは自らシアンの前に立ちはだかった。
「第四部隊長シアン=ペルザですね?」
「俺のことは知っているみたいだな。お前、師団長だな?」
「仰せの通り、私は第五師団長アーサムと申します」
師団長を前に、シアンは王創を身に纏い本格的に戦闘態勢に入る。
「今回はやたらと気合の入った襲撃みたいだな。俺の名声を上げるための糧になってもらうぞ」
「ふふふ、噂通りのお方だ。クルル殿! 今ですぞ!」
「は~い」
クルルが空に向かって手をかざす。
すると、アーサムとシアンが丸い結界に覆われ、結界ごと瞬間移動してしまう。
「いってらっしゃ~い」
「隊長!?」
シアンが急にいなくなり、ルルと他の隊員が焦りを見せる。
「ふむ、今のは空間転移の法遏じゃのう。なかなか高度な法遏を使うみたいじゃ。どれ、ワシが相手しようかの」
ステインがクルルの目の前まで瞬間移動する。
「おじいちゃん~? ヨボヨボで大丈夫~?」
「ほっほっほ、娘さんよ。お前さんも同じ魔導士のようじゃのう」
「おじいちゃんも法遏が好きなの~?」
「ワシは法遏一筋じゃ。まだまだ若い者には負けんぞ。そんなことより、シアンを何処へやったのか答えてもらおうかの?」
「私を楽しませてくれたら教えてあげる~」
戦闘態勢に入ったクルルが詠唱を始めると、クルルの周囲に水でできた魔法陣が発生し、魔法陣の中から精霊が召喚される。
精霊といっても、その見た目は色気漂う大人の女性。
体が水分で構築されているか、半透明な水色の体は、部分的に液状化しているようであった。
「ほう、水の精霊シス。召喚法遏とは珍しいのう」
「シス~、やっちゃって~」
「承知しました、お嬢様……」
シスが手を合わせると大気中の水分が集まり、鋭い槍に変形、それをステインに向かって飛ばす。
しかし、槍がステインに当たる直前で蒸発し消える。
「水で攻撃してくるのであれば、熱で蒸発させてしまえばええの」
ステインが超高温の熱帯を自分の周辺に発生させる。
「何やってるのシス~? 手を抜いてるなら私がシスを消しちゃうよ~?」
「申し訳ありませんお嬢様」
再びシスが手を合わせる。
すると周囲の水がうねり、ステインを熱帯ごと巨大な水球で覆いつくす。
そのまま水が蒸発する前に、水圧でステインを押し潰そうとするシス。
ステインが水圧で押し潰されたように見えたが、瞬時に瞬間移動でシスの背後に移動する。
「ほっほっ、そんな程度ではワシを倒すことはできんぞ」
ステインがシスの上空に魔法陣を作ると、そこから巨大な落雷を落とす。
「ぐぁぁぁぁー!!」
あまりの衝撃に、シスはその場へ跪く。
「お前さんではワシには勝てんぞ」
しかし、ボロボロになりながらもシスはまだ戦おうとする。
何かを恐れるように、必死に抵抗の意を見せていた。
「何してるのシス? 私をイライラさせたいの?」
さっきまでおとぼけていたクルルが、いつの間にか真顔になっている。
幼女から放たれているとは信じがたい殺気を感じ、シスは奴隷のように怯えていた。
「申し訳ありませんお嬢様、次こそ……」
「……もういい」
シスが話している最中に、先程ステインが落とした雷よりも数倍巨大な雷をクルルが落とす。
「アァァー!!」
叫び声をあげながら、シスは跡形もなく消滅してしまった。
「次なんてないのよ。なんで精霊ってこんな使えないのかしら」
先程と変わり、クルルは殺気立っている。
「本性を現したのぅ……」
「おじいちゃん……私が直接殺してあげる」
クルルが手を合わせると、一瞬で大量の魔法陣が現れる。
それに合わせ、ステインもすぐさま大量の魔法陣を作り出した。
「くたばれ爺!!」
クルルの魔法陣から火炎の渦潮が噴き出す。
「なんのこれしき!」
ステインも同じく、魔法陣から火炎の渦潮を生み出すと、二人の火炎がぶつかり合い、周囲が火の海へと一変する。
「ワシの法遏に張り合うとは。娘さんは師団長だと思うが、何番目のお方かね?」
「私は第九師団長よ」
それを聞いて少し困惑するステイン。
「いやはや、この力で九番とは。これは本格的にまずいのぅ」
「キルネ舐めちゃいけないよ~? 法遏でいったら第六師団長のドルドームはもっと強いよ~?」
「それは困った、ワシも本気でやらねばならんの~」
創遏を高めるステインとクルル。
「さて、おじいちゃん~? 私を楽しませてよ~?」
クルルとステインの法遏がぶつかり合い、戦場は更に荒々しくなっていく。
時を同じくして、セントレイスでは無数の魔獣が町全体を襲っていた。
セントレイス北部では、エルマンが部隊に指示を出していた。
「テスラ! お前は他の部隊と共に市民を守るんだ! 私は師団長の相手をする!」
北部には第三師団長のグラニアが襲撃に来ていた。
「分かりました隊長! 魔獣を殲滅したら直ぐに戻ります!」
テスラと他の隊員達が市民の護衛に回る。
エルマンはグラニアの前に立ち、創遏を高め身構えた。
「ふむ、貴公が隊長だな。私は第三師団長グラニア。貴公からは中々に不気味な創遏を感じるぞ」
エルマンが巨大な斧を作り構えると、グラニアは相手の力量を計るようにじっと見つめる。
「私は第二部隊隊長エルマン=サーチス。お前の相手は私だ!」
エルマンの名前を聞いて驚くグラニア。
「サーチスだと?! まさかロドルフ=サーチスと知り合いか?!」
「ロドルフは私の兄だ! 何故お前が兄を知っている!?」
「はっはっは、これは面白い。ロドルフは私の憎きライバルといえよう」
グラニアは不気味に笑みを浮かべ、大剣を作り出し、今から始まる戦いに興奮を隠せないでいた。
「エルマン=サーチス! 貴公の命、私が貰いうける!」
エルマンとグラニアの戦闘が始まった。
各地で次々と交戦が繰り広げられ、戦闘が激しさを増していく。